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朱薇の魔女①
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またやられた。
ジャンヌは目を覚ますと別の部屋にいた。
知らない部屋。宿にいた部屋よりも少し高級そうな部屋。ベッドも心地いい。
思い返す。
確か、街の宿に休んだ。気配で目を覚ましたら、口を抑えられ、首に衝撃。しかも血を抜かれる。
この感覚はしっかり覚えている。それができるのは1人だけ。
イーグスに吸われて、誘拐された。
ただロザリオもあるし、拘束されていない。それに肩は手当している。どういうこと。どっちにしても、この手に引っかかる自身に腹立って嫌になる。
もういや。この展開。
枕に向かって「ううううううううううううううううううううううううう」とうなる。
「お目覚めですか」
イーグスの声だったので、すかさず枕を投げる。
扉の前にいるイーグスは頭を軽くずらし、枕は扉に当たる。
よく見れば、いつもと恰好が違う。服が黒い執事の格好をしている。
「元気でいらっしゃる」
そんなのは関係ないので、もう一つあった枕も投げ、それでも頭をそらして避けるので、ベッドを投げる。
扉が壊れた。すぐに飛び出せば、部屋の外にイーグスがまだ生きていた。
「殺してやる!」
ロザリオを構えて走る。
「お気を静めてください。ここはどこだか分かりますか」と煽る。
「知るか!処刑は場所関係なく24時間実行中じゃ!」
イーグスは逃げるので、追いかける。
白い炎を飛ばし、近くにあった置物、家具を投げる。それでもイーグスは避けるので、イラつかせる。
「イーグス!何をしている!」
別の男の声がしたが、無視する。今はイーグス殺害が優先。
「こっちですよ」
イーグスの声。まだ生きている。
その時、イーグスの背後に人影が見えた。人影は大きく横に払う。イーグスは頭に当たり、頭から横の壁にぶつける。
よく見れば、赤い傘だった。
長い金髪に少し二つに結んでいる。赤い目。バラの花のような裾を何枚も重ねたようなドレスを着た少女だった。
「呼びに行かせただけなのに、どうして別荘を壊すことになるのよ」
少女は少し呆れたように言う。
「全く困ったものです」と横にいたメイドは言う。
「あなた。わざと武器を取り上げなかったでしょ。私に聖女と戦わせようとしたところかしら」
「・・・」
少女はイーグスに言うにも、頭が壁に埋め込まれているので、声が出すはずもない。
「あなたの考えは分かり切っているのよ」
少女と目が合う。
「ごめんあそばせ。私が指示を与えましたが、手段を指定しなかったもので、あなたに不満を与えてしまい申し訳ありません」
ご丁寧に謝罪される。
「私は、赤の従士の1人。朱(しゅ)薇(ら)の魔女アリス・キテラと申します」と軽く会釈する。
やっぱり魔女だった。しかもカーミラが従う赤の従士の1人で、アリスの名を持つ魔女だった。
「元気ですな~」
目の前に突如チェシャが現れた。
軽く体がびくつく。
「あんたもいたの・・・」
以前、ちかの魔女アリス・ワンダーランドの時にいた魔族のネコだった。
「そうっすよ」
「あら、チェシャとは会っていたの」
どうやら別のアリスの元にいるようだ。
「前世から付き合いなの」
「は~」
そういう繋がり。
魔女は転生する。前世で何かしらあったようだ。
「話があるから、場所を変えましょ。グレオ。シロちゃんを引っ張って」
アリスはもう一人の執事の男に指示を出す。
「これ、伸びてますね」と執事の男のグレオが言う。
「大丈夫よ。こういう時の男は丈夫にできているから」
「あなた。相当シロちゃんに恨みあるようね」
案内されたのは中庭だった。ガーデンハウスの中で、ジャンヌとアリスは向かい合うように一緒に座る。
