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122話 鳥のココロ(3)
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「やだ、何これ可愛いー!! 世界一可愛い!!!!」
「レナードさんっ……うわぁっ!?」
両脇を支えられ、レナードさんの頭よりも高い位置に持ち上げられる。地面が遠い……目線が上がると部屋の印象も、ずいぶん違って見えるんだな。彼は私を抱えながら、まるでダンスでも踊っているかのようにくるくると回転する。高い所は平気だけど、重くないのだろうか……そこだけ心配。
私の部屋を訪れたのは、レナードさんとルイスさんだった。町でのお仕事を終え、王宮に帰って来てたんだ。ついさっきまで彼らのことを話題にしていたせいか、ちょっぴり気まずかった。
「やめろ、クソハゲ!! あぶねーだろ。落としたらどうすんだ」
「だってあんまり可愛いからつい……」
ルイスさんに怒られてしまったレナードさんは、天井に向かって上げていた腕を下ろした。てっきり私も床に着地させられるのかと思ったけど、彼は私を離すことはせず、抱きかかえたままだ。それでも体勢が変わったので、ルイスさんは安心したように太い息を漏らした。
「バカ兄貴がごめんね」
「全然。いきなりでびっくりしただけ。高い所好きなので、楽しかったです」
「それなら、もう一回やりましょうか?」
「調子乗んな。まぁ、可愛いってのには同意だけど。髪型もいつもと違ってるし、そのドレスも……姫さんによく似合ってるよ」
「ありがとうございます。ミシェルさんがやってくれたんですよ。ドレスも選んでくれました」
レナードさんの頭を小突きながら、ルイスさんは服装を褒めてくれた。みんなドレスに対して好意的だ。ミシェルさんの見立ては間違いなかったんだなぁ。
「ねっ、驚いたでしょ? クレハ様の前だとずっとあんな感じなんだから」
「驚いた……てか、あいつら俺がいることに気付いてないよな。部屋に入ってからクレハ様しか見えてないんじゃないか」
私達の様子を呆れたようにミシェルさんとクライヴさんが眺めていた。抱っこされたままなの恥ずかしくなってきたかも……。降ろして下さいってお願いしようと考えていると、レナードさんに話しかけられる。
「私達が不在の間、変わったことはありませんでしたか?」
「はい。ミシェルさんが側にいてくれましたし……クライヴさんも、私を心配して会いに来てくれました」
「あれ、いたんだ。クライヴ」
「いたよ、いましたよ。マジで気付いてなかったのかよ……」
クライヴさんはがっくりと項垂れている。そんな彼に対して悪びれることも無く、ご兄弟は会話を続行した。
「クレハ様の着付け、ミシェルちゃんがやったんだ」
「そうなの、可愛いでしょ。殿下に見せるために気合い入れちゃった」
「可愛い、最高。さすがミシェルちゃん、良い仕事するね。特にこの透明なレースがいい。殿下喜んだでしょ?」
「れー君は分かってくれると思ってた。そのレースは私もお気に入りなの。そりゃもう!! 最初は何でもない風を装ってて面白かったんだから」
ドレスのことでレナードさんとミシェルさんが盛り上がっている。王妃様もそうだったけど、こんなにみんなが楽しそうにしてくれるなら着て良かったな。私も似合うって言って貰えるのは素直に嬉しい。
「ところでお前らさ、今日もまた現場に行ってたんだろ? あんまり二番隊の奴らと揉めるなよ。俺にまで苦情来るんだからな」
「クライヴまでお小言? 勘弁してよ。さっきセドリックさんとクレール隊長に散々叱られたばっかりなんだからね」
「セドリックさんも一緒だったんだ」
「ああ、向こうで偶然鉢合わせた。帰りも一緒だったよ。今ボスの所に報告に行ってる。俺達は姫さんに渡す物があったから、先にこっちに来させて貰ったんだ」
「私に?」
「はい。さっき町に下りた時に見つけたんですけど、クレハ様のお土産にどうかなって……。ミシェルちゃん、フットスツールあるかな?」
レナードさんは私をゆっくりとソファに座らせる。ようやく抱っこ状態から解放されました。フットスツールって足置きのことだよね……それをどうするんだろ。
「姫さん、腕出してくれる?」
ルイスさんに腕を出すようにと指示される。左右どちらでも良いとのことで、よく分からないけど右手を差し出した。クライヴさんが興味津々といった顔で見つめている。
「これ、お守りなんだって。ボスとお揃いだよ」
「バングル?」
ルイスさんは私の腕に銀色のバングルをはめた。小さな白い石が数個あしらわれた、細めのシンプルな物だ。お揃い……って言ったよね。レオンと?
