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字崩の魔女⑥

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「結局、魔女の目的はなんだったろう。ウィーン辞典はニセモノだったし」
「それにジジぃはペテン師だったし。まあ自業自得だけどな」
 ジャンヌとアキセは街から離れていた。
なぜなら、ケネスが魔女に殺されたからだった。
 ケネスは詐欺師ではあり、真実を吐き出す前に殺されてしまった。
 住民からもかなり信頼を得ていたようで、現状から見れば、確実に容疑者になるので、ジャンヌと一緒に逃げた。
その内、屋敷を調べる際に正体明かされるだろう。
「そういえば、魔女はあんたを襲ったのって~」
 ジャンヌがアキセにジト目する。
「いいや。もう終わったことだし、これ以上詮索したら面倒くさいから」
 ジャンヌは歩いていくが、「あ!」と思い出したように声を上げる。
「置いてきちゃった」
「あ?」
「しつこいナタルのこと?」
 そういえば、忘れていた。
「さすがに容疑者になっちゃうかな」
 ジャンヌが珍しく心配している。それはアキセに向けてほしい。
「僕のこと呼びました?」
 背後からナタルが突然現れた。
――あの部屋氷漬けになったのに、なんで生きているんだろうか。
「いや~目を覚ましたら、部屋は荒らされていましたし。皆さんいなかったので、魔女退治終わったのかなって思い、すぐに追いかけましたよ」
 ケネスのことを眼中にない。
 もうウィーン辞典がニセモノだと気づいて冷めたのか。
「心配するんじゃなかった・・・」
 ジャンヌは後悔している。
「で、これからどこに行きます?」
 もうナタルは、一緒に魔女狩り行く気満々だったので、アキセは『飛ばしコイン』でナタルを適当に転送する。
「さてと。邪魔者は消えたし。これでゆっくり・・・」
 アキセはジャンヌの肩を触ろうとしたが、ジャンヌに腕を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられる。
 背中からの直撃。イタイ。
「失せろ」と吐き捨て、ジャンヌは去っていった。


 周囲には誰もいない。
 アキセは本を召喚する。
 マルチナの目的はこの本であることは分かっている。
 以前、墨鯉(ぼくり)の魔女がウィーン辞典を狙っていた。だか、あれは欲しがっていた。返せとは言っていない。返せとは所有物から取り返す言葉。
 まさかとは思うが、字綴(じてい)の魔女マリカラ・ウィーンが転生した魔女だったのか。
 魔女は生まれ変われる。マリカラがマルチナに転生し、本を取り戻しに来た。
だとしたら、直接操り、取り込もうとしなかった。
 マルチナに目を奪われた時、タタリにかかったが、なぜか解けた。
それに「ふざけるな。私の本に仕掛けやがって!」と発したあの発言から考えるとこの本に守られていたとしか考えられない。
 よく考えたら。
 なぜ、マリカラは死に、ウィーン辞典を手放したんだ。


 ラプラスの部屋。
 書館(しょかん)の魔女ラプラス・ライブラーがノレッジにより集めた知識を本に変え、保管している空間。
 ラプラスはいつものように本を読んでいた。
「ねえ。ラプラスラプラス」
 同居の空想の魔女ルシア・ファンタジアがラプラスに声かける。
「何かしら?」
 ラプラスは本を読んでいる。
「あの魔女が現れたみたいだったけど、すぐに聖女に殺された」
「あらそう。また転生したようね」
 興味なさそうに返す。
「あれ?意外に驚かないの?」
「どうして?」
 ラプラスは本をめくる。
「ええ。だって転生したら、あの本を取り戻しにくるでしょ」
「それは大丈夫よ」
「ん?」とルシアは首をかしげる。
「本の所持者には襲撃も操らないようにしているから。あの魔女限定にね」
「狡知(こうち)に長けてますね」
「よくそんな言葉を知っているわね」
 ラプラスは小さく突っ込む。
「根に持つ女としつこい女は最も醜いわよ。女は美しくないとね」
 ラプラスは本を閉じる。
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