魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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豊富な国①

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 もうすぐ国がある。
 そこは道具の国『ヘブンブルク』がある。この国に行けば、道具が溢れるほどなんでも揃えているという。
 そこで道具を補充するために国に向かっていた。
 ただこの高い麓(ふもと)の上にあるようだ。まだ道が長いということ。どのくらいで着くことやらと思った時だった。
 小石が降ってきた。
「ん?」
 上を向けば、何かが落ちてきた。影からして小さな人のようだった。
「え!?」
 足に白い炎を噴射し、上へと飛ぶ。
 人を受け止める。白い炎を足に噴射し、落下を和らげる。勢いを少しずつ殺しながら、地面に着地する。
「ふう~」と安堵の溜息を吐いた。
 思わず助けてしまった。
 でも上から落ちてくるということは、『ヘブンブルク』の者だろうか。顔を見れば、小柄にしては顔に髭をはやしていた男だった。
「ドワーフ・・・」
 ドワーフ。
 背丈が低く、男女とも髭を生やした亜人(デミ・ヒューマン)の一族。どんなものも作り、技術や品質が高く評価されている。
 ドワーフは、かすかだか息がある。体中に黒く染まっている。呪病にもかかっている。
 呪病は、『呪い』の抗体がなければ、人体を蝕む。『光』を注けば、浄化して完治できる。
 ドワーフの体に手を添え、『光』を注ぐ。
「せい・・じょ・・」
 ドワーフは気が付いたようだ。
「今、治すから」
 ドワーフに手を掴まれる。
「助けてください・・・魔女が・・・」
 すがるように言う。
 魔女がいるようだ。


 ドワーフを看病していたら、夜になってしまった。
 焚火の前でドワーフを横にして安静させている。
「う・・・」
 ドワーフが目を覚ましたようだ。
「あなたは・・・」
「呪病は完治したけど、安静した方がいい。でもその前に何か食べた方がいいかもね」
ドワーフはやせ細っている。これは事情が深そうだ。
「本当に聖女様ですか・・・」
「じゃあなきゃ。呪病は治せないでしょ」
 ジャンヌはドワーフを見つめる。
「魔女がいるんでしょ」
「はい・・・」
 ドワーフは答える。
「僕は、ドワーフのロムと申します。私たちドワーフは、ヘブンブルクのために道具を作っています」
「ん?」
 ジャンヌは首をかしげる。
「ドワーフが作っていたの?」
ドワーフの話なんて一切ないか。
「はい・・・ただ・・・」
 ロムは言葉を詰まる。
「国は魔女に支配されています。魔女からもっと道具を生産するように言われ、毎日夜遅くまで休まず働いています。それに食べ物も飢えているのか食べ物の供給も乏しく、まともな食事をしていません。そんな日々を続いているので過労で倒れた者も多く、僕の友達も倒れました」
「脱走とか考えられなかったの」
「脱走した者もいました。その者も魔女にやられたそうで、それっきり・・・」
 噂は必ずしも真実とは限らないにしても、話に聞いていたのとまったく違う。
「友達が倒れて思ったんです。魔女がいる限り、こんな労働が死ぬまで続くんじゃないかって。僕が死んでも国のためにも、働くドワーフのためにも・・・魔女を退治するにも聖女しかいないと聞いています。だから僕は、聖女を探しに抜け出しました。けど、体が急に苦しくなって、そのまま崖に・・・」
「そういうことね」
 だから、あの時崖から落ちてきたのか。
「お願いします。助けてください」
 ロムは頭を深く下げる。
 ロムの経緯は分かった。話を訊く限り、ヘブンブルクは魔女が支配し、無理やり道具を大量に作り上げているということ。
「訊きたいことがあるの」
「はい?」
「まず、魔女は支配されたのはいつから」
「私が生まれる前からです。いつからまでは分かりません」
「生まれる前からってあなた、年は?」
「15です」
「え・・・マジ?」
「そうですか」
 そういえば、ドワーフは見た目と年は比例しないんだった。
 最低でも15年前から魔女が支配している。だとしたら、もう聖女が対処しているはず。それに『呪い』で何かしら影響が出るが、その様子がない。
「その魔女は見たことがあるの」
「定期的に監視の為に来ます。大きいローブを着ているので、顔までははっきり見てませんが、力を使ったところは見たことあります」
「そう・・・」
 だとしたら、これは。
「分かった」
「本当に!」
 ロムはやっとこれで救えると思えるような希望のある目になった。
「ただこれだけは約束してくれない」
 なんだろうとロムの表情が変わった。
「魔女がいないことも考えてほしい」
「それは・・・」
 ロムは首をかしげる。
「よく魔女を偽装して権力を使う時もあるのよ。魔女がいたら、私が退治する。けど魔女がいなかったら、国があなたたちにウソをついていたことになる。反乱の元になりかけない」
 ロムは思わず黙り込んでしまう。
「どっちにしても魔女を退治した後がどうなるか、予想はつかない。あなたが思い描くようになるとは思わない。だから、もしものことを考えてほしいの。あなたをしていることはそれだけ危険なことをしているのよ」
 ロムの握った手が震えている。
退治することしか考えていなかったんだろう。魔女を倒せば、全て解決すると。そう簡単だったら、何も苦労はしない。
「それに私は魔女狩りまでしか関与しないから」
 最後まで面倒を見るつもりがない。けど。
「分かりました・・・」
 ロムは決めたようだ。
――私も悪い方向にならないと思えたい。
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