魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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入れ替わっちゃった②

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「おいおい。まだあの聖女を狙ってるのか」
 茂みから森の中を歩くジャンヌを眺めていた紅孩児に猿の半獣人(デミ・ビースト)のゴクウが言う。
「髪の恨みと穴に入れるまでな」と恨みを込めて紅孩児は返す。
「は・・・俺はもう関わりたくないんだか」
「んだよ。おまえだってあの聖女に恨みあるだろ」
「そりゃ~あるけど、俺はごめんだ」
「今回は、絶対に成功するって」と紅孩児は自信満々に言う。
「そんな自信、どこから出るんだよ」
「コルンからくすねてきた」
 紅孩児は、顔ほどの大きさで青く柔らかそうなボールを取り出した。
「あのチビ。失敗するからあげねえっていうんだ。だからくすねてきた」
「盗んだのか。そのボールで何かできるんだ?」
「確か媚薬入りボールだ。当たった者は最初に見た者と虜にするという。これであの聖女を虜にさせる」
「そんなのうまくいくか」
「おまえ。少しは手伝え!」
 紅孩児は媚薬入りボールを投げる。
「うわ!」
 ゴクウは咄嗟に避け、媚薬入りボールは木同士で弾きながら、ジャンヌに当たる。ジャンヌは倒れ、さらに媚薬入りボールは、上空へと飛んでいく。
 ゴトン。
 何かが当たり、遠くの方で落ちたようだ。
「おい。何かが落ちたぞ」
「よし!当たった!」
 紅孩児は振り向かず、ジャンヌに当たったことに喜ぶ。
「あ~くそ。またあいつが来やがった」
 あいつとはアキセ・リーガンだった。
「あれ。媚薬入りなんだよな。様子おかしくね」
 惚れている様子がない。動揺しているし、嫌がっている。
「なんか前より女気が増している」
「いや。これはこれでイケるかも」
 紅孩児は獲物を見る目でよだれを出しながら見ている。
 その前に疑うとこあると思うが。
「あ!逃げた!」
 紅孩児は飛び出す。
「あ~もう知らんぞ」
 関わりたくないゴクウが帰ろうとした時に寝ている女を見つける。
「これは・・・」
 空色の髪で横髪を伸ばし、マフラーのように巻いている。胸までの白と青のふんわりとしたドレスに足を見せる女だった。
 色気がある。それに胸がいい。思わず興奮してしまった。
 手を出そうとした時に顔を掴まれ、ボコられたという。入れ替わったアニエスの体の中にいるジャンヌに。


 と(アニエスの体にいる)ジャンヌに殴り、縛りつけた紅孩児とゴクウが白状した。
「ほ~虜にさせて何をさせるつもりだったのかしら」
 ジャンヌは、ゴリっと手を鳴らす。
「その前に虜にさせるところが、私たちが入れ替わっていることを考えるべきでは」
 (ジャンヌの体にいる)アニエスは、静かに言う。
「単に媚薬入りボールでもないってことだろう。こいつらバカだし」
「ああ!」
 紅孩児が一番に反応した。
「つーかそんなものがあったらとっくに頂戴している」
 その時、ジャンヌは瞬時にアキセに視線を変える。疑うような目で。
「けど、聖女と魔女が入れ替わったとはな・・・く」
 アキセは笑い、ジャンヌは、笑っているアキセに一発殴る。
「あんた!絶対気付いたでしょ!」
「え~俺も気付かなかった~」とアキセがとぼけたように言う。
「ウソつけ!」
 アキセの胸倉を掴む。
「まあ・・・フルネームまで言われた時に」
 最初に会ったあの時には気づいていたようだ。
「君の場合、怒りを込めて呼ぶから」
「あ~呼ぶ。殺意を込めて。これもコルンの発明品でしょ。何か知っているなら早く吐け!」
 ジャンヌはアキセを揺さぶる。
――聖女でも効くコルンの発明品は怖いですし、脅迫かける聖女も野蛮です。それに脅されているのに惚ける余裕のある男はなんでしょうか。
 アニエスは呆れる。
「おいおい。口の訊き方があるだろ。まず、誠意を込めて後でセックスしますので、教えて~」
 惚けるアキセにジャンヌが首を絞める。
「分かった・・・分かったって・・・」
 アキセが苦し紛れに言う。
 ジャンヌはアキセから手を離す。
「たく。話を聞くかぎり入れ替わりボールだ。ボールに当たった二人が入れ替わる代物」
「そんなふざけた道具に入れ替わったわけ!」
 ジャンヌが声を上げる。
「で、どうすれば戻るのよ」
「そのボールについているリセットボタンを押せば、元に戻る」
「じゃあ。さっさといえ!今すぐ道具を出しなさい!」とジャンヌは、すぐに紅孩児の首を絞め、脅しにかかる。
「知らん!」
 一瞬固まってしまったアニエスとジャンヌ。
「こーろーすーぞー」
 ドスの入った声でジャンヌは言う。
 そういえば、ボールに当たった後は見ていない。
「本当になくしたって!」
 紅孩児が言い訳するように言う。
「隠しているのは分かっているんだ!はよ出せ!」
 現実を受け止められないのが、さらに紅孩児を脅しにかかっている。
「やはり聖女は野蛮です」と口から漏れる。
 ジャンヌが振り向いた。
「魔女に言われ・・・」と言いかけたところでジャンヌが膝をつき、息が荒くなる。
「なんだ?」
 アキセが首をかしげた。
 その時、アニエスも膝をつく。息も苦しい。呼吸が乱れる。
 これって。
「あ~やっぱり起きるんだ」
 アキセが呑気に言う。
「ああ」
 ジャンヌはアキセに視線を向ける。
「お互い入れ替えった体に拒否反応が起きているな」
 アニエスは『光』が『呪い』を浄化され、ジャンヌは『呪い』が『光』を汚染されていると考えるべきだろう。
「よし!」
 紅孩児が声を上げた途端に煙幕が広がる。
 周りが見えない。急に殴れ、そのまま意識が飛んでしまった。


「くそー」
 目を覚ましたアキセは、頭をさすりながら立ち上がる。
 紅孩児が煙幕で視界を奪われた隙に頭を思いっきり殴られ、気絶してしまった。
 それにジャンヌとアニエスがいない。紅孩児とゴクウに誘拐したのだろう。
「たく。聖女と魔女が誘拐って・・・あれ?」
 足に違和感がある。下を見れば、靴がなくなっている。
 なぜ、靴が無くなっていると思えば、指輪も指からなかった。
 どうやら、指輪と靴を盗まれていた。靴の中には伸縮自在の杖を隠し持っている。紅孩児はそれを知っている。以前、紅孩児の前で見せてしまったからだ。これでは魔術が使えず、紅孩児に対抗ができない。どうすれば。
「えい」
 頭に何かが当たる。聴いたことのある女の声。
 振り向けば、入れ替わりボールを持っていた風鳴の魔女ウィム・シルフだった。
「げ!?」
「久しぶり!」
 ウィムはイタズラな笑みを見せる。
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