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完結篇
第3話 聖女の地③
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「それって・・・」
「第5次世界大戦の時に人間たちが戦争に勝つために黒女神(シュヴァルツ)を作ろうとしたの」
第五次世界大戦。
聖女、魔女・魔族、人間で世界中戦乱が続いた戦い。イヴやマリアでも歴史の中で一番悲惨だったと聞いている。けど、人間が黒女神(シュヴァルツ)を作るなんて初めて知った。
「そんなことが過去にあったんですか」
アガタがイヴに訊く。
「ええ。あの時代は、技術もかなり発展していて、弱く生きた人間は、傲慢にも神を作ろうとした。まあ、それも失敗に終わった」
「でも、今回のことと何か・・・」
宝石心臓(セラフィム)の半分喪失。聖女から魔女が誕生。ナリカケ。考えられるとしたら。
「もしかして、黒女神(シュヴァルツ)を作るために聖女を使ったのですか」
「そうよ」
イヴは静かに答える。
「なぜ、聖女を使われたんですか?」
「おそらく『光』の抗体を得るためね。あなたの宝石心臓(セラフィム)の半分を抗体として奪われた。あなたには半分残っていたから助かった」
「生贄になった聖女は死んだのですか」
「ええ」
イヴは答える。
「その聖女はどうして生贄に・・・」
「捕まった。戦いの最中に」
「助けられなかったのですか」
「助ける余裕がなかった」
その言葉で思い出した。
ルチアを助けられなくてごめんなさいと。
「イヴ様は、どんな判断で救出の許可を下さるのですか」
イヴに訊く。
「ジャンヌ」
アガタは止めるように言う。
「裏切り者。教会に入った者は救出の対象外なのは分かっています。魔女に苦戦した聖女を救出する時もあります。でもそれもまちまち。イヴ様やマリア様のことが分からない時があるんです。ルチアさんの時だって・・・」
「そういえば、言ってなかったね」
「何がですか?」
「ルチアさんがなぜ教会に捕まったのか」
イヴは真剣に見つめる。
「ルチアに任務を与えたの」
「それは・・・」
「囚われた宝石心臓(セラフィム)を破壊すること」
イヴは答えた。
だから、あの時。あの部屋でルチアがしたことは、宝石化した聖女を破壊したのか。
「宝石心臓(セラフィム)の中にいる聖女の解放を任したの。その中にルチアと親しい聖女もいた。だから自分からこの任務を受けたの」
「探るためにわざと捕まったのですか」
「ええ」
「任務だとしたら、終えれば救出するつもりだったんですか」
「教会に連行された聖女は救出しても、洗脳されたか、改造されていた。過去に救出に向かった聖女も教会に捕まることも何度もあった。助けても救出しても同じような結果が続いた。だから、覚悟の上でルチア自身がこの任務を受けたの」
イヴの瞳は、悔やんでいるように見えた。
イヴやマリアは厳しい時もあるが、聖女を無下に扱わないのは知っている。むしろ慈愛を持っている。誰かが犠牲しなければ解決できない。何度もその決断をしたと思う。その時、どんな気持ちで聖女に下しただろうか。
イヴやマリアでもつらく感じられるだろうか。だとしても。
「私たち・・・聖女は本当に存在する意味あるんですか。イヴ様やマリア様が本気を出せば・・・」
「いるわ」
言葉を遮られ、イヴは答える。
「私は一度、羽を解放した」
イヴやマリアの羽は、今まで解放したところは訊いたことも見たこともなかった。
「第二次世界大戦の時に、ナリカケが黒女神(シュヴァルツ)になりかけたの。ナリカケや魔女を消えるだけでまだよかった。けど、その場にいた生物は溶かされ、地形は荒野に変わった」
「え・・・」
