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35話 帰れない事情(3)
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「クレハ、ごめんね。待たせた」
「いいえ。御用は大丈夫でしたか?」
レオン様と俺はクレハ様に出迎えられる。着替えはとっくに終えられていた。
現在クレハ様が使用しておられる部屋は王宮内にある貴賓室の1つだ。滞在が急に決まったのでこちらをご用意したのだが、今後の事も考えてクレハ様専用の部屋を設えるようにと、ベルナデット様から指示が出ている。レオン様は自分の部屋の近くがいいと言っていたが『女の子のお世話なら私の方が適任』という、王妃殿下の主張に惨敗した。よって、クレハ様の部屋は王妃殿下の部屋の向かいに準備する運びとなっている。ちなみに主はまだ納得しておられない。
「リズを王宮にですか?」
「うん。気心の知れた人間が側にいた方がいいと思って。クレハがこっちに滞在している間、一緒にいられるように手続きしてる最中だから、もう少し待ってて」
『ほんとは俺が四六時中側にいて独り占めしたいんだけどね』とレオン様はしれっと言い放つ。相も変わらず子供らしくないレオン様の言動に当てられ、クレハ様は頬を赤くして俯いてしまった。俺のようにレオン様のお側で仕えている臣下は慣れたものだが、耐性の無いクレハ様は大変だろうな。
「私を気遣ってくれたのですね。ありがとうございます。実は、ちょっとだけ心細かったんです」
ここにいるのが嫌という意味ではない。誤解しないで欲しいと付け加え、申し訳なさそうにクレハ様は言った。
「クレハはまだ王宮に慣れていないから仕方ないよ。そもそも俺の我儘で引き止めちゃってるからね。さっきも言ったけど、困った事やして欲しい事があったら必ず俺に言って」
「はい」
まるで花の蕾が綻ぶような笑顔……思わず感嘆の溜息が漏れる。本当に可愛いらしい方だ。その笑顔は当然だが、我が主に対して破壊力バツグンだった。レオン様はクレハ様を思いっきり抱きしめる。いきなりの事に彼女は小さく悲鳴を上げたが、そのまま大人しくじっとしている。
「もう……不意打ちやめてよ。可愛いなぁ」
「ふ、ふいうち?」
レオン様がクレハ様にデレデレしているのを視界の端に捉えつつ、俺は先ほど主から命じられた事を反芻していた。
『リズ様に王宮へ来て頂くのですか?』
『ああ、リズ・ラサーニュはクレハの友人だろ? 彼女が一緒にいてくれたらクレハも心強いし、気が紛れるだろう。お前にはこれからジェムラート邸へ行き、その為の手筈を整えて来て欲しい。そして、リズ・ラサーニュには俺が直接話をするから、彼女を店まで連れてきてくれ』
『レオン様……リズ様からジェムラート家の事を探るおつもりですね』
『いやぁ、俺はクレハの為に彼女の不安が少しでも和らぐようにしたいだけだが』
『あくまで表向きはそんな感じで、という事ですね……承知致しました』
『リズ・ラサーニュはお前と面識があるからな。知らない奴がいきなり話をしに行くよりは幾分マシだろう。頼んだぞ』
リズ様に来てもらうというのは良い考えだと思う。クレハ様……お顔には出しておられないが、王宮に来てから色々な事があって精神的にも疲れておられるだろう。レオン様もそれを理解しておいでだ。おふたりが思っていたよりも早く打ち解けそうなのは良かった。しかし、突然慣れない場所で慣れない人間に囲まれて過ごすのだ。幼い彼女にとって負担であるし、戸惑いも大きいだろう。クレハ様の気を使い過ぎるという性格もそれを助長させていそうだった。
何かのっぴきならない事情があるにせよ、公爵はもう少しクレハ様へ状況説明をしてあげても良いのではないかと思う。だがそれをしないということは、やはりレオン様がおっしゃるように、フィオナ様の異変にクレハ様が関与していて、それを本人に告げるのをためらわれているのだろうか……
ジェムラート姉妹……先代国王の妹君である、今は亡きアルティナ様のご令孫。幼いながらもその可憐で美しい容姿は見る者を惹きつけてやまない。
社交的で人前に出る事に物怖じせず、すでに同世代の貴族令嬢達の中心となっておられるフィオナ様。クレハ様はあまり社交の場がお好きではないようだが、誰に対しても丁寧で優しく、屈託の無い笑顔はとても親しみが持てる。
