魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

文字の大きさ
上 下
417 / 654

聖女になるまでに①

しおりを挟む
 海がある国で僕が生まれ、聖女になるまで名前はカーティアだった。
 騎士の家系で父と二人だけ。母は3歳の時に死んだと聞いている。
幼い頃から女であっても騎士道を学んだ。騎士としての父の偉大さに憧れていたのもあって、騎士道を積極的に学んだ。大きくなって父のように騎士になると思っていた。
13歳の時だった。
「女なんだからさ。騎士よりも嫁に行く修行を覚えた方がいいじゃないのか」
父の下で働いているラニールにいつも冷やかされる。だからラニールは嫌いだった。
 騎士団長の娘で後釜を狙っているだろう。分かり切った行動にいつも嫌気をさしていた。
 けど、成長するとともに現実が少しずつ見えて、女で騎士道を学ぶことにラニール以外でも蔑むような目で見る者もいる。
 それでも僕は騎士として生きたい。女であっても。
 でも、僕もいつか。この家のために嫁に出されるのだろう。ありえないことではない。その時になったら、僕は受けられるだろうか。騎士としての想いも消して。
 考えごとがあるときは、海辺を歩く。
 この海風、潮風が落ち着く。
 自分が時々分からなくなる時があった。女らしく。男らしく。そんなものは理解ができなかった。自分らしく生きたい。
 その時だった。
 泣き声がした。かすかだか聞こえた。声をした方へ歩けば、洞窟からだった。
 覗けば、少女がいた。
 細い薄桃色の触角の肩までの髪。ピンク色の瞳。
 腕までの短いマントと胸から広げ、足まで届く長い裾が透き通ったピンク色の布。胸から足の間接までの一体化した服。
 一目で魔女だと分かった。弱っていたようで、魔女なのに怯えている。
 魔女は危険な存在。人を惑わし、殺し、弄ばれる。話と聞いていたのと想像が違っていた。あの時の僕は手を差し伸ばした。
「名前は・・・」
「エルヴィラ・・・桜貝の魔女エルヴィラ・ヴェスタシェル」と警戒しながらも名前を答えてくれた。
 それから僕は魔女と会うことになった。
 毎晩、洞窟に来ては、食べ物を持ってきたり、話をしたりした。僕の話を聞いてくれる。優しく見てくれた。
 魔女は危険だと分かっているけど。
 あの時はそれでも彼女と一緒にいたいと思った。
「カーティア・・・いつまでもいよ」
「僕もだよ・・・」
 本当にエルヴィラといれば、ありのままでいられた。
 だか。
「どこに行くつもりだ」
 いつものようにエルヴィラの元へと行くところでラニールに止められる。
 無視して行こうとしたが、「魔女の元に行くのか」とラニールから言われた時は、心臓が止まるほどだった。
 よりにもよってこの男に知られてしまった。
「なあ、話があるんだけど」
 ラニールからの要求が、吐き下するほどだった。
 魔女の元に行かないこと。俺の女になれということだった。
 断れば、魔女との関係をばらす。
 名誉ある家に傷をつけることになる。どんな結果になるのか分からない。父に迷惑をかける。
 従うしかなかった。父のためにも。彼女のためにも。
 その日からエルヴィラと会えなくなった。
 隠れて会いに行こうにもラニールはすぐにばれてしまう。何もできなかった。
 この間までに彼女はどう思っているのだろうか。
 寂しいのか。会いたいのか。恋しがっているのか。
 あの時は何もできない自分に嫌になった。
 それから、数日経ってからだった。
 人を殺される事件が続いた。まるで食い荒らされたように殺されたという。
 考えたくなかったが、エルヴィラが食べているのかもしれない。僕を探しているのかもしれない。
 だとすれば、どうなる。事件がさらに大事になれば、聖女がくるかもしれない。聖女は魔女を殺すために存在する。聖女に殺される。
 そうなってしまったら、そうなってしまったら。
 中庭で思いつめた時だった。
「こんにちは」
 女の声。
「勝手に入ってしまい、申し訳ございません」
 声をした方へ向けば、グリ―ンの混ざった金髪。緑色の瞳。白いコートを来た女だった。
「初めまして。緑の聖女ルチアと申します」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...