なぜかイーグスもアリスの背後で同席している。
「だからと言って、私の別荘を半壊する理由にならないわ」
アリスの奥には半壊した屋敷も見える。
「結構気に入っているのに」
「ねえ。急に誘拐されて、目の前に犯人いたら殺さずにいられる?」
「だとしでも派手に壊さなくてもできると思うけど」
とカップでひと飲みするアリスにじろっと見つめられる。
「今回は客として呼んだから、全部シロちゃんに弁償してもらいましょ」
「ご無体な」
イーグスは言う。
「さっきからそのシロちゃんで、そこの背後に立っている誘拐犯のこと」
「ええ。ストレス発散に執事や子供に八つ当たりし、メイドに口説いて脱走をしようとした使用人のことよ。白だからシロちゃん」
「ぷ」と思わず吹き出すところだった。
――今度からそう呼ぶか。てか、そんなことをしていたの。
「あなたもひねくれてるわね」
「魔女に言われたくない」
負けずに言う。
「何。飼い主?ならしつけはちゃんとしてほしんだけど」
「今は預けているだけよ」
「預けてる?」
「ええ。私の教え子をたぶらかして、傷つけさせたの。この間なんて小さな女の子にまで手を出そうとしたのよ」
この間というのは、もしかして口説き大会のことだろうか。
「何度もおっしゃっていますが、僕は助けようとしました」
「私。聖女と話しているのよ」
アリスの鋭い目つきをイーグスに向ける。
「この際お仕置きしようと、こき使っているところなの」
「できれば、一生見てくれない」
「そこまではしない」
アリスは断言する。
イーグスは肩を下ろす。
「そもそも女王様の所有物だからね。許可を頂いているの。もし、私が飼い主ならちゃんと教育しますよ」
イーグスは軽く冷や汗をかく。
アリスの発言が、間接的にカーミラの教育が悪いと言っているように聞こえなくもない。
「あっそ。で、いい加減に本題に入ってくれない」
雑談だけで誘拐されたわけがない。
「聖女とお友達になりたいと思いまして」
ジャンヌは目を覚ますと別の部屋にいた。
知らない部屋。宿にいた部屋よりも少し高級そうな部屋。ベッドも心地いい。
思い返す。
確か、街の宿に休んだ。気配で目を覚ましたら、口を抑えられ、首に衝撃。しかも血を抜かれる。
この感覚はしっかり覚えている。それができるのは1人だけ。
イーグスに吸われて、誘拐された。
ただロザリオもあるし、拘束されていない。それに肩は手当している。どういうこと。どっちにしても、この手に引っかかる自身に腹立って嫌になる。
もういや。この展開。
枕に向かって「ううううううううううううううううううううううううう」とうなる。
「お目覚めですか」
イーグスの声だったので、すかさず枕を投げる。
扉の前にいるイーグスは頭を軽くずらし、枕は扉に当たる。
よく見れば、いつもと恰好が違う。服が黒い執事の格好をしている。
「元気でいらっしゃる」
そんなのは関係ないので、もう一つあった枕も投げ、それでも頭をそらして避けるので、ベッドを投げる。
扉が壊れた。すぐに飛び出せば、部屋の外にイーグスがまだ生きていた。
「殺してやる!」
ロザリオを構えて走る。
「お気を静めてください。ここはどこだか分かりますか」と煽る。
「知るか!処刑は場所関係なく24時間実行中じゃ!」
イーグスは逃げるので、追いかける。
白い炎を飛ばし、近くにあった置物、家具を投げる。それでもイーグスは避けるので、イラつかせる。
「イーグス!何をしている!」
別の男の声がしたが、無視する。今はイーグス殺害が優先。
「こっちですよ」
イーグスの声。まだ生きている。
その時、イーグスの背後に人影が見えた。人影は大きく横に払う。イーグスは頭に当たり、頭から横の壁にぶつける。
よく見れば、赤い傘だった。
長い金髪に少し二つに結んでいる。赤い目。バラの花のような裾を何枚も重ねたようなドレスを着た少女だった。
