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譜曲の魔女⑤
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ジャンヌは、ダリウスの書斎にいた。
「魔術師にラウラの行方を頼んだ。場所は分かっているそうだ」
「そう」
アキセはあの時もラウラを見つけた。できなくはないだろう。
「カリーヌ様は?」
「部屋で安静している」
その時、扉が開く。
「ラウラが消えたって・・・」
被害者は、別の声を入れられると言っていたが、予想以上にガラガラとした男の声だった。
顔に出さないように。
「消えた」
ダリウスも表情を変えずに答える。肝がでかい。
「なんで・・・ダリウス。ちょっと話があるんだけど」
「それってラウラの歌のことですか」
カリーヌに言う。
「あなた。どうして・・・」
驚いた様子でカリーヌは言う。
「私も訊こうとしたので、カリーヌ様と同席してもよろしいですか」
ダリウスに訊く。
「構わない」とダリウスは静かに返す。
「どうしてラウラの歌を私に仕立てたの?」
「ダリウス。どういうことよ・・・」
ダリウスが黙り込む。
「3人で付き合いは長いじゃない。ラウラの歌を全く知らないはずがない。それに知っていたとしてもあの歌が惚れたって言ったら・・・ラウラに告白したようなものじゃないの」
その時、カリーヌの顔が少し揺らいだ。
本人の前では言いたくはなかったが、ダリウスの本心を知るために。
「ここまでしないとラウラが歌ってくれるかと思ったんだ」
ダリウスは言う。
「ダリウス・・・」
「何、ラウラのために私に婚約したわけ。それだったら無駄に終わるわね。代わりに結婚してって言ったのよ。偽装してもいいって」
「ラウラが・・・」
「何かあったの」
訊くつもりはなかったけど。
「まだあのことを・・・」
「カリーヌ。それは俺が話す」
カリーヌを遮って、ダリウスは言う。
「ラウラとはカリーヌの侍女の娘で遊び相手になっていたんだ。3人でよく歌って遊んだ。ラウラは俺たちの前では歌うけど、内気なとこもあって俺たちしか知らなかったんだ。身分も気にしているところもあるとは思うが・・・」
ダリウスは言う。
「学校は、有望な天才を生み出すことが方針で身分に関係なく、入学しても一緒にいた。城と住んでいたころと違って、俺たちを思わないのも一部いた。ラウラにありもしない噂を流し、ひいきしているじゃないかって言われてもカリーヌと一緒に守ったんだ。歌の評価を決める試験があったんだ。それでこの国の評価は決まる。彼女の実力を知られる機会だと思ったし、皆で見返してやろうとカリーヌと一緒に応援したんだ。ラウラも自信をつけたいと言って試験を受けたんだ。けど・・・」
言葉を詰まる。
カリーヌの顔が曇った。
「ラウラが歌い始めれば、その場にいた生徒たちが次々に退場した。聞きたくないって言っているもんだ。ラウラも歌う切ることもなく放棄した。それ以来俺たちの前でも歌うことはなかった」
だから、人前で歌いたくなかったのか。
「それからカリーヌが必死になって首謀者を見つけて、殴りつけたんだ。その時も・・・」
「もういい」
ロクなことじゃない。これ以上思い出すものでもない。
「この国は才能が全てって言われても、権力で評価変えたり、偽装したりする汚い人間もいる。それに英才教育すれば誰だってうまくなる。でも、ラウラの歌は違う。本当に誰にでも歌えない。昨日、久しぶりにラウラの歌を訊いたんだ」
あの時。
「ラウラが時々いなくなるのは、知っていた。魔術師に探せば、まさか国の外まで行ってまで歌うとは思わなかった。あの歌を訊いて、聖女様もいて、この手段を思いついたんだ。ラウラの歌を別の女に仕立てて、無理やり婚約してやれば、ラウラが声を上げるかと思ったんだ」
「ダリウス・・・」
「カリーヌ。すまない」
カリーヌは嫁候補。ダリウスの本心を訊いて謝罪しているのだろう。けど。
「何がよ。謝る相手が違うわよ」
「そうね」
それは同感。
「失礼だったらごめんなさい。あなたたちの事情は分かった。歌を取り戻すために回りくどいことをして、他人を巻き込ませたのね。でも結局、あなたはラウラのこと歌しか見ていないんでしょ」
