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121話 鳥のココロ(2)
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私が湿っぽい態度を取ってしまったせいで、変な空気になってしまった。『俺が任務放棄なんて言ったから……』とクライヴさんは自分を責めるように呟く。それでなくとも事件のことで心配をかけてるのに、これはいけない。場の流れを変えるため、私は大げさに見えるくらいの笑顔を作り、彼らに問いかけた。
「そういえば『とまり木』の方って何人いらっしゃるんですか? レナードさんやルイスさんとも王宮で初めてお会いしましたし……まだ顔を合わせていない方が他にもおられるのでしょうか」
『とまり木』はレオン直轄の特殊部隊。それと同じ名前を持つカフェは、隊の長であるセドリックさんが切り盛りしている。副業だとか趣味みたいな物と言っていたけど、プロと比べても見劣りしない彼の料理の腕前は素晴らしいの一言だ。休業が多いのが唯一残念な所だったけれど、それは仕方ない。思い出すとセドリックさんの作った料理が食べたくなってきてしまう。忙しそうなので、今はとてもお願いできる雰囲気ではないけど。
任意ではあるが、店で働いている従業員も主に軍人さんなのだと聞いた。私が会うことができたのは、セドリックさん以外だとミシェルさん……それと年配のご夫妻。あのご夫婦は普通の人っぽいけど、どうなんだろうな。私の質問にクライヴさんが答えてくれた。
「7人です。その中でも積極的に店に関わっているのは、ミシェルとクラヴェル兄弟ですね。自分ももう少し手伝えたら良いのですが……」
「クライヴさんは警備隊の仕事もあるんだから、気にするなってセドリックさんに言われたでしょ。店にはマリアさん達もいるんだし」
「マリアさん……えっと、旦那さんと一緒に働いてる方ですよね。あの方達も軍人なのですか?」
「いいえ。でも、全く無関係というわけでもないんですよ。あの夫婦は昔、セドリックさんのご実家で働いていたのです。その縁があって、現在は店を手伝ってくれているのだそうですよ」
セドリックさん所縁の方達だったんですね。軍の人じゃないという事は、ご夫婦は7人に含まれていないのだろうか。そう考えると、セドリックさんにミシェルさん……クライヴさんに、レナードさんとルイスさんで5人。私がお会いしていない方が2人いるってことかな。
「私達と同様にレオン殿下の元で仕えていて、いまだクレハ様にお目通りしていない者が2名います。申し訳ありません」
「兄弟とは別の方向で扱いづらいというか……私達とも必要最低限しか関わろうとしないし。クレハ様に挨拶くらいはしろって思うけどね。殿下が甘やかすから」
やっぱり。でも『とまり木』は他の兵士とはかなり立場が違うみたいだし、別のお仕事で忙しいのかもしれない。どんな方達なんだろう。
「そうなんですか。お会いする時を楽しみにしていますね」
「何だか嬉しいですねー。クレハ様が私達のことに興味を持って下さるなんて……他に知りたいことありますか?」
どんと聞いちゃって下さいと、ミシェルさんが期待に満ちた眼差しを向けてくる。知りたいことか……なくは無いんだよね。教えて貰えるかは分からないけど、ミシェルさんもこう言ってくれているし、思い切って尋ねてみよう。
「実は、いくつかあるんですけど……」
『とまり木』の方達がレオンから与えられるという、金色の指輪と鳥の名前。レナードさんとルイスさんの指輪は、黒い手袋で覆われた左手の薬指にある。そして『白鷺』『鴉』という名を持っている。ミシェルさんとクライヴさんも同じなはずなんだけど……彼らの指には何もはまっていない。セドリックさんもそうだった。それが気になっていたのだ。『どうして指輪をしていないのか? ふたりが持っている鳥の名前は何なのか?』その問いを投げかけると、クライヴさんは驚きの声を上げた。
「うわっ、あのふたり……指輪まで見せたのか。これはいよいよ本気だな」
