魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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聖女になるまでに⑤

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 気が付いた時には、ベッドの上で寝込んでいた。
 どこにいるのかも考えたくない。
 姿を変わっても、エルヴィラだった。僕に恋した人間のように、少女のようなエルヴィラだった。寂しくて。恋しく。僕のために。会いたかったために。僕は・・・
 誰かが頭を優しくなでられた。
「起きたのね」
 ルチア様だった。
「無理に言わなくていいよ」
 優しく語り掛ける。
「ここね。聖女の地よ。『光』の純度が高いから、魔女や魔族(アビス)はもちろん、人間の抗体さえ浄化させるほどにね。だから聖女にとって最も安全な場所よ」
「僕は・・・聖女になった・・・」
「ええ」とルチア様は申し訳なさそうに返す。
「どこまで分かっていたのですか・・・」
「あなたとラニールが何かしらあるのは分かっていたけど、魔女と関係を持っていたのは知らなかった」
「嘘だ!」
 そんなわけがない。だったら最初から僕を気にかけていない。
「あなたが聖女になる可能性があったの」
「え・・・」
 思わなかった発言に口が空く。
「僕が聖女になることを分かっていたのですか・・・」
「なんとなく分かるだけよ。聖女になることが多かったけど、聖女にならないこともあるの」
 だから気にかけていたのか。
「どっちにしても聖女に覚醒すれば、もう人間としては生きていられない。あのままだったらあなたは・・・」
「あのままでよかった・・・あのままで・・・」
「あの夜。魔女が街に現れ、人を襲った。私の対処が遅くなったことであなたにつらい思いをさせてしまった。ごめんなさい」
「そんなの知らない。聖女が来なければよかったんだ・・・」
 何を訊いても気持ち悪くて仕方がない。
「あなたの父から言伝があるの」
「お父様が・・・」
「あなたを聖女の地に保護する前に尋ねたの。あなたを守れなかった父で申し訳ない。気づかなくてすまない。だからおまえの罪を俺が背負う。おまえは聖女として尽くしなさい。とね」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」と何度もつぶやいた。
 ルチアさんはずっとなででくれた。


 天光の聖女イヴ様から黄色の聖女アガタと名付けられた。
 ルチアさんといたのは、たったの2年だけだった。それでも聖女として生き方を教えてもらった。
 ルチアさんは最強の聖女の一人。ルチアさんに保護した聖女が多く、慕われていた。強くて、優雅な人。魔女に対しても臆することもなく殺し、時に魔女を手玉に取ることもした。
 僕もそんなルチアさんを慕った。
 最後に会ったのは、ラスターゲートの前だった。
「ルチアさん!」
 ルチアは振り向く。
「一人で行かれるのですか・・・」
「ごめん。この任務は私が解決したいの」
「だとしても・・・」
 行かないでと言えなかった。
「そんな顔をしないで」
 笑って返すルチアさん。
「何のためにあなたたちを育てたと思う。どんな道でも1人で立つためよ。どんなに一緒にいたっていつかは別れてしまうの。特にこの仕事をしているとね。だから人に依存してはいけない。けど、仲間がいるなら頼ってほしいし、助けてほしい。いつかできなくなるその時までは。それにこれから後輩ができるのよ。しっかりしなさい」
 とルチアさんに元気付ける。
「後は頼んだ」とラスターゲートに向かうルチアさんと最後だった。


 それから5年も経った。イヴ様から指示を与えられた。ルチアさんから聖女を保護してほしいと。
 あの時はルチアさんを会えると期待したが、いたのは幼いジャンヌだった。
 教会に連れてかれた聖女は助けることがない。ただ教会から逃げ出したジャンヌは当時から冷たい目線と警戒をしていた。ジャンヌも警戒して他の聖女とはなじむことはなかった。僕も当初は警戒していた。
しばらくしてルチアさんの最後を訊かされ、ジャンヌに憎しみを向けられそうになった。けど、ルチアさんが助けたかった聖女。ルチアさんの思いも無駄にしたくなかった。
 だからジャンヌとは向き合っていった。少しずつ。絶対に見捨てない。


「ヒュパティア。いいんだね」
 アガタは青の聖女ヒュパティアに訊く。
「はい。私もあの魔女には世話になったもので」とヒュパティアは真剣な眼差しで答える。
「分かった。行くよ」
「はい」
 アガタはエルヴィラに会いに行く。
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