おふたり共それぞれ違った魅力がお有りになるのだ……後数年もしたら、それは艶やかで麗しい女性になられる事だろう。この対称的な美しい姉妹が将来どのように成長なさるのか楽しみな反面、少しだけ胸騒ぎに似た感覚を覚えるのは気のせいだろうか。それは、初めてフィオナ様にお会いした時にも感じたもので……
「セドリック……聞いてるか?」
「あっ、申し訳ありません。つい考えことをしてしまい……」
「セドリックさん、リズの件よろしくお願いします。でも……さっきレオンにも伝えたのですが、リズは今うちの屋敷で侍女見習いとして働き始めたばかりなんです。そんな大変な時に無理をさせたくないので、リズの都合を優先にしてあげて欲しいのです」
「だとさ。俺も無理強いをするつもりは無いから、その辺は状況を見て判断だな」
リズ様……いつの間に。彼女はクレハ様を大層慕っているようだったしなぁ。残念ながら、クレハ様の気遣いは無駄に終わるだろう。彼女はクレハ様のためなら喜んで王宮に来てくれるに違いない。もしそれが叶わなくても、レオン様としてはジェムラート家の話を聞くというのが本命なので問題は無い。
「承知致しました。とにかく会ってお話をして参りますね」
「よし。それじゃあ、そっちはセドリックに任せるとして俺達は訓練を始めようか」
「はい!」
「まずは、クレハが今まで自分でやってきたトレーニング内容を詳しく教えて。それを参考にしながら今後のメニューを組むからね」
「ほ、本格的ですね……」
「言ったでしょ。やるからには真面目にやるって。俺が教えるんだから、最終的にはその辺の軍人より強くしてあげるよ」
レオン様……冗談なのか本気なのか分かりかねます。そしてクレハ様……物凄く嬉しそうですね。しかし、クレハ様は何がきっかけで武芸に興味など持たれたのだろうか。護身ということならクレハ様も魔法の力をお持ちなので、それで充分ではないのか。指導をすることをレオン様も楽しんでいるし、武術を学ぶ事自体は悪いとは思わないから良いのだけども。
「レオンの魔法もちゃんと近くで見てみたいです。いつか見せて下さいね」
「いいよ。クレハが望むならいくらでも」
「おふたり共、張り切り過ぎて怪我だけはしないように気を付けて下さいね」
盛り上がっているおふた方に、そこだけは注意して欲しいと念を押すと、俺は今後の予定を調整するため部屋を後にした。
「いいえ。御用は大丈夫でしたか?」
レオン様と俺はクレハ様に出迎えられる。着替えはとっくに終えられていた。
現在クレハ様が使用しておられる部屋は王宮内にある貴賓室の1つだ。滞在が急に決まったのでこちらをご用意したのだが、今後の事も考えてクレハ様専用の部屋を設えるようにと、ベルナデット様から指示が出ている。レオン様は自分の部屋の近くがいいと言っていたが『女の子のお世話なら私の方が適任』という、王妃殿下の主張に惨敗した。よって、クレハ様の部屋は王妃殿下の部屋の向かいに準備する運びとなっている。ちなみに主はまだ納得しておられない。
「リズを王宮にですか?」
「うん。気心の知れた人間が側にいた方がいいと思って。クレハがこっちに滞在している間、一緒にいられるように手続きしてる最中だから、もう少し待ってて」
『ほんとは俺が四六時中側にいて独り占めしたいんだけどね』とレオン様はしれっと言い放つ。相も変わらず子供らしくないレオン様の言動に当てられ、クレハ様は頬を赤くして俯いてしまった。俺のようにレオン様のお側で仕えている臣下は慣れたものだが、耐性の無いクレハ様は大変だろうな。
「私を気遣ってくれたのですね。ありがとうございます。実は、ちょっとだけ心細かったんです」
ここにいるのが嫌という意味ではない。誤解しないで欲しいと付け加え、申し訳なさそうにクレハ様は言った。
「クレハはまだ王宮に慣れていないから仕方ないよ。そもそも俺の我儘で引き止めちゃってるからね。さっきも言ったけど、困った事やして欲しい事があったら必ず俺に言って」
「はい」
まるで花の蕾が綻ぶような笑顔……思わず感嘆の溜息が漏れる。本当に可愛いらしい方だ。その笑顔は当然だが、我が主に対して破壊力バツグンだった。レオン様はクレハ様を思いっきり抱きしめる。いきなりの事に彼女は小さく悲鳴を上げたが、そのまま大人しくじっとしている。
「もう……不意打ちやめてよ。可愛いなぁ」
「ふ、ふいうち?」
レオン様がクレハ様にデレデレしているのを視界の端に捉えつつ、俺は先ほど主から命じられた事を反芻していた。
『リズ様に王宮へ来て頂くのですか?』
