上 下
111 / 234

110話 お見舞い(5)

しおりを挟む
 ちょっとだけだと言ったのに、いつまでも抱きついて離れないレオンを無理やり引き剥がし、私達はテーブルに移動した。彼は散らばっていた書類をかき集め、ひとまとめにすると、それらをテーブルの端に置いた。その時僅かだけど書類の文面が目に入った。私が来る直前までレオンが熱心に読んでいたそれ……。『鳥』と『被害状況』という単語だけが確認できた。鳥はともかく被害状況って……どこかで事故でもあったのだろうか。彼と向かい合わせで席に着き、書類の内容について聞いても良いか確認しようとした所で、レオンの方が先に口を開いた。

「神様達に会ったよ」

「えっ?」

 神様に会った……。身近にいる神様といったらルーイ様だけど……メーアレクト様のことを言ってるのかな。レオンは倒れた日もリオラド神殿に行っていたそうだし。

「せっかくお見舞いに来てくれたのに、こんな話をするのは心苦しいけれど、クレハも知っておかなきゃいけない大切なことなんだ。だから聞いて欲しい。クレハが持って来てくれた本は後でちゃんと読ませて貰うよ。トランプも今度、リズ達も誘って大勢でやろう」

 申し訳なさそうに言うレオンに、気にしないでと伝える。今はトランプより、彼の話の続きが聞きたい。私も2人でトランプは微妙かなと思っていたしね……

「俺はあの日、リオラドで4人の神と対面したんだ」

「4人……!?」

「うん。ルーイ先生とメーアレクト様……そしてコンティレクト、シエルレクトの4人」

「えっ? えぇ……!!」

「俺が倒れた直接的な原因って、コンティレクト神なんだよ。しれっとした顔で俺の魔力ごっそり持っていくんだもん。驚いたよね」

「待って、待って下さい!! レオン、唐突で話に付いていけないです。どうして……そんな、神様が」

 メーアレクト様だけでなく、ニュアージュとローシュの神までリオラド神殿に? どういう事……そして魔力を取られたって……

「ごめん。俺もまだ動揺してるのかな。最初から説明しなきゃ分かんないよね」

 レオンは釣り堀で起きた事件の顛末……そして、自分が神殿に行って何をして来たかということを教えてくれるそうだ。少なからず衝撃を受けるであろう内容の為、セドリックさん達は私の精神面を気遣い、詳細を伏せていたらしい。しかし、レオンはそれを良しとせず、話すことを選んだのだと。

「隠し事が増えるのは嫌だし、君は当事者でもあるからね。それに、釣り堀の件については俺達だけが口を噤んでも無駄だ。遅かれ早かれ君の耳にも入る。雑味が混じった不完全な物を聞かせるくらいなら、俺から正しい情報をきちんと伝えるべきだ」

 私がお見舞いに来ると聞いて、チャンスだと思ったそうだ。彼は現在療養中。医師と自分の側近以外の面会を断っていて、自室なら誰にも邪魔されずに会話に集中出来るんだって。
 正しい情報か……初っ端に言われた神様の話に驚き過ぎて、まだそわそわしてるんだけど。釣り堀での事件で私が把握している事と言えば、ニュアージュの魔法使いが深く関わっている……けれど、諸々の事情で今すぐ捕らえるのは難しいってくらいかな。外国の魔法についてはよく分からない。

「そもそもの発端は、王宮内で見つかった蝶だ。俺がクレハに魔法を使って、紙の蝶を飛ばしてみて欲しいって言ったの覚えてる?」

「白い紙で出来た蝶……私が作った物じゃないかって持って来てくれたんですよね」

「そう。あの時点では蝶の正体は全く分かってなくて、クレハが遊んでたのかなって思ってた。それを確かめる為にあんなことをさせたんだ。でものちに、あの蝶はニュアージュの魔法使いが寄越した物だというのが判明した。ただの白い紙に見えていたけど、あれは魔法を使うための道具なんだってさ」

 蝶は発見当初、淡い黄色の光を放ちながら空中を漂っていたそうだ。黄色に輝く紙……それって、釣り堀の少女達の体内にあったものと同じではないか。あれも蝶と同様に黄色く発光していた。白い紙は魔法を使う道具……それで作られた蝶……つまり、ニュアージュの魔法使いに釣り堀だけでなく、王宮の中でも何かされていたってこと? 

「そんな……」

「不思議な力で動いているというのは一目瞭然だったけど、俺達の頭ではそれが何なのかお手上げ状態でね。そこで、ルーイ先生に助言を仰いだんだよ。クレハ達が釣り堀に行った日ね」

 一緒に釣りに行けなかったのをただ残念に思っていたけど、彼は裏でそんなことをしていたのか……知らなかったとはいえ、呑気にはしゃいでで申し訳なかったな。

「ルーイ先生には本当に世話になった。神であるという事を抜きにしても、頭が上がらないよ。気さくな方だというのは分かっていたけど、それだけじゃない……とても心根の優しい方だ」

 レオンはルーイ様と行動を共にして、それを実感したらしい。自分の事ではないのに顔がニヤけてしまう。ルーイ様は上司の神から罰を与えられ、人間と同じ生活をしている。傍目には分からない気苦労もあるはず。だから、同居しているセドリックさんや、レオンと仲良くしている様子を見ると安心するのだ。

「嬉しそうにしちゃってさぁ。クレハが先生を慕うのは無理ないけど……あんまり可愛い顔されるとやっぱり妬ける」
 
「自分から褒めた癖に……」

「それでも。俺はガキだし心狭いから、そういうのさらっと流せないの」

 拗ねたように口を尖らせてはいるけど、レオンのルーイ様に対する態度は明らかに軟化していると思う。倒れたレオンを介抱したのもルーイ様だと聞いた。ふたりは一緒にリオラド神殿にも赴いている。私のいない所で何があったのだろうか。自分はいつの間にか、お見舞いに来たのだということをすっかり忘れて、レオンの話に没頭し、続きを促していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】番が見つかった恋人に今日も溺愛されてますっ…何故っ!?

ハリエニシダ・レン
恋愛
大好きな恋人に番が見つかった。 当然のごとく別れて、彼は私の事など綺麗さっぱり忘れて番といちゃいちゃ幸せに暮らし始める…… と思っていたのに…!?? 狼獣人×ウサギ獣人。 ※安心のR15仕様。 ----- 主人公サイドは切なくないのですが、番サイドがちょっと切なくなりました。予定外!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...