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31話 それぞれの想い(5)うわさ
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「カミルったらどうしたの? そんなに慌てて……」
叔母さんの家に帰ると兄達も湖から戻って来ていたようで、一緒にサロンでお茶を飲んでいた。息を乱しながら不躾に扉を開けた僕を見て、3人共目を丸くしている。
「あら? そちらの方はカミルのお友達かしら」
「突然すみません……お邪魔してます」
叔母さんがエルドレッドに気づいて声をかけた。エルドレッドは居心地悪そうに頭を下げているが、今の僕にはそれを気遣う余裕はなかった。しかし、その直後彼は『あれがフィオナお嬢様か! すっげー可愛いな』とフィオナ様を見てはしゃいでいた。ほっといても良さそうだな。
「叔母さん、レオン殿下の婚約相手について何か聞いた事ない?」
「レオン殿下の?」
突拍子もない話をしているのは百も承知だ。どんな些細な事でもいい。否定できる材料が欲しかった。
「兄さんも知らない? 王宮でそういう話題を耳にしたとか、思い当たることないかな」
兄さんは僕より王宮に出入りする頻度が高い。フィオナ様と同じで社交好きだから結構情報通なのだ。
「殿下の婚約相手ねぇ……僕も詳しくは知らないけど、一応何人かの令嬢が候補として選ばれてるとは聞いた事あるよ。でも、陛下も王妃様も基本的に殿下本人の意向を汲むってスタンスらしくてね。そんなに急いで相手を決めるって感じではなかったはずだけど」
「私も殿下のそういうお話は聞いた事ないわねぇ。とても優秀で綺麗な方っていうのはよく聞くけれど」
つまり現状は万が一候補に上がっていたとしても、決定権は殿下にあるという事か。殿下自身がクレハを選ばない限り、婚約相手になる事は無い。クレハは僕と同じで殿下と面識は無かったはずだから、可能性は低いだろう。僕はエルドレッドをじとりと睨みつけた。エルドレッドは首を横に振りながら『嘘じゃねーよ』と小声で訴えている。コイツが嘘をついてるんじゃなく、情報元であるジェフェリーさんが間違っているんだろう。
「てか、何でお前が急に殿下の婚約なんて気にしてるんだよ」
「いやちょっとね……殿下の婚約相手が決まったなんていう噂を耳にしたものだからさ」
ガセだったみたいと続けて言おうとすると――――
「あっ! でも待てよ……そういえば父さんが気になる事言ってたな」
兄さんは何かを思い出したらしく再び話し始めた。何だろう……汗が背中を伝う感触も相まって、物凄く嫌な感じがした。
「仕事が忙しくなる直前くらいだったよ。ボソっと呟くように……確か『よりにもよってあの子を選ぶなんて』だったかな。その時は何のことか分からなかったけど、カミルが聞いた噂が本当ならそれが殿下の婚約相手の事だったのかも」
「フランツ兄さんったら……そんな言い方するなんて。よっぽど意外なお相手を殿下がお選びになったのかしらね」
「どうだろうね。『あの子』って言うくらいだから、父さんも知ってる相手だとは思うけど。それに殿下の伴侶は本人の希望を尊重するとは言われてるけど、それでもいくつか条件があるんだよ。それに当て嵌まらない場合はいくら殿下が望んでも認められないから、そんな変な相手ではないはずだよ」
「当然ですわね……将来この国の統治者になられる殿下のお相手ですもの。誰もが納得するような素晴らしい方でないと……」
「フィオナは厳しいなぁ。でも、あの殿下がどんな相手を選んだのかはちょっと気になるね」
いつの間にか兄達も殿下の婚約相手が決まっている前提で話をしている。父さんが言っていたという『あの子』がクレハなのだろうか。いや、僕は信じない。この目で確かめるまでは……
「カミル、その噂誰から聞いたんだ? 名前とか……どこの家の娘とかは言ってなかったのか」
