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省かれた一族 前半④
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イーグスが扉にノックする。
「入れ」
扉を開けて部屋に入る。
書斎のようだった。机の前に一人の男が立っていた。
茶髪。赤い瞳。30代くらいの男。
「はあ。本当に連れてくるとはな」
「僕が嘘をつくと思っていたんですか」
「しかもわざわざドレスに着替えて」
その発言にジャンヌはイーグスににらみつける。
――まさか、このドレスを着替えさせるために、あの理由をつけたのか。
イーグスは軽く笑う。
絶対に一発殴る。
「まあいい。初めまして、聖女様。私、当主を務めていますベンジャミン・インベルと申します」
「そう」
雑に返す。
「どこまで話をした?」
「まだ詳しくは」
深く話せば、矛盾が生まれるから、言わなかったのだろう。
「そうか。聖女様は・・・」
「パパ!」とベンジャミンの話が遮られる。
部屋に少女が入ってきたからだった。
茶髪。赤い瞳。ドレスを着た少女。手には、毛皮を持っている。
「見てみて!新しい毛皮のコート。狼の・・・」
少女がイーグスと目が合う。
「イーグス様!」
少女はイーグスにときめく。
「どうしてこちらに!」
さらにジャンヌと目が合う。すぐに嫌な顔になる。
「なんですの。あなたは」
「ビクトリア」
ベンジャミンが少女の名前を呼ぶ。
「仕事中に入るな。いますぐ出なさい」
「は~い」
ビクトリアににらみつけ、部屋から出る。
「では、続きといきますか」
ベンジャミンが改めて言う。
「聖女様は野獣を退治していただきたい」
「野獣?」
魔獣(モンスター)、異獣ともいわずになぜ、野獣というのか。
「夜に遠吠えと共に現れる。駆け付けた時には、もう殺されていた。何かに食い散らかしている跡だった。毎晩殺されて目撃情報もない。イヌどもだと疑ったが、監視しても犯人は見当たらない。夜になれば、野獣が現れてまた殺された」
その割に他の吸血鬼(ヴァンパイア)は慌てる様子がない。目撃もないから、仮に野獣と言っているところか。だとしても。
「わざわざ聖女に頼むことなの」
「魔女が生み出した魔獣(モンスター)かもしれない。魔女も含めてこの事件を解決してほしいだけだ」
「退治してほしいならもっと情報を集めなさいよ」
「少ないから困っているんだ。そのこともご了承いただければ」
「だとしても・・・」
「かしこまりました」
イーグスが無理やり話を遮断する。
「夜に現れるということですので、それまでに休ませてくれますか」
ベンジャミンがにらみつける。
「後で部屋を教える」
「スイートルームでお願いします。では」
イーグスに肩を掴まれ、無理やり向きを変える。扉に向かうも。
「聖女様と二人で話をしたい」
ベンジャミンが引き留める。
「部屋の前にいても構わない」
「どんな話をするつもりで」とイーグスが振り向く。
「単に個人的な話だ」
「だとしても・・・」
「私も話が訊きたい」
イーグスはまだ隠していることがあるはず。ベンジャミンから話を訊ける。
「分かりました」
イーグスが部屋から出る。
「聖女様は白の吸血鬼(ヴァンパイア)とはどういった関係でしょうか」
「何を急に」
質問がそれ。
「まあ、見る限り仲はよろしくないのは見える」
「それが?」
「いくら白の吸血鬼(ヴァンパイア)だとしても聖女を扱えるとは思わない。何か取引しているか、それとも人質を取っている」
ベンジャミンが鋭い目つきをする。
探っているのか。
「まさかとは思うが最近入った獣人か」
イルのことか。顔に出してはいけない。
「何のこと」
「見たことがなかった。合成獣(キメラ)とはまた違う。あの姿だから、犯人じゃないかと疑うものもいたが、面白がって闘技場に出した」
落ち着け。イルが人質に取られる。
「知らない。考えすぎでは?」
「かもな。タイミングがあって少し疑った。それにまだ犯人という確証もない。夜になれば分かることだ」
「毎晩殺されているわりには、楽しんでいますね」
「いつ滅んでもおかしくない。逆に開きなって騒いでいるだけだ」
「いつ滅んでも?」
「私たちははぐれ吸血鬼(ヴァンパイア)だ。以前に私たちを仕えた魔女がいた。だか、女王に怒りを買って殺された。管理する魔女がいなくなれば、吸血鬼(ヴァンパイア)以下のはぐれになる。管理されないだけで、ここまで荒れ果てた。価値がなければ残すつもりもない。だから、たまに下働きや無理難題な指示で汚く、数を減らされるだけ。しかも赤の従士すら話すことにも権利がなく、話を通されていないのに、今回に限ってあの白の吸血鬼(ヴァンパイア)を送り込んだ」
あれ。
「女王も今まで見放されていたのに、急に助ける気になっただろうか」
どういうこと。
「事件が解決したところでもう女王から見放されている。いくら改善しても体まで染みついて治れないし、認める気もない。いつか処分命令が起きて、この一族は消える。だからどんな手を使っても生き残る手段を考えなければならない。聖女を使えば、あの魔女も簡単には手を出さないはず」
ベンジャミンはジャンヌににらみつける。
