193 / 648
字崩の魔女④
しおりを挟む
「すみませんが、ウィーン辞典を見せてもらってもいいですか」
部屋の前にナタルがケネスに頼み込んでいる。
「聖女と一緒に待ってくれませんか」
ケネスは少し困った様子で返す。
やはり保管場所は見せたくないようだ。
「いや、いち早く見たいんです!」
それでも懇願するナタル。
「勉強熱心なのは構わないが、せめてここにいてくれませんか」
「分かりました。待ちます!」
ナタルは部屋の前で待つことになり、ケネスは部屋に入る。
壁の一面に本棚と一つの窓の前に机と椅子がある書斎のような部屋。
ケネスは本棚にある一冊の本を押す。
本棚が左右にスライドして開き、いくつものの大小の違う金庫が壁に張り付いていた。その中の右側の小さな金庫に手をつける。ケネスは取り出した杖で鍵穴に指す。
念じれば、開ける仕組みだろう。
金庫の扉が開き、一冊の本が置いてあった。
ケネスは本を金庫から取り出す。
「それがウィーン辞典ですか?」
ナタルがケネスの背後から見ていた。
やはり我慢はできないようだ。
「あれ?」
ナタルは首をかしげる。
よし。
手に召喚した小さなビンを二人の足元へと投げ捨てる。ビンは割れ、液体が蒸発していく。
「これ、ニセ・・・」
ナタルやケネスは倒れていき、本は床に落ちる。
眠らせた。魔術を使っては魔女に気付かれる。睡眠薬の入った瓶を使うことにした。
部屋中に睡眠薬が充満しても『なんでも遮断マント』で遮断できる。
アキセは、『なんでも遮断マント』で姿を消し、ケネスが本を出すまで様子を見ていた。
拾った本の中身を開けば、読み通りだった。
「やっぱ。ニセモノか。魔女の餌にもならんな」
解読された魔女文字(ウィーンもじ)を書いてあるだけ。解読されただけでも集めるのに苦労するが、素人から見れば、誤魔化せる。
本物であれば、確かめたいことはあったが、その必要がなくなった。
その時、窓が開き、思わず肝を冷やした。
部屋に充満していた睡眠薬が外へと逃げていく。
なぜ、窓が急に開いた。魔術で自動的に動いたわけでもない。
その瞬間、銃声が鳴り、顔の横を弾が通り、壁に扉に当たった。
「姿を見せろ!」
起きたケネスが銃を構える。
おかしい。一晩は眠らせることのできる強力な薬だか。魔術で防いだとしてもそんな仕草はなかった。
魔術は使えない。実弾ならコルンの発明品で防げる。それにまだ利用してもらう。
アキセは『なんでも遮断マント』を指輪の中に仕舞い、姿を見せる。
「聖女と一緒にいた者か・・・」
ケネスは鋭い目つきをする。
「それが目的か・・・」
「こんなド田舎にそんな貴重品あってたまるか。これもニセモノだとしたら、賢者っていうのもウソだろ」
賢者は、才能と『呪い』の抗体の高さを持ち、術の開発、発見。魔術界で貢献や功績を残した魔術師が得る称号。
「賢者ほどの実力があれば、ノレッジが狙ってくる。結界すら張っていない。そりゃそうだろうよ。まだそこで寝ている奴よりも知能がないってことなんだからさ」
ナタルは、魔女の知識を持っているのか、ノレッジに狙われている。ノレッジから身を守る特製のエンジェライトのペンタントを無くしたことで酷い目にあった。
「賢者って言えば、生徒を集めるためにもいいネタになるもんな。詐欺師が」
ケネスは険しい顔をする。
「バラしたくなければ、この本を本物にしてやるからよ」
ウィーン辞典に見立て、魔女を餌にするしかない。
「いや。だったら本物をくださいよ」
ケネスの表情が変わった。魔女のように不気味に笑う。
その時、頭に衝撃した。ぐらつく。頭に本がぶつかり、『見通すサングラス』が取れてしまう。
「しま・・・」
アキセの目の中に『塞』『黒』『目』『喪』『視』『感』などの文字で埋まっていく。
「う!」
気持ち悪い。視界がはっきりしない。吐き下がする。感覚も奪われ、立つこともままならず、そのまま膝をつく。
「早く出せ・・・」
「そうか・・・そもそも目的が俺か・・・」
『見通すサングラス』をかけていた。周辺に文字の虫はいなかった。
ケネスは魔女と組んでいたのか。いや魔女に侵食している方が正しいか。
その時、ガラスが割れたような音がした。
窓が割った音ではない。タタリが解けた音だった。視界が取り戻し、調子が戻っていく。
――どういうことだ。何もしていないぞ。
顔を上げれば、ケネスが悔しそうな顔をしている。
「ふざけるな。私の本に仕掛けやがって!」
何を言っている。
迫ってくるケネスに首を絞められ、そのまま押し倒れていく。
「お前が持っているだろう!」
「男に乗られる趣味はない!」
見た目の割に怪力。ケネスの腕を掴み、離そうとする。
「返せ!返せ!」とケネスが急に離れる。
目の前で何かが通った。
「なかなか帰ってこないと思えば、自分から来てくれるなんて。手間が省けた」
ジャンヌはロザリオを構える。
