魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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海の仕置人④

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 苦しかった水からやっと息が吸える。急に空気が入ったからせき込む。
「大丈夫ですか」
 アマビエが言う。
「一応・・・ここは・・・」
 青い床と壁。まるで水の中にいるような空間だった。
「ほう。思ったよりかわいげあるじゃないか」
 男の声。
 手には金色の三叉槍を持っている。
海のように輝く髪。金色の瞳。体の一部が鱗に覆われている。顔を整っている青年だった。
 話に訊いたトリトンか。
 よく見れば、周りには魚の魔族(アビス)か獣人がいた。触角を持った獣もいた。アマビエを襲った獣だろう。
「あんたが・・・」
「俺がイケてる男のトリトンだ」 
 やばい。ここにも同族がいる。誰かを思い出してしまう。
 アマビエが怯えている。
「そんなに怖がるなよ。可愛がってあげるからよ。もう一人の女は・・・」
 トリトンは顔を青ざめて、一歩引く。
「げ!聖女!」
 トリトンの言葉に周辺の魚の獣人も怖気る。
 もしかして聖女と戦ったことがある。だとしても今がチャンス。
 ジャンヌはすぐさま飛び出す。ロザリオで三叉槍を払い、一発トリトンの顔に殴る。トリトンは倒れ、そのまま乗り、ロザリオでトリトンの首を添える。
「来たらこいつの首をはねる!」
 周辺の魚の獣人に怒鳴る。
「つ・・・」
「ここから二人とも出しなさい!」
 トリトンに脅す。
 聖女で気づいただけで怖気ている。過去に戦って、恐怖を感じるほどに痛めつけている。
 脅せば。
 トリトンはにやつく。
「つまりおまえ一人じゃあ、ここから出られないってわけか!」
 トリトンの顔が豹変した。勝ち取ったような顔に。
 トリトンの周辺に円形の穴が広がり、トリトンと一緒に落ちる。水の中だった。塩っぽさもある。海の中だった。
 トリトンに腹を蹴られる。先にトリトンが穴に戻り、穴が防がれる。
 マズイ。息が続かない。泳げない。このままでは死ぬ。
 トリトンが魔力で作った建物なら、『光』なら効く。
 白い炎を足に集中していつも以上に噴射する。手を伸ばして白い炎を床に当てる。海の中だからより『光』を浪費させる。だか、今はその方法しかない。床に穴が空いた。
 すぐに穴に入る。床にへばりつくように上がる。
 急いで呼吸を整えようとしたが、頭を踏まれる。
「おまえ、水がだめなのか」
 トリトンが見下ろす。
「しかも炎を使ったな。じゃあ水に弱いってわけか。聖女の中でも弱点あってよかったわ」
「決めつけないでくれる・・・」
 ジャンヌも睨み返す。
「あんた・・・聖女とケンカ売ったんじゃないの。だからさっきびくついた・・・それで勝てると思って調子出したってとこね」
「だったら、俺を殺してみろよ。ここは海の中で、この空間も俺が作った。この意味分かるな」
 トリトンがこの空間を作っている。トリトンを完全に殺せば、この空間が保てなくなり、ジャンヌは海の中に溺れてしまう。
「じゃあ、殺さないでやるから、おまえを顔の原型がないほどに殴ってやる」
「やってみろ」
 トリトンが足を上げる。また床が塞がっていない。また海の中に落とすつもりだろう。さすがに連続で使いたくない。
「やめて!」
 トリトンの足が止まった。
「あ?」とトリトンが振り向く。
 アマビエが魚の獣人たちに捕まれていた。
「ジャンヌさんをここから出してください。大人しくしますから・・・」
「それだとまだ来るだろうが・・・」 
 トリトンが何か思いついたようで悪だくみのある顔になる。
「じゃあ殺さないでおくからさ」
 トリトンは手から針が現れ、ジャンヌの背中に投げ刺す。
 ナニコレ。体がしびれて動けない。頭痛も吐き下もする。毒針か。
「何を!」
「大丈夫。死なない。けどまともに動けないからな」とトリトンはアマビエに言う。
「この・・・」
 トリトンににらみつける。
「俺の部屋に二人とも運べ」とトリトンは手下に指示を出す。
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