421 / 648
聖女になるまでに⑤
しおりを挟む
気が付いた時には、ベッドの上で寝込んでいた。
どこにいるのかも考えたくない。
姿を変わっても、エルヴィラだった。僕に恋した人間のように、少女のようなエルヴィラだった。寂しくて。恋しく。僕のために。会いたかったために。僕は・・・
誰かが頭を優しくなでられた。
「起きたのね」
ルチア様だった。
「無理に言わなくていいよ」
優しく語り掛ける。
「ここね。聖女の地よ。『光』の純度が高いから、魔女や魔族(アビス)はもちろん、人間の抗体さえ浄化させるほどにね。だから聖女にとって最も安全な場所よ」
「僕は・・・聖女になった・・・」
「ええ」とルチア様は申し訳なさそうに返す。
「どこまで分かっていたのですか・・・」
「あなたとラニールが何かしらあるのは分かっていたけど、魔女と関係を持っていたのは知らなかった」
「嘘だ!」
そんなわけがない。だったら最初から僕を気にかけていない。
「あなたが聖女になる可能性があったの」
「え・・・」
思わなかった発言に口が空く。
「僕が聖女になることを分かっていたのですか・・・」
「なんとなく分かるだけよ。聖女になることが多かったけど、聖女にならないこともあるの」
だから気にかけていたのか。
「どっちにしても聖女に覚醒すれば、もう人間としては生きていられない。あのままだったらあなたは・・・」
「あのままでよかった・・・あのままで・・・」
「あの夜。魔女が街に現れ、人を襲った。私の対処が遅くなったことであなたにつらい思いをさせてしまった。ごめんなさい」
「そんなの知らない。聖女が来なければよかったんだ・・・」
何を訊いても気持ち悪くて仕方がない。
「あなたの父から言伝があるの」
「お父様が・・・」
「あなたを聖女の地に保護する前に尋ねたの。あなたを守れなかった父で申し訳ない。気づかなくてすまない。だからおまえの罪を俺が背負う。おまえは聖女として尽くしなさい。とね」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」と何度もつぶやいた。
ルチアさんはずっとなででくれた。
天光の聖女イヴ様から黄色の聖女アガタと名付けられた。
ルチアさんといたのは、たったの2年だけだった。それでも聖女として生き方を教えてもらった。
ルチアさんは最強の聖女の一人。ルチアさんに保護した聖女が多く、慕われていた。強くて、優雅な人。魔女に対しても臆することもなく殺し、時に魔女を手玉に取ることもした。
僕もそんなルチアさんを慕った。
最後に会ったのは、ラスターゲートの前だった。
「ルチアさん!」
ルチアは振り向く。
「一人で行かれるのですか・・・」
「ごめん。この任務は私が解決したいの」
「だとしても・・・」
行かないでと言えなかった。
「そんな顔をしないで」
笑って返すルチアさん。
「何のためにあなたたちを育てたと思う。どんな道でも1人で立つためよ。どんなに一緒にいたっていつかは別れてしまうの。特にこの仕事をしているとね。だから人に依存してはいけない。けど、仲間がいるなら頼ってほしいし、助けてほしい。いつかできなくなるその時までは。それにこれから後輩ができるのよ。しっかりしなさい」
とルチアさんに元気付ける。
「後は頼んだ」とラスターゲートに向かうルチアさんと最後だった。
それから5年も経った。イヴ様から指示を与えられた。ルチアさんから聖女を保護してほしいと。
あの時はルチアさんを会えると期待したが、いたのは幼いジャンヌだった。
教会に連れてかれた聖女は助けることがない。ただ教会から逃げ出したジャンヌは当時から冷たい目線と警戒をしていた。ジャンヌも警戒して他の聖女とはなじむことはなかった。僕も当初は警戒していた。
しばらくしてルチアさんの最後を訊かされ、ジャンヌに憎しみを向けられそうになった。けど、ルチアさんが助けたかった聖女。ルチアさんの思いも無駄にしたくなかった。
だからジャンヌとは向き合っていった。少しずつ。絶対に見捨てない。
「ヒュパティア。いいんだね」
アガタは青の聖女ヒュパティアに訊く。
「はい。私もあの魔女には世話になったもので」とヒュパティアは真剣な眼差しで答える。
「分かった。行くよ」
「はい」
アガタはエルヴィラに会いに行く。