『ああ、リズ・ラサーニュはクレハの友人だろ? 彼女が一緒にいてくれたらクレハも心強いし、気が紛れるだろう。お前にはこれからジェムラート邸へ行き、その為の手筈を整えて来て欲しい。そして、リズ・ラサーニュには俺が直接話をするから、彼女を店まで連れてきてくれ』
『レオン様……リズ様からジェムラート家の事を探るおつもりですね』
『いやぁ、俺はクレハの為に彼女の不安が少しでも和らぐようにしたいだけだが』
『あくまで表向きはそんな感じで、という事ですね……承知致しました』
『リズ・ラサーニュはお前と面識があるからな。知らない奴がいきなり話をしに行くよりは幾分マシだろう。頼んだぞ』
リズ様に来てもらうというのは良い考えだと思う。クレハ様……お顔には出しておられないが、王宮に来てから色々な事があって精神的にも疲れておられるだろう。レオン様もそれを理解しておいでだ。おふたりが思っていたよりも早く打ち解けそうなのは良かった。しかし、突然慣れない場所で慣れない人間に囲まれて過ごすのだ。幼い彼女にとって負担であるし、戸惑いも大きいだろう。クレハ様の気を使い過ぎるという性格もそれを助長させていそうだった。
何かのっぴきならない事情があるにせよ、公爵はもう少しクレハ様へ状況説明をしてあげても良いのではないかと思う。だがそれをしないということは、やはりレオン様がおっしゃるように、フィオナ様の異変にクレハ様が関与していて、それを本人に告げるのをためらわれているのだろうか……
ジェムラート姉妹……先代国王の妹君である、今は亡きアルティナ様のご令孫。幼いながらもその可憐で美しい容姿は見る者を惹きつけてやまない。
社交的で人前に出る事に物怖じせず、すでに同世代の貴族令嬢達の中心となっておられるフィオナ様。クレハ様はあまり社交の場がお好きではないようだが、誰に対しても丁寧で優しく、屈託の無い笑顔はとても親しみが持てる。
おふたり共それぞれ違った魅力がお有りになるのだ……後数年もしたら、それは艶やかで麗しい女性になられる事だろう。この対称的な美しい姉妹が将来どのように成長なさるのか楽しみな反面、少しだけ胸騒ぎに似た感覚を覚えるのは気のせいだろうか。それは、初めてフィオナ様にお会いした時にも感じたもので……
「セドリック……聞いてるか?」
「あっ、申し訳ありません。つい考えことをしてしまい……」
「セドリックさん、リズの件よろしくお願いします。でも……さっきレオンにも伝えたのですが、リズは今うちの屋敷で侍女見習いとして働き始めたばかりなんです。そんな大変な時に無理をさせたくないので、リズの都合を優先にしてあげて欲しいのです」
「だとさ。俺も無理強いをするつもりは無いから、その辺は状況を見て判断だな」
リズ様……いつの間に。彼女はクレハ様を大層慕っているようだったしなぁ。残念ながら、クレハ様の気遣いは無駄に終わるだろう。彼女はクレハ様のためなら喜んで王宮に来てくれるに違いない。もしそれが叶わなくても、レオン様としてはジェムラート家の話を聞くというのが本命なので問題は無い。
「承知致しました。とにかく会ってお話をして参りますね」
「よし。それじゃあ、そっちはセドリックに任せるとして俺達は訓練を始めようか」
「はい!」
「まずは、クレハが今まで自分でやってきたトレーニング内容を詳しく教えて。それを参考にしながら今後のメニューを組むからね」
「ほ、本格的ですね……」
「言ったでしょ。やるからには真面目にやるって。俺が教えるんだから、最終的にはその辺の軍人より強くしてあげるよ」
レオン様……冗談なのか本気なのか分かりかねます。そしてクレハ様……物凄く嬉しそうですね。しかし、クレハ様は何がきっかけで武芸に興味など持たれたのだろうか。護身ということならクレハ様も魔法の力をお持ちなので、それで充分ではないのか。指導をすることをレオン様も楽しんでいるし、武術を学ぶ事自体は悪いとは思わないから良いのだけども。
「レオンの魔法もちゃんと近くで見てみたいです。いつか見せて下さいね」
「いいよ。クレハが望むならいくらでも」
「おふたり共、張り切り過ぎて怪我だけはしないように気を付けて下さいね」
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表紙は写真ACより転載しました。
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