「ある意味アイツらも一目惚れだったのかもね」
またしても彼らは、レナードさんとルイスさんの行動を意外だと口にする。指輪は簡単に人目に晒してはいけない物だったのだろうか。ご兄弟がさらっと見せてくれたものだから、軽い気持ちで聞いてしまったのだけど……マズかったのかな。
「あの、大事な物なんですよね……すみません」
質問を間違えたと内心焦っていると、ミシェルさんが着ている服の襟元を緩めながら、優しく話しかけてくる。
「大事な物……それはその通りなのですが、別に隠しているわけではないんですよ。ただ、あまり人に進んで見せたりした事が無かったので、クラヴェル兄弟にちょっと驚いてしまったのです」
「クレハ様に指摘されるまで思い付かなかったな。兄弟の指輪を先に見ていたら、そりゃ俺達のはどこにあるんだろうって考えちゃうよな」
クライヴさんもミシェルさんと同じく首周りを露出させると、そこに手を差し入れた。何かを探すような動きをする手が、服の下から引っ張り出したのは、細いチェーンに繋がれた金色の指輪。ご兄弟が持っていたのと同じ物だ。
「私やセドリックさんは、店で料理をすることが多いので、指には付けずにこうして首から下げているのです」
「自分は指に何かはまっていると、違和感があって気が散ってしまうので……」
ミシェルさん達は指輪をチェーンに通して、ネックレスのようにして持ち歩いているそうだ。ふたりの指輪も近くで見せて貰った。指輪にはやはり文字が刻まれている。
「クラヴェル兄弟の二番煎じみたいになってしまいますが……」
彼らは顔を見合わせて頷いた。ソファから立ち上がると、私に向かって深く礼をする。
「クライヴ・アークライトです。レオン殿下から頂戴した鳥名は『駒鳥』です」
「私は『梟』……ミシェル・バスラーです。クレハ様、末永くよろしくお願い致します」
レナードさんとルイスさんがしたように、指輪を見せて名を名乗ってくれた。『駒鳥』と『梟』だって……。この鳥の名前にはどんな意味があるのだろうか。名付けた張本人であるレオンに聞いてみようかな。
ふたりから丁寧な挨拶を頂き、こちらも『よろしくお願いします』と返事を返そうとすると、扉をノックする音が室内に響き渡った。
「そういえば『とまり木』の方って何人いらっしゃるんですか? レナードさんやルイスさんとも王宮で初めてお会いしましたし……まだ顔を合わせていない方が他にもおられるのでしょうか」
『とまり木』はレオン直轄の特殊部隊。それと同じ名前を持つカフェは、隊の長であるセドリックさんが切り盛りしている。副業だとか趣味みたいな物と言っていたけど、プロと比べても見劣りしない彼の料理の腕前は素晴らしいの一言だ。休業が多いのが唯一残念な所だったけれど、それは仕方ない。思い出すとセドリックさんの作った料理が食べたくなってきてしまう。忙しそうなので、今はとてもお願いできる雰囲気ではないけど。
任意ではあるが、店で働いている従業員も主に軍人さんなのだと聞いた。私が会うことができたのは、セドリックさん以外だとミシェルさん……それと年配のご夫妻。あのご夫婦は普通の人っぽいけど、どうなんだろうな。私の質問にクライヴさんが答えてくれた。
「7人です。その中でも積極的に店に関わっているのは、ミシェルとクラヴェル兄弟ですね。自分ももう少し手伝えたら良いのですが……」
「クライヴさんは警備隊の仕事もあるんだから、気にするなってセドリックさんに言われたでしょ。店にはマリアさん達もいるんだし」
「マリアさん……えっと、旦那さんと一緒に働いてる方ですよね。あの方達も軍人なのですか?」
「いいえ。でも、全く無関係というわけでもないんですよ。あの夫婦は昔、セドリックさんのご実家で働いていたのです。その縁があって、現在は店を手伝ってくれているのだそうですよ」
セドリックさん所縁の方達だったんですね。軍の人じゃないという事は、ご夫婦は7人に含まれていないのだろうか。そう考えると、セドリックさんにミシェルさん……クライヴさんに、レナードさんとルイスさんで5人。私がお会いしていない方が2人いるってことかな。
