上 下
364 / 642

譜曲の魔女③

しおりを挟む
 この国で、声を奪われる事件が多発している。
 夜に女の歌声が聞こえる。止んだ時には声を奪われ、代わりに別の声を入れられる。それが、異性の声でさらに汚く、音痴になるという。
 犯人は見つからず、ついに王子の婚約者候補の二人も被害になった。婚約者の1人であるカリーヌは用心棒を雇おうとしたところでアキセが取引した。聖女と一緒に事件を解決しますので、お金を下さいと。
 思わず、アキセの首を絞める。
「ぎょええええええええええええええええええええええええええええ」
「私を利用する気満々じゃないか!」
 ジャンヌは怒鳴る。
「どっちにしても来るつもりだったろうが!話を先に通した俺の苦労に敬意を払えよ」
「こっちの意思を無視しての交渉だろうか!」
「その内迎えに行こうとしたけど、まさか王子の嫁として来るとは思わなかったって、手を離してくれない・・・」
「ち」と首を離す。
「あんたが聖女だってバラしたからややこしくなるじゃないの」
 婚約という面倒くさいことが起きているのに。
「それに魔女かどこにいるかも分からないのに」
「目立った方が相手も動くだろう」
「出なかったらどうするのよ」
「それはそれで考えるからさ。で、訊きたいんだけど」
「何よ」と切れ気味に返す。
「婚約はマジするの?」
「しないわよ!」
 ロザリオでアキセに振り下ろすが、アキセは両手で挟んで受け止める。
「分かったから!剣を収めて収めて!多分あれ、本気じゃないと思うから」
 アキセの発言に思わず、首をかしげる。
「どういうことよ」とアキセを睨みつける。
「まず剣を収めて・・・」
 仕方なくロザリオを収める。
「あ~イッテ~手が焼けたじゃないか」
 アキセが『光』で浄化された手を見て、文句を言う。
「いいから吐け」
「どうやら王子とカリーヌ様とラウラは昔からの仲みたいだぞ」
「なんで知っているのよ」
「俺の情報網もなめるなよ。で、王子はラウラを気にしているようだし」
「嫁候補がいるのに」
「嫁候補よりも目にいってるんだろ。おまえ、王子とどこで会った?」
「国の外よ」
「あ~あの場にいたのか。隠密で王子がラウラの行方の捜査依頼されたんだ。国の外だったから、そこまで転送しろと言われてさ」
 あの時はそういうことだったのか。国の外にダリウスがいたのは、ラウラを探すため。
 ダリウスはアキセを使ってまでラウラを探していた。だとしたら、ダリウスはやっぱり知っているのではないか。
「で、転送して戻したら、絵をかけるかって言われて、魔術で描いたらジャンヌだったんだ。絵を完成したら、門番に指示出したんだ。連れてこいって」
「分かっていたなら止めなさいよ」
「手間は減るから」
 手に怒りを込める。
「さて」とアキセは逃げるように歩く。
「どこに行くのよ」
「一応用心棒なんて」
「そのまま寝取らないでよ」
 アキセはリリスの子供のリリム。リリムもリリスの血を引いているので、人を惑わす。
「何。嫉妬」
「すぐに惑わすでしょうか」
「だったら協力しようぜ」
 アキセは部屋を出る。



 あれからラウラはカリーヌをまいて戻ってきた。
 夜になり、ダリウスから呼ばれたので、書斎に行くことにした。椅子に縄で縛りつけたラウラを椅子ごと引きづれて。
 魔女狩りよりも婚約破棄が優先。それにいつでも正体は言える。とりあえず、正体明かさないという約束でラウラを同席させると言ったら、それでも逃げるので、取り押さえ、この手段になってしまった。
「聖女様!これは犯罪です!」
「相手の承諾なしに結婚を押し付けるのもどうなのよ」
「これ以上罪を重くならない内に解放してください!」
「どっちにしても詐欺罪で捕まりたくないわよ」
 この手段を使いたくなかった。書斎まで連れていく間に、使用人たちに変な目線を向けられて、結構きついのよ。
 ダリウスの書斎の前に着く。
「今はバラさないであげるから、同席するだけ。話さなくていいから」とノックする。
「あ!」
「入れ」とダリウスの声がした。
 扉を開け、ダリウスが驚いた様子で見つめる。
「これは・・・」
 引かれてしまった。
 分かるけど、そんな目で見ないで。
「同席してもいい。私の世話役なんでしょ」
「分かりました・・・」
 ラウラを椅子ごと引きずり、書斎に入る。
「話を訊きましたけど、聖女とは思いませんでした。申し訳ございません」
「本当に分からなかったの」
「それは本当に存知ません」
「私が聖女と分かったところで婚約破棄してくれます」
「それはできない」
「なんでよ」と切れそうになる。
 ダリウスの視線がラウラに向かっている。ラウラはそらす。
「話を変える。どうして歌で決めたの」
「綺麗な歌なんだ。透き通って。心地がいい。この国の歌手を訊いてもあの歌に勝るものはない。それは今も変わらない」
 その発言ではっきりした。
「やっぱり、あなたは・・・」
 その時、歌が響く。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

Heroic〜龍の力を宿す者〜

Ruto
ファンタジー
少年は絶望と言う名の闇の中で希望と言う名の光を見た 光に魅せられた少年は手を伸ばす 大切な人を守るため、己が信念を貫くため、彼は力を手に入れる 友と競い、敵と戦い、遠い目標を目指し歩く 果たしてその進む道は 王道か、覇道か、修羅道か その身に宿した龍の力と圧倒的な才は、彼に何を成させるのか ここに綴られるは、とある英雄の軌跡 <旧タイトル:冒険者に助けられた少年は、やがて英雄になる> <この作品は「小説家になろう」にも掲載しています>

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

処理中です...