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125話 胸騒ぎ(1)
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「取り乱してしまい、すみません。知らぬ間に天上世界に迷い込んでしまったのかと……でも、私がそのような錯覚をしてしまうのも致し方ないですよね。今のクレハ様はこの世のものとは思えない神秘的な美しさ、そして儚さを醸し出していらっしゃいますもの。あまりの神々しさに浄化されてしまいそうです」
「うん、うん……ありがとう、リズ。褒め方が大袈裟過ぎるけど嬉しいわ。このドレスはね、ミシェルさんが着付けて下さったの」
「ミシェルさんがっ……!! クレハ様とお会いしてまだ間もないというのに……こんなにもこの方の魅力を最大限引き出すコーディネートができるなんて……。さすが王太子殿下直轄の精鋭部隊です。素晴らしいです!! 感服致しました」
リズが扉の前で崩れ落ちるように座り込んでから数分後、会話ができるくらいには落ち着いてくれた。けれど、リズはいまだ興奮しているみたいだ。すっごい早口……そして止まらない。
「リ、リズ、あのね……あなたに大事なお話があるの。だから、とりあえずお部屋に入ってくれないかな? ずっと床に座っているのも良くないしね」
まだまだ喋り足りなそうなリズを部屋に入るように促す。多少強引にでも切り上げないと、彼女はこの場にずっと留まりそうな勢いだった。
「ミシェルさんと……三番隊の隊長さんが私に?」
「そうなの。リズにニコラさんについて聞きたいんだって。クライヴさん……三番隊の隊長さんは『とまり木』の方でもあるから、まだ会っていないリズに挨拶をしたいみたい」
クライヴさんカッコいいよ、と事前報告をしておく。リズの瞳が期待と興味で輝いた。小声で彼女が『レオン殿下って面食いなのかな』と発言したのにはスルーした。
「承知致しました。でも、ニコラさんについては私もそこまで詳しいことをお話しできないと思いますが……」
リズもニコラさんとはあまり会話をしたことがなく、ミシェルさんの期待に添えないかもしれないと前置きをする。昔からウチに出入りしているとはいっても、彼女の父であるオーバンさんと近しい仕事仲間や、私付きの侍女としか関わっていないからだそうだ。
「ごめんね、私よりは詳しいんじゃないかってリズの名前出しちゃったから……。答えられる範囲でいいから、ミシェルさんに協力してあげて」
「はい、分かりました」
リズが実年齢より大人びていて、しっかり者でも9歳の子供である。話を聞きたいというのは参考程度で、ミシェルさんも過度に期待はしていないと思うけれど……
「あの、クレハ様。ジェムラート家の話題が出たついで……というと聞こえが悪いのですが、私も気になっている事があるのです。庭師のジェフェリーさんについてなんですが……」
「ジェフェリーさん? ジェフェリーさんがどうかしたの」
「はい。クレハ様は覚えていらっしゃいますか? 私が以前、あの方を魔法使いだと言ったことを」
「う、うん」
もちろん忘れてはいない。とても驚いたのだから。でも、いつしか頭の隅っこに追いやっていた。これも後に色んな出来事が立て続けに起きて……というお馴染みの言い訳です。
私がルーイ様にお会いした直後のことだったな。風邪を引いてしまった私の所に、リズとカミルがお見舞いに来てくれたのだ。しかし、この時の風邪は嘘……仮病だったので、彼らに対する後ろめたさが凄まじかった。そのお見舞いの際に、ジェフェリーさんが魔法使いなのだとリズは語ったのだった。
「魔法使いは非常に珍しいです。我が国では両手で数えられるほどしか存在していないと聞いていました。なので、身近に使える方がいると分かってとても驚いたのです」
「私だってそうだよ。びっくりした」
「あの時……私は初めて魔法を見た感動で舞い上がってしまい、興奮のままクレハ様とカミル様にお話してしまいましたが、今思えば軽率な行動でした」
リズは当時のことを語り出した。彼女は魔法を見せて貰ったと言っていたが、本当は少し離れた所で偶然それを目撃しただけだったのだそうだ。その後、ジェフェリーさんが魔法を使っているところを見ることは無かった。それどころか、彼の口から魔法を連想させるような言葉すらも出てこない。
「もしかしたら、私の勘違いだったのかもと考え始めていたのですが……」
ジェフェリーさんは、魔法で花壇に水やりをしていたとリズは言っていた。水を操る魔法はレオンも得意だ。よく使っているのは電撃の方だけど。
魔法を使うにはその元になる力、魔力が必須なのだとルーイ様から教えられた。でも、人間にはその魔力が存在しない。唯一の例外がメーアレクト様の子孫であるディセンシア家だ。しかし、王家の血筋であっても必ず魔力を宿して生まれるわけではない。そもそも人間の体に合わないし、定着しづらいのだそうだ。イレギュラーという言葉をルーイ様が使っていたところからも、ディセンシア家がいかに特殊なのか分かる。そして、そのディセンシア家の中ですら、実際に魔法を発動させることができるのは更に一握り。
ジェフェリーさんが本当に魔法使いなのだとしたら、何かしらの方法で魔力を得たということになるけれど……
まずひとつ目、ジェフェリーさんが実はディセンシアの血を引いていて、生まれつき魔力を持っていたという可能性。これは無しだ。ルーイ様に早い段階で否定された。なぜなら、先天的に魔力を身に宿している者の瞳は青紫に染まる……レオンや私の様に。ジェフェリーさんの瞳は両方とも黒色だった。ディセンシア家が無関係となると、残りは2択。
「レオン殿下やルーイ先生……そして『とまり木』の方達と接する事で、昔よりは格段に魔法という力の理解が深まったと思っています。ですから、その上でもう一度あの時のジェフェリーさんの様子を思い出してみました」
雲ひとつない晴れた空……雨が降る気配は微塵もない。それなのに、ジェフェリーさんと花壇の周りだけにパラパラと降り注ぐ水の粒。とても不思議な光景で、リズはその場から動く事が出来ず、見入ってしまったそうだ。
「日差しを反射して輝く雨粒に混じり、黄色の光の塊が空中を不規則に飛び回っていたのです。大きさは大人の拳ほどで……雨はその光の塊が降らせているように見えました」
「それって……」
「はい、クレハ様。ジェフェリーさんは本当に魔法使いなのでしょうか。もし、そうだとしたら……私達を襲ったニュアージュの魔法使いと、同じ力を持っているのではないかと……私、怖くなってしまって」
王宮を飛び回っていた蝶、そして釣り堀に現れた少女……黄色の光と共に起こる不可思議な現象。今の私達が連想するものはひとつしかなかった。
「ニュアージュの魔法使い……ジェフェリーさんが」
「うん、うん……ありがとう、リズ。褒め方が大袈裟過ぎるけど嬉しいわ。このドレスはね、ミシェルさんが着付けて下さったの」
「ミシェルさんがっ……!! クレハ様とお会いしてまだ間もないというのに……こんなにもこの方の魅力を最大限引き出すコーディネートができるなんて……。さすが王太子殿下直轄の精鋭部隊です。素晴らしいです!! 感服致しました」
リズが扉の前で崩れ落ちるように座り込んでから数分後、会話ができるくらいには落ち着いてくれた。けれど、リズはいまだ興奮しているみたいだ。すっごい早口……そして止まらない。
「リ、リズ、あのね……あなたに大事なお話があるの。だから、とりあえずお部屋に入ってくれないかな? ずっと床に座っているのも良くないしね」
まだまだ喋り足りなそうなリズを部屋に入るように促す。多少強引にでも切り上げないと、彼女はこの場にずっと留まりそうな勢いだった。
「ミシェルさんと……三番隊の隊長さんが私に?」
「そうなの。リズにニコラさんについて聞きたいんだって。クライヴさん……三番隊の隊長さんは『とまり木』の方でもあるから、まだ会っていないリズに挨拶をしたいみたい」
クライヴさんカッコいいよ、と事前報告をしておく。リズの瞳が期待と興味で輝いた。小声で彼女が『レオン殿下って面食いなのかな』と発言したのにはスルーした。
「承知致しました。でも、ニコラさんについては私もそこまで詳しいことをお話しできないと思いますが……」
リズもニコラさんとはあまり会話をしたことがなく、ミシェルさんの期待に添えないかもしれないと前置きをする。昔からウチに出入りしているとはいっても、彼女の父であるオーバンさんと近しい仕事仲間や、私付きの侍女としか関わっていないからだそうだ。
「ごめんね、私よりは詳しいんじゃないかってリズの名前出しちゃったから……。答えられる範囲でいいから、ミシェルさんに協力してあげて」
「はい、分かりました」