「……ジェムラート家の次女ですよ。レオン殿下のお相手は」
今まで僕の隣で大人しくしていたエルドレッドが、突然前に出て話し始めた。
「ろくに挨拶もしないですみません。オレはエルドレッドといいます。カミル坊ちゃんにレオン殿下の婚約の話をしたのはオレなんです」
「ちょ、ちょっと待って。それはいいんだけど、ジェムラート家の次女ってひょっとしてクレハ!? クレハが殿下の婚約相手なの」
「はい。オレは4日前までエストラントにいたんです。ある出来事がきっかけで、ジェムラート家で働いている庭師さんと知り合いになりまして……その人から聞いた話になります」
「……うちの庭師というとジェフェリーね。あの人クレハと仲が良いし、クレハに対する賛辞をあなたが曲解して受け取ったという事は無いの?」
「えっ、それはどういう……」
「例えば『クレハは殿下とお似合い』とか『クレハなら殿下に選ばれてもおかしくない』みたいな褒め言葉を、あなたが勘違いしたんじゃないかってこと」
普段なら絶対あり得ないけど、今回は僕もフィオナ様側につく。フィオナ様の主張はちょっと無理矢理感があるけどね。エルドレッドはそこまで難聴ではないだろう。僕は単純にジェフェリーさんの方が勘違いをしていると思う。もしかしたら候補になったというのを、そのまま確定と思い込んだのかもしれないし。
「いや、はっきりと聞きましたけどね。うちの2番目のお嬢様が殿下と婚約されたと……」
「まあまあ、もしそんな大きな出来事があったのならルクトにもいずれ伝わってくるから……。エルドレッドさんだったかしら? 彼が4日前にお屋敷で直接聞いた話なら、もう王都にはそれなりに広まっているでしょうしね」
正確な情報が入ってくるまでのんびり待とうと叔母さんは言うが、僕はそんなの待っていられない。人づてじゃなく本人に……クレハに話を聞きたい。
「僕はクレハと殿下の組み合わせ面白いと思うけどなぁ。殿下はああ見えて結構型破りな方だし、クレハと気が合いそうだ。割とお似合いなんじゃない?」
兄さんちょっと黙っててくれないかな。何も面白くないし冗談じゃないよ。
「あの聡明な殿下が妹を選ぶなんて有り得ませんわ。ウチの家格的に候補になる可能性はあるかもしれませんけれど……」
「そうかなぁ……フィオナの妹なだけあってクレハも凄く可愛いし、明るくて良い子だよ。殿下が見初めてもおかしくないと思うけど……あっ! 僕はフィオナ一筋だからね。心配しないでね」
「はっ? あっ、ええ……大丈夫ですよ」
うわぁ……フィオナ様の心底どうでもよさそうな顔凄いな。しかし兄さんの言う通りだ。クレハは殿下と会った事無くても、殿下が一方的に知っている可能性はあるんだ。クレハは殿下の側近が開いている店に頻繁に出入りしていた訳だしな。もし本当に婚約の話が事実だとしたら……クレハはどう思っているのだろうか。
「ジゼル叔母さん、僕あした王都に帰ります。確かめなきゃいけない事があるんだ」
「はぁ? おい、カミル! お前何勝手なこと言ってんだ。こっちにだって予定があるんだぞ」
「帰るのは僕だけだよ。兄さん達は残ってていいよ」
「ちょっと……カミル坊ちゃん」
エルドレッドが心配そうな顔で僕に話しかける。大丈夫、お前の事忘れてないから。
「叔母さん、あとコイツに仕事を紹介してやってくれないかな。旅の途中なのに財布を落として困ってるんだ」
「それは構わないけれど……明日帰るだなんて、そんな急に……」
「わがまま言ってごめんなさい。でも、僕にとってはとても大切な事なんだ……」
最後にそう言うと僕はサロンを後にした。そして自身が使用している客室に向かう。急いで帰り支度をしなくてはならない。
「待ってくれよ! カミル坊ちゃん」
後ろからエルドレッドに呼び止められる。僕を追いかけて来たのか。何だよ……ちゃんと叔母さんに仕事のことお願いしてあげただろ。僕はイライラしながら振り向いた。