「全ての『呪い』を浄化したの。『呪い』の抗体を持った者、『呪い』で侵された地形。すべてのものを。私たちも魔女と変わらない。巨大な爆弾を抱えているのよ。黒女神(シュヴァルツ)と何も変わらない。だから聖女は必要よ。この世界の安定のために。私に力を解放させないために」
イヴは悟るように言う。
「あなたたちの宝石心臓(セラフィム)は、私の羽を聖女に使えるように生まれたもの。心当たりはあるでしょ」
ジャンヌもキアラも宝石心臓(セラフィム)を2つ以上持たせただけで暴走させ、人を燃やし、溶かした。羽と同じ力を発動したということだったのか。
「話しはここまで。あなたは、この地にいなさい」
イヴは立ち上がる。
「嫌です!」
その時のイヴがいままでにないほどの殺意のある目つきだった。
「宝石心臓(セラフィム)を半分も失い、『光』が安定しない。宝石心臓から作った聖剣でもまともに使えないはずよ」
聖女が扱う聖剣は、イヴやマリアから宝石心臓の一部を取り出し、武器を生み出す。
「そんなあなたが戦場に行って何ができる?私は無駄死にはさせない。あなたは大人しくしなさい!」
イヴはいつもより強く言う。
ここまで言うイヴも初めて見た。
「アガタ。見張ってなさい」
「私も参加したいですか」
「他の聖女が対処する」
「分かりました・・・」
アガタが少し不満着に返す。
このまま大人しく聖女の地にいるつもりがない。ジルを殺せない。ヴァルキリーもこのまま殺される。あの男から何も話を得ていない。けど、今の状態では本当に戦えない。力を取り戻すには。
イヴの羽を見つめる。あの話を思い出す。羽を使っただけで魔女やナリカケを浄化し、地形を荒野に変えた。宝石心臓も羽と似ている。1枚だけでももしかしたら。
――今の私にはこれしか戦えない。
イヴの羽を掴み、羽を引っ張る。羽を3枚取れた。
「ジャンヌ!」
アガタが叫ぶ。
白い羽に集中する。足に白い炎を噴射し、窓から飛び出す。
「第5次世界大戦の時に人間たちが戦争に勝つために黒女神(シュヴァルツ)を作ろうとしたの」
第五次世界大戦。
聖女、魔女・魔族、人間で世界中戦乱が続いた戦い。イヴやマリアでも歴史の中で一番悲惨だったと聞いている。けど、人間が黒女神(シュヴァルツ)を作るなんて初めて知った。
「そんなことが過去にあったんですか」
アガタがイヴに訊く。
「ええ。あの時代は、技術もかなり発展していて、弱く生きた人間は、傲慢にも神を作ろうとした。まあ、それも失敗に終わった」
「でも、今回のことと何か・・・」
宝石心臓(セラフィム)の半分喪失。聖女から魔女が誕生。ナリカケ。考えられるとしたら。
「もしかして、黒女神(シュヴァルツ)を作るために聖女を使ったのですか」
「そうよ」
イヴは静かに答える。
「なぜ、聖女を使われたんですか?」
「おそらく『光』の抗体を得るためね。あなたの宝石心臓(セラフィム)の半分を抗体として奪われた。あなたには半分残っていたから助かった」
「生贄になった聖女は死んだのですか」
「ええ」
イヴは答える。
「その聖女はどうして生贄に・・・」
「捕まった。戦いの最中に」
「助けられなかったのですか」
「助ける余裕がなかった」
その言葉で思い出した。
ルチアを助けられなくてごめんなさいと。
「イヴ様は、どんな判断で救出の許可を下さるのですか」
イヴに訊く。
「ジャンヌ」
アガタは止めるように言う。
「裏切り者。教会に入った者は救出の対象外なのは分かっています。魔女に苦戦した聖女を救出する時もあります。でもそれもまちまち。イヴ様やマリア様のことが分からない時があるんです。ルチアさんの時だって・・・」
「そういえば、言ってなかったね」
「何がですか?」
「ルチアさんがなぜ教会に捕まったのか」
イヴは真剣に見つめる。
「ルチアに任務を与えたの」
「それは・・・」
「囚われた宝石心臓(セラフィム)を破壊すること」
イヴは答えた。
だから、あの時。あの部屋でルチアがしたことは、宝石化した聖女を破壊したのか。
「宝石心臓(セラフィム)の中にいる聖女の解放を任したの。その中にルチアと親しい聖女もいた。だから自分からこの任務を受けたの」
「探るためにわざと捕まったのですか」
「ええ」
「任務だとしたら、終えれば救出するつもりだったんですか」
「教会に連行された聖女は救出しても、洗脳されたか、改造されていた。過去に救出に向かった聖女も教会に捕まることも何度もあった。助けても救出しても同じような結果が続いた。だから、覚悟の上でルチア自身がこの任務を受けたの」
イヴの瞳は、悔やんでいるように見えた。
イヴやマリアは厳しい時もあるが、聖女を無下に扱わないのは知っている。むしろ慈愛を持っている。誰かが犠牲しなければ解決できない。何度もその決断をしたと思う。その時、どんな気持ちで聖女に下しただろうか。
イヴやマリアでもつらく感じられるだろうか。だとしても。
「私たち・・・聖女は本当に存在する意味あるんですか。イヴ様やマリア様が本気を出せば・・・」
「いるわ」
言葉を遮られ、イヴは答える。
「私は一度、羽を解放した」
イヴやマリアの羽は、今まで解放したところは訊いたことも見たこともなかった。
「第二次世界大戦の時に、ナリカケが黒女神(シュヴァルツ)になりかけたの。ナリカケや魔女を消えるだけでまだよかった。けど、その場にいた生物は溶かされ、地形は荒野に変わった」
「え・・・」
「全ての『呪い』を浄化したの。『呪い』の抗体を持った者、『呪い』で侵された地形。すべてのものを。私たちも魔女と変わらない。巨大な爆弾を抱えているのよ。黒女神(シュヴァルツ)と何も変わらない。だから聖女は必要よ。この世界の安定のために。私に力を解放させないために」
イヴは悟るように言う。
「あなたたちの宝石心臓(セラフィム)は、私の羽を聖女に使えるように生まれたもの。心当たりはあるでしょ」
ジャンヌもキアラも宝石心臓(セラフィム)を2つ以上持たせただけで暴走させ、人を燃やし、溶かした。羽と同じ力を発動したということだったのか。
「話しはここまで。あなたは、この地にいなさい」
イヴは立ち上がる。
「嫌です!」
その時のイヴがいままでにないほどの殺意のある目つきだった。
「宝石心臓(セラフィム)を半分も失い、『光』が安定しない。宝石心臓から作った聖剣でもまともに使えないはずよ」
聖女が扱う聖剣は、イヴやマリアから宝石心臓の一部を取り出し、武器を生み出す。
「そんなあなたが戦場に行って何ができる?私は無駄死にはさせない。あなたは大人しくしなさい!」
イヴはいつもより強く言う。
ここまで言うイヴも初めて見た。
「アガタ。見張ってなさい」
「私も参加したいですか」
「他の聖女が対処する」
「分かりました・・・」
アガタが少し不満着に返す。
このまま大人しく聖女の地にいるつもりがない。ジルを殺せない。ヴァルキリーもこのまま殺される。あの男から何も話を得ていない。けど、今の状態では本当に戦えない。力を取り戻すには。
イヴの羽を見つめる。あの話を思い出す。羽を使っただけで魔女やナリカケを浄化し、地形を荒野に変えた。宝石心臓も羽と似ている。1枚だけでももしかしたら。
――今の私にはこれしか戦えない。
イヴの羽を掴み、羽を引っ張る。羽を3枚取れた。
「ジャンヌ!」
アガタが叫ぶ。
白い羽に集中する。足に白い炎を噴射し、窓から飛び出す。
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