どこにいるのかも考えたくない。
姿を変わっても、エルヴィラだった。僕に恋した人間のように、少女のようなエルヴィラだった。寂しくて。恋しく。僕のために。会いたかったために。僕は・・・
誰かが頭を優しくなでられた。
「起きたのね」
ルチア様だった。
「無理に言わなくていいよ」
優しく語り掛ける。
「ここね。聖女の地よ。『光』の純度が高いから、魔女や魔族(アビス)はもちろん、人間の抗体さえ浄化させるほどにね。だから聖女にとって最も安全な場所よ」
「僕は・・・聖女になった・・・」
「ええ」とルチア様は申し訳なさそうに返す。
「どこまで分かっていたのですか・・・」
「あなたとラニールが何かしらあるのは分かっていたけど、魔女と関係を持っていたのは知らなかった」
「嘘だ!」
そんなわけがない。だったら最初から僕を気にかけていない。
「あなたが聖女になる可能性があったの」
「え・・・」
思わなかった発言に口が空く。
「僕が聖女になることを分かっていたのですか・・・」
「なんとなく分かるだけよ。聖女になることが多かったけど、聖女にならないこともあるの」
だから気にかけていたのか。
「どっちにしても聖女に覚醒すれば、もう人間としては生きていられない。あのままだったらあなたは・・・」
「あのままでよかった・・・あのままで・・・」
「あの夜。魔女が街に現れ、人を襲った。私の対処が遅くなったことであなたにつらい思いをさせてしまった。ごめんなさい」
「そんなの知らない。聖女が来なければよかったんだ・・・」
何を訊いても気持ち悪くて仕方がない。
「あなたの父から言伝があるの」
「お父様が・・・」
「あなたを聖女の地に保護する前に尋ねたの。あなたを守れなかった父で申し訳ない。気づかなくてすまない。だからおまえの罪を俺が背負う。おまえは聖女として尽くしなさい。とね」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」と何度もつぶやいた。
ルチアさんはずっとなででくれた。
天光の聖女イヴ様から黄色の聖女アガタと名付けられた。
ルチアさんといたのは、たったの2年だけだった。それでも聖女として生き方を教えてもらった。
ルチアさんは最強の聖女の一人。ルチアさんに保護した聖女が多く、慕われていた。強くて、優雅な人。魔女に対しても臆することもなく殺し、時に魔女を手玉に取ることもした。
僕もそんなルチアさんを慕った。
最後に会ったのは、ラスターゲートの前だった。
「ルチアさん!」
ルチアは振り向く。
「一人で行かれるのですか・・・」
「ごめん。この任務は私が解決したいの」
「だとしても・・・」
行かないでと言えなかった。
「そんな顔をしないで」
笑って返すルチアさん。
「何のためにあなたたちを育てたと思う。どんな道でも1人で立つためよ。どんなに一緒にいたっていつかは別れてしまうの。特にこの仕事をしているとね。だから人に依存してはいけない。けど、仲間がいるなら頼ってほしいし、助けてほしい。いつかできなくなるその時までは。それにこれから後輩ができるのよ。しっかりしなさい」
とルチアさんに元気付ける。
「後は頼んだ」とラスターゲートに向かうルチアさんと最後だった。
それから5年も経った。イヴ様から指示を与えられた。ルチアさんから聖女を保護してほしいと。
あの時はルチアさんを会えると期待したが、いたのは幼いジャンヌだった。
教会に連れてかれた聖女は助けることがない。ただ教会から逃げ出したジャンヌは当時から冷たい目線と警戒をしていた。ジャンヌも警戒して他の聖女とはなじむことはなかった。僕も当初は警戒していた。
しばらくしてルチアさんの最後を訊かされ、ジャンヌに憎しみを向けられそうになった。けど、ルチアさんが助けたかった聖女。ルチアさんの思いも無駄にしたくなかった。
だからジャンヌとは向き合っていった。少しずつ。絶対に見捨てない。
「ヒュパティア。いいんだね」
アガタは青の聖女ヒュパティアに訊く。
「はい。私もあの魔女には世話になったもので」とヒュパティアは真剣な眼差しで答える。
「分かった。行くよ」
「はい」
アガタはエルヴィラに会いに行く。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる