94 / 238
93話 ハーブティー
しおりを挟む
温めたティーポットに、乾燥したハーブを入れて熱湯を注ぐ。ポットに蓋をして3分程度待つ。そして、丁度良い濃さになったらカップに注ぐ……と。甘くて爽やかなカモミールの香りは、少しリンゴに似ている。良い感じだ……ハーブティーを淹れるのは初めてだったけれど、上手くできたんじゃないかな。これならおふたりにお出ししても大丈夫だ。最後に蜂蜜とレモンを添えて……
「カミツレだね。良い香りだ」
「カミツレ?」
「カモミールの事だよ。花言葉は『清楚』そして『あなたを癒す』だ。カモミールティーには静穏効果があるからな。疲れた体にはぴったりな飲み物だ」
「へぇ……」
「だよね? リズちゃん」
「はっ、はい!」
ルーイ先生は私に視線を向けると、その端正な顔を綻ばせた。あのっ……まだ慣れてないので!! 先生の笑顔が直視できません。
「クレハの体を気遣って用意してくれたんだろうね」
「そっかぁ……ありがとう、リズ」
「リズちゃんも一緒にお茶しようか。俺の隣おいで」
「はいーっ!?」
ご自身が座っているソファの左隣をぽんぽんと叩きながら、先生は私に手招きをしている。嘘でしょ……待って、心の準備が。最近の私ときたら、美形成分を過剰摂取し続けて胸焼けしてしまいそうです。
「ほらほら、遠慮しないで」
「えっ、いや……私は……」
少し強引に腕を引かれ、ソファに座らせられた。先生と体が触れてしまいそうな距離に、心臓がバクバクと激しく騒ぎ出す。
「リズの分は私が淹れるね」
クレハ様がお手ずから、私にお茶を入れて下さった。これではもうお断りすることはできません。有り難くご一緒させて頂くことにしよう。クレハ様と先生……そして私。3人でお茶を飲み交わす事となった。
「ルーイ様……『とまり木』で働くんですか?」
「うん。セディの世話になるばっかりじゃ悪いだろ。手伝いくらいはしないとな。髪はその気合いを表現してみたってとこかな」
「ほんとにセディって呼んでる……」
「なーに? リズちゃん」
「い、いえ。長い髪の先生も素敵だったんだろうなぁって……」
「今度ウィッグでも被って見せてあげようか」
クレハ様を教えているアレット先生のイメージのせいか、先生と聞くと気難しい方を想像してしまうのだけど、ルーイ先生はとてもフランクで話しやすかった。そして近くで見ると更に格好良い。先生はクッキーを美味しそうに食べている。お菓子類が好きだと聞いていたから、お茶と一緒にお出ししたのだけど、気に入って貰えたのなら良かった。
「働くことに関しては、ちゃんとレオンにも許可を貰ったから大丈夫」
「レオンは今日、ルーイ様の所に行っていたのですね」
「ああ。あいつ凄い勢いで店を飛び出して行くもんだからびっくりしたよ。俺もセディも心配してたんだからな」
なんと殿下は、店から王宮まで走って戻られたのだという。馬車を使っても1時間近くかかる距離なのだけど。表での暴走っぷりといい、分かってはいたけれど……やはり殿下は色々と普通ではない。
「セディはこっちに着いて早々に、レオンのいる会議室に行っちゃった。俺はその間クレハの所にいるよう言われたんだけど……お前達が行った釣り堀で何があったんだい?」
クレハ様は先生にも、今日釣り堀で起きたことを説明された。黄色の衣装を纏った不思議な少女の事、その少女を湖の怪物が食べてしまったことなどを、できるだけ丁寧に。私も当事者であるので、クレハ様の話に補足をするような形で会話に参加した。
「うわぁ……がっつり襲われてんじゃねーか。レオンは間に合わなかったらしいけど、無事でほんと良かったな」
「とても怖かったです。でも、レナードさんとルイスさん……私の護衛をして下さっている兵士さんが守ってくれましたから。おふたり共凄く強いんですよ」
「レオンの側近だっけ? あいつ自身も無茶苦茶だが、サークスを相手にして無傷とは……部下の方もぶっ壊れ性能だな」
先生に『ぶっ壊れてる』と表現されるおふたり。とても強いという意味らしい。褒め言葉で良いんだよね……
「ルーイ様、あの黄色の少女は何だったのでしょう……あれも魔法なんですか?」
「お前達を襲ったのはサークスだろう。サークスっていうのは、ニュアージュの魔法使いが必ず連れてる相棒……みたいなもんかな。実際はそんな良いもんではないけどね」
「ニュアージュの……魔法使い」