リズが実年齢より大人びていて、しっかり者でも9歳の子供である。話を聞きたいというのは参考程度で、ミシェルさんも過度に期待はしていないと思うけれど……
「あの、クレハ様。ジェムラート家の話題が出たついで……というと聞こえが悪いのですが、私も気になっている事があるのです。庭師のジェフェリーさんについてなんですが……」
「ジェフェリーさん? ジェフェリーさんがどうかしたの」
「はい。クレハ様は覚えていらっしゃいますか? 私が以前、あの方を魔法使いだと言ったことを」
「う、うん」
もちろん忘れてはいない。とても驚いたのだから。でも、いつしか頭の隅っこに追いやっていた。これも後に色んな出来事が立て続けに起きて……というお馴染みの言い訳です。
私がルーイ様にお会いした直後のことだったな。風邪を引いてしまった私の所に、リズとカミルがお見舞いに来てくれたのだ。しかし、この時の風邪は嘘……仮病だったので、彼らに対する後ろめたさが凄まじかった。そのお見舞いの際に、ジェフェリーさんが魔法使いなのだとリズは語ったのだった。
「魔法使いは非常に珍しいです。我が国では両手で数えられるほどしか存在していないと聞いていました。なので、身近に使える方がいると分かってとても驚いたのです」
「私だってそうだよ。びっくりした」
「あの時……私は初めて魔法を見た感動で舞い上がってしまい、興奮のままクレハ様とカミル様にお話してしまいましたが、今思えば軽率な行動でした」
リズは当時のことを語り出した。彼女は魔法を見せて貰ったと言っていたが、本当は少し離れた所で偶然それを目撃しただけだったのだそうだ。その後、ジェフェリーさんが魔法を使っているところを見ることは無かった。それどころか、彼の口から魔法を連想させるような言葉すらも出てこない。
「もしかしたら、私の勘違いだったのかもと考え始めていたのですが……」
ジェフェリーさんは、魔法で花壇に水やりをしていたとリズは言っていた。水を操る魔法はレオンも得意だ。よく使っているのは電撃の方だけど。
魔法を使うにはその元になる力、魔力が必須なのだとルーイ様から教えられた。でも、人間にはその魔力が存在しない。唯一の例外がメーアレクト様の子孫であるディセンシア家だ。しかし、王家の血筋であっても必ず魔力を宿して生まれるわけではない。そもそも人間の体に合わないし、定着しづらいのだそうだ。イレギュラーという言葉をルーイ様が使っていたところからも、ディセンシア家がいかに特殊なのか分かる。そして、そのディセンシア家の中ですら、実際に魔法を発動させることができるのは更に一握り。
ジェフェリーさんが本当に魔法使いなのだとしたら、何かしらの方法で魔力を得たということになるけれど……
まずひとつ目、ジェフェリーさんが実はディセンシアの血を引いていて、生まれつき魔力を持っていたという可能性。これは無しだ。ルーイ様に早い段階で否定された。なぜなら、先天的に魔力を身に宿している者の瞳は青紫に染まる……レオンや私の様に。ジェフェリーさんの瞳は両方とも黒色だった。ディセンシア家が無関係となると、残りは2択。
「レオン殿下やルーイ先生……そして『とまり木』の方達と接する事で、昔よりは格段に魔法という力の理解が深まったと思っています。ですから、その上でもう一度あの時のジェフェリーさんの様子を思い出してみました」
雲ひとつない晴れた空……雨が降る気配は微塵もない。それなのに、ジェフェリーさんと花壇の周りだけにパラパラと降り注ぐ水の粒。とても不思議な光景で、リズはその場から動く事が出来ず、見入ってしまったそうだ。
「日差しを反射して輝く雨粒に混じり、黄色の光の塊が空中を不規則に飛び回っていたのです。大きさは大人の拳ほどで……雨はその光の塊が降らせているように見えました」
「それって……」
「はい、クレハ様。ジェフェリーさんは本当に魔法使いなのでしょうか。もし、そうだとしたら……私達を襲ったニュアージュの魔法使いと、同じ力を持っているのではないかと……私、怖くなってしまって」
王宮を飛び回っていた蝶、そして釣り堀に現れた少女……黄色の光と共に起こる不可思議な現象。今の私達が連想するものはひとつしかなかった。
「ニュアージュの魔法使い……ジェフェリーさんが」
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