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107話 お見舞い(2)
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皆が言っていた通り、レオンは数日で目を覚ました。起きた直後は記憶が混濁していて、自分の身に何が起こったのかを理解していなかったそうだ。それでも怠そうにしていたのは1日だけで、すぐにいつもの調子を取り戻した。念のため医師による診察も受けたが、異常な所は見つからず、問題無しとの結果が出る。それを聞いて、私はようやく胸のつかえが取れたような気がした。レオン自身も大事無いと主張していて、既に動き回りたくてうずうずしてるんだって。でも医師はそれを受け入れることはなく、3日間の絶対安静を言い渡したのだった。
無傷の私ですら、外出を控えてしばらく自室で大人しくしているようにと言われたのだ。ましてレオンは世継ぎの王子様。放任主義で普段は比較的レオンの自由にさせているジェラール陛下も、今回は見過ごせなかったようで……
「陛下ったら、もしお医者様の言い付けを破ったらクレハ様との婚約を解消するって殿下を脅したんですよ。そしたら殿下……人が変わったみたいに大人しくなっちゃって。クレハ様効果は絶大ですね。陛下もよく分かっていらっしゃる」
ミシェルさんは思い出し笑いをしながら、カップにお茶を注いでいた。彼女は私だけでなく、レオンのお世話も兼任しているので、雑談がてら彼の様子を教えてくれるのだった。有難いけれど、またしても反応に困るネタを振られたな。私はこれをどんな顔して聞けば良いんだろうか。
脅しの内容はともかくとして、陛下の対応は当然。私だって彼に安静にしていて貰いたい。回復がいくら早くても、倒れたことを忘れちゃ駄目だ。
「しばらくはゆっくりしていて欲しいです……」
「そうですね。ご本人は不満そうですけど……心配している周りの気持ちもご理解して頂きたいものです。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。わぁ……良い香り」
ミシェルさんが淹れてくれたのは、レモンバームティー。少しだけハチミツが入っていて、優しい甘さにほっこりする。疲労回復や風邪にも効くんだって。飲みやすくて美味しい。ミシェルさんもお茶を淹れるの上手なんだよね……普段カフェで働いてるんだから当たり前か。レナードさんとルイスさんも淹れられるのかな。あのふたりがお店に出ていた時は、運が悪くて会うことができなかった。私の護衛の方がメインになっちゃったし……店員さんやってるところ見たかったな。
「そういうわけなんで、殿下はとーっても退屈しておられます。お見舞いに行くなら今がベストではないかと!!」
「はい?」
頂いたお茶を楽しんでいると、ミシェルさんがお見舞いの話を持ち出してきた。頃合いを見て行こうとは思っていたけど……
「すみません。実は殿下に、クレハ様がお見舞いにいらっしゃる事を伝えてしまいまして……。きっと今か今かと楽しみにしておられるはずです」
「えー……私、あれからなんにも準備できてないですよ」
「ですから、クレハ様は身一つで行って問題無いですってば」
大切なのは相手を思う気持ち……それは確かにその通りなのだけど。でも、レオン退屈してるそうだし……すぐに用意できる物を何か……本でも持っていってあげようかな。机の上には最近私がハマっている小説『ローズ物語』の2巻と3巻があった。私はもう読み終えたし、レオンも私の影響で1巻を読んでいたので、続きが気になっているかもしれない。後はトランプとか? ふたりでやってもあんまり楽しくないかな。一応持って行こう。
「分かりました。このお茶を頂いたら、すぐに向かいますね」
「では、その間私はクレハ様のお衣装を選んで参ります」
服……お見舞いに行くのにわざわざ着替えるの? 今の自分は部屋着ではあるけど、だらしない格好ではないと思う。逆にめかし込んで行く方が不自然なのでは。疑問がそのまま顔に出ていたのか、ミシェルさんは理由を説明してくれる。
「クレハ様はそのままでも充分素敵ですが、言い付けを守って大人しくしている殿下の為に、少しばかり色をつけてあげようと思いまして」
彼女はレオン好みに私の服装をコーディネートするつもりらしい。目的はあくまでお見舞いなので、過度に着飾ったりはしないと付け加えた。
「例えば色です。殿下ご本人は黒や濃紺、茶など落ち着いた色合いのお召し物を好まれます。ですがクレハ様……意中の女の子に対しては意外と王道にピンクや白、デザインもシンプルよりは可愛い系。華やかでふわふわした物がお好きみたいですよ」
「そうなんだ……レオンは何を着ても似合うって褒めてくれるから、知らなかったです」
ふわふわ可愛い系の服っていうと、フィオナ姉様がよく着てるみたいなのかな。あまり私が選ばない系統の服だ。嫌いではないけど、どうしても動きやすい服の方を好ましく思ってしまうので。白は私も好きな色だけど……
「もちろんそれも本心でしょうけれど、お好きな系統がちゃんとお有りなんですよ。せっかくですので、殿下の好みに合わせてあげましょう」
ミシェルさんの熱弁は続いた。私もいつの間にか、お茶を飲む手を止めて聞き入っていた。
自分はお洒落に疎い。女の子用の服ですら、下手をしたらレオンの方が詳しいくらいなのだ。普段着ているものだって侍女任せ。ミシェルさんの言う通りにした方が良いような気がしてきた……お見舞いする相手が不快になるよりは、好印象を持って貰うのが良い。
「そっ、そうですね。では、ミシェルさん……レオンのお見舞いに着て行く服を選ぶ、お手伝いをお願いしても良いですか?」
「もちろんです!!!! お任せ下さい」
ミシェルさんは胸に手を当て、やる気満々に返事をしてくれた。とっても楽しそうだ。鼻歌を歌いながらクローゼットを物色するミシェルさん……私にはその姿が、どことなく王妃様と被って見えた。
無傷の私ですら、外出を控えてしばらく自室で大人しくしているようにと言われたのだ。ましてレオンは世継ぎの王子様。放任主義で普段は比較的レオンの自由にさせているジェラール陛下も、今回は見過ごせなかったようで……
「陛下ったら、もしお医者様の言い付けを破ったらクレハ様との婚約を解消するって殿下を脅したんですよ。そしたら殿下……人が変わったみたいに大人しくなっちゃって。クレハ様効果は絶大ですね。陛下もよく分かっていらっしゃる」
ミシェルさんは思い出し笑いをしながら、カップにお茶を注いでいた。彼女は私だけでなく、レオンのお世話も兼任しているので、雑談がてら彼の様子を教えてくれるのだった。有難いけれど、またしても反応に困るネタを振られたな。私はこれをどんな顔して聞けば良いんだろうか。
脅しの内容はともかくとして、陛下の対応は当然。私だって彼に安静にしていて貰いたい。回復がいくら早くても、倒れたことを忘れちゃ駄目だ。
「しばらくはゆっくりしていて欲しいです……」
「そうですね。ご本人は不満そうですけど……心配している周りの気持ちもご理解して頂きたいものです。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。わぁ……良い香り」
ミシェルさんが淹れてくれたのは、レモンバームティー。少しだけハチミツが入っていて、優しい甘さにほっこりする。疲労回復や風邪にも効くんだって。飲みやすくて美味しい。ミシェルさんもお茶を淹れるの上手なんだよね……普段カフェで働いてるんだから当たり前か。レナードさんとルイスさんも淹れられるのかな。あのふたりがお店に出ていた時は、運が悪くて会うことができなかった。私の護衛の方がメインになっちゃったし……店員さんやってるところ見たかったな。
「そういうわけなんで、殿下はとーっても退屈しておられます。お見舞いに行くなら今がベストではないかと!!」
「はい?」
頂いたお茶を楽しんでいると、ミシェルさんがお見舞いの話を持ち出してきた。頃合いを見て行こうとは思っていたけど……
「すみません。実は殿下に、クレハ様がお見舞いにいらっしゃる事を伝えてしまいまして……。きっと今か今かと楽しみにしておられるはずです」
「えー……私、あれからなんにも準備できてないですよ」
「ですから、クレハ様は身一つで行って問題無いですってば」
大切なのは相手を思う気持ち……それは確かにその通りなのだけど。でも、レオン退屈してるそうだし……すぐに用意できる物を何か……本でも持っていってあげようかな。机の上には最近私がハマっている小説『ローズ物語』の2巻と3巻があった。私はもう読み終えたし、レオンも私の影響で1巻を読んでいたので、続きが気になっているかもしれない。後はトランプとか? ふたりでやってもあんまり楽しくないかな。一応持って行こう。
「分かりました。このお茶を頂いたら、すぐに向かいますね」
「では、その間私はクレハ様のお衣装を選んで参ります」
服……お見舞いに行くのにわざわざ着替えるの? 今の自分は部屋着ではあるけど、だらしない格好ではないと思う。逆にめかし込んで行く方が不自然なのでは。疑問がそのまま顔に出ていたのか、ミシェルさんは理由を説明してくれる。
「クレハ様はそのままでも充分素敵ですが、言い付けを守って大人しくしている殿下の為に、少しばかり色をつけてあげようと思いまして」
彼女はレオン好みに私の服装をコーディネートするつもりらしい。目的はあくまでお見舞いなので、過度に着飾ったりはしないと付け加えた。
「例えば色です。殿下ご本人は黒や濃紺、茶など落ち着いた色合いのお召し物を好まれます。ですがクレハ様……意中の女の子に対しては意外と王道にピンクや白、デザインもシンプルよりは可愛い系。華やかでふわふわした物がお好きみたいですよ」
「そうなんだ……レオンは何を着ても似合うって褒めてくれるから、知らなかったです」
ふわふわ可愛い系の服っていうと、フィオナ姉様がよく着てるみたいなのかな。あまり私が選ばない系統の服だ。嫌いではないけど、どうしても動きやすい服の方を好ましく思ってしまうので。白は私も好きな色だけど……
「もちろんそれも本心でしょうけれど、お好きな系統がちゃんとお有りなんですよ。せっかくですので、殿下の好みに合わせてあげましょう」
ミシェルさんの熱弁は続いた。私もいつの間にか、お茶を飲む手を止めて聞き入っていた。
自分はお洒落に疎い。女の子用の服ですら、下手をしたらレオンの方が詳しいくらいなのだ。普段着ているものだって侍女任せ。ミシェルさんの言う通りにした方が良いような気がしてきた……お見舞いする相手が不快になるよりは、好印象を持って貰うのが良い。
「そっ、そうですね。では、ミシェルさん……レオンのお見舞いに着て行く服を選ぶ、お手伝いをお願いしても良いですか?」
「もちろんです!!!! お任せ下さい」
ミシェルさんは胸に手を当て、やる気満々に返事をしてくれた。とっても楽しそうだ。鼻歌を歌いながらクローゼットを物色するミシェルさん……私にはその姿が、どことなく王妃様と被って見えた。
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