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完結篇

第4話 喪失①

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 ジャンヌがアガタに連行してから1か月たった。
 アキセは木陰で隠れていた。
 ジャンヌから音沙汰がない。死んでいないのは分かっている。
――つーかあの狼の聖女が面倒くさい。
 匂いが分かっているのか、逃げても追いかけまわされる。
 聖女の元で捕まっても、すぐには殺さないが何をされるか分からない。
「やっぱり、ジャンヌの回復を待つか」
その時だった。
「アキセ・・・」
 茂みからジャンヌが現れる。
「ジャ・・・」
「会いたかった!」
泣きながらジャンヌが抱きつく。
「もうどこに行っていたのよ!アキセのバカバカ!ジャンヌはこんなにこんなにっ」
 胸の中でジャンヌはポコポコと叩いていく。
 嬉しいが違う。
 アキセはジャンヌの額にガシっと掴む。
「おい。演技するならもう少し努力しろよ。ニセモノ」
 口調強めに言う。
 ニセモノのジャンヌは手を払う。
「あら、バレちゃった」
 ニセモノのジャンヌは、イタズラな笑みで小さく舌を出す。
 正体は分かり切っている。
わざわざジャンヌに変装する黒炎の魔女ジャンヌ・ダルクだと。
「ジャンヌはそんなあざといことなんかしない」
 演じるならもう少し甘えて誘うような感じで。
「あらそう。勉強不足だったわ」
「ジャンヌだったらな。無視する。殴る。蹴る。拷問する。縛る」
「それって恋人って言えるの」
 堂々と言うアキセに対し、冷静に突っ込む黒炎の魔女。
「そんなことをしてよく嫌気しないわね」
「あれでもおまえより可愛げがあるさ」
「こんなに似ていても」
 黒炎の魔女は誘うように上目遣いで見てくる。
「それにおまえの方が胸小さいし」
 黒炎の魔女はムッとする。
「で、俺に何用だ。偽者。それとも黒ジャンヌ?」
「その呼び方はどうかしら。ちゃんとジャンヌ・ダルクと名を持っているのよ」
「かぶるんだよ」
「あっちはジャネットよ。私が正真正銘のジャンヌ・ダルクよ」
 黒炎の魔女は胸を張る。
「何を言っているんだ。てか、いい加減。本題を言え」
 からかうために来たわけじゃない。
「分かっているくせに」
 黒炎の魔女は不気味に笑う。
 アキセはすかさず補充した『飛ばしコイン』を手元に召喚し、すぐに転送した。
 何も刻んでいないコインに触れれば、ランダムに飛ばされる。正確に思い浮かべば、コインに座標が刻み、着地点を選べる。
 だか、そんな余裕がない。
 今は、どこにいるのかも分からない。まだ森の中にはいるようだった。
 とりあえず今は隠れなくては。
「あら、追いかけっこ?」
 耳元で囁く。
 振り向けば、背後から黒炎の魔女がいた。
いつの間に。
 瞬時にウェズボードを足元に召喚し、森の中を飛ばす。
 今は転送しても意味がない。すぐに追いつかれる。
 だったら、アタランテに同行していくしかない。聖女の管理下になればさすがに手を出さないはず。
 その時、目の前に黒い炎が広がっていた。
「うわ!」
 ウェズボードを止まられず、黒い炎に突っ込んでしまう。ウェズボードが起動しない。熱くも痛みを感じない。
「わお」
 逆さになった黒ジャンヌは、アキセの顔を触れる。
「捕まえた」
 イタズラな笑みを見せる黒炎の魔女はアキセと口を交わし、黒い炎に包まれていく。
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