「その魔法について説明すると長くなるから、それはまた今度な。何ならレオンに聞いてよ。アイツには少し教えておいたからさ」
「ルーイ様はそうやってすぐ面倒くさがるんだから……」
「それにしても、こんな明確に島の中へ攻撃をしかけてくるなんてな。精々のぞき程度だと思っていたが……これはちとマズいことになったな。ミレーヌの行動からして、メーアにもバレたようだし……」
あの化け物達の体内にあった白い紙切れ……それを見た時、レナードさんとルイスさんの話を思い出した。王宮内を飛び回っていたという、正体不明の黄色に輝く蝶の事。その蝶も白い紙でできていたらしい。
私達を襲ったのがニュアージュの魔法使いなら、蝶も同じ人間がやったことなのかな。
外国の魔法使いがコスタビューテの王宮に侵入し、そこにいる人達を攻撃した。しかも、その中にはクレハ様……王太子の婚約者も含まれている。これって……とんでもないことなんじゃ……
コンコン
部屋の扉をノックする音がした。今度こそレオン殿下かな。会議が始まってからそろそろ2時間近くになるし……
「クレハ様、セドリックです。ご気分は如何でしょうか?」
「セドリックさん!」
「おっ、セディ」
先生に続いて、クレハ様を訪ねてきたのはセドリックさんだった。会議は終わったのだろうか……セドリックさんも途中からだけど、出席していたそうだし。でも、それなら真っ先に殿下がこちらに来られそうな気がするのだけど、扉の前にいるのはセドリックさんだけのようだ。
「少しばかりお話をさせて頂きたいのですが……よろしいでしょうか」
さっき名前を名乗った時より、セドリックさんの話し方が柔らかくなった。クレハ様の声を聞いて安心したのだろう。
クレハ様はセドリックさんを快く部屋に招き入れる。セドリックさんも相当お疲れのようだ。彼にも温かいハーブティーを振る舞おうと、私はお湯を沸かし直すため、再び給湯室に向かった。
「カミツレだね。良い香りだ」
「カミツレ?」
「カモミールの事だよ。花言葉は『清楚』そして『あなたを癒す』だ。カモミールティーには静穏効果があるからな。疲れた体にはぴったりな飲み物だ」
「へぇ……」
「だよね? リズちゃん」
「はっ、はい!」
ルーイ先生は私に視線を向けると、その端正な顔を綻ばせた。あのっ……まだ慣れてないので!! 先生の笑顔が直視できません。
「クレハの体を気遣って用意してくれたんだろうね」
「そっかぁ……ありがとう、リズ」
「リズちゃんも一緒にお茶しようか。俺の隣おいで」
「はいーっ!?」
ご自身が座っているソファの左隣をぽんぽんと叩きながら、先生は私に手招きをしている。嘘でしょ……待って、心の準備が。最近の私ときたら、美形成分を過剰摂取し続けて胸焼けしてしまいそうです。
「ほらほら、遠慮しないで」
「えっ、いや……私は……」
少し強引に腕を引かれ、ソファに座らせられた。先生と体が触れてしまいそうな距離に、心臓がバクバクと激しく騒ぎ出す。
「リズの分は私が淹れるね」
クレハ様がお手ずから、私にお茶を入れて下さった。これではもうお断りすることはできません。有り難くご一緒させて頂くことにしよう。クレハ様と先生……そして私。3人でお茶を飲み交わす事となった。
「ルーイ様……『とまり木』で働くんですか?」
「うん。セディの世話になるばっかりじゃ悪いだろ。手伝いくらいはしないとな。髪はその気合いを表現してみたってとこかな」
「ほんとにセディって呼んでる……」
「なーに? リズちゃん」
「い、いえ。長い髪の先生も素敵だったんだろうなぁって……」
「今度ウィッグでも被って見せてあげようか」
クレハ様を教えているアレット先生のイメージのせいか、先生と聞くと気難しい方を想像してしまうのだけど、ルーイ先生はとてもフランクで話しやすかった。そして近くで見ると更に格好良い。先生はクッキーを美味しそうに食べている。お菓子類が好きだと聞いていたから、お茶と一緒にお出ししたのだけど、気に入って貰えたのなら良かった。
「働くことに関しては、ちゃんとレオンにも許可を貰ったから大丈夫」
「レオンは今日、ルーイ様の所に行っていたのですね」
「ああ。あいつ凄い勢いで店を飛び出して行くもんだからびっくりしたよ。俺もセディも心配してたんだからな」
なんと殿下は、店から王宮まで走って戻られたのだという。馬車を使っても1時間近くかかる距離なのだけど。表での暴走っぷりといい、分かってはいたけれど……やはり殿下は色々と普通ではない。
「セディはこっちに着いて早々に、レオンのいる会議室に行っちゃった。俺はその間クレハの所にいるよう言われたんだけど……お前達が行った釣り堀で何があったんだい?」
クレハ様は先生にも、今日釣り堀で起きたことを説明された。黄色の衣装を纏った不思議な少女の事、その少女を湖の怪物が食べてしまったことなどを、できるだけ丁寧に。私も当事者であるので、クレハ様の話に補足をするような形で会話に参加した。
「うわぁ……がっつり襲われてんじゃねーか。レオンは間に合わなかったらしいけど、無事でほんと良かったな」
「とても怖かったです。でも、レナードさんとルイスさん……私の護衛をして下さっている兵士さんが守ってくれましたから。おふたり共凄く強いんですよ」
「レオンの側近だっけ? あいつ自身も無茶苦茶だが、サークスを相手にして無傷とは……部下の方もぶっ壊れ性能だな」
先生に『ぶっ壊れてる』と表現されるおふたり。とても強いという意味らしい。褒め言葉で良いんだよね……
「ルーイ様、あの黄色の少女は何だったのでしょう……あれも魔法なんですか?」
「お前達を襲ったのはサークスだろう。サークスっていうのは、ニュアージュの魔法使いが必ず連れてる相棒……みたいなもんかな。実際はそんな良いもんではないけどね」
「ニュアージュの……魔法使い」
「その魔法について説明すると長くなるから、それはまた今度な。何ならレオンに聞いてよ。アイツには少し教えておいたからさ」
「ルーイ様はそうやってすぐ面倒くさがるんだから……」
「それにしても、こんな明確に島の中へ攻撃をしかけてくるなんてな。精々のぞき程度だと思っていたが……これはちとマズいことになったな。ミレーヌの行動からして、メーアにもバレたようだし……」
あの化け物達の体内にあった白い紙切れ……それを見た時、レナードさんとルイスさんの話を思い出した。王宮内を飛び回っていたという、正体不明の黄色に輝く蝶の事。その蝶も白い紙でできていたらしい。
私達を襲ったのがニュアージュの魔法使いなら、蝶も同じ人間がやったことなのかな。
外国の魔法使いがコスタビューテの王宮に侵入し、そこにいる人達を攻撃した。しかも、その中にはクレハ様……王太子の婚約者も含まれている。これって……とんでもないことなんじゃ……
コンコン
部屋の扉をノックする音がした。今度こそレオン殿下かな。会議が始まってからそろそろ2時間近くになるし……
「クレハ様、セドリックです。ご気分は如何でしょうか?」
「セドリックさん!」
「おっ、セディ」
先生に続いて、クレハ様を訪ねてきたのはセドリックさんだった。会議は終わったのだろうか……セドリックさんも途中からだけど、出席していたそうだし。でも、それなら真っ先に殿下がこちらに来られそうな気がするのだけど、扉の前にいるのはセドリックさんだけのようだ。
「少しばかりお話をさせて頂きたいのですが……よろしいでしょうか」
さっき名前を名乗った時より、セドリックさんの話し方が柔らかくなった。クレハ様の声を聞いて安心したのだろう。
クレハ様はセドリックさんを快く部屋に招き入れる。セドリックさんも相当お疲れのようだ。彼にも温かいハーブティーを振る舞おうと、私はお湯を沸かし直すため、再び給湯室に向かった。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。
季邑 えり
恋愛
異世界転生した記憶をもつリアリム伯爵令嬢は、自他ともに認めるイザベラ公爵令嬢の腰ぎんちゃく。
今日もイザベラ嬢をよいしょするつもりが、うっかりして「王子様は理想的な結婚相手だ」と言ってしまった。それを偶然に聞いた王子は、早速リアリムを婚約者候補に入れてしまう。
王子様狙いのイザベラ嬢に睨まれたらたまらない。何とかして婚約者になることから逃れたいリアリムと、そんなリアリムにロックオンして何とかして婚約者にしたい王子。
婚約者候補から逃れるために、偽りの恋人役を知り合いの騎士にお願いすることにしたのだけど…なんとこの騎士も一筋縄ではいかなかった!
おとぼけ転生娘と、麗しい王子様の恋愛ラブコメディー…のはず。
イラストはベアしゅう様に描いていただきました。
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる