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140話 鳥の囀り(5)
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「ねぇ、ルーイ先生。魔法使いとそれ以外を手っ取り早く見分ける方法とかないのかな? 俺らはボスみたいに不思議な気配を辿ることは出来ないし、ひと目で分かる目印みたいなのがあればいいんだけど……」
ミシェルさんと揉めていたルイスさんがこっちに戻って来た。しかも私が1番聞きたかった質問を携えて……ありがとう、ルイスさん! 魔法使いを特定できる方法が分かれば、ジェフェリーさんの疑いも完全に晴れる。
「見た目で判断するっていうのは難しいよ。体にはっきりとした特徴があるのは、メーアレクトから派生した能力を持つ、ディセンシアの人間だけだから。お前達が知りたいのは、ニュアージュやローシュから来た魔法使いなんだろ?」
古くから女神様と親交があるディセンシア家の人間だけが、生まれながらに魔法の力を与えられているため、その証が体に現れているのだという。
「それが、この青紫の瞳だ。体内に流れる魔力の証明」
先生は隣に座るレオン殿下に指を向ける。その先には、宝石にも劣らない美しい紫の瞳があった。そして、それを語る先生の瞳も、殿下と同じ輝きを放っている。
「瞳の色で判別するとなると、先生やクレハ様も魔法を使えるということになってしまいますが……」
「当然そう思っちゃうよね、レナード君。そこが紛らわしいとこなんだけど……例え力を持っていたとしても、それイコール魔法を使えるって事にはならないのよ」
殿下や先生のような紫色ではないけれど、クレハ様の瞳は青色だ。おふたりがアメジストなら、こちらはサファイアといった感じだろうか。
青紫の瞳が魔力を有していることの証。しかし、実際に魔法が使えるかどうかは五分五分で……とにかく簡単にはいかないんだって。先生は力を持ちながらも実用できない状態なんだそうだ。
「でも、この先使えるようになる可能性はあるんだよね? 先生も姫さんも。せっかく力があるのにもったいないよ」
「否定はしないけど厳しいだろうね。クレハはともかく、俺は無理かな」
「そっかぁ……残念」
「あはは、ごめんねー」
「しかし、他所の魔法使いには見た目に特徴が無いというのは厄介ですね」
「あえて言うなら、ニュアージュの魔法使いは必ずサークスを連れているっていう共通点があるけど……いくらでも隠せちゃうからねぇ。大変だけど、レオンが地道に力の気配を探るのがいちばん確実だよ」
見た目に分かるような特徴は無いらしくガッカリした。もうひと押し……ジェフェリーさんが魔法使いではないといえる根拠が欲しいのに。
「そう思って最近は定期的に調べるようにしていますよ。一日中というわけにはいかないですが」
「レオン様! 病み上がりで無理をして……また倒れたらどうするんですか」
「分かってるよ、セドリック。つか、病気じゃないから。場所も王都までだし……疲れない程度にやってるから心配するな」
「確実ではあるけど魔力感知にばかり頼るのは、レオンの負担がデカ過ぎるのが難点だよなぁ」
「殿下は魔法使いがいないかどうかを調べていらっしゃったのですか?」
「うん。島の中……王宮はもう大丈夫だと思うけど、市街地と合わせて念の為ね。一日に数回気配を探る程度ならそこまで苦じゃないから」
釣り堀での事件を切っ掛けに、殿下は周辺に怪しい気配が無いかを小まめに調べていたのだと言う。それなら今現在、ジェフェリーさんが無事だということは……
「結果は問題無し。まぁ、そう頻繁に見つかっても困るけどね」
やっぱり王都には魔法使いはいないんだ。これはジェフェリーさん完全にシロなんじゃない!? 良かったぁ……後でクレハ様に教えてあげなくちゃ。
「気休めになるか分かんないけど、他国の魔法使いは力を使うために自分の体を犠牲にしている。無茶な使い方をすればするほど、体への負荷が大きくなるんだ。レオンのように特に制限も無く、強烈な魔法をぶっ放す奴はまずいない」
その後先生は、殿下がいかに特別な存在なのかを語った。その力の強さは神々にも目を付けられるほどで、そのような人間は他に存在しないとのこと。
「お前達は身近にいるのがこいつなせいで、魔法に対する警戒心がかなり高い。それを悪いとは言わない。対処が難しい能力なのはその通りだからな。でも、人間が使う魔法っていうのはそこまで万能でもないんだよ。だからって油断してもいいって意味じゃないけど、魔法使いの基準をレオンにすると肩透かしをくらうぞ。こいつが特殊でおかしいということは頭の隅に入れとけ」
「褒められてるのか貶されてるのか……」
「知ってたけど、ボスって凄いんだね」
「サークスを一方的にボコる君らも大概だけどね。大したことないとは言ったけど、普通の人間が簡単に倒せるようなものでもないはずなんだけどなぁ」
「そう、そのサークスって奴。面倒くさかったけど、別に強くはなかったもんね。キレたボスを抑える方がずーっと大変だったよ」
「ルイスの強くないも、あんまりアテにならないんだが……」
クライヴさんが苦笑いをしている。私はクレハ様と共に彼らの戦う様子を見ていた。武芸に詳しくない私でも分かるくらいに、このご兄弟は強い。殿下を基準にしては駄目だというが、レナードさんとルイスさんもそうだと思う。クレハ様のお側にいる方々が強くて頼もしい限りだ。しかし、セドリックさんは厳しい顔をしながら先生に意見を述べた。
「魔法の脅威はなにも戦闘面に限ったことではありません。遠隔視などはその最たる物。むしろこちらの方が問題ですらあります」
「あぁ……そうねぇ。でも、これからは王宮内にそういった魔法の影響は及ばなくなるはずだよ。リオラドでの対話で決まったしね。コンティレクトに何か策があるみたいだけど……」
殿下と先生は、後日再び神様達との集まりに参加する予定になっている。魔法についてだけでも非現実感が強くて戸惑ってしまうのに、更にそれに神様まで絡んでくるとなると付いていくのが大変だ。
私は先生達の会話に耳を傾けながら、マロンクッキーをひと口齧った。この会合が始まってから既に2時間が経とうとしている。ちょっと疲れてきた。クレハ様も待ちくたびれていないだろうか……
ミシェルさんと揉めていたルイスさんがこっちに戻って来た。しかも私が1番聞きたかった質問を携えて……ありがとう、ルイスさん! 魔法使いを特定できる方法が分かれば、ジェフェリーさんの疑いも完全に晴れる。
「見た目で判断するっていうのは難しいよ。体にはっきりとした特徴があるのは、メーアレクトから派生した能力を持つ、ディセンシアの人間だけだから。お前達が知りたいのは、ニュアージュやローシュから来た魔法使いなんだろ?」
古くから女神様と親交があるディセンシア家の人間だけが、生まれながらに魔法の力を与えられているため、その証が体に現れているのだという。
「それが、この青紫の瞳だ。体内に流れる魔力の証明」
先生は隣に座るレオン殿下に指を向ける。その先には、宝石にも劣らない美しい紫の瞳があった。そして、それを語る先生の瞳も、殿下と同じ輝きを放っている。
「瞳の色で判別するとなると、先生やクレハ様も魔法を使えるということになってしまいますが……」
「当然そう思っちゃうよね、レナード君。そこが紛らわしいとこなんだけど……例え力を持っていたとしても、それイコール魔法を使えるって事にはならないのよ」
殿下や先生のような紫色ではないけれど、クレハ様の瞳は青色だ。おふたりがアメジストなら、こちらはサファイアといった感じだろうか。
青紫の瞳が魔力を有していることの証。しかし、実際に魔法が使えるかどうかは五分五分で……とにかく簡単にはいかないんだって。先生は力を持ちながらも実用できない状態なんだそうだ。
「でも、この先使えるようになる可能性はあるんだよね? 先生も姫さんも。せっかく力があるのにもったいないよ」
「否定はしないけど厳しいだろうね。クレハはともかく、俺は無理かな」
「そっかぁ……残念」
「あはは、ごめんねー」