「呼びに行かせただけなのに、どうして別荘を壊すことになるのよ」
少女は少し呆れたように言う。
「全く困ったものです」と横にいたメイドは言う。
「あなた。わざと武器を取り上げなかったでしょ。私に聖女と戦わせようとしたところかしら」
「・・・」
少女はイーグスに言うにも、頭が壁に埋め込まれているので、声が出すはずもない。
「あなたの考えは分かり切っているのよ」
少女と目が合う。
「ごめんあそばせ。私が指示を与えましたが、手段を指定しなかったもので、あなたに不満を与えてしまい申し訳ありません」
ご丁寧に謝罪される。
「私は、赤の従士の1人。朱(しゅ)薇(ら)の魔女アリス・キテラと申します」と軽く会釈する。
やっぱり魔女だった。しかもカーミラが従う赤の従士の1人で、アリスの名を持つ魔女だった。
「元気ですな~」
目の前に突如チェシャが現れた。
軽く体がびくつく。
「あんたもいたの・・・」
以前、ちかの魔女アリス・ワンダーランドの時にいた魔族のネコだった。
「そうっすよ」
「あら、チェシャとは会っていたの」
どうやら別のアリスの元にいるようだ。
「前世から付き合いなの」
「は~」
そういう繋がり。
魔女は転生する。前世で何かしらあったようだ。
「話があるから、場所を変えましょ。グレオ。シロちゃんを引っ張って」
アリスはもう一人の執事の男に指示を出す。
「これ、伸びてますね」と執事の男のグレオが言う。
「大丈夫よ。こういう時の男は丈夫にできているから」
「あなた。相当シロちゃんに恨みあるようね」
案内されたのは中庭だった。ガーデンハウスの中で、ジャンヌとアリスは向かい合うように一緒に座る。
なぜかイーグスもアリスの背後で同席している。
「だからと言って、私の別荘を半壊する理由にならないわ」
アリスの奥には半壊した屋敷も見える。
「結構気に入っているのに」
「ねえ。急に誘拐されて、目の前に犯人いたら殺さずにいられる?」
「だとしでも派手に壊さなくてもできると思うけど」
とカップでひと飲みするアリスにじろっと見つめられる。
「今回は客として呼んだから、全部シロちゃんに弁償してもらいましょ」
「ご無体な」
イーグスは言う。
「さっきからそのシロちゃんで、そこの背後に立っている誘拐犯のこと」
「ええ。ストレス発散に執事や子供に八つ当たりし、メイドに口説いて脱走をしようとした使用人のことよ。白だからシロちゃん」
「ぷ」と思わず吹き出すところだった。
――今度からそう呼ぶか。てか、そんなことをしていたの。
「あなたもひねくれてるわね」
「魔女に言われたくない」
負けずに言う。
「何。飼い主?ならしつけはちゃんとしてほしんだけど」
「今は預けているだけよ」
「預けてる?」
「ええ。私の教え子をたぶらかして、傷つけさせたの。この間なんて小さな女の子にまで手を出そうとしたのよ」
この間というのは、もしかして口説き大会のことだろうか。
「何度もおっしゃっていますが、僕は助けようとしました」
「私。聖女と話しているのよ」
アリスの鋭い目つきをイーグスに向ける。
「この際お仕置きしようと、こき使っているところなの」
「できれば、一生見てくれない」
「そこまではしない」
アリスは断言する。
イーグスは肩を下ろす。
「そもそも女王様の所有物だからね。許可を頂いているの。もし、私が飼い主ならちゃんと教育しますよ」
イーグスは軽く冷や汗をかく。
アリスの発言が、間接的にカーミラの教育が悪いと言っているように聞こえなくもない。
「あっそ。で、いい加減に本題に入ってくれない」
雑談だけで誘拐されたわけがない。
「聖女とお友達になりたいと思いまして」
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