「れー君、フットスツール持って来たけど……」
「ありがと、ミシェルちゃん」
ミシェルさんからフットスツールを受け取ったレナードさんは、片膝を付いて私の足元にそれを置いた。
「それでは、姫。次はこちらに左のおみ足を乗せて頂けますか?」
「……はっ、はい!」
腕の次は足。しかも今回は左だと指定された。レナードさんまでルイスさんみたいに姫とか呼ぶものだから、戸惑って返事をするのが遅れちゃった。言われた通りに左足を、静かにフットスツールの上に乗せる。『失礼致します』と私に断りを入れ、レナードさんが足に触れた。
「王宮に帰る前にリアン大聖堂に寄ったんです。これらはそこで購入した物になります」
「わぁ……キレイ」
ルイスさんに続いてレナードさんが足に付けてくれたのは、ダブルチェーンのアンクレットだった。華奢なピンクゴールドのチェーンには、花形のチャームと薄紫色の石が装飾されている。
「姫さんはアンクレットは持ってなかったよね? だから丁度良いかなって。バングルはボスが付けることも考えて飾り気がない分、こっちの方は歩きづらくならない程度に華やかなのを選んだんだけど、どうかな?」
「これを私に?」
「ええ、気に入って頂けると良いのですが……」
「もちろんです!! 嬉しい……ありがとうございますっ……大切にします!!」
レオンが初めて私に贈ってくれたのもお守りだった。今回頂いたバングルとアンクレット……そしてレオンのピアス。私はお守りを3つも身に付けていることになる。なんか凄いな。効き目も3倍になるだろうか。
おふたりが私から離れていってしまうかもしれないとネガティブになっていた所に、こんな素敵な贈り物を頂いたのだ。単純だけど嬉しくてたまらなかった。顔が自然と笑顔になってしまうくらいに浮かれていた。そう、浮かれていたのだ。だから……ミシェルさんがとても険しい顔で、こちらを見ているのに気付くことができなかった。
「レナードさんっ……うわぁっ!?」
両脇を支えられ、レナードさんの頭よりも高い位置に持ち上げられる。地面が遠い……目線が上がると部屋の印象も、ずいぶん違って見えるんだな。彼は私を抱えながら、まるでダンスでも踊っているかのようにくるくると回転する。高い所は平気だけど、重くないのだろうか……そこだけ心配。
私の部屋を訪れたのは、レナードさんとルイスさんだった。町でのお仕事を終え、王宮に帰って来てたんだ。ついさっきまで彼らのことを話題にしていたせいか、ちょっぴり気まずかった。
「やめろ、クソハゲ!! あぶねーだろ。落としたらどうすんだ」
「だってあんまり可愛いからつい……」
ルイスさんに怒られてしまったレナードさんは、天井に向かって上げていた腕を下ろした。てっきり私も床に着地させられるのかと思ったけど、彼は私を離すことはせず、抱きかかえたままだ。それでも体勢が変わったので、ルイスさんは安心したように太い息を漏らした。
「バカ兄貴がごめんね」
「全然。いきなりでびっくりしただけ。高い所好きなので、楽しかったです」
「それなら、もう一回やりましょうか?」
「調子乗んな。まぁ、可愛いってのには同意だけど。髪型もいつもと違ってるし、そのドレスも……姫さんによく似合ってるよ」
「ありがとうございます。ミシェルさんがやってくれたんですよ。ドレスも選んでくれました」
レナードさんの頭を小突きながら、ルイスさんは服装を褒めてくれた。みんなドレスに対して好意的だ。ミシェルさんの見立ては間違いなかったんだなぁ。
「ねっ、驚いたでしょ? クレハ様の前だとずっとあんな感じなんだから」
「驚いた……てか、あいつら俺がいることに気付いてないよな。部屋に入ってからクレハ様しか見えてないんじゃないか」
私達の様子を呆れたようにミシェルさんとクライヴさんが眺めていた。抱っこされたままなの恥ずかしくなってきたかも……。降ろして下さいってお願いしようと考えていると、レナードさんに話しかけられる。
「私達が不在の間、変わったことはありませんでしたか?」
「はい。ミシェルさんが側にいてくれましたし……クライヴさんも、私を心配して会いに来てくれました」
「あれ、いたんだ。クライヴ」
