リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき

文字の大きさ
上 下
106 / 250

105話 廊下

しおりを挟む
「レオン様は眠っておられるだけだ。気持ちは分かるが、俺に殺気をぶつけるのはよしてくれ」

 ルーイ先生と別れたのち、熟睡している主を抱えながら橋の近くの廊下を歩いていると、ふたりの兵士と鉢合わせた。それは俺の部下であるクラヴェル兄弟だった。彼らも俺と考えることは同じで、レオン様が気がかりでここまで来たのだろう。意識の無い主を目にして冷静さを欠いているのか、今にも切りかかってくるのではという物騒な空気を纏わせている。

「たまには俺の命令も聞いたらどうだ? 休めって言っただろう。それに、クレハ様はどうしたんだ」

 兄弟は俺の言葉が聞こえているのかいないのか、無言で俺たちに近寄ってくると、レオン様の顔を覗き込んだ。そして検分するかのように体を見回す。ここも俺と同じだな。衣服の状態、出血の有無……呼吸に異常がないかなどを確認している。
 立て続けにじろじろと見られているが、レオン様はやはり微動だにしない。穏やかな寝息をたてながら眠りについていた。ひと通り調べ終わると、最後にふたりはもう一度レオン様の顔を見る。本当に寝ているだけだと分かり、険悪な態度を軟化させた。そしてようやく口を開く。この兄弟……普段やかましい反動か、怒ると静かになるんだよなぁ。

「俺たちは平気。姫さんも少し前に寝たよ。丁度ミシェルが戻って来たから、あいつに任せてる」

「殿下が所構わず眠りこけるなんてあり得ませんよね……私達にも詳しく事情を説明して貰えませんか? セドリックさん」

 ミシェルが帰って来たのか。彼女はクレハ様の帰宅準備の為、先にジェムラート邸へ行っていたのだが……帰宅が延期になったという連絡が、彼女にも届いたのだろうな。
 事情を話せと言われても、俺だってまだほとんど何も聞いていない。先生は夜が明けてから報告すると仰ったしな。ピリピリしている兄弟を刺激したくはないし……ここは下手に誤魔化さない方がいいか。

「ボスの先生はどうしたの? 一緒に行ったんじゃなかったっけ」

「ルーイ先生はまだ神殿だ。もしかしたら、事態はより深刻になったのかもしれないぞ」

 さっきの先生の雰囲気的に違うと思いたいが……なんせ三神の集結だ。楽観視など出来るわけがない。

「レオン様をこんな風にしたのは、ローシュの神コンティレクトだ。経緯は分からんが、魔力を大量に吸収されたらしい。疲れた体はそれに耐えられず、レオン様は昏睡してしまわれた。神殿で何があったのか……悪いが俺も詳細を知らされていない。それは明日、ルーイ先生がお話ししてくれるそうだ」

 コンティレクトの名前を聞いて、兄弟は目を見開いた。まさか他国の神の仕業だとは予想できなかっただろうな。更にニュアージュのシエルレクトも同席していたことも教えてやる。3人の神がリオラド神殿につどっていた。ルーイ先生を含めると、正解には4人だが……
 とにかく、レオン様は数日後には目を覚ますだろうから心配いらないと伝える。






「神様達が顔突き合わせて話し合いね……なんか凄いことになってたんだね。ボスはそれに混ざってたの? そりゃ神経擦り減らすわなぁ」

「殿下が無事なら良かったです。しかし、メーアレクト神がお怒りだとは思っていましたけれど、神達はリオラドでどんなやり取りをなさったのでしょうね」

「さあな。我々にとって悪い話でないのを祈るが……先生に聞いてみないことには何ともな。レオン様をお部屋にお連れしたら、俺は一旦仮眠を取る。何度も言うが、お前達も体を休ませろ。いざという時使い物にならん方が困る。休むのも仕事のうちだ」

 疲労を引きずらない為にも、休める時に休んでおけと忠告する。昼間の事もあるから気を使ったつもりだったが、問題無いとルイスに一蹴されしまう。こいつのことだから強がりでもなんでもなく、本心なんだろうな。そんなルイスを見てレナードは笑っていた。

「そうですね……私達も素直にセドリックさんの言う通りにしたいのですが、休むのはもうしばらく後になりそうですよ。ルイス、私達がここに来た理由」

「あっ、そうだった。ボスに気を取られて忘れるとこだったな」

「お前達、レオン様が心配で来たんじゃなかったのか?」

 神殿に行ったきり、なかなか戻らない主を案じての行動だと思っていたが、彼らは他に用があってここに来たらしい。

「そりゃ、ボスのことは常に気にかけてるけど……」

「神殿内で殿下の御身が危険に晒されるなど、思いもしませんでしたよ。だからこそ意識の無い殿下を見て、私達は本来の目的が頭から抜け落ちてしまうくらい衝撃を受けたわけで……」

 そりゃそうか……リオラド神殿はメーアレクト様の力で守られた聖域だ。このふたりは先生の手紙を見ていないからな。あれが無ければ俺だって、ここまで不安を掻き立てられることもなかったかもしれない。

「じゃあ、何しに来たんだよ」

「セドリックさんに報告することがあったんだよ」

「酒場を張っていた兵士から急ぎの伝達が入ったのです。例の男……死んだそうですよ」

「はぁ?」

「しかも信じられる? デカい鳥に襲われたんだってさ。町は騒ぎになってるよ。建物の一部が崩壊したりしたそうだけど、その男の他に被害者は無し。まるでそいつだけを狙ってたみたいだったって」

「……何でそれ早く言わないんだ」

「だから、ボスのことで頭がいっぱいになっちゃったんだってば……ごめん」

「申し訳ありません」

 レナードの言う通り、寝るのはもう少し後になりそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

処理中です...