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44話 休憩
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「レオン、おかえりなさい!!」
「ただいま。いい子にしてた?」
エリスが持ち帰った文の通り、殿下とセドリックさんは15時を少し過ぎた時分に王宮へお帰りになられた。おふたりはそのまま一直線にクレハ様の部屋に来られたようだ。駆け寄ってきたクレハ様の頬を撫でながら、殿下は優しく微笑んでいる。こんな顔初めて見た。きっとクレハ様の前でしかしないんだろうなぁ。
「あれ? クレハ、目元が赤くなってるね。どうしたのかな」
殿下目ざと過ぎる。いや、クレハ様のことだからだろう……どっちにしろヤバい。あの後すぐに冷やしたのだが、やはり僅かに腫れが残ってしまったのだ。
「お庭でお花を見ていたら目にゴミが入ってしまって……強く擦り過ぎてしまったみたいです。そんなに目立ちますか?」
「注意深く見ないと分からない程度だけど……そういう時は擦っちゃ駄目だよ。濡らした柔らかい布でゴミを取り除くか、水で目を洗うとかしないと」
……クレハ様上手い。あやうく殿下に悟られるところだったが、殿下はクレハ様のお話を信じたようで目の腫れについてはそれ以上言及されることは無かった。
「クライヴ隊長、留守中変わった事はなかったか?」
「はい。特にご報告するようなことはありません」
紫色の瞳が鋭く探るように見つめてくる……怖い。殿下の視線にたじろぎそうになってしまうが、俺は平静を装い毅然と答えた。
「クライヴさんに護身術のお話など聞かせて頂いたんですよ。とっても勉強になりました。後はストラ湖の事とか……私が聞いていた噂とは少し様子が違うみたいですね」
「湖の噂って……あの人喰いの怪物が出るとかなんとかって奴? クレハはまた妙なところに興味持つね」
「おふたり共、お話は椅子に座ってゆっくりされてはいかがですか? 店から持ってきた新しい紅茶の茶葉もあることですし……レオン様も、クレハ様にご報告する事がおありでしょう」
「セドリックの言うとおりだな。話はお茶を飲みながらにしよう。セドリック、準備を頼む」
「かしこまりました」
クレハ様が殿下の気を逸らせてくれたお陰で助かった。そして、セドリックさんがお茶の準備をする為に退室しようとしている。これはチャンスだ。
「それでは殿下、私も持ち場に戻らせて頂いてよろしいでしょうか?」
「ああ、ご苦労だったな」
「クライヴさん、今日はありがとうございました」
クレハ様がにっこりと笑ってお礼を述べられた。あまりの可愛らしさに息を呑む。こりゃ殿下が骨抜きになるのも無理ないな……
「いいえ、こちらこそ楽しい一時でした」
殿下にお許しを頂き、セドリックさんを追うような形で俺は部屋を後にした。これ以上殿下の近くにいるとボロが出そうで落ち着かないしな。部屋から出ると数メートル先にセドリックさんの背中が見える。歩くの早い……。小走りで彼に近付き、少し抑えた声で呼び止めた。
「セドリックさん、待って下さい。お耳に入れておきたい事があります」
俺の呼びかけに応じてセドリックさんは歩みを止めた。そして、その場で大きな溜息を吐く。
「やっぱりか……。クライヴ隊長、お前は人を欺く事に関してはとことん向いていないようだな。そこが良い所といえばそうなのかもしれないが……」
「えっ……?」
「目は口ほどに物を言う……レオン様はクレハ様に気を取られていたから気付いておられないと思うが、お前レオン様の顔がまともに見れてなかっただろ。それなのに俺の方へは不自然な程に視線を向ける。レオン様に対して、どんなやましいことがあるんだ?」
「やっ、やましいなんて……そんなっ……」
「俺には話そうとしていたようだから、これ以上ネチネチ言うつもりはないが……。で、何を隠してるんだ? わざわざレオン様から離れてお前が声をかけやすいようお膳立てしてやったんだから洗いざらい話せ」
殿下にお茶を薦めたのワザとだったのかよ。セドリックさん……普段は穏やかなのに殿下の事となると豹変するの怖過ぎるんだよな。そして、俺の態度がバレバレだったのが地味にショックだ。ポーカーフェイスを貫けていると思っていたのに。
「それは……おふたりが外出中に起きた出来事についてです。ここで詳細を話すのは躊躇われるので、どこか別の場所で時間を作って頂けると……」
セドリックさんは険しい顔で腕を組んだ。そのまま無言で考え込んでいる。この間がキツいな。
「……クライヴ隊長、お前は今日何時上がりだ?」
「特に問題が無ければ18時の予定ですが……」
「よし。では今晩20時に店に来い。そこで話を聞く」
そう言うとセドリックさんは踵を返し、さっさと厨房へ向かって行ってしまった。何だか一気に疲れが襲ってきた……まだ仕事が残っているというのに。
「そういえばクレハ様に湖の話もしそびれちゃったな……」
思いがけないお客様で予定が狂ったからな。しかし、湖のことなら殿下が教えてくれるだろうしいいか。
軽く伸びをして首を2、3回まわす。緊張の為か強張っていた筋が伸びて心地よい。さて……クレハ様の護衛という最重要任務はとりあえずここで終了だ。少し休憩してから仕事に戻るとしよう。俺は貴賓室から離れると、休憩室を目指し長い回廊を進んで行った。