部屋の前にナタルがケネスに頼み込んでいる。
「聖女と一緒に待ってくれませんか」
ケネスは少し困った様子で返す。
やはり保管場所は見せたくないようだ。
「いや、いち早く見たいんです!」
それでも懇願するナタル。
「勉強熱心なのは構わないが、せめてここにいてくれませんか」
「分かりました。待ちます!」
ナタルは部屋の前で待つことになり、ケネスは部屋に入る。
壁の一面に本棚と一つの窓の前に机と椅子がある書斎のような部屋。
ケネスは本棚にある一冊の本を押す。
本棚が左右にスライドして開き、いくつものの大小の違う金庫が壁に張り付いていた。その中の右側の小さな金庫に手をつける。ケネスは取り出した杖で鍵穴に指す。
念じれば、開ける仕組みだろう。
金庫の扉が開き、一冊の本が置いてあった。
ケネスは本を金庫から取り出す。
「それがウィーン辞典ですか?」
ナタルがケネスの背後から見ていた。
やはり我慢はできないようだ。
「あれ?」
ナタルは首をかしげる。
よし。
手に召喚した小さなビンを二人の足元へと投げ捨てる。ビンは割れ、液体が蒸発していく。
「これ、ニセ・・・」
ナタルやケネスは倒れていき、本は床に落ちる。
眠らせた。魔術を使っては魔女に気付かれる。睡眠薬の入った瓶を使うことにした。
部屋中に睡眠薬が充満しても『なんでも遮断マント』で遮断できる。
アキセは、『なんでも遮断マント』で姿を消し、ケネスが本を出すまで様子を見ていた。
拾った本の中身を開けば、読み通りだった。
「やっぱ。ニセモノか。魔女の餌にもならんな」
解読された魔女文字(ウィーンもじ)を書いてあるだけ。解読されただけでも集めるのに苦労するが、素人から見れば、誤魔化せる。
本物であれば、確かめたいことはあったが、その必要がなくなった。
その時、窓が開き、思わず肝を冷やした。
部屋に充満していた睡眠薬が外へと逃げていく。
なぜ、窓が急に開いた。魔術で自動的に動いたわけでもない。
その瞬間、銃声が鳴り、顔の横を弾が通り、壁に扉に当たった。
「姿を見せろ!」
起きたケネスが銃を構える。
おかしい。一晩は眠らせることのできる強力な薬だか。魔術で防いだとしてもそんな仕草はなかった。
魔術は使えない。実弾ならコルンの発明品で防げる。それにまだ利用してもらう。
アキセは『なんでも遮断マント』を指輪の中に仕舞い、姿を見せる。
「聖女と一緒にいた者か・・・」
ケネスは鋭い目つきをする。
「それが目的か・・・」
「こんなド田舎にそんな貴重品あってたまるか。これもニセモノだとしたら、賢者っていうのもウソだろ」
賢者は、才能と『呪い』の抗体の高さを持ち、術の開発、発見。魔術界で貢献や功績を残した魔術師が得る称号。
「賢者ほどの実力があれば、ノレッジが狙ってくる。結界すら張っていない。そりゃそうだろうよ。まだそこで寝ている奴よりも知能がないってことなんだからさ」
ナタルは、魔女の知識を持っているのか、ノレッジに狙われている。ノレッジから身を守る特製のエンジェライトのペンタントを無くしたことで酷い目にあった。
「賢者って言えば、生徒を集めるためにもいいネタになるもんな。詐欺師が」
ケネスは険しい顔をする。
「バラしたくなければ、この本を本物にしてやるからよ」
ウィーン辞典に見立て、魔女を餌にするしかない。
「いや。だったら本物をくださいよ」
ケネスの表情が変わった。魔女のように不気味に笑う。
その時、頭に衝撃した。ぐらつく。頭に本がぶつかり、『見通すサングラス』が取れてしまう。
「しま・・・」
アキセの目の中に『塞』『黒』『目』『喪』『視』『感』などの文字で埋まっていく。
「う!」
気持ち悪い。視界がはっきりしない。吐き下がする。感覚も奪われ、立つこともままならず、そのまま膝をつく。
「早く出せ・・・」
「そうか・・・そもそも目的が俺か・・・」
『見通すサングラス』をかけていた。周辺に文字の虫はいなかった。
ケネスは魔女と組んでいたのか。いや魔女に侵食している方が正しいか。
その時、ガラスが割れたような音がした。
窓が割った音ではない。タタリが解けた音だった。視界が取り戻し、調子が戻っていく。
――どういうことだ。何もしていないぞ。
顔を上げれば、ケネスが悔しそうな顔をしている。
「ふざけるな。私の本に仕掛けやがって!」
何を言っている。
迫ってくるケネスに首を絞められ、そのまま押し倒れていく。
「お前が持っているだろう!」
「男に乗られる趣味はない!」
見た目の割に怪力。ケネスの腕を掴み、離そうとする。
「返せ!返せ!」とケネスが急に離れる。
目の前で何かが通った。
「なかなか帰ってこないと思えば、自分から来てくれるなんて。手間が省けた」
ジャンヌはロザリオを構える。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる