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141話 視線
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当初は1時間程度で終わるだろうと予想されていた会合は、いつの間にかその倍の2時間が経過していた。ルーイ先生と『とまり木』の方達は今も尚、終わる気配のない会話の応酬を続けている。私も会に参加している以上、しっかりと皆さんの話を聞かなくてはならないのだけど、集中力が切れてきたのかぼんやりとしてしまう。
クレハ様とフィオナ様……そして、ジェムラート家の人々。カミル様の事……魔法使いと神様について……。2時間で終わらせるには困難な題目だろう。そんな中でも、私が求めていた情報は聞くことができた。ジェフェリーさんの件が良い方向に解決しそうなだけでも良かった。
「もうこんな時間か。みんな、話し足りないとは思うけど一旦中断してくれ」
時計を確認しながらレオン殿下が指示を出した。あれだけ盛り上がっていた会話がぴたりと止まる。さすが殿下。鶴の一声。
「時間が経つのを忘れて話し込んじゃったね。姫さん怒ってないといいけど……」
「リズ、クレハを迎えに行ってくれるかな。怒ってはいないだろうけど、きっと待ちくたびれてる。ひとりでも平気?」
「はい」
「ずっと座ってると肩がこるよね。迎えに行きがてら、気分転換しておいで」
クレハ様の部屋までの道順は覚えているので問題無い。私を指名したのは殿下の気遣いだ。疲れが顔に出ていたのだろう。
殿下は会合が始まって真っ先にニコラさんについて触れた。今思えば、あれは私の出番を早めに終わらせてくれようとしていたのではないだろうか。会合が長引く可能性を考えて、私が何らかの理由で途中退席しても大丈夫なように……きっとそう。
お優しい方だ……怒ると怖いけど。
「分かりました。それでは、行って参ります」
殿下のお言葉に甘えて、少しだけ外の空気を吸わせて貰おう。
「待って、リズちゃん。俺も一緒に行く」
「ルーイ先生?」
部屋のドアノブに手を伸ばしたところで、私を呼び止めたのは先生だった。彼はソファから立ち上がると、ゆっくりとこちらに向かって歩き出す。長い足から踏み出される一歩は大きい……そこまで遠くなかった距離は、瞬く間に詰められて、彼は私の隣に並び立った。
「えーっと……先生も気分転換ですか?」
「うん、そんなとこ」
先生はにこりと私に笑いかけた。相変わらずの素敵笑顔だ。
「先生、ジェラール陛下の許可が出ているとはいえ、王宮内は貴方のことを知らない者がほとんどなんですよ。あまり目立つようなことは……」
「手を洗いに行くだけだって。変なことはしないし、すぐに戻ってくるから……そんなに寂しがらないでよ、セディ」
「誰が寂しがってるんですか!! もうっ、とっとと行って来て下さい」
心配そうなセドリックさんを軽くあしらうと、先生は私の背中を押しながら、いそいそと部屋を後にしたのだった。
「はぁー、疲れた」
両腕を頭上に思いっきり上げて、先生は伸びをしている。首を数回まわしたのちに、大きな欠伸までしていた。気の抜けた振る舞いがなんだかおかしくて、口元が緩んでしまう。
「お疲れ様です、先生」
「リズちゃんもね。レオン達が気を回してくれたお陰で、会の雰囲気はとても良かったよね。お菓子も美味しかった。でもやっぱり、俺はああいう席は苦手」
「あの栗が入ったクッキー、セドリックさんの好物らしいですよ」
「へー、そうなんだ。作る方と違って、甘い物を食べてるイメージはあんまり無かったから意外だな」
すぐに皆さんと仲良くなっていたように見えたけれど、きっと先生も気を張っていたんだろうな。私達はお互いを労いながら、クレハ様のお部屋に向かって歩き出した。先生は私の歩幅に合わせて、歩く速度を調節してくれている。
「息抜きしたかったのも本当だけど、リズちゃんが俺に用事があるんじゃないかなって思っていたんだよ」
「えっ……」
歩みを止めて向かい合う。不思議な輝きを放つ、先生の綺麗な紫色の瞳。まさか……この瞳には、人の心の内側を暴くことができたりするのだろうか。
「どうしてそんな」
「会の最中ずっと、君の熱い視線を感じちゃったから……なんてね」
「うそ……」
そんなつもりは全く無かった。でも、私は先生からどうやって魔法の話を聞こうかと考え続けていた。もしかして、そのせい? 自分では気付かないうちに、先生の方ばかり注視していたのかもしれない。
「あれ、違ったの? そんな気がしたんだけどな。しまった……これじゃ俺、ただのイタい勘違い野郎だ。恥ずかしっ……!!」
「ちっ、違わないです!! ごめんなさい。私、ルーイ先生に聞きたいことがあったんです。でも……」
「みんなの居る前じゃ話せなかったのかな。いいよ、聞いてあげる。なーに?」
先生は膝を曲げ、その場でしゃがみ込んだ。長身な彼の目の高さが私とほぼ同じになる。
聞きたかった事……その答えは既に手に入れている。ジェフェリーさんが魔法使いではないという証だ。しかし、せっかく先生が話を聞いて下さると言ってくれているのだ。先生の口から直接違うと断言して貰った方が、より安心できるだろう。
「それは……クレハ様の部屋についてからでも良いですか? 私だけではなく、あの方もお知りになりたい事柄なんです」
クレハ様とフィオナ様……そして、ジェムラート家の人々。カミル様の事……魔法使いと神様について……。2時間で終わらせるには困難な題目だろう。そんな中でも、私が求めていた情報は聞くことができた。ジェフェリーさんの件が良い方向に解決しそうなだけでも良かった。
「もうこんな時間か。みんな、話し足りないとは思うけど一旦中断してくれ」
時計を確認しながらレオン殿下が指示を出した。あれだけ盛り上がっていた会話がぴたりと止まる。さすが殿下。鶴の一声。
「時間が経つのを忘れて話し込んじゃったね。姫さん怒ってないといいけど……」
「リズ、クレハを迎えに行ってくれるかな。怒ってはいないだろうけど、きっと待ちくたびれてる。ひとりでも平気?」
「はい」
「ずっと座ってると肩がこるよね。迎えに行きがてら、気分転換しておいで」
クレハ様の部屋までの道順は覚えているので問題無い。私を指名したのは殿下の気遣いだ。疲れが顔に出ていたのだろう。
殿下は会合が始まって真っ先にニコラさんについて触れた。今思えば、あれは私の出番を早めに終わらせてくれようとしていたのではないだろうか。会合が長引く可能性を考えて、私が何らかの理由で途中退席しても大丈夫なように……きっとそう。
お優しい方だ……怒ると怖いけど。
「分かりました。それでは、行って参ります」
殿下のお言葉に甘えて、少しだけ外の空気を吸わせて貰おう。
「待って、リズちゃん。俺も一緒に行く」
「ルーイ先生?」
部屋のドアノブに手を伸ばしたところで、私を呼び止めたのは先生だった。彼はソファから立ち上がると、ゆっくりとこちらに向かって歩き出す。長い足から踏み出される一歩は大きい……そこまで遠くなかった距離は、瞬く間に詰められて、彼は私の隣に並び立った。
「えーっと……先生も気分転換ですか?」
「うん、そんなとこ」
先生はにこりと私に笑いかけた。相変わらずの素敵笑顔だ。
「先生、ジェラール陛下の許可が出ているとはいえ、王宮内は貴方のことを知らない者がほとんどなんですよ。あまり目立つようなことは……」
「手を洗いに行くだけだって。変なことはしないし、すぐに戻ってくるから……そんなに寂しがらないでよ、セディ」
「誰が寂しがってるんですか!! もうっ、とっとと行って来て下さい」
心配そうなセドリックさんを軽くあしらうと、先生は私の背中を押しながら、いそいそと部屋を後にしたのだった。
「はぁー、疲れた」
両腕を頭上に思いっきり上げて、先生は伸びをしている。首を数回まわしたのちに、大きな欠伸までしていた。気の抜けた振る舞いがなんだかおかしくて、口元が緩んでしまう。
「お疲れ様です、先生」
「リズちゃんもね。レオン達が気を回してくれたお陰で、会の雰囲気はとても良かったよね。お菓子も美味しかった。でもやっぱり、俺はああいう席は苦手」
「あの栗が入ったクッキー、セドリックさんの好物らしいですよ」
「へー、そうなんだ。作る方と違って、甘い物を食べてるイメージはあんまり無かったから意外だな」
すぐに皆さんと仲良くなっていたように見えたけれど、きっと先生も気を張っていたんだろうな。私達はお互いを労いながら、クレハ様のお部屋に向かって歩き出した。先生は私の歩幅に合わせて、歩く速度を調節してくれている。
「息抜きしたかったのも本当だけど、リズちゃんが俺に用事があるんじゃないかなって思っていたんだよ」
「えっ……」
歩みを止めて向かい合う。不思議な輝きを放つ、先生の綺麗な紫色の瞳。まさか……この瞳には、人の心の内側を暴くことができたりするのだろうか。
「どうしてそんな」
「会の最中ずっと、君の熱い視線を感じちゃったから……なんてね」
「うそ……」
そんなつもりは全く無かった。でも、私は先生からどうやって魔法の話を聞こうかと考え続けていた。もしかして、そのせい? 自分では気付かないうちに、先生の方ばかり注視していたのかもしれない。
「あれ、違ったの? そんな気がしたんだけどな。しまった……これじゃ俺、ただのイタい勘違い野郎だ。恥ずかしっ……!!」
「ちっ、違わないです!! ごめんなさい。私、ルーイ先生に聞きたいことがあったんです。でも……」
「みんなの居る前じゃ話せなかったのかな。いいよ、聞いてあげる。なーに?」
先生は膝を曲げ、その場でしゃがみ込んだ。長身な彼の目の高さが私とほぼ同じになる。
聞きたかった事……その答えは既に手に入れている。ジェフェリーさんが魔法使いではないという証だ。しかし、せっかく先生が話を聞いて下さると言ってくれているのだ。先生の口から直接違うと断言して貰った方が、より安心できるだろう。
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