「急いでるんだけど。あと、坊ちゃんって呼ぶのやめろ」
「なんつーか、ちょっとばかし責任感じてるんだよ。オレが婚約の話なんてしたせいだしな。カミル坊っ……カミルには危ない所を助けて貰った恩があるし、何かあったら遠慮なく言えよ。大した事はできないかもだけど、オレは他国の人間だ。身内に言えないような愚痴とかでも聞いてやれるからさ」
「……まるで僕がこのあと荒れるかのように話すのやめてくれない」
「だってお前好きなんだろ? クレハ・ジェムラートの事。てか既にちょっと荒れてんじゃん」
「はぁ? 何言って……」
「えぇ……その態度で隠してるつもりだったのかよ。嘘でしょ」
出会って間もないコイツにも悟られほど分かりやすかったのか自分は……。周囲には仲の良い幼馴染としてしか認識されていないと思っていたのに。自分のクレハへの好意をエルドレッドにはっきりと断言されてしまい顔が熱くなる。
「……そうだとしたら何だって言うんだよ。そもそも僕はまだ婚約の話を信じたわけじゃない」
「うーん、あくまで『婚約』だからな。レオン王子もジェムラート家のお嬢様もまだガキだ……そしてお前もね。後でもっとイイ人が現れてあっさり婚約破棄なんてこともあるかもしれんよ? カミルだってこれからまだまだ色んな出会いがあるわけだしな」
「お前だってガキじゃん。僕とたいして変わらない癖に分かったように言うなよ」
「何が言いたいかというとだね……オレはカミルの味方だ。いざって時は手を貸してやるよ」
コイツなりに気遣ってくれているという事か。余計なお世話と言いたいとこだけど、さっきまでのささくれ立っていた気分が少しだけ和らいだ。
「気持ちはありがたく受け取っておくよ」
「おう。オレは資金集めの為にしばらくルクトに滞在する。数ヶ月はいると思うから、王都で嫌なことあったらまた会いに来い」
この時の僕は、急いで帰ることばかり考えていて、エルドレッドの言葉をあまり真剣に受け取ってはいなかった。まさか、この異国から来た少年が、今後の僕の生き方に多大な影響を与える存在になるなんて思いもしなかったのだ。
叔母さんの家に帰ると兄達も湖から戻って来ていたようで、一緒にサロンでお茶を飲んでいた。息を乱しながら不躾に扉を開けた僕を見て、3人共目を丸くしている。
「あら? そちらの方はカミルのお友達かしら」
「突然すみません……お邪魔してます」
叔母さんがエルドレッドに気づいて声をかけた。エルドレッドは居心地悪そうに頭を下げているが、今の僕にはそれを気遣う余裕はなかった。しかし、その直後彼は『あれがフィオナお嬢様か! すっげー可愛いな』とフィオナ様を見てはしゃいでいた。ほっといても良さそうだな。
「叔母さん、レオン殿下の婚約相手について何か聞いた事ない?」
「レオン殿下の?」
突拍子もない話をしているのは百も承知だ。どんな些細な事でもいい。否定できる材料が欲しかった。
「兄さんも知らない? 王宮でそういう話題を耳にしたとか、思い当たることないかな」
兄さんは僕より王宮に出入りする頻度が高い。フィオナ様と同じで社交好きだから結構情報通なのだ。
「殿下の婚約相手ねぇ……僕も詳しくは知らないけど、一応何人かの令嬢が候補として選ばれてるとは聞いた事あるよ。でも、陛下も王妃様も基本的に殿下本人の意向を汲むってスタンスらしくてね。そんなに急いで相手を決めるって感じではなかったはずだけど」
「私も殿下のそういうお話は聞いた事ないわねぇ。とても優秀で綺麗な方っていうのはよく聞くけれど」
つまり現状は万が一候補に上がっていたとしても、決定権は殿下にあるという事か。殿下自身がクレハを選ばない限り、婚約相手になる事は無い。クレハは僕と同じで殿下と面識は無かったはずだから、可能性は低いだろう。僕はエルドレッドをじとりと睨みつけた。エルドレッドは首を横に振りながら『嘘じゃねーよ』と小声で訴えている。コイツが嘘をついてるんじゃなく、情報元であるジェフェリーさんが間違っているんだろう。
