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120話 鳥のココロ(1)

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 クライヴさんが隊長を務める三番隊は、事件があった釣り堀を重点的に、島内に不審物が無いか徹底捜索しているそうだ。特に注意して探しているのはフラウムの葉。ニュアージュの魔法使いが使用するという、見た目は白い紙にしか見えない植物の葉っぱだ。王宮内で見つかったのは蝶の形に加工されたものだったけど、他にもまだあるかもしれない。レオンによって、現在島内に怪しい力の気配は無いという調査結果が出てはいる。それでも念には念を入れて、人の目によるチェックも行っておこうという事らしい。
 釣り堀の管理人さんが亡くなった原因についても調べている最中なんだって。ルイスさんは酔って足を踏み外した事故だと言っていたけど、現場を調べたレナードさんは、それを否定するような発言をしていた。そう思うような何かがあったのかな。まさか管理人さんも、あのサークスと呼ばれる黄色の少女に襲われて……? 私達にためらいもなく攻撃してきたのだ。可能性は充分……いや、むしろ高いと言えるのではないだろうか。

「管理人さんが亡くなったの……事故じゃないかもってレナードさんが言っていました。もしかして、ニュアージュの魔法使いに……」

「……確かに状況的にも無関係とは言いきれません。ですが、本当にただ偶然が重なっただけかもしれない」

「酔っ払ってふらふらして……いつ湖に落っこちてもおかしくなかったそうだからね、あの管理人さん。色んな人に飲み過ぎを注意されてたみたいよ」

 ミシェルさんも言うように、釣り小屋の中にはあちこちにお酒の瓶が置いてあり、管理人さんが大酒飲みであるのは間違いなさそうだった。やっぱり偶然なんだろうか……。犯人は既に死んでしまい、サークスもミレーヌに食べられてしまった。もう確認することが出来ない。

「湖の怪物……ミレーヌにもこんな形で遭遇するとは思いませんでした。大人しいと聞いていたからびっくりです」

「それは我々も同じですよ。そもそもミレーヌが姿を見せること自体が稀ですから……。クレハ様との初対面は衝撃的なものになってしまいましたね」

 クライヴさんの顔にも疲労の色が浮かんでいた。今までに例を見ない出来事が、次々と起きたのだから無理もない。何か新しい情報が入ったら、私にも教えてくれるようにとお願いをして、事件の話は終わりにした。









「驚いたといえば、レナードとルイスだ。あいつら相当な入れ込みようらしいね……クレハ様に」

「そうなの!! もう殿下に負けないくらい骨抜きにされてる。クライヴさんも見たらびっくりするよ。今朝だって私にクレハ様を死ぬ気で守れって念押して行ったんだから……言われなくてもやるっつーの」

「そんなにか、あの兄弟がねぇ……。クレハ様、一体どんな魔法をお使いになったんですか?」

 クライヴさんとミシェルさんは、今この場に不在である同僚の話題を持ち出してきた。魔法を使ったのかと聞かれ、ドキリと胸の拍動を感じる。クライヴさんは私が魔法を使える事は知らないはず……冗談と分かっていても心臓に悪いな。それに、私が扱える魔法は風を操るもので、人の気持ちや行動に影響を与えるようなものではない。

「おふたりは初めてお会いした時から優しかったですよ。婚約者の私を気遣って下さっているだけだと思いますが……」

 一緒に遊んでくれるし、積極的に話しかけてくれる。だから私もすぐに馴染むことが出来たんだ。でも、それは……私が王太子の婚約者という立場あってのものだろう。

「お言葉ですが、クレハ様。あのふたりにそんな殊勝な振る舞い出来ませんよ。殿下に対しては従順ですが、それ以外には適当もいいとこなんですから」

「腕っぷしだけを考慮すれば、護衛としてこれ以上無いって人選だけどな。1日や2日ならともかく、長期間殿下以外の元で働くなんて……あいつら絶対無理だろ。最悪任務放棄する可能性すらあったな。かなり博打だったと思うよ」

「任務放棄……ですか」

 レナードさんとルイスさん……中庭にいた私の前に突然現れ、自分達は今日から私の護衛なのだと宣言した。側近の証である金色の指輪を提示し、恭しく誓いを立てたのだ。
 私は彼らと知り合ってからまだ日が浅い。クライヴさん達とは認識の差があって当然かもしれない。でも、任務放棄だなんて……そんなことをするような人達には見えなかったけどな。レオンの婚約者として相応しくないと思われてしまったら……私は彼らに見限られてしまうのだろうか。

「私が言えた口じゃないんだけどね。周りから見たらあいつらと大差ないだろうし……って、クレハ様!? どうしたんですか」

「ああっ! クレハ様……そんな顔をしないで下さい。不安にさせるつもりはなかったのです。それほどに難しいあの兄弟が、殿下以外に心を寄せるのが意外で衝撃だったのですよ」

 任務放棄と聞いて、どんどん悪い想像を膨らませ勝手に落ち込んてしまう。そんな私をクライヴさんが慌ててフォローしようとしている。また気を使わせてしまった……情けないな。

「だって、私何もしていないですよ。今は良く思って頂けていても、いつ愛想尽かされるか……」

「いいえ。私共は殿下のお相手はクレハ様しかいないと思っております。クラヴェル兄弟もきっと同じ気持ちでしょう。どうか、そのまま……貴女らしく健やかにお過ごし下さい。そして、ゆくゆくは我々と共にこの国を背負うレオン殿下の支えとなって欲しい」

 クライヴさんは私を正面から見つめる。その迷いの無い真っ直ぐな視線に圧倒され、うじうじとした後ろ向きな気持ちが一瞬でどこかに吹き飛んでしまった。

「クライヴさん、クレハ様はまだ8つですよ。そういうのはもう少し大きくなられてからでも。余計にプレッシャーになっちゃうんじゃ……」

「えっ!? そ、そうか。申し訳ありません、俺はクレハ様にもっと自信を持って頂きたくて……えっと、ドレス!! 素敵ですね! クレハ様によく似合ってます。可愛い!!」

「クライヴさん必死過ぎ。ねぇ、クレハ様……今はまだ小難しいことは考えなくてもいいんですよ。私達は殿下とクレハ様が元気でいてくれさえすれば、それで満足なんです」

 婚約者として堂々としていろと、レオンにも言われている。自信か……私がレオンの婚約者だと胸を張って宣言できるようになるには、まだ時間がかかりそうです。将来のことを考えると、どうしても恐怖の方が先に来てしまう。でも、私もこの人達と一緒にレオンの力になりたい……信頼して貰える仲間のひとりになりたい。すぐ嫌な方に考えて落ち込んでしまう癖を治さないとね。体ばかりではなく、心も強くありたいと思わずにはいられなかった。
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