「いたよ、いましたよ。マジで気付いてなかったのかよ……」
クライヴさんはがっくりと項垂れている。そんな彼に対して悪びれることも無く、ご兄弟は会話を続行した。
「クレハ様の着付け、ミシェルちゃんがやったんだ」
「そうなの、可愛いでしょ。殿下に見せるために気合い入れちゃった」
「可愛い、最高。さすがミシェルちゃん、良い仕事するね。特にこの透明なレースがいい。殿下喜んだでしょ?」
「れー君は分かってくれると思ってた。そのレースは私もお気に入りなの。そりゃもう!! 最初は何でもない風を装ってて面白かったんだから」
ドレスのことでレナードさんとミシェルさんが盛り上がっている。王妃様もそうだったけど、こんなにみんなが楽しそうにしてくれるなら着て良かったな。私も似合うって言って貰えるのは素直に嬉しい。
「ところでお前らさ、今日もまた現場に行ってたんだろ? あんまり二番隊の奴らと揉めるなよ。俺にまで苦情来るんだからな」
「クライヴまでお小言? 勘弁してよ。さっきセドリックさんとクレール隊長に散々叱られたばっかりなんだからね」
「セドリックさんも一緒だったんだ」
「ああ、向こうで偶然鉢合わせた。帰りも一緒だったよ。今ボスの所に報告に行ってる。俺達は姫さんに渡す物があったから、先にこっちに来させて貰ったんだ」
「私に?」
「はい。さっき町に下りた時に見つけたんですけど、クレハ様のお土産にどうかなって……。ミシェルちゃん、フットスツールあるかな?」
レナードさんは私をゆっくりとソファに座らせる。ようやく抱っこ状態から解放されました。フットスツールって足置きのことだよね……それをどうするんだろ。
「姫さん、腕出してくれる?」
ルイスさんに腕を出すようにと指示される。左右どちらでも良いとのことで、よく分からないけど右手を差し出した。クライヴさんが興味津々といった顔で見つめている。
「これ、お守りなんだって。ボスとお揃いだよ」
「バングル?」
ルイスさんは私の腕に銀色のバングルをはめた。小さな白い石が数個あしらわれた、細めのシンプルな物だ。お揃い……って言ったよね。レオンと?
「れー君、フットスツール持って来たけど……」
「ありがと、ミシェルちゃん」
ミシェルさんからフットスツールを受け取ったレナードさんは、片膝を付いて私の足元にそれを置いた。
「それでは、姫。次はこちらに左のおみ足を乗せて頂けますか?」
「……はっ、はい!」
腕の次は足。しかも今回は左だと指定された。レナードさんまでルイスさんみたいに姫とか呼ぶものだから、戸惑って返事をするのが遅れちゃった。言われた通りに左足を、静かにフットスツールの上に乗せる。『失礼致します』と私に断りを入れ、レナードさんが足に触れた。
「王宮に帰る前にリアン大聖堂に寄ったんです。これらはそこで購入した物になります」
「わぁ……キレイ」
ルイスさんに続いてレナードさんが足に付けてくれたのは、ダブルチェーンのアンクレットだった。華奢なピンクゴールドのチェーンには、花形のチャームと薄紫色の石が装飾されている。
「姫さんはアンクレットは持ってなかったよね? だから丁度良いかなって。バングルはボスが付けることも考えて飾り気がない分、こっちの方は歩きづらくならない程度に華やかなのを選んだんだけど、どうかな?」
「これを私に?」
「ええ、気に入って頂けると良いのですが……」
「もちろんです!! 嬉しい……ありがとうございますっ……大切にします!!」
レオンが初めて私に贈ってくれたのもお守りだった。今回頂いたバングルとアンクレット……そしてレオンのピアス。私はお守りを3つも身に付けていることになる。なんか凄いな。効き目も3倍になるだろうか。
おふたりが私から離れていってしまうかもしれないとネガティブになっていた所に、こんな素敵な贈り物を頂いたのだ。単純だけど嬉しくてたまらなかった。顔が自然と笑顔になってしまうくらいに浮かれていた。そう、浮かれていたのだ。だから……ミシェルさんがとても険しい顔で、こちらを見ているのに気付くことができなかった。
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