上 下
389 / 642

言霊の魔女⑥

しおりを挟む
 一度立て直してから転送してみれば、話の展開的にジャンヌはいると思っているが、まさかイルがいるとは思わなかった。
 とりあえず今は声を取り戻す。
「たすけて~ヘンタイにつかまる~」
――俺の声でそんなセリフを吐くな。
 アキセは予備の懐中時計の武器庫から銃を召喚し、撃ちだす。子犬の足元に当たり、陣が発動する。陣の上にいる子犬がピタッと止まる。すかさず、子犬を捕まえ、喉に手を当てる。
 魔力で子犬の声を奪い、自身の喉にあてる。
「は~やっと取り戻せた」
 自分の声。取り戻せたことに安堵する。
 アキセは子犬を見る。
 こんな子犬に声を入れられたことにイラつく。
 口にくわえていた指輪を取ってから、子犬を後ろに投げる。取り戻した指輪を指にはめるが、ドンと背中に衝撃がする。
「ぐわ!」と倒れたアキセは指輪を落とす。子犬が指輪を噛み、逆の方向に走る。
「あ!」
 その時、飾りをつけたウサギとイヌが迫ってくる。


 イロハは槍を振り回しながら、言葉で周辺にあった小物、さらに衣に描いているナデシコの花も飛ばしていく。小物はロザリオで壊し、白い炎で器用にナデシコの花を燃やしていく。
 その時槍を突く。ロザリオで咄嗟に受け止めるも、槍の柄が下から回し、ロザリオをはじく。
今度は下から槍を回して迫ってくる。後ろに反り、さらに顎を上げ、槍の刃が過ぎていく。距離を取るもナデシコが迫ってくる。白い炎を放ち、ナデシコを燃やす。
「立てろ!」
 その直後で背後から背中に衝撃。緑色の床の一枚が壁のように立っていた。
 上にはイロハの槍が振り下ろしていく。
 防がれない。
 その時、背後からネコとイタチがイロハにぶつける。
「ジャンヌ!」
 イルの声でロザリオを受け取りながら、ロザリオに光の刃を作り、イロハの元に振り下ろす。
 イロハが「邪魔」とネコとイタチをどかしてももう遅い。イロハの口に差し込む。
 イロハは言葉を操る。先に潰した。横からネコとイタチがジャンヌに迫るも、小物にぶつかる。イルが投げたものだろう。
 ジャンヌはすぐにロザリオを通して白い炎をイロハの体内に注ぐ。体が膨らみ、徐々に白い炎に包まれ、イロハは消えていく。
「くそったれが!」
 ジャンヌは吐き出す。
「無事か」
 イルが駆け寄る。
「イルこそ」
 無事なイルを見て思わず、胸が軽くなった。
 その時、子犬が戻り、ジャンヌの胸に飛び込む。
「それって」
 子犬は指輪を噛んでいた。アキセが持っている指輪だった。
「ジャンヌが言っていた指輪か」
「ええ」
 いつの間に。ということは。
 その時、あのネコとイタチ以外にも飾りをつけた獣たちが威嚇している。
「使い魔じゃなかったのか」
 魔女の一部である使い魔も魔女が消えれば、一緒に消える。だとしたら、魔女の子供だろうか。
獣たちが襲いかけようとした時だった。
「ぴー――――」
 笛の音がする。
 獣たちが止まり、ぬいぐるみへと変わる。
 音の先を見る。
 かなり大きい巨大な顔。白い綿のタテガミ。ボタンと目玉。大きい口に唇に糸が縫い付けられている。四柱の長い手足。巨大な蛇のような布切れの体。しっぽの先が糸で円盤をつるしている生き物。
その上に 長い耳をつけた着ぐるみを来た幼女に、そくにんの魔女ヤオトメ・クノもいた。
「クノ・・・」
 クノまで来るとは。敵意は高くないが、油断はできない。
「あれ?イロハ。浄化されたみたい」
「あ!ジャンヌちゃんじゃないっすか。お久しぶりっす」
 クノは陽気に手を振る。
「ちゃんつけするほどの仲だったかしら」
「いいじゃないっすか」
「姉さん。聖女と知り合いなの?」と着ぐるみの魔女は言う。
「まあね。そういえば、指輪見てないっすか」
「見てない」
 咄嗟に隠す。
 そういえば、クノはコルンの知り合いだった。
「そうっすか」
 クノの目が細くなる。
「じゃあ。帰ろっすか」
 意外にあっさり。
「あれ。いいの?」
「また改めて探すっす。それにせっかくスタッフィが作った子供たちを殺されるのもいやでしょ」
「うん。姉さん。ありがどう。ピー」
 スタッフィは笛を鳴らす。
ぬいぐるみたちはスタッフィの元へと戻る。子犬も行く。子犬は振り向くもスタッフィの元へと行く。
「またね。ジャンヌちゃん」
 とクノは言って去っていく。
「よかった・・・戦わずに済んで・・・」
 ジャンヌは緊張が取れ、一気に疲れがくる。
「ジャンヌ。魔女に目をつけられすぎだろ」
「クノもかなり強いのよ。ウィムって魔女いたでしょ。あの魔女が嫌がるほどに」
「あの子供か?」
「魔女が子供でも油断ができないのよ。この指輪だって・・・」
 あれ、いつの間に指輪がない。
「あ」
「何?」
「どうやらあいつが逃げた」
「あいつってあいついたの?」
「さっきな。子犬を追いかけてな」
「そうだったの」
 アキセがいたようだ。だからいつの間に指輪が消えたのだろう。どうやって仕掛けたのやら。
 ジャンヌは子犬を思い出す。
 魔女の子供の割になぜか懐かれた。
 けど、可愛かったな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...