魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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譜曲の魔女⑦

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 巨大な音でラウラは目を覚める。
 服がオペラ用の白いドレスに着替えている。
 周りを見れば、歌劇場だった。
 演奏者が弾くためのオーケストラピット、フロアごとにある客席。ただオーケストラピットに人がなく、楽器たちが動いている。振り向けば、パイプオルガンがある広い舞台。
 この国で唯一パイプオルガンがある歌劇場にいるようだ。
 パイプオルガンに誰かが弾いている。後姿だか。楽譜から出た魔女だった。
 舞台に魔術師の体がバラバラに切られている。
「は!?」思わず口を手で抑える。
 奥には糸でぶら下がっているダリウスとカリーヌが見えた。
「王子・・・カリーヌ・・・」
 このままだと魔術師と同じように。
「ラウラ!」
 カリーヌが声を上げる。
「起きた」
 振り向いた魔女が笑う。
演奏しているのに声が聞こえる。
「ラウラ」
 パイプオルガンから離れても音楽は止まない。
「ありがとう。私を完成させて」
 魔女が階段を降りてくる。
「私。あなたの歌声が好きよ。とてもきれいで透き通って。だから一緒に歌いたかったの。それなのに皆に嫌われたって。センスも価値の分からない人たち。だからみんなの声を奪ってあげたの。歌えなくして汚くて一生声も出したくないほどに」
 魔女は目の前に来て見つめる。
「だから襲ったの・・・」
「だってあんな奴らに罰当たって当然よ。ラウラも思ったでしょ」
「それは・・・」
 全くないわけがない。けどここまでは望んでいない。
「もうどうやったって、認める気がないのよ。どんなにやったって歌を評価されない。嫉妬で絶対に認めらくないのよ。この国にずっといたってラウラがつらくなるだけだよ。だから一緒に歌ってこの国をなくそう。こんなセンスもない国を」
 魔女は無邪気に笑って誘う。
 この国で嫌なことはあったけど、国を亡ぼすことなんて望んでいない。
「ねえ。歌おうよ」
 魔女がせがむ。
「いや・・・歌いたくない・・・」
「そんなことを言わずに」
「ラウラから離れろ!」
 ダリウスは怒鳴る。
「口開くな!」
 天井から伸びた糸がダリウスの首を絞める。
「ダリウス!」
 カリーヌの首も絞められる。
 魔女はバイオリンの絃を出し、ダリウスに近づく。
「歌うから!歌うから!二人には何もしないで・・・」
 魔女は止まる。
「嬉しい!」
 振り向きながら魔女は笑う。
「歌おう!」
 魔女に掴まれ、舞台の中央に立つ。
「歌はもちろん。ラウラが作った歌よ。ラウラから始めて」
 口を開こうと客席を見る。
 空白の席。あの時を思い出してしまう。試験の時に歌い始めて、退場していく生徒たち。
「嫌だ・・・」
 訊きたくないと聞こえてしまう。
――お前の歌なんか誰が訊くものか
 あの言葉が響く。カリーヌが殴りつけた時に発したあの言葉。
「歌いたくない・・・私の歌なんか・・・」
 座り込む。
「どうして、あの時は歌ったのに」
 魔女が心配するように声をかけられる。
「分かった!だったら忘れよう。何もかも」
「え・・・」
「だって思い出したくないんでしょ。忘れてあげる。それだったら楽でしょ」
「忘れるって・・・」
「私を歌ったこと以外全部」
 ダリウスのこともカリーヌのことも全部。
 顔を押さえられる。魔女の口が近づく。
「違う・・・やめて!」
 バーン!
 パイプオルガンが急に音を響かせる。
 一斉にパイプオルガンに視線を向ける。
 魔女が目を鋭くした時、天井からパイプがパイプオルガンの前に落ちた。
 舞台に何が落ちる音がしたと思えば、体をバラバラになったはずの魔術師が姿を見せる。
「やべ。バレた・・・」
「私を騙したな!」
 その時、客席の方から物音がした。
 何が迫ってくる。
 魔女はバイオリンの絃で受け止めたのは、光の刃が伸びた十字架を持った聖女だった。
「何、受け止めるんじゃねえぞ!魔女が!」
「呼びもしてないのに勝手に舞台に上がるな!」
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