「私達と同様にレオン殿下の元で仕えていて、いまだクレハ様にお目通りしていない者が2名います。申し訳ありません」
「兄弟とは別の方向で扱いづらいというか……私達とも必要最低限しか関わろうとしないし。クレハ様に挨拶くらいはしろって思うけどね。殿下が甘やかすから」
やっぱり。でも『とまり木』は他の兵士とはかなり立場が違うみたいだし、別のお仕事で忙しいのかもしれない。どんな方達なんだろう。
「そうなんですか。お会いする時を楽しみにしていますね」
「何だか嬉しいですねー。クレハ様が私達のことに興味を持って下さるなんて……他に知りたいことありますか?」
どんと聞いちゃって下さいと、ミシェルさんが期待に満ちた眼差しを向けてくる。知りたいことか……なくは無いんだよね。教えて貰えるかは分からないけど、ミシェルさんもこう言ってくれているし、思い切って尋ねてみよう。
「実は、いくつかあるんですけど……」
『とまり木』の方達がレオンから与えられるという、金色の指輪と鳥の名前。レナードさんとルイスさんの指輪は、黒い手袋で覆われた左手の薬指にある。そして『白鷺』『鴉』という名を持っている。ミシェルさんとクライヴさんも同じなはずなんだけど……彼らの指には何もはまっていない。セドリックさんもそうだった。それが気になっていたのだ。『どうして指輪をしていないのか? ふたりが持っている鳥の名前は何なのか?』その問いを投げかけると、クライヴさんは驚きの声を上げた。
「うわっ、あのふたり……指輪まで見せたのか。これはいよいよ本気だな」
「ある意味アイツらも一目惚れだったのかもね」
またしても彼らは、レナードさんとルイスさんの行動を意外だと口にする。指輪は簡単に人目に晒してはいけない物だったのだろうか。ご兄弟がさらっと見せてくれたものだから、軽い気持ちで聞いてしまったのだけど……マズかったのかな。
「あの、大事な物なんですよね……すみません」
質問を間違えたと内心焦っていると、ミシェルさんが着ている服の襟元を緩めながら、優しく話しかけてくる。
「大事な物……それはその通りなのですが、別に隠しているわけではないんですよ。ただ、あまり人に進んで見せたりした事が無かったので、クラヴェル兄弟にちょっと驚いてしまったのです」
「クレハ様に指摘されるまで思い付かなかったな。兄弟の指輪を先に見ていたら、そりゃ俺達のはどこにあるんだろうって考えちゃうよな」
クライヴさんもミシェルさんと同じく首周りを露出させると、そこに手を差し入れた。何かを探すような動きをする手が、服の下から引っ張り出したのは、細いチェーンに繋がれた金色の指輪。ご兄弟が持っていたのと同じ物だ。
「私やセドリックさんは、店で料理をすることが多いので、指には付けずにこうして首から下げているのです」
「自分は指に何かはまっていると、違和感があって気が散ってしまうので……」
ミシェルさん達は指輪をチェーンに通して、ネックレスのようにして持ち歩いているそうだ。ふたりの指輪も近くで見せて貰った。指輪にはやはり文字が刻まれている。
「クラヴェル兄弟の二番煎じみたいになってしまいますが……」
彼らは顔を見合わせて頷いた。ソファから立ち上がると、私に向かって深く礼をする。
「クライヴ・アークライトです。レオン殿下から頂戴した鳥名は『駒鳥』です」
「私は『梟』……ミシェル・バスラーです。クレハ様、末永くよろしくお願い致します」
レナードさんとルイスさんがしたように、指輪を見せて名を名乗ってくれた。『駒鳥』と『梟』だって……。この鳥の名前にはどんな意味があるのだろうか。名付けた張本人であるレオンに聞いてみようかな。
ふたりから丁寧な挨拶を頂き、こちらも『よろしくお願いします』と返事を返そうとすると、扉をノックする音が室内に響き渡った。
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