魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

文字の大きさ
上 下
289 / 648

怪物を産む国 前半⑥

しおりを挟む
 どうすればいい。
 ジャンヌはイルに視線を向けた時だった。
 闘技場からイルが飛びつく。
 客席に飛び込もうとしているのか。客席に結界が張っていた。
ジャンヌはすぐには白い炎を投げる。白い炎は透明な壁に当たり、ガラスが割れた音がした。
 白い炎から跳び出したイルは、足を真っすぐ伸ばす。その方向はアキセに向かっていた。
「まず!」
 客席が土煙に包まれた。土煙から姿を見せたのは、イルだった。
「イル!」
 イルは腰を下ろす。
 ジャンヌはイルに触れる。これでイルにかけた魔術は解けた。
 イルの左腕から血が流れる。
「今止める」
 左腕に『光』を結晶化させ、止血した。
「ぐ!」
「これで血は止めた。でも・・・」
「会話を聞こえた・・・」
 エルフの耳で話を聞こえていたようだ。
「俺が人質になってたんだろう・・・だから、あいつに従うしかなった・・・」
 イルは息を乱れながら言う。
「ごめん・・・巻き込ませて・・・」
「俺こそ・・・おまえばっかりに・・・」
「そんなことない・・・」
「ダイジョウブ?」
 声をかけられたのは、イルと一緒にいたトカゲの怪物だった。
「とりあえずわね。後でちゃんと治療はしないと」
 ジャンヌは立ち上がる。
「後は私に任せて」
 客席の奥にいたアキセに睨みつける。
「もう許せない。殺して・・・」
「ママ・・・」
 ジャンヌの声を遮ったのは、黒い怪物だった。
 結界が浄化されたことで黒い怪物も客席に入ってきた。その先にはユリアがいた。
「ママ・・・」
 トカゲの怪物もユリアの元へと歩き出す。
「ママ・・・」
「ママ・・・」
 二つの怪物は甘えるように近づく。
「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」「ママ」
「来ないで!」
 ユリアが叫んだ途端に二つの怪物は時間が止まったように止まる。
「なんで来るのよ。私は産みたくなかったのに!なんで来るのよ!思い出さないでよ!あのまま死ねばよかったんだ!」
 ユリアが叫ぶ。
「私の子供じゃない!子供じゃない・・・」
 頭を抱えながらユリアの周りに黒いモヤが広がっていく。
「まさか・・・」
 人間のユリアが『呪い』を可視化した黒いモヤを発生できるわけではない。ユリアの茶色の髪が黒く染まっていく。
「待って!」
 ジャンヌはユリアに駆け寄ろうとしたが、ユリアの影から黒い尾が伸びる。ジャンヌを払い、闘技場へと落とされる。
 ジャンヌは白い炎を足に噴射し、着地する。トカゲの怪物と黒い怪物も闘技場に落ちる。
「あはあははあっははあっはあははは」
 ユリアが狂ったように笑う。
「醜獣(みにくじゅう)の魔女バイカリ・キルビーラーの復活よ~」
 魔女がユリアの体を乗っ取った。
 客席の奥に黒い柱が伸び、晴れたと思えば、コロシアムにアキセと一緒にいた男がいた。
「ここは・・・」
 バイカリは瞬時に男に近づく。
「王様。会いたかった~」
 ユリアの顔でバイカリは愛しく笑う。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...