「ただいま。いい子にしてた?」
エリスが持ち帰った文の通り、殿下とセドリックさんは15時を少し過ぎた時分に王宮へお帰りになられた。おふたりはそのまま一直線にクレハ様の部屋に来られたようだ。駆け寄ってきたクレハ様の頬を撫でながら、殿下は優しく微笑んでいる。こんな顔初めて見た。きっとクレハ様の前でしかしないんだろうなぁ。
「あれ? クレハ、目元が赤くなってるね。どうしたのかな」
殿下目ざと過ぎる。いや、クレハ様のことだからだろう……どっちにしろヤバい。あの後すぐに冷やしたのだが、やはり僅かに腫れが残ってしまったのだ。
「お庭でお花を見ていたら目にゴミが入ってしまって……強く擦り過ぎてしまったみたいです。そんなに目立ちますか?」
「注意深く見ないと分からない程度だけど……そういう時は擦っちゃ駄目だよ。濡らした柔らかい布でゴミを取り除くか、水で目を洗うとかしないと」
……クレハ様上手い。あやうく殿下に悟られるところだったが、殿下はクレハ様のお話を信じたようで目の腫れについてはそれ以上言及されることは無かった。
「クライヴ隊長、留守中変わった事はなかったか?」
「はい。特にご報告するようなことはありません」
紫色の瞳が鋭く探るように見つめてくる……怖い。殿下の視線にたじろぎそうになってしまうが、俺は平静を装い毅然と答えた。
「クライヴさんに護身術のお話など聞かせて頂いたんですよ。とっても勉強になりました。後はストラ湖の事とか……私が聞いていた噂とは少し様子が違うみたいですね」
「湖の噂って……あの人喰いの怪物が出るとかなんとかって奴? クレハはまた妙なところに興味持つね」
「おふたり共、お話は椅子に座ってゆっくりされてはいかがですか? 店から持ってきた新しい紅茶の茶葉もあることですし……レオン様も、クレハ様にご報告する事がおありでしょう」
「セドリックの言うとおりだな。話はお茶を飲みながらにしよう。セドリック、準備を頼む」
「かしこまりました」
クレハ様が殿下の気を逸らせてくれたお陰で助かった。そして、セドリックさんがお茶の準備をする為に退室しようとしている。これはチャンスだ。
「それでは殿下、私も持ち場に戻らせて頂いてよろしいでしょうか?」
「ああ、ご苦労だったな」
「クライヴさん、今日はありがとうございました」
クレハ様がにっこりと笑ってお礼を述べられた。あまりの可愛らしさに息を呑む。こりゃ殿下が骨抜きになるのも無理ないな……
「いいえ、こちらこそ楽しい一時でした」
殿下にお許しを頂き、セドリックさんを追うような形で俺は部屋を後にした。これ以上殿下の近くにいるとボロが出そうで落ち着かないしな。部屋から出ると数メートル先にセドリックさんの背中が見える。歩くの早い……。小走りで彼に近付き、少し抑えた声で呼び止めた。
「セドリックさん、待って下さい。お耳に入れておきたい事があります」
俺の呼びかけに応じてセドリックさんは歩みを止めた。そして、その場で大きな溜息を吐く。
「やっぱりか……。クライヴ隊長、お前は人を欺く事に関してはとことん向いていないようだな。そこが良い所といえばそうなのかもしれないが……」
「えっ……?」
「目は口ほどに物を言う……レオン様はクレハ様に気を取られていたから気付いておられないと思うが、お前レオン様の顔がまともに見れてなかっただろ。それなのに俺の方へは不自然な程に視線を向ける。レオン様に対して、どんなやましいことがあるんだ?」
「やっ、やましいなんて……そんなっ……」
「俺には話そうとしていたようだから、これ以上ネチネチ言うつもりはないが……。で、何を隠してるんだ? わざわざレオン様から離れてお前が声をかけやすいようお膳立てしてやったんだから洗いざらい話せ」
殿下にお茶を薦めたのワザとだったのかよ。セドリックさん……普段は穏やかなのに殿下の事となると豹変するの怖過ぎるんだよな。そして、俺の態度がバレバレだったのが地味にショックだ。ポーカーフェイスを貫けていると思っていたのに。
「それは……おふたりが外出中に起きた出来事についてです。ここで詳細を話すのは躊躇われるので、どこか別の場所で時間を作って頂けると……」
セドリックさんは険しい顔で腕を組んだ。そのまま無言で考え込んでいる。この間がキツいな。
「……クライヴ隊長、お前は今日何時上がりだ?」
「特に問題が無ければ18時の予定ですが……」
「よし。では今晩20時に店に来い。そこで話を聞く」
そう言うとセドリックさんは踵を返し、さっさと厨房へ向かって行ってしまった。何だか一気に疲れが襲ってきた……まだ仕事が残っているというのに。
「そういえばクレハ様に湖の話もしそびれちゃったな……」
思いがけないお客様で予定が狂ったからな。しかし、湖のことなら殿下が教えてくれるだろうしいいか。
軽く伸びをして首を2、3回まわす。緊張の為か強張っていた筋が伸びて心地よい。さて……クレハ様の護衛という最重要任務はとりあえずここで終了だ。少し休憩してから仕事に戻るとしよう。俺は貴賓室から離れると、休憩室を目指し長い回廊を進んで行った。
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