リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき

文字の大きさ
上 下
74 / 251

73話 彼女と魔法

しおりを挟む
「……レオン、苦しいです」

「あっ、うん……ごめん」

 クレハの呼びかけで我にかえる。彼女の体を締め付けていた腕の力を僅かに緩めた。
 俺はこれからどうすればいい……父上からしたら『何もするな』なんだろうけど。確かに、今の段階で俺にできることなんて無いに等しい。でも、純粋に姉を心配しているクレハを見ていると、居た堪れなくて仕方がない。
 やっぱり嫌だな……クレハを家に返すの。今からでも中止にできないだろうか。フィオナ嬢のリブレール行きが決まった時点で、父上とジェムラート公が話し合って立てた予定なので、今更変更が効かないのは分かっているが……
 とりあえず、フィオナ嬢の話は一旦置いておいて、クレハに聞いておかないといけない、もう一つの話をすることにしよう。

「そうだ、クレハ。話が変わるけど、コレ見覚えない?」

 レナードから預かった蝶をクレハの目の前に差し出した。

「何ですか、これ……ちょうちょ?」

「うん、レナードが中庭で拾ったんだって。クレハが作ったものじゃないのかな?」

「いいえ、知らないです」

「そっか、クレハの物だと思って持ってきたんだけど、違ったんだね……」

 クレハじゃない。そうなると、一体どこの誰が何の目的で……黄色に輝く蝶か……

「これ、紙でできていますね。今にもひらひらと飛んで行きそう……私だったらこんなに綺麗に蝶の形に切り取れないです。不器用だから」

「でも、クレハなら蝶を作ることは難しくても、飛ばすことはできるんじゃない?」

 そういえば、俺はクレハが力を使う所を目の前でちゃんと見たことが無かったな。良い機会だ、クレハの風魔法をじっくり見せて貰おう。

「この蝶をクレハの魔法で……できそう?」

「もちろんです! いっぱい練習したんですよ。見てて下さいね、レオン」

 得意げに胸を張るクレハが可愛い。再び彼女を抱き締めようと伸びる腕を、すんでのところで制止する。それはまた後で……今はクレハの魔法に集中しろ。
 クレハは俺から蝶を受け取ると、それを手の平に乗せた。彼女の手が白い光に包まれる。すると、ふわりと風が吹き上がり、俺とクレハの髪を揺らす。白い光……クレハの魔力の輝きだ。黄色には見えないな。
 魔法が発動する時に生じる光には個人差があるらしい。俺は瑠璃色、メーアレクト様は明るい青色だった。つまり、少なくともクラヴェル兄弟が発見した時に蝶を飛ばしていたのは、クレハではないと確定した。

「レオン! ほら、見て下さい」

 彼女の指差すほうを見ると、白く輝く蝶が空中を舞っていた。本当に生きているみたいだ……発光していなければ本物の蝶と見間違える程に。こんなに細かい動きをさせる事も可能なのか……

「見てるよ、凄いね。本物の蝶みたいだ」

 そう言ってクレハの頭を撫でてやる。彼女は照れくさそうに俯いた。しかし、口元がむにゅむにゅと動いている。ニヤけるのを我慢しているのだろう、褒められて嬉しいのが丸わかりだ。
 クレハは数分ほど部屋の中で蝶を飛ばして見せてくれた。思っていた以上に、この子は魔法を扱うのが上手い。力の強さも本家の人間と比べても遜色ない。

「今では自分の体も浮かせることができるんですよ。最初は石ころや貝殻を浮かせるだけで精一杯だったのに……」

「確か、クレハに魔法を教えたのはルーイ先生って言ってたよね。神様だから当然だろうけど、やっぱり魔法について詳しいんだ? 他にはどんなこと教わったのかな」

「魔法に関しては元になっている神様の話や……魔法を使うための条件とか方法とか色々……」

「へぇー、それならもちろん外国の……コスタビューテ以外の魔法についても、先生はご存知なんだね」

「はい! あっ、ほらレオンが私にくれたこのピアス……これはコンティドロップスっていうローシュの貴石で、魔法を使う為の道具だっていうのもルーイ様が教えてくれて……」

「えっ、ちょっと待って……クレハ、その石の正体知ってたの? いつから?」

「いつからって……ピアスを頂いてから割とすぐにルーイ様から聞きました。石を見たルーイ様が、レオンの力の強さにびっくりしてたからよく覚えてます」

 クレハが何も言わずに身に付けてるから知らないと思ってた。先生の態度も……あえて黙認してくれてるものだとばかり……。それじゃあ、俺が頻繁にクレハの位置確認してたのもバレてたのか……

「引いた?」

「えっ?」

「だってクレハ、その石の使い方知ってるんでしょ。俺のこと気持ち悪いって思わなかったの?」

「気持ち悪い? そりゃ、最初はちょっと怖いかなって思いましたけど……ルーイ様も持ってるだけなら平気だっていうし……それに、レオンの力が詰まったこの石、とっても綺麗です。星が輝いてる夜空みたいで」

 どうして気持ち悪いなんて言うのかと、クレハは不思議そうに頭を傾ける。微妙に話が噛み合っていないな……

「クレハは何故、俺がその石を君にあげたのだと思う? 君がさっき言った通り、その石はコスタビューテの物じゃない。ローシュから取り寄せた、とても珍しいものなんだよ」

「この石を体内に取り入れることで魔力を得ることが出来ると、ルーイ様から伺いました。レオンは御守りって言ってたから、いざという時に食べろって意味なのだと……」

 気持ちは嬉しいが、やはり抵抗があるので今後も食べることはないと、クレハは申し訳なさそうに言う。
 そうか……クレハはこの石が追跡に使える事は知らないんだな。俺の目的もいい具合に勘違いしてくれてる。いずれちゃんと話すつもりだけど、今はまだ秘密にしておきたい。

「石を食べることは、体への負担も大きいみたいだし、クレハはそれに頼らなくてもちゃんと自分の力を扱えている。だから、その石はただ持っていてくれるだけでいいよ。軽率だった……すまない」

「謝らないで下さい。私、このピアスとっても気に入っているんですよ。シンプルなデザインだからどんな服装にも合わせられるし……それに……」

 クレハは突然もじもじと言葉を詰まらせる。俺はそんな彼女を急かすことはせず、静かに待った。俺の顔を見たり逸らしたりを繰り返し、なかなか踏ん切りがつかないクレハに、ゆっくりでいいからと笑ってみせる。

「こっ……このピアスを付けていると、レオンがいつも側にいてくれるみたいでとても安心するんです」

 真っ赤な顔で告げられたクレハの言葉。俺の自己満足でしかない贈り物に対して、そんな風に思ってくれていたことに罪悪感を感じない訳ではない。真相を知った後でもそう思えるのかと、冷静に考えてしまったりもする……それでも――――

「勘弁してよ……」

 嬉しいと感じてしまう自分の心は単純で正直だった。彼女に負けず劣らず赤面しているであろう自身の顔を隠すように、俺は口元を手の平で覆った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

訳ありな家庭教師と公爵の執着

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。 ※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷  ※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)からHOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。 ※断罪回に残酷な描写がある為、苦手な方はご注意下さい。 ※只今、不定期更新中📝

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜

くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。 いや、ちょっと待て。ここはどこ? 私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。 マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。 私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ! だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの! 前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

処理中です...