魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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博戯の魔女④

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 翌日。

「もう一度訊く。何をしたんだ」
 ドナートに訊かれる。
「何回言わせるつもりですか。私はレオンに頼んで精霊術を仕掛けたんです」
 ドナートの指示で勝手に口が動く。
 ウィムが関われば、風で事前に情報が掴まれる。ドナートには主導権を奪われているから、企んでも口で吐かせる。だったら、一層のこと隠さずに吐かす。ただ。
「どのように仕掛けたのは、私でも分からないです」
「おまえが口封じにエルフを殺しただろうが!」
 ドナートは怒鳴る。


 ジャンヌは思い返す。


 ジャンヌはレオンに言う。
「相手の魔女にインチキだって知らせたい。けどウィムがいるから風を使えば、すぐに気づかれる。だからそれ以外で、精霊術で魔女に伝えることできる?」
「それならある」
 レオンはすぐに答える。
「だとしたら、詩い終わったら俺が首を切る」
 レオンがためらいもなく答える。
「ジャンヌさんもそのつもりだったんだろ」
 思わず黙ってしまう。レオンも察したようだ。
「あいつに主導権は奪われている。話せって言われたら終わりだ。だから詩い終わったら自害する。復活を遅くするのにも白い炎で燃やしてくれ。そのくらいじゃあ死なないと思うから・・・」
「ごめん・・・それしか思いつかなかった・・・」
「いいよ。それであいつから解放されるなら」
 レオンは軽く言う。
死なない体で魔女に弄ばれているから、命を落とすことに関しては軽薄なんだろう。
「発動条件はこっちで決める。大丈夫。ジャンヌさんでも分かるように発動はしてやるから」
 レオンが詩い終わった後、風で首を切り、さらに白い炎で燃やした。


 レオンはリリスと契約しており、リリスが死なない限り、レオンは死ぬことがない。『光』で回復を遅くし、少しでも時間を稼ぐ。
 自身で立てた作戦にしてもこれには応える。
 レオンのためにもこの作戦を成功させる。レオンが用意した発動条件を見つけなければいけない。ジャンヌでも分かるようにしてあるとは言っていたが、一体。
「まだ訊いていたの」
 机の上に座るウィムは言う。
「魔女様」
「こいつらは魔女にインチキを知らせるって狙いは分かっているんだから。それ以上言ったって無理でしょ。レオンちゃんはもうすぐ回復するんだから」
 ウィムもレオンの契約について知っていたようだ。
 白い炎で巻かれていた時の会話はウィムには届かなかった。ウィムも分かっていない。
「もうすぐ来るんですよ」
「それまでには起こすわよ。まさかここまでするとは思わなかったけどね」
 ウィムは見下ろす。
 その時ノック音がした。
「ドナート様。お時間です」
 扉の向こうから知らせる。
「ほら、行ったら」
 ウィムは言う。
「おまえも来い!」
 ドナートはイラつきながらジャンヌに言う。
 また足が勝手に動く。


 ドナートに連行されたのは、個室だった。
 高級そうな部屋で、椅子二つとテーブルがあった。
「ここでやるの」
「特別ゲストだ。部屋もふさわしくしなければな」
 ドナートは睨みつける。
「おまえは、博打が終わるまで何もするな。そこで立ってみてればいい」
「分かりました」
 呆れるように返す。
 やはり動きが止められる。動作が条件だったら何もできない。それもレオンは分かっているはず。他に何がある。
 ドナートは持っていた懐中時計を見る。
「時間だ」と言った途端に、何もないところから魔女が姿を見せる。
 肩までの薄黄緑色の髪、黄色の瞳。首に白の付け襟。腕には薄いアームカバー。胸までにフィットする衣服に腰から薄く長い裾。黒いシルクハットをかぶった女だった。



「お待ちしておりました」
 ドナートは言う。
「本当に聖女を捕まえるなんて。しかもメイドにして」
 魔女はクスっと笑う。
 プチ。でも我慢。
「どうやって聖女を大人しくさせたのかしら」
 魔女は目を細めて見つめる。人間が聖女を押さえられるとは思わないからだろう。
「それは聖女から勝負してきたんです。一発で勝ちましたね」
「ちょっと!」
「あら、野蛮な戦いをする聖女が、賭けに弱いなんて。クス」
 殺す。けど我慢。
「聖女をどうするつもりで」
「そうね。折角もらったから・・・私も大戦したい魔女に使おうかしら」
「まだあげてませんよ」
 ドナートも負けずという。
「自信満々ね。博戯(はくぎ)の魔女モニカ・カジ・ブディスに勝てると思って」
 モニカは見下ろして言う。
「あなたの連勝を俺が止めますよ。一生俺のために金を稼いでもらいましょうか」
「鼻をへし折ってあげましょうか」
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