魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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怪物を産む国 後半⑩

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 バイカリは消えた。
 怪物たちは届くことなく、その場で倒れる。
 魔女のタタリが解けた。これでこの国は解放される。
 振り向けば、バイカリに乗っ取られたユリアが倒れてから動いていない。
アキセが撃った弾に当たったにもかかわらず、血が流れていない。どうやら魔女にしか当たらないようにしたようだ。
 ユリアごと切る覚悟はしていたが、切らなくて済んだ。
 だとしてもユリアが動いていない。ただの人間が魔女の憑依に耐えるとは思っていない。おそらくユリアは。
「ママ・・・」
 トカゲの怪物が体を引きずっている。血もべったり地面についている。
「ママ・・・」
 黒い怪物もゆっくり近づく。
「「ママ・・・」」
 倒れているユリアの元へと体を寄り添う。
 黒い怪物は力を尽きたように倒れる。
「ママ二ナマエホシカッタ・・・ヨンデホシカッタ・・・」
 ユリアの手を握る。
「ママ・・・」
 トカゲの怪物はそれっきり動かなくなった。
 この子たちは母親に会いたかっただけ。それだけだったんだ。
 その時、影から王が現れた。
「死んだ・・・」
 王が笑う。
「やっとこれで自由なんだ。はははっはは」
 王様は解放されたような笑いをする。
 この王は。
 殴ろうとしたが、先にイルが王を地面に叩きつける。
「イル・・・」



 ジャンヌは遠くから滅んだ国を眺めていた。
「本当にらしくないな」
 背後からイルが優しく声をかける。
「いろいろと割り切らなくて・・・」
 今になって、自身でも思う。
「今回はこの聖剣を回収するだけだったの」
 ジャンヌは持っていた聖剣を見つめる。『光』を注いだのか、刃が銀色に輝いたままだった。
「この国は許さなかった。タタリを利用して金を稼ぐなんて。魔女を退治しようにも、魔女が分からなかったから、対処しようがなかった。けど、魔女が復活したから、タタリが解けた・・・」
 結果は分かり切っていた。
「タタリが解けたとしても元の姿に戻るとは思ってない。死ぬことだって予想ができた。あの子が襲ってきた時も、迷っていたら私もやられるから燃やすにもためらいがなかった・・・」
 黒い怪物の正体が分かっていても、ためらっていたら戦えなくなる。
「ユリアから話を聞いていたの。震えながら・・・」
 思い出す。ユリアが思い出したくない過去を口に出しながら震えていたことを。
「彼女からすれば、望まない出産をした。怪物として生まれた。王に殺された子供が目の前に現れたら、混乱もするし、恐怖したと思う。だからあの発言も仕方なかったのかなって」
 ユリアのあの発言を思い出す。「私の子供じゃない!子供じゃない・・・」と頭を抱え、怯えていた。
「あの子たちもそんな事情も知らない。会いたかったから、愛してほしかったから、ユリアのことをずっと探していた・・・ユリアにあんなこと言われても信じたかったんだろうなって、だから最後までユリアのそばにいた・・・」
 最後の力を振り絞ってユリアのそばにいたあの子たちを思い返す。
「私ね。魔女狩りする時は、必要以上に相手の事情を詮索しないようにしているの。いろいろと考えるし、魔女狩りまでしないから。迷いも躊躇いもなるべく作りたくない。割り切らなければ戦えない。分かっているけど・・・」
 今まで溜まっていたのか、弾けてしまいそうだ。
「そんなに思い込むな」
 イルはまっすぐに言う。
「ジャンヌがやらなかったら、終われなかったんだ。これから先、犠牲者が増える。それを止めたって思えばいいじゃないか。あの子たちも最後には母親に会えた。戦場が甘くないのは分かってる。ジャンヌもこれまで魔女を退治してきた。その分いろんな人にも会った。俺の考えつかないことも経験したはずだ。だからその考えについても何も言わない。けど・・・」
 イルは言葉を詰まる。
「知ったうえでその人のために最善を尽くしたことはないか」
 イルの発言で思い返す。
 街にために守ろうとした少年がいたから、その子の思いのために戦った。悲しみから解放したい者もいた。その思いを叶えたくて、助けたい人もいた。
「今回のこともそう思わなかったのか」
 イルに振り向く。
 とても優しく見つめていた。
「そうね。思い出してくれてありがとう・・・」
 イルも笑う。
「それに・・・そばにいてくれてありがとう・・・」
 アキセと二人だけだったら、魔女ところじゃなかった。
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