魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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怪物を産む国 後半②

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 どうする。
 ジャンヌしか魔女を殺せない。黒い怪物に相手する場合ではない。
 血を出しすぎて、立ち上がろうにも立ちくらみする。息が乱れる。右腕もまともに動けない。
 今の状態ではまともに戦えないのは分かる。だか、このままではジャンヌが苦戦する。
 確かジャンヌは、あの剣を気にしていた。あの剣を奪えば。
「ねえ。君何?」
 バイカリが目の前に現れた。
 いつの間に。
「他の魔女にいじられたんだ。あれ?死にかけてる」
 動けない。
「腕がない。かわいそう」
 バイカリが哀れむ。
「そうだ。友達になろう!」
 バイカリは、イルの頭にキスをした途端に、なくなった左腕から禍々しい肉塊が伸びてきた。
「あああああああああああああああああああああああああ」
 熱い。溶かされていく。膨れ上がる。体の中の臓器が暴れているようだ。
 今度は体中から黒いミミズのようなものが皮を破る。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「あ~嬉しい。もっと友達が増える~」
 バイカリは無邪気に喜ぶ。


 ジャンヌはイルの叫びに気付く。
「イル!」
 イルの前にバイカリがいる。イルに何かしたに違いない。すぐに行かなければ。
 戸惑っている暇がない。この怪物になった子は人には戻らない。
「ごめん」
 ジャンヌはロザリオに纏った白い炎を黒い怪物に放つ。
 黒い怪物は避けることもなく白い炎に包まれる。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 黒い怪物は叫ぶ。
 ジャンヌは、すぐに足に白い炎を噴射し、客席に飛び込む。ロザリオをバイカリに払うも、バイカリは薄く笑い、影の中へと消える。
 ジャンヌは白い炎を囲む。これでバイカリは進入できずに攻撃もできない。
 早くイルを。
 イルは異形な姿に変わりかけている。失った左腕から禍々しい肉塊が伸びている。体中が黒いミミズのようなものが密集して伸びている。
 バイカリに『呪い』を過剰に与えられたのか。急性の魔族(アビス)化。このままでは『呪い』に侵されて、死んでしまう。
 『呪い』が過剰に発生する。『呪い』は『光』しか浄化できない。やったことはないけど、これしか方法がない。
 イルに抱き着きながら、白い炎に包める。
「戻ってきて!」
イルの体の表面を一気に燃やす。それでもまだ体から黒いミミズが伸びる。
 表面だけでは足りない。後は体内に直接『光』を注ぐしかない。
 完全な浄化ではなく、『呪い』を治めるだけ。その調整も神経がいる。落ち着けばできる。
 傷口から直接白い炎を注ぐ。『呪い』の抗体を完全に浄化せず、過剰な『呪い』を浄化するだけ。
 落ち着け落ち着け落ち着け。まだ間に合える。
 『呪い』の浄化でイルも苦しみ、もがく。それでも振り払わず、イルにしがみつく。
 大丈夫。まだ助かる。助かる。
 白い炎を調整しながら『呪い』を浄化していく。
 徐々に動きが止まった。抑えられた。
 ジャンヌは息を整える。
 心臓の音がする。生きている。イルの体から伸びた黒いミミズも伸びていない。
「ジャンヌか・・・」
 顔を上げれば、イルが見ていた。
「よかった・・・」
 生きていた。
 安心したのか、力を尽きてしまった。
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