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82話 釣り(2)
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ストラ湖の釣り堀は、陸から少し離れた湖の一定範囲に網を張り、その中に魚を放った生簀状態になっている。生簀を囲うように頑丈な足場が組まれていて、この足場の上に乗って中に放流されている魚を釣るのだそうだ。釣り小屋から生簀までは陸続きで、桟橋を渡って簡単に行くことができる。足場も広いし、私みたいな初心者でも安全に釣りを楽しめそう。でも、風が少し強いから持ち物が飛ばされないように気を付けなきゃ。
「レナードさん、この釣り堀ではどんな魚が釣れるんですか?」
「そうですねー……釣りやすいのは、ハゼとかクロダイでしょうか。ストラ湖は淡水と海水が混ざり合った汽水湖なので、魚種が豊富なんですよ」
釣った魚は持ち帰っても良いらしいので、釣れたらレオンへのお土産にしよう。大きいのを釣ってびっくりさせたいな。
「釣り小屋で魚を調理して食べることもできるんですけど、今日は管理人が不在なので……次の機会にしましょう」
「てか、そういうのはボスが一緒にいる時がいいだろ。なぁ、姫さん」
「はっ、はい」
ルイスさんにレオンの話を振られて焦ってしまった。丁度頭の中でレオンの事を考えていたからだ。まさか口に出していたのかな……いや、流石にそれはないか。きっと表情を読まれたのだろう。感情がすぐ顔に出ると、色んな人に言われ続けているが、これほどまでに分かりやすいのだとしたら、ちょっと問題だな……
「釣りをやるにあたって、忘れてはならない大切な物のひとつ……それは餌です。基本的に狙う魚の種類や、その日の天候によって選択します」
「うわぁ、すごい。生きてる……うねうね」
生簀に到着すると、早速釣りをする準備に取り掛かった。ほとんどレナードさんとルイスさんがやってくれたので、私は眺めていただけだったけど……
釣り竿の扱い方なども説明して貰い、『よし! 始めるぞ』と意気込んだところで、レナードさんが取り出した箱。その中には、ミミズのような虫がたくさん入っていたのだ。それを見た瞬間、体がぞわっとした……この虫は釣りに使う餌なんだって。
「わりぃ、姫さん。俺、虫ダメ……」
さっきまで私のすぐ隣にいたルイスさんが、数メートル離れた場所に移動していた。そして青ざめた顔で告げる。そんなルイスさんの陰に隠れて、体を小刻みに震わせているのはリズだ。『無理です、無理!!』と叫んでいる。リズまで……いつの間に。
「ルイスったら相変わらずだねぇ。クレハ様は平気? 無理しなくて良いんですよ」
「家でジェフェリーさ……庭師の方と一緒に花壇の世話をしていると、虫もよく出てきますから平気です」
素手で触るのは遠慮したいけどね。ルイスさんは虫が苦手なのか……だから釣りにあまり乗り気じゃなかったんですね。
「それじゃあ、エサ付けは私とクレハ様でやりましょうか?」
「はい!」
「クレハさまぁ……良い返事してますけど、大丈夫ですか? レナードさんにお任せした方が……」
「大丈夫、大丈夫。何事も経験だよ、リズ」
「そんな経験、クレハ様はしなくてもよろしいですよ……」
「一応、練り餌とか他の餌も持って来てるけど……リズちゃん達はこっち使う? これは小さくちぎって丸めて、針に付ければいいから簡単だよ」
虫の次に出てきたのは練り餌。これも釣り用の餌の一種で、小麦粉とかエビ粉などの材料を混ぜて、ペースト状にしたものらしい。これなら虫が苦手なルイスさんとリズでも安心だ。
「こっち! こっちがいいです。クレハ様もこれにしましょう」
「うーん……でも、私はせっかくだし虫の方に挑戦してみたいな」
「えぇ……クレハさまぁ」
信じられないとでも言いたげな顔で、リズは私を見つめていた。何なら、リズの分の餌も私が付けてあげようと思っていたのに……彼女は速攻で練り餌を使うと決めてしまった。
「お嬢様方に生き餌は厳しいだろうと思って、使わないつもりだったんですけど……。まさか、クレハ様がこんなに積極的になってくださるとは予想外でした」
「おい……じゃあ何でわざわざ持って来たんだよ! 最初から練り餌の方だけ出せば良かっただろうが」
「だって、ルイスが毎回良いリアクションしてくれるから楽しくって。ほら……クレハ様見て。ルイスったらちょっと涙目になってるんですよ、虫で」
レナードさんは笑っていた。彼の長いまつ毛で彩られた瞳は細まり、頬も薄っすら赤く染まっている。まるで恍惚感に浸っているような怪しくも美しい笑顔。何だかいけないものを垣間見たような気分だ……反応に困る。レナードさん……もしかして加虐嗜好でもあるのかな。
「俺への嫌がらせか! お前ほんと……そういうとこあるよな。腹立つ……」
「リズちゃんまで怖がらせてしまったのは、申し訳なかったです……リズちゃん、ごめんね」
「俺は? 俺にも謝れよ!!」
初めてレナードさんとルイスさんにお会いした時も、こんな感じだったなぁ。お互い遠慮無しに言い合えるのは、仲の良い証拠だ。
こんなやり取りは、自分とフィオナ姉様では絶対に想像出来ない。そもそも、私と姉様ってケンカしたことあったっけ……。目の前の兄弟に比べて、自分と姉の関係がどれだけ希薄な物だったかと思い知らされたような気がした。この兄弟なら、相手の体調の変化や異変にも気付く事が出来るのだろうな。
ふたりは大人だし、男女の差だってある。だから単純に比べられないけれど……。それでも、喧嘩するほど仲が良いを体現している様なふたりを見ていると、ちょっとだけ羨ましく、切なくなった。
「レナードさん、この釣り堀ではどんな魚が釣れるんですか?」
「そうですねー……釣りやすいのは、ハゼとかクロダイでしょうか。ストラ湖は淡水と海水が混ざり合った汽水湖なので、魚種が豊富なんですよ」
釣った魚は持ち帰っても良いらしいので、釣れたらレオンへのお土産にしよう。大きいのを釣ってびっくりさせたいな。
「釣り小屋で魚を調理して食べることもできるんですけど、今日は管理人が不在なので……次の機会にしましょう」
「てか、そういうのはボスが一緒にいる時がいいだろ。なぁ、姫さん」
「はっ、はい」
ルイスさんにレオンの話を振られて焦ってしまった。丁度頭の中でレオンの事を考えていたからだ。まさか口に出していたのかな……いや、流石にそれはないか。きっと表情を読まれたのだろう。感情がすぐ顔に出ると、色んな人に言われ続けているが、これほどまでに分かりやすいのだとしたら、ちょっと問題だな……
「釣りをやるにあたって、忘れてはならない大切な物のひとつ……それは餌です。基本的に狙う魚の種類や、その日の天候によって選択します」
「うわぁ、すごい。生きてる……うねうね」
生簀に到着すると、早速釣りをする準備に取り掛かった。ほとんどレナードさんとルイスさんがやってくれたので、私は眺めていただけだったけど……
釣り竿の扱い方なども説明して貰い、『よし! 始めるぞ』と意気込んだところで、レナードさんが取り出した箱。その中には、ミミズのような虫がたくさん入っていたのだ。それを見た瞬間、体がぞわっとした……この虫は釣りに使う餌なんだって。
「わりぃ、姫さん。俺、虫ダメ……」
さっきまで私のすぐ隣にいたルイスさんが、数メートル離れた場所に移動していた。そして青ざめた顔で告げる。そんなルイスさんの陰に隠れて、体を小刻みに震わせているのはリズだ。『無理です、無理!!』と叫んでいる。リズまで……いつの間に。
「ルイスったら相変わらずだねぇ。クレハ様は平気? 無理しなくて良いんですよ」
「家でジェフェリーさ……庭師の方と一緒に花壇の世話をしていると、虫もよく出てきますから平気です」
素手で触るのは遠慮したいけどね。ルイスさんは虫が苦手なのか……だから釣りにあまり乗り気じゃなかったんですね。
「それじゃあ、エサ付けは私とクレハ様でやりましょうか?」
「はい!」
「クレハさまぁ……良い返事してますけど、大丈夫ですか? レナードさんにお任せした方が……」
「大丈夫、大丈夫。何事も経験だよ、リズ」
「そんな経験、クレハ様はしなくてもよろしいですよ……」
「一応、練り餌とか他の餌も持って来てるけど……リズちゃん達はこっち使う? これは小さくちぎって丸めて、針に付ければいいから簡単だよ」
虫の次に出てきたのは練り餌。これも釣り用の餌の一種で、小麦粉とかエビ粉などの材料を混ぜて、ペースト状にしたものらしい。これなら虫が苦手なルイスさんとリズでも安心だ。
「こっち! こっちがいいです。クレハ様もこれにしましょう」
「うーん……でも、私はせっかくだし虫の方に挑戦してみたいな」
「えぇ……クレハさまぁ」
信じられないとでも言いたげな顔で、リズは私を見つめていた。何なら、リズの分の餌も私が付けてあげようと思っていたのに……彼女は速攻で練り餌を使うと決めてしまった。
「お嬢様方に生き餌は厳しいだろうと思って、使わないつもりだったんですけど……。まさか、クレハ様がこんなに積極的になってくださるとは予想外でした」
「おい……じゃあ何でわざわざ持って来たんだよ! 最初から練り餌の方だけ出せば良かっただろうが」
「だって、ルイスが毎回良いリアクションしてくれるから楽しくって。ほら……クレハ様見て。ルイスったらちょっと涙目になってるんですよ、虫で」
レナードさんは笑っていた。彼の長いまつ毛で彩られた瞳は細まり、頬も薄っすら赤く染まっている。まるで恍惚感に浸っているような怪しくも美しい笑顔。何だかいけないものを垣間見たような気分だ……反応に困る。レナードさん……もしかして加虐嗜好でもあるのかな。
「俺への嫌がらせか! お前ほんと……そういうとこあるよな。腹立つ……」
「リズちゃんまで怖がらせてしまったのは、申し訳なかったです……リズちゃん、ごめんね」
「俺は? 俺にも謝れよ!!」
初めてレナードさんとルイスさんにお会いした時も、こんな感じだったなぁ。お互い遠慮無しに言い合えるのは、仲の良い証拠だ。
こんなやり取りは、自分とフィオナ姉様では絶対に想像出来ない。そもそも、私と姉様ってケンカしたことあったっけ……。目の前の兄弟に比べて、自分と姉の関係がどれだけ希薄な物だったかと思い知らされたような気がした。この兄弟なら、相手の体調の変化や異変にも気付く事が出来るのだろうな。
ふたりは大人だし、男女の差だってある。だから単純に比べられないけれど……。それでも、喧嘩するほど仲が良いを体現している様なふたりを見ていると、ちょっとだけ羨ましく、切なくなった。
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