「しかし、他所の魔法使いには見た目に特徴が無いというのは厄介ですね」
「あえて言うなら、ニュアージュの魔法使いは必ずサークスを連れているっていう共通点があるけど……いくらでも隠せちゃうからねぇ。大変だけど、レオンが地道に力の気配を探るのがいちばん確実だよ」
見た目に分かるような特徴は無いらしくガッカリした。もうひと押し……ジェフェリーさんが魔法使いではないといえる根拠が欲しいのに。
「そう思って最近は定期的に調べるようにしていますよ。一日中というわけにはいかないですが」
「レオン様! 病み上がりで無理をして……また倒れたらどうするんですか」
「分かってるよ、セドリック。つか、病気じゃないから。場所も王都までだし……疲れない程度にやってるから心配するな」
「確実ではあるけど魔力感知にばかり頼るのは、レオンの負担がデカ過ぎるのが難点だよなぁ」
「殿下は魔法使いがいないかどうかを調べていらっしゃったのですか?」
「うん。島の中……王宮はもう大丈夫だと思うけど、市街地と合わせて念の為ね。一日に数回気配を探る程度ならそこまで苦じゃないから」
釣り堀での事件を切っ掛けに、殿下は周辺に怪しい気配が無いかを小まめに調べていたのだと言う。それなら今現在、ジェフェリーさんが無事だということは……
「結果は問題無し。まぁ、そう頻繁に見つかっても困るけどね」
やっぱり王都には魔法使いはいないんだ。これはジェフェリーさん完全にシロなんじゃない!? 良かったぁ……後でクレハ様に教えてあげなくちゃ。
「気休めになるか分かんないけど、他国の魔法使いは力を使うために自分の体を犠牲にしている。無茶な使い方をすればするほど、体への負荷が大きくなるんだ。レオンのように特に制限も無く、強烈な魔法をぶっ放す奴はまずいない」
その後先生は、殿下がいかに特別な存在なのかを語った。その力の強さは神々にも目を付けられるほどで、そのような人間は他に存在しないとのこと。
「お前達は身近にいるのがこいつなせいで、魔法に対する警戒心がかなり高い。それを悪いとは言わない。対処が難しい能力なのはその通りだからな。でも、人間が使う魔法っていうのはそこまで万能でもないんだよ。だからって油断してもいいって意味じゃないけど、魔法使いの基準をレオンにすると肩透かしをくらうぞ。こいつが特殊でおかしいということは頭の隅に入れとけ」
「褒められてるのか貶されてるのか……」
「知ってたけど、ボスって凄いんだね」
「サークスを一方的にボコる君らも大概だけどね。大したことないとは言ったけど、普通の人間が簡単に倒せるようなものでもないはずなんだけどなぁ」
「そう、そのサークスって奴。面倒くさかったけど、別に強くはなかったもんね。キレたボスを抑える方がずーっと大変だったよ」
「ルイスの強くないも、あんまりアテにならないんだが……」
クライヴさんが苦笑いをしている。私はクレハ様と共に彼らの戦う様子を見ていた。武芸に詳しくない私でも分かるくらいに、このご兄弟は強い。殿下を基準にしては駄目だというが、レナードさんとルイスさんもそうだと思う。クレハ様のお側にいる方々が強くて頼もしい限りだ。しかし、セドリックさんは厳しい顔をしながら先生に意見を述べた。
「魔法の脅威はなにも戦闘面に限ったことではありません。遠隔視などはその最たる物。むしろこちらの方が問題ですらあります」
「あぁ……そうねぇ。でも、これからは王宮内にそういった魔法の影響は及ばなくなるはずだよ。リオラドでの対話で決まったしね。コンティレクトに何か策があるみたいだけど……」
殿下と先生は、後日再び神様達との集まりに参加する予定になっている。魔法についてだけでも非現実感が強くて戸惑ってしまうのに、更にそれに神様まで絡んでくるとなると付いていくのが大変だ。
私は先生達の会話に耳を傾けながら、マロンクッキーをひと口齧った。この会合が始まってから既に2時間が経とうとしている。ちょっと疲れてきた。クレハ様も待ちくたびれていないだろうか……
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