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魅稚の魔女③

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「拉致じゃない。迷子にならないように家に連れ込むの!」
――それを拉致と言うのでは。
「何言い訳しているのよ。誘拐魔が!」
 ジャンヌは距離を詰め、ロザリオを大きく振る。
 魔女は、アキセを抱きながら後ろへ下がる。
――おい。俺がいるから。ちょっとは考えろ
「ち!」
 舌打ちした魔女は走る。
あれ。戦わない。この魔女は戦闘向きではないのか。
「逃がすが!」
 ジャンヌも追いかける。
「もうほっといてよ!」
 その時、太い枝が魔女の顔に当たる。その衝撃でアキセは後ろへ投げられる。
「え!」
 地面に落ちることなくジャンヌが受けとめる。
「大丈夫?」
 ジャンヌは優しく声をかける。
「え・・・あ・・・」
 何か言いかけようとしたが。
「もう!」と魔女は悔しそうに声を上げ、そのまま逃げていった。
 ジャンヌは安堵の溜息を吐き、改めて見つめられる。
「あれ?君?前にも会わなかった?」
 覚えているのか。
 以前、コルンの発明品で子供の姿に変えられ、調理の魔女アニア・パティールに調理されるところを助けてもらった。その時はロンとしてどうにかやり過ごした。
「確かロン君だよね?どうしてここに?」
 ジャンヌが尋ねる。
「え~と・・・」
 どうにか誤魔化す。
「また魔女に攫われて・・・」
「あなたも運がないわね」
 ジャンヌは少し呆れ気味に言う。
「いたいた」
 別の声がした。
 木の陰から男装のレオンが姿を見せる。
――なんでおまえまでいるんだ。
「とりあえず作戦・・・」
 レオンと目が合う。
「・・・」
――ちょ~見てる。レオンが見てる
 レオンは夜輝(よき)の魔女リリス・ライラ・ウィッチャーの子供、エルフのリリム。リリムは、近くいれば、お互い気配で感じる。つまり、正体に気付かれてしまうということ。
「こいつ、ガ」
「お姉ちゃん!怖かったよ~」
 レオンの声を遮るように大声を上げ、ジャンヌに抱き着く。
――即座にばらそうとしやがって
「分かったからもう泣き止んで」
 ジャンヌが優しく言う。ジャンヌの胸が気持ちいい。
「そいつ・・・」
「うええええええええええええええん」
「もう!泣き止みなさいよ」
 こっそりレオンの方を見る。
 レオンが拳に怒りマークが見えるほど、殺意を込めている。それに顔をしかめている。
 その時、レオンが思いついたように悪匠の顔をする。
「ねえ。ジャンヌさん。ガルムが子供の姿に変えてまで襲いにかかったらどうする?」
 なんつーことを。
「何よ。急に」
 ジャンヌは不機嫌になった。
「もしもの話」
「そうね」とジャンヌが考え込み、「生かすことはない」と口調強めで答える。
 殺される。
 ジャンヌの答えに身が縮んだ。
「え?何。まさかこの子があいつだったってオチ?」
「そう・・・」
「うえええええええええええええええええええん。あのお兄さん怖いよおおおおおおおおおおおおおおお」
「もういい加減に泣き止みなさいよ」
 ジャンヌが優しく体をなでる。
「あのお兄さんは怖くないよ。どっちかというと可愛い方かな」
 ジャンヌは、少しイタズラな笑みでレオンを見つめる。
 その発言にレオンの顔が赤くなった。
「ジャンヌさん!俺は男だ!可愛いなんて思われたくない!」
「分かってる。ちゃんと男らしいとこもあるってことも」
「ええ。そう」
 レオンがまんざらでもなく言う。
 ちょっと待った。なんだ。その発言は。俺のいない間に何があったんだ。
「今思ったけど」
 ジャンヌは思い出したように言う。
「なんであいつの昔の名前で呼ぶの?」
 そういえばレオンは昔の名前で呼んでいる。リリスから聞いたと思うが。
「あいつの名前で呼んだら目の前に現れそうで。それに今の名前で呼びたくないし」
「そういうことなの。分からなくはないけど」
「で、そいつどうするんだよ」とレオンは不機嫌に言う。
「この子を街まで送りましょう。安全確保のために」
 ジャンヌに抱かれながら歩いていく。
「安全確保ね~」
 レオンも歩いていく。
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