「違う・・・」
「歌さえ取り戻せば、ラウラのことだってどうてもいいってことね」
「違う!」
ダリウスは感情的に声を上げる。
「こんなことをして、誰が一番嫌になるか分かるでしょ」
ラウラが一番傷つくことくらい。
「歌ってなんて言えない。僕たちにも原因がある。きっかけを作れば取り戻せると思ったんだ・・・」
「だとしてももう少し慎重にするべきだったね」
「聖女様だったらどうしますか」
ダリウスが見つめる。
「私だったら、ラウラがまた歌いたくなるまで、今の彼女を受け止めて待つかな」
――私も気付くまでに時間がかかった
「こういうのは、本人が一番理解している。分かっている。どうしたいかって。他人が言って簡単にできるものじゃない。余計にできなくなる。だから時間をかけて、考えて結論を見つけて自分から行動するのを待つ。その証拠に国外だけどまた歌えたでしょ。彼女自身も歌いたいはずよ。あなたはあの歌を訊きたくてしかたなかったのね。言うのも訊くのも怖くて我慢してきた。けど、昨日訊いてまた聞きたくなってしまったから、その手段を使ってしまった」
見抜かれたのかのようにダリウスが目を見開く。
「あなたは歌以外にも今のラウラのことを見るべきだったね。まあこれで話せるきっかけはできたでしょ」
「聖女様・・・」
「その前にラウラを見つけて、魔女を退治が終わってからでしょうね。魔女退治するから婚約は破棄してくださる?」
「分かりました」
ダリウスは答える。
「じゃあ、私も調査と・・・」
まずは、ラウラを探そうと部屋を出ようとするが。
「そうだ・・・」
ダリウスは急に思い出したように言う。
「最初の被害者がその首謀者だ・・・」
机の上にある被害者リストを見る。
「被害者は、16人。全員じゃないけど、あの事件に関わった学生がいる」
「ラウラが関わっているってこと?」
「それが違う。カリーヌを襲った理由が分からない。あなただって」
「俺たちにも原因がある・・・」
「まだ決めつけるにはまだ早い。どっちにしても早くラウラを・・・」
その時、何もないところからアキセとラウラが書斎に現れた。
「魔術師にラウラの行方を頼んだ。場所は分かっているそうだ」
「そう」
アキセはあの時もラウラを見つけた。できなくはないだろう。
「カリーヌ様は?」
「部屋で安静している」
その時、扉が開く。
「ラウラが消えたって・・・」
被害者は、別の声を入れられると言っていたが、予想以上にガラガラとした男の声だった。
顔に出さないように。
「消えた」
ダリウスも表情を変えずに答える。肝がでかい。
「なんで・・・ダリウス。ちょっと話があるんだけど」
「それってラウラの歌のことですか」
カリーヌに言う。
「あなた。どうして・・・」
驚いた様子でカリーヌは言う。
「私も訊こうとしたので、カリーヌ様と同席してもよろしいですか」
ダリウスに訊く。
「構わない」とダリウスは静かに返す。
「どうしてラウラの歌を私に仕立てたの?」
「ダリウス。どういうことよ・・・」
ダリウスが黙り込む。
「3人で付き合いは長いじゃない。ラウラの歌を全く知らないはずがない。それに知っていたとしてもあの歌が惚れたって言ったら・・・ラウラに告白したようなものじゃないの」
その時、カリーヌの顔が少し揺らいだ。
本人の前では言いたくはなかったが、ダリウスの本心を知るために。
「ここまでしないとラウラが歌ってくれるかと思ったんだ」
ダリウスは言う。
「ダリウス・・・」
「何、ラウラのために私に婚約したわけ。それだったら無駄に終わるわね。代わりに結婚してって言ったのよ。偽装してもいいって」
「ラウラが・・・」
「何かあったの」
訊くつもりはなかったけど。
「まだあのことを・・・」
「カリーヌ。それは俺が話す」
カリーヌを遮って、ダリウスは言う。
「ラウラとはカリーヌの侍女の娘で遊び相手になっていたんだ。3人でよく歌って遊んだ。ラウラは俺たちの前では歌うけど、内気なとこもあって俺たちしか知らなかったんだ。身分も気にしているところもあるとは思うが・・・」
ダリウスは言う。
「学校は、有望な天才を生み出すことが方針で身分に関係なく、入学しても一緒にいた。城と住んでいたころと違って、俺たちを思わないのも一部いた。ラウラにありもしない噂を流し、ひいきしているじゃないかって言われてもカリーヌと一緒に守ったんだ。歌の評価を決める試験があったんだ。それでこの国の評価は決まる。彼女の実力を知られる機会だと思ったし、皆で見返してやろうとカリーヌと一緒に応援したんだ。ラウラも自信をつけたいと言って試験を受けたんだ。けど・・・」
言葉を詰まる。
カリーヌの顔が曇った。
「ラウラが歌い始めれば、その場にいた生徒たちが次々に退場した。聞きたくないって言っているもんだ。ラウラも歌う切ることもなく放棄した。それ以来俺たちの前でも歌うことはなかった」
だから、人前で歌いたくなかったのか。
「それからカリーヌが必死になって首謀者を見つけて、殴りつけたんだ。その時も・・・」
「もういい」
ロクなことじゃない。これ以上思い出すものでもない。
「この国は才能が全てって言われても、権力で評価変えたり、偽装したりする汚い人間もいる。それに英才教育すれば誰だってうまくなる。でも、ラウラの歌は違う。本当に誰にでも歌えない。昨日、久しぶりにラウラの歌を訊いたんだ」
あの時。
「ラウラが時々いなくなるのは、知っていた。魔術師に探せば、まさか国の外まで行ってまで歌うとは思わなかった。あの歌を訊いて、聖女様もいて、この手段を思いついたんだ。ラウラの歌を別の女に仕立てて、無理やり婚約してやれば、ラウラが声を上げるかと思ったんだ」
「ダリウス・・・」
「カリーヌ。すまない」
カリーヌは嫁候補。ダリウスの本心を訊いて謝罪しているのだろう。けど。
「何がよ。謝る相手が違うわよ」
「そうね」
それは同感。
「失礼だったらごめんなさい。あなたたちの事情は分かった。歌を取り戻すために回りくどいことをして、他人を巻き込ませたのね。でも結局、あなたはラウラのこと歌しか見ていないんでしょ」
「違う・・・」
「歌さえ取り戻せば、ラウラのことだってどうてもいいってことね」
「違う!」
ダリウスは感情的に声を上げる。
「こんなことをして、誰が一番嫌になるか分かるでしょ」
ラウラが一番傷つくことくらい。
「歌ってなんて言えない。僕たちにも原因がある。きっかけを作れば取り戻せると思ったんだ・・・」
「だとしてももう少し慎重にするべきだったね」
「聖女様だったらどうしますか」
ダリウスが見つめる。
「私だったら、ラウラがまた歌いたくなるまで、今の彼女を受け止めて待つかな」
――私も気付くまでに時間がかかった
「こういうのは、本人が一番理解している。分かっている。どうしたいかって。他人が言って簡単にできるものじゃない。余計にできなくなる。だから時間をかけて、考えて結論を見つけて自分から行動するのを待つ。その証拠に国外だけどまた歌えたでしょ。彼女自身も歌いたいはずよ。あなたはあの歌を訊きたくてしかたなかったのね。言うのも訊くのも怖くて我慢してきた。けど、昨日訊いてまた聞きたくなってしまったから、その手段を使ってしまった」
見抜かれたのかのようにダリウスが目を見開く。
「あなたは歌以外にも今のラウラのことを見るべきだったね。まあこれで話せるきっかけはできたでしょ」
「聖女様・・・」
「その前にラウラを見つけて、魔女を退治が終わってからでしょうね。魔女退治するから婚約は破棄してくださる?」
「分かりました」
ダリウスは答える。
「じゃあ、私も調査と・・・」
まずは、ラウラを探そうと部屋を出ようとするが。
「そうだ・・・」
ダリウスは急に思い出したように言う。
「最初の被害者がその首謀者だ・・・」
机の上にある被害者リストを見る。
「被害者は、16人。全員じゃないけど、あの事件に関わった学生がいる」
「ラウラが関わっているってこと?」
「それが違う。カリーヌを襲った理由が分からない。あなただって」
「俺たちにも原因がある・・・」
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その時、何もないところからアキセとラウラが書斎に現れた。
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