「しゃべりすぎた。早く事件を解決していただきますようお願いします」
ジャンヌは部屋から出る。
「入れ」
扉を開けて部屋に入る。
書斎のようだった。机の前に一人の男が立っていた。
茶髪。赤い瞳。30代くらいの男。
「はあ。本当に連れてくるとはな」
「僕が嘘をつくと思っていたんですか」
「しかもわざわざドレスに着替えて」
その発言にジャンヌはイーグスににらみつける。
――まさか、このドレスを着替えさせるために、あの理由をつけたのか。
イーグスは軽く笑う。
絶対に一発殴る。
「まあいい。初めまして、聖女様。私、当主を務めていますベンジャミン・インベルと申します」
「そう」
雑に返す。
「どこまで話をした?」
「まだ詳しくは」
深く話せば、矛盾が生まれるから、言わなかったのだろう。
「そうか。聖女様は・・・」
「パパ!」とベンジャミンの話が遮られる。
部屋に少女が入ってきたからだった。
茶髪。赤い瞳。ドレスを着た少女。手には、毛皮を持っている。
「見てみて!新しい毛皮のコート。狼の・・・」
少女がイーグスと目が合う。
「イーグス様!」
少女はイーグスにときめく。
「どうしてこちらに!」
さらにジャンヌと目が合う。すぐに嫌な顔になる。
「なんですの。あなたは」
「ビクトリア」
ベンジャミンが少女の名前を呼ぶ。
「仕事中に入るな。いますぐ出なさい」
「は~い」
ビクトリアににらみつけ、部屋から出る。
「では、続きといきますか」
ベンジャミンが改めて言う。
「聖女様は野獣を退治していただきたい」
「野獣?」
魔獣(モンスター)、異獣ともいわずになぜ、野獣というのか。
「夜に遠吠えと共に現れる。駆け付けた時には、もう殺されていた。何かに食い散らかしている跡だった。毎晩殺されて目撃情報もない。イヌどもだと疑ったが、監視しても犯人は見当たらない。夜になれば、野獣が現れてまた殺された」
その割に他の吸血鬼(ヴァンパイア)は慌てる様子がない。目撃もないから、仮に野獣と言っているところか。だとしても。
「わざわざ聖女に頼むことなの」
「魔女が生み出した魔獣(モンスター)かもしれない。魔女も含めてこの事件を解決してほしいだけだ」
「退治してほしいならもっと情報を集めなさいよ」
「少ないから困っているんだ。そのこともご了承いただければ」
「だとしても・・・」
「かしこまりました」
イーグスが無理やり話を遮断する。
「夜に現れるということですので、それまでに休ませてくれますか」
ベンジャミンがにらみつける。
「後で部屋を教える」
「スイートルームでお願いします。では」
イーグスに肩を掴まれ、無理やり向きを変える。扉に向かうも。
「聖女様と二人で話をしたい」
ベンジャミンが引き留める。
「部屋の前にいても構わない」
「どんな話をするつもりで」とイーグスが振り向く。
「単に個人的な話だ」
「だとしても・・・」
「私も話が訊きたい」
イーグスはまだ隠していることがあるはず。ベンジャミンから話を訊ける。
「分かりました」
イーグスが部屋から出る。
「聖女様は白の吸血鬼(ヴァンパイア)とはどういった関係でしょうか」
「何を急に」
質問がそれ。
「まあ、見る限り仲はよろしくないのは見える」
「それが?」
「いくら白の吸血鬼(ヴァンパイア)だとしても聖女を扱えるとは思わない。何か取引しているか、それとも人質を取っている」
ベンジャミンが鋭い目つきをする。
探っているのか。
「まさかとは思うが最近入った獣人か」
イルのことか。顔に出してはいけない。
「何のこと」
「見たことがなかった。合成獣(キメラ)とはまた違う。あの姿だから、犯人じゃないかと疑うものもいたが、面白がって闘技場に出した」
落ち着け。イルが人質に取られる。
「知らない。考えすぎでは?」
「かもな。タイミングがあって少し疑った。それにまだ犯人という確証もない。夜になれば分かることだ」
「毎晩殺されているわりには、楽しんでいますね」
「いつ滅んでもおかしくない。逆に開きなって騒いでいるだけだ」
「いつ滅んでも?」
「私たちははぐれ吸血鬼(ヴァンパイア)だ。以前に私たちを仕えた魔女がいた。だか、女王に怒りを買って殺された。管理する魔女がいなくなれば、吸血鬼(ヴァンパイア)以下のはぐれになる。管理されないだけで、ここまで荒れ果てた。価値がなければ残すつもりもない。だから、たまに下働きや無理難題な指示で汚く、数を減らされるだけ。しかも赤の従士すら話すことにも権利がなく、話を通されていないのに、今回に限ってあの白の吸血鬼(ヴァンパイア)を送り込んだ」
あれ。
「女王も今まで見放されていたのに、急に助ける気になっただろうか」
どういうこと。
「事件が解決したところでもう女王から見放されている。いくら改善しても体まで染みついて治れないし、認める気もない。いつか処分命令が起きて、この一族は消える。だからどんな手を使っても生き残る手段を考えなければならない。聖女を使えば、あの魔女も簡単には手を出さないはず」
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ジャンヌは部屋から出る。
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