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127話 伝達事項

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 リズとの話し合いの結果、ジェフェリーさんの事はルーイ様に相談することになった。それには神殿へ出入り可能なセドリックさんに頼み、ルーイ様に取り次いで貰わなければならない。
 どう切り出そうか……。ジェフェリーさんの魔法使い疑惑は、レオンやセドリックさん達にはまだ知られたくない。やっぱり変に理由を付けると怪しまれそうだし、率直にルーイ様に会いたいとだけ言うべきかな。事件のことを詳しく聞いて不安になった私が、彼に会いたがるのはそこまでおかしなことではないはずだ。
 自分なりに様々なパターンを考えてみた。しかし、その行為は全くの無駄に終わってしまう……というより考える必要が無くなってしまったのだった。










「えっ、ルーイ様が?」

「はい。王宮に赴き、我々と対面して話をして下さるとのことです。今まで先生の言葉は私が聞き伝えしておりましたが、細かいニュアンスなど説明しづらい場面もありましたので……。それと、部下が先生に目通りを希望していると伝えましたら、乗り気になって下さいました」

 翌日、セドリックさんが私の部屋を訪れた。会話の内容はとてもタイムリーというか、私にとって好都合なものだった。会いたがってる部下ってレナードさんとルイスさんだよね……いや、ミシェルさんとクライヴさんだってそうだ。何であれ、ルーイ様の方からこちらに出向いて下さるのなら願ったり叶ったり。

「先生はクレハ様のご様子も気にしていらっしゃいましたよ。私に毎度必ずお元気かどうか確認しておられたんですから」

「私もルーイ様とお会いしたかったので嬉しいです。でも、良いのですか? ルーイ様は身を隠すために神殿に滞在されているのだと思っていたのですけど。だって捕まっちゃったら困るでしょう?」

 こちとら、頼んでも来てくれないのではと心配していたというのに……ルーイ様はあっさりと王宮に来るという。見つかることに対しては、そこまで危機感を持っていないのかな。

「少しくらいなら大丈夫ですよ。クレハ様の仰る通り、王宮内で先生の姿をむやみやたら晒すのは憚れます。ですが、些か状況が変わりましてね。ジェラール陛下も先生の事を把握しておられますので、仮に見つかったとしても投獄されるようなことは決してありません」

「えっ!! 陛下、ルーイ様のことご存知だったのですか!!?」

「はい。あっ、もちろん予め先生に許可を得た上ですよ。陛下に先生の存在を打ち明けたのは最近のことなのです。レオン様が目を覚ました直後ですので、ほんの数日前ですね。クレハ様には事後報告になってしまい、申し訳ありません」

 陛下がルーイ様を知っていた。ルーイ様のことは、陛下にも秘密にしておくのだと思っていたのに。ルーイ様が『とまり木』で生活をするというだけなら、セドリックさんもレオンもそのつもりだったそうだ。それなら、どうして急に……? 陛下にバラした理由をセドリックさんが説明してくれた。

「此度の事件において、先生は私共に並々ならぬ協力をして下さいました。シエルレクト神を始めとした神達の動向に関係性……そして他国の魔法についての知識やその対処法など。いくらメーアレクト様が身近にいらっしゃるとはいえ、それらはとてもレオン様がおひとりで立ち回って得られるものではありません。陛下に不信を持たれるのは時間の問題だったのです」

 ルーイ様が教えてくれた事……それにはジェラール陛下ですら知らないものが数多くあり、全てメーアレクト様から聞きましたで、しらを切り通すには無理があった。つまりルーイ様のサポートが良かったのだ、物凄く。

「ルーイ様……先生って呼ばれるの満更でもなさそうだったから、張り切り過ぎちゃったのかな」

「いえ、先生に助力を求めたのは私達です。あの方はそれに応えてくれただけ。そのおかげで本当に助かりました。先生にはレオン様を介抱して頂いたりと、感謝してもしきれません」

『とまり木』でお世話になっているという負目もあるのかもしれない。いや、きっと本人の性格ゆえだろう。時折、神様であることを忘れてしまいそうになる。口調や態度は軽薄そうに感じるが、ルーイ様はなかなかに気配り屋さんだから。

「私はこれから先もあの方にレオン様の『先生』でいて欲しいと強く思います。その為には陛下に隠しておくよりも打ち明けて、後ろ盾になって頂く方が都合が良い。その他の者達には、今まで通りの対応で問題無いと思いますが……」

 レオンが作ったルーイ様の人物設定……ディセンシア家の遠縁で、魔法に関する知識の深さをレオンに買われ、側に置かれているというもの。改めて考えるとこの設定、陛下には通用しなそうだよね。紫色の瞳を持った親族なんていたら、陛下が知らないはずがないもの。うっかり顔を合わせたら一発アウトだった。

「ルーイ様が納得しておられるのなら、私から言うことは何もありません」

「陛下にも先生の事はご理解頂けたので、安心して下さい。経験則上、口で説明するより実際に見て貰った方が手っ取り早かったです」

 セドリックさんはジェラール陛下にも神殿へ足を運んで貰い、そこでルーイ様を紹介したのだそうだ。当然、陛下は驚いた。しかしルーイ様がまたいつもの軽いノリで、そんな陛下をお構いなしに話を進めていくので、理解したというより、させられたというのが正しいという……その光景が目に浮かぶようだった。

「先生がこちらにいらっしゃるのは、明後日の正午過ぎを予定しています。我々と話をした後、クレハ様にお会いする段取りとなっておりますので、そのつもりでいて下さい」

「分かりました」

「さて、私からクレハ様へお伝えするのはこれくらいでしょうか……あっ!」

 話を終えようとしたセドリックさんが、はっとしたように声を上げた。どうしたのだろう……不思議に思いつつ、彼が言葉を続けるのを待った。

「大切なことを言いそびれるところでした。クレハ様、とってもお可愛いらしいですよ」

「はい?」

「この後レオン様の元に行かれるのでしょう? 昨日ミシェル達に、レオン様のお見舞いの為にめかしこむクレハ様が大層可愛いかったと自慢されてしまいまして……私だけ話に混ざれなくて悔しかったんですよ」

 昨日と同様、ミシェルさんがレオンのお見舞いに行くための準備をしてくれた。今日はネイビーブルーのドレス。胸元と裾に施されたビーズ刺繍がほのかに煌めいていて美しい。前回着せて貰ったのとはまた違った系統だが、華やかで上品なドレスだ。セドリックさんが部屋にやってきたのは準備を終えた直後だったので、私は気合い入りまくりな衣装のまま、彼の対応をしていたのだった。

「しかし、これは皆が自慢したくなるのも当然ですね。レオン様の機嫌の良さにも納得です。主の絶対安静は明日で解かれますから、お見舞いもお終いになりますでしょう? その前に見ておきたかったのです」

『間に合って良かった』なんて……セドリックさん、大真面目な顔で何言ってんの? 大切な事ってそれ!? いや、嬉しいですけども……

「あ、ありがとうございます」

 彼はまるで業務連絡のように、淡々と私に向かって賛辞を述べてくる。セドリックさんて、もしかしてちょっと天然入ってる? 私はそれに対して上手い切り返しのひとつも出来ず、ぎこちなくお礼の言葉のみを捻り出すのだった。
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