「てか、何でお前が急に殿下の婚約なんて気にしてるんだよ」
「いやちょっとね……殿下の婚約相手が決まったなんていう噂を耳にしたものだからさ」
ガセだったみたいと続けて言おうとすると――――
「あっ! でも待てよ……そういえば父さんが気になる事言ってたな」
兄さんは何かを思い出したらしく再び話し始めた。何だろう……汗が背中を伝う感触も相まって、物凄く嫌な感じがした。
「仕事が忙しくなる直前くらいだったよ。ボソっと呟くように……確か『よりにもよってあの子を選ぶなんて』だったかな。その時は何のことか分からなかったけど、カミルが聞いた噂が本当ならそれが殿下の婚約相手の事だったのかも」
「フランツ兄さんったら……そんな言い方するなんて。よっぽど意外なお相手を殿下がお選びになったのかしらね」
「どうだろうね。『あの子』って言うくらいだから、父さんも知ってる相手だとは思うけど。それに殿下の伴侶は本人の希望を尊重するとは言われてるけど、それでもいくつか条件があるんだよ。それに当て嵌まらない場合はいくら殿下が望んでも認められないから、そんな変な相手ではないはずだよ」
「当然ですわね……将来この国の統治者になられる殿下のお相手ですもの。誰もが納得するような素晴らしい方でないと……」
「フィオナは厳しいなぁ。でも、あの殿下がどんな相手を選んだのかはちょっと気になるね」
いつの間にか兄達も殿下の婚約相手が決まっている前提で話をしている。父さんが言っていたという『あの子』がクレハなのだろうか。いや、僕は信じない。この目で確かめるまでは……
「カミル、その噂誰から聞いたんだ? 名前とか……どこの家の娘とかは言ってなかったのか」
「……ジェムラート家の次女ですよ。レオン殿下のお相手は」
今まで僕の隣で大人しくしていたエルドレッドが、突然前に出て話し始めた。
「ろくに挨拶もしないですみません。オレはエルドレッドといいます。カミル坊ちゃんにレオン殿下の婚約の話をしたのはオレなんです」
「ちょ、ちょっと待って。それはいいんだけど、ジェムラート家の次女ってひょっとしてクレハ!? クレハが殿下の婚約相手なの」
「はい。オレは4日前までエストラントにいたんです。ある出来事がきっかけで、ジェムラート家で働いている庭師さんと知り合いになりまして……その人から聞いた話になります」
「……うちの庭師というとジェフェリーね。あの人クレハと仲が良いし、クレハに対する賛辞をあなたが曲解して受け取ったという事は無いの?」
「えっ、それはどういう……」
「例えば『クレハは殿下とお似合い』とか『クレハなら殿下に選ばれてもおかしくない』みたいな褒め言葉を、あなたが勘違いしたんじゃないかってこと」
普段なら絶対あり得ないけど、今回は僕もフィオナ様側につく。フィオナ様の主張はちょっと無理矢理感があるけどね。エルドレッドはそこまで難聴ではないだろう。僕は単純にジェフェリーさんの方が勘違いをしていると思う。もしかしたら候補になったというのを、そのまま確定と思い込んだのかもしれないし。
「いや、はっきりと聞きましたけどね。うちの2番目のお嬢様が殿下と婚約されたと……」
「まあまあ、もしそんな大きな出来事があったのならルクトにもいずれ伝わってくるから……。エルドレッドさんだったかしら? 彼が4日前にお屋敷で直接聞いた話なら、もう王都にはそれなりに広まっているでしょうしね」
正確な情報が入ってくるまでのんびり待とうと叔母さんは言うが、僕はそんなの待っていられない。人づてじゃなく本人に……クレハに話を聞きたい。
「僕はクレハと殿下の組み合わせ面白いと思うけどなぁ。殿下はああ見えて結構型破りな方だし、クレハと気が合いそうだ。割とお似合いなんじゃない?」
兄さんちょっと黙っててくれないかな。何も面白くないし冗談じゃないよ。
「あの聡明な殿下が妹を選ぶなんて有り得ませんわ。ウチの家格的に候補になる可能性はあるかもしれませんけれど……」
