魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

文字の大きさ
上 下
396 / 648

朱薇の魔女①

しおりを挟む
 またやられた。
 ジャンヌは目を覚ますと別の部屋にいた。
 知らない部屋。宿にいた部屋よりも少し高級そうな部屋。ベッドも心地いい。
 思い返す。
確か、街の宿に休んだ。気配で目を覚ましたら、口を抑えられ、首に衝撃。しかも血を抜かれる。
 この感覚はしっかり覚えている。それができるのは1人だけ。
イーグスに吸われて、誘拐された。
 ただロザリオもあるし、拘束されていない。それに肩は手当している。どういうこと。どっちにしても、この手に引っかかる自身に腹立って嫌になる。
もういや。この展開。
 枕に向かって「ううううううううううううううううううううううううう」とうなる。
「お目覚めですか」
 イーグスの声だったので、すかさず枕を投げる。
 扉の前にいるイーグスは頭を軽くずらし、枕は扉に当たる。
よく見れば、いつもと恰好が違う。服が黒い執事の格好をしている。
「元気でいらっしゃる」
 そんなのは関係ないので、もう一つあった枕も投げ、それでも頭をそらして避けるので、ベッドを投げる。
 扉が壊れた。すぐに飛び出せば、部屋の外にイーグスがまだ生きていた。
「殺してやる!」
 ロザリオを構えて走る。
「お気を静めてください。ここはどこだか分かりますか」と煽る。
「知るか!処刑は場所関係なく24時間実行中じゃ!」
 イーグスは逃げるので、追いかける。
 白い炎を飛ばし、近くにあった置物、家具を投げる。それでもイーグスは避けるので、イラつかせる。
「イーグス!何をしている!」
 別の男の声がしたが、無視する。今はイーグス殺害が優先。
「こっちですよ」
 イーグスの声。まだ生きている。
 その時、イーグスの背後に人影が見えた。人影は大きく横に払う。イーグスは頭に当たり、頭から横の壁にぶつける。
 よく見れば、赤い傘だった。
 長い金髪に少し二つに結んでいる。赤い目。バラの花のような裾を何枚も重ねたようなドレスを着た少女だった。
「呼びに行かせただけなのに、どうして別荘を壊すことになるのよ」
少女は少し呆れたように言う。
「全く困ったものです」と横にいたメイドは言う。
「あなた。わざと武器を取り上げなかったでしょ。私に聖女と戦わせようとしたところかしら」
「・・・」
 少女はイーグスに言うにも、頭が壁に埋め込まれているので、声が出すはずもない。
「あなたの考えは分かり切っているのよ」
 少女と目が合う。
「ごめんあそばせ。私が指示を与えましたが、手段を指定しなかったもので、あなたに不満を与えてしまい申し訳ありません」
 ご丁寧に謝罪される。
「私は、赤の従士の1人。朱(しゅ)薇(ら)の魔女アリス・キテラと申します」と軽く会釈する。
 やっぱり魔女だった。しかもカーミラが従う赤の従士の1人で、アリスの名を持つ魔女だった。
「元気ですな~」
 目の前に突如チェシャが現れた。
軽く体がびくつく。
「あんたもいたの・・・」
 以前、ちかの魔女アリス・ワンダーランドの時にいた魔族のネコだった。
「そうっすよ」
「あら、チェシャとは会っていたの」
 どうやら別のアリスの元にいるようだ。
「前世から付き合いなの」
「は~」
 そういう繋がり。
 魔女は転生する。前世で何かしらあったようだ。
「話があるから、場所を変えましょ。グレオ。シロちゃんを引っ張って」
 アリスはもう一人の執事の男に指示を出す。
「これ、伸びてますね」と執事の男のグレオが言う。
「大丈夫よ。こういう時の男は丈夫にできているから」



「あなた。相当シロちゃんに恨みあるようね」
 案内されたのは中庭だった。ガーデンハウスの中で、ジャンヌとアリスは向かい合うように一緒に座る。
なぜかイーグスもアリスの背後で同席している。
「だからと言って、私の別荘を半壊する理由にならないわ」
アリスの奥には半壊した屋敷も見える。
「結構気に入っているのに」
「ねえ。急に誘拐されて、目の前に犯人いたら殺さずにいられる?」
「だとしでも派手に壊さなくてもできると思うけど」
 とカップでひと飲みするアリスにじろっと見つめられる。
「今回は客として呼んだから、全部シロちゃんに弁償してもらいましょ」
「ご無体な」
 イーグスは言う。
「さっきからそのシロちゃんで、そこの背後に立っている誘拐犯のこと」
「ええ。ストレス発散に執事や子供に八つ当たりし、メイドに口説いて脱走をしようとした使用人のことよ。白だからシロちゃん」
「ぷ」と思わず吹き出すところだった。
――今度からそう呼ぶか。てか、そんなことをしていたの。
「あなたもひねくれてるわね」
「魔女に言われたくない」
 負けずに言う。
「何。飼い主?ならしつけはちゃんとしてほしんだけど」
「今は預けているだけよ」
「預けてる?」
「ええ。私の教え子をたぶらかして、傷つけさせたの。この間なんて小さな女の子にまで手を出そうとしたのよ」
 この間というのは、もしかして口説き大会のことだろうか。
「何度もおっしゃっていますが、僕は助けようとしました」
「私。聖女と話しているのよ」
 アリスの鋭い目つきをイーグスに向ける。
「この際お仕置きしようと、こき使っているところなの」
「できれば、一生見てくれない」
「そこまではしない」
 アリスは断言する。
 イーグスは肩を下ろす。
「そもそも女王様の所有物だからね。許可を頂いているの。もし、私が飼い主ならちゃんと教育しますよ」
 イーグスは軽く冷や汗をかく。
 アリスの発言が、間接的にカーミラの教育が悪いと言っているように聞こえなくもない。
「あっそ。で、いい加減に本題に入ってくれない」
 雑談だけで誘拐されたわけがない。
「聖女とお友達になりたいと思いまして」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...