魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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偽物の聖女⑥

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「なあ。いい加減に正体を明かしたらどうだ?」
 イルは魔女から離れ、ニセモノに言った。
「見せないとダメ?」
 ニセモノはジャンヌの顔であざとく言う。
「また、魔女に狙ってもいいなら」
「だったら、また会います?」
――懲りないな。
 その時、ニセモノの背後から突然アキセが現れる。
 アキセが銃を構える。
 イルは咄嗟に左手でニセモノをどかす。
 アキセが撃ち出せば、風の球が飛んでくる。
 避けられない。右手で前に出そうとしたが、動かせなかった。そのまま風の球を受けてしまい、背後の木に飛ばされる。
 さらにアキセは銃を撃つ。イルは横に避けるが、弾が地面に当たり、陣が浮かぶ。陣から鎖が伸びる。避け切れず、鎖に絡まれ、陣の方へ引っ張られる。
「あ~アキセ様~」
 ニセモノはアキセにかけ寄る。
今の状況、見ていないのか。見惚れるところじゃないだろうか。
「ごめんね。少し寝てくれるかな」
 その時、ニセモノは寝てしまった。魔術だろうか。だとしても使った様子がない。
 アキセはニセモノの顔に手をかざす。ニセモノの顔が変わった。茶色の髪をした女だった。
「さて」
 銃を構える。
「よくもやってくれたな」
 アキセの表情が変わった。冷たく、見下す目つきになった。
 逃げようにも、もがいても鎖がびくともしない。
アキセが引き金を引こうとした時だった。
「いい加減にしろ!」
 ジャンヌは背後から踵落としでアキセを地面に叩きつける。
 あまりにもの衝撃で思わず引いてしまった。


 朝になった。
 ジャンヌの力で鎖から解放され、アキセを痛めつけようとしたが、また逃げられた。
 ニセモノはナンシーというのが本名で、茶髪に緑色の瞳でそれなりに顔を整った30代くらいの女だった。仲間のデッドとビスと合流した。
 やはりジャンヌはそのまま返すつもりはないようで、慰謝料と言いながら、金を頂戴し、あの3人を解放した。
 ナンシーはイルに惚れたらしく笑顔で去っていった。


「おまえもあくどいことするな」
「暴力以外の解決方法はあるものよ」
「そうかよ。てか、世の女はあんな男に惚れるものなのか」
 イルが捕まってもアキセに見惚れていた。それまでに惚れやすい女だったのか。
「そういえば、言ってなかったっけ。あいつリリムよ」
 その発言で固まった。
「え・・・リリムってあのリリスの子供・・・」
「そうだけど」
「結局俺は魔女から逃げられないのか・・・」
 イルは青ざめる。
「まあ。落ち着いて。結構リリスは子供には興味ないみたいだからさ」
 ジャンヌは慰める。
「諦めるしかないか・・・」
 魔女を避ける生き方がないようだ。
「だったら、一緒に行く」
「それは断る」
 すかさず返した。余計に魔女に関わってしまう。
 ジャンヌは少し頬を膨らませる。
「ねえ。いつからニセモノだって分かったの」
 急に話題を変える。
「訊いてどうする」
「気になるから」
 言えない。匂いで分かったなど言えない。面倒くさくなるからだ。
「え?教えてくれないの」
 早くジャンヌから逃げる。
「分かった。もう訊かないから、最後に一つは答えてよ」
「まだあるのか」
 少し呆れるように言う。
「右手。大丈夫そうね」
 以前、暴走した星獣(アストラ)に右手を噛まれた。『光』を注がれ、『呪い』を浄化されれば、体に異常が起こす。そのことでまだ気にかけているだろう。
「また気にしていたのか」
「そりゃ気にするよ。あの時はっきり言ってくれなかったから」
「悪かった。もう俺は平気だ」
「ならいいよ」
 その時、目の前に白い鳥が飛んだ。
 ジャンヌは重い溜息を吐く。
「なんだ。急に」
「私はここまでにするよ。またね」
 ジャンヌは白い鳥が飛んで先に走る。
 イルは右手を抑える。


 イルは森の中を歩いていた。
 ジャンヌにはまだ右手のことはバレていない。アキセに殴ろうとして避けられ、地面に叩きつけてから右手の動きが鈍い。
 けど、このまま。
 その時背中から衝撃し、そのまま倒れる。
 撃たれた。引き金の音が全く聞こえなかった。体が動けない。重い瞼を閉じる。
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