「そうかなぁ……フィオナの妹なだけあってクレハも凄く可愛いし、明るくて良い子だよ。殿下が見初めてもおかしくないと思うけど……あっ! 僕はフィオナ一筋だからね。心配しないでね」
「はっ? あっ、ええ……大丈夫ですよ」
うわぁ……フィオナ様の心底どうでもよさそうな顔凄いな。しかし兄さんの言う通りだ。クレハは殿下と会った事無くても、殿下が一方的に知っている可能性はあるんだ。クレハは殿下の側近が開いている店に頻繁に出入りしていた訳だしな。もし本当に婚約の話が事実だとしたら……クレハはどう思っているのだろうか。
「ジゼル叔母さん、僕あした王都に帰ります。確かめなきゃいけない事があるんだ」
「はぁ? おい、カミル! お前何勝手なこと言ってんだ。こっちにだって予定があるんだぞ」
「帰るのは僕だけだよ。兄さん達は残ってていいよ」
「ちょっと……カミル坊ちゃん」
エルドレッドが心配そうな顔で僕に話しかける。大丈夫、お前の事忘れてないから。
「叔母さん、あとコイツに仕事を紹介してやってくれないかな。旅の途中なのに財布を落として困ってるんだ」
「それは構わないけれど……明日帰るだなんて、そんな急に……」
「わがまま言ってごめんなさい。でも、僕にとってはとても大切な事なんだ……」
最後にそう言うと僕はサロンを後にした。そして自身が使用している客室に向かう。急いで帰り支度をしなくてはならない。
「待ってくれよ! カミル坊ちゃん」
後ろからエルドレッドに呼び止められる。僕を追いかけて来たのか。何だよ……ちゃんと叔母さんに仕事のことお願いしてあげただろ。僕はイライラしながら振り向いた。
「急いでるんだけど。あと、坊ちゃんって呼ぶのやめろ」
「なんつーか、ちょっとばかし責任感じてるんだよ。オレが婚約の話なんてしたせいだしな。カミル坊っ……カミルには危ない所を助けて貰った恩があるし、何かあったら遠慮なく言えよ。大した事はできないかもだけど、オレは他国の人間だ。身内に言えないような愚痴とかでも聞いてやれるからさ」
「……まるで僕がこのあと荒れるかのように話すのやめてくれない」
「だってお前好きなんだろ? クレハ・ジェムラートの事。てか既にちょっと荒れてんじゃん」
「はぁ? 何言って……」
「えぇ……その態度で隠してるつもりだったのかよ。嘘でしょ」
出会って間もないコイツにも悟られほど分かりやすかったのか自分は……。周囲には仲の良い幼馴染としてしか認識されていないと思っていたのに。自分のクレハへの好意をエルドレッドにはっきりと断言されてしまい顔が熱くなる。
「……そうだとしたら何だって言うんだよ。そもそも僕はまだ婚約の話を信じたわけじゃない」
「うーん、あくまで『婚約』だからな。レオン王子もジェムラート家のお嬢様もまだガキだ……そしてお前もね。後でもっとイイ人が現れてあっさり婚約破棄なんてこともあるかもしれんよ? カミルだってこれからまだまだ色んな出会いがあるわけだしな」
「お前だってガキじゃん。僕とたいして変わらない癖に分かったように言うなよ」
「何が言いたいかというとだね……オレはカミルの味方だ。いざって時は手を貸してやるよ」
コイツなりに気遣ってくれているという事か。余計なお世話と言いたいとこだけど、さっきまでのささくれ立っていた気分が少しだけ和らいだ。
「気持ちはありがたく受け取っておくよ」
「おう。オレは資金集めの為にしばらくルクトに滞在する。数ヶ月はいると思うから、王都で嫌なことあったらまた会いに来い」
この時の僕は、急いで帰ることばかり考えていて、エルドレッドの言葉をあまり真剣に受け取ってはいなかった。まさか、この異国から来た少年が、今後の僕の生き方に多大な影響を与える存在になるなんて思いもしなかったのだ。
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