魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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屍花の魔女⑥

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 アキセは魔女に引きずられる時、魔道具『アクアチョーカー』を瞬時に召喚した。
 水中でも息が吸えるように開発された魔道具。カースネロと文字を刻んだ紐。首に着ければ、顔を覆うほどの結界を張り、水の中でも空気が吸える仕組みとなる。
 これで息は耐えるが、視界が見えない。濁りが濃い。周りを見ても、ジャンヌが見えない。ジャンヌはガイコツに引きずられているはず。早く『水切り杖』を。
 その時、手を掴まれる。
「私を見て・・・」
 顔を赤らめている魔女が見つめられる。
「屍花(しかばな)の魔女バーニラ・スイレーンを見て。私たちを見て・・・」
 顔を触られ、手からツルが伸びる。
 大きく手を払い、バーニラから離れる。手に『水切り杖』を召喚し、底へと投げる。
 『水切り杖』は、湖の底へと消える。
「私を・・・」
 バーニラに口づけられそうになった時だった。
 鐘のような音が響き、視界がまぶしくなったと思えば、体が重くなり、下へと落ちていく。
「うわ!」
 尻から叩きつけられる。
「ぐ・・・」
 息ができる。地面を見れば、骨が積もっていた。
 湖底に『水切り杖』が刺さっている。湖底を中心にサークルを広げ、空まで水を切り、湖が滝のように流れている。
 周囲を確認する。
 2時の方向に四つん這いジャンヌを見つけた。
 ジャンヌの元へと駆け寄る。
「行かないで!」
 バーニラが声を上げた時、足に何か掴まれた。
 足元を見れば、バラバラになった骨がガイコツへと再構築し、アキセを見つめていた。ガイコツがアキセに手を伸ばした時だった。
 ガイコツが白い炎に包まれる。白い炎。つまり。視線を向ければ、息を乱しながら、立ち上がるジャンヌ。
「腐れ女!」
 ジャンヌは怒声を上げる。
「泥棒女!」とバーニラも怒鳴る。
 背後の水の壁から水柱が噴射する。
 水柱は、アキセを通りすぎ、ジャンヌへと向かう。
「ち~が~う~わ!」
 ジャンヌはドスの入った声でロザリオに白い炎を纏い、大きく払う。
 白い炎は水柱に吸い込まれるように消え、水柱は迫ってくる。
――バカ。避けろ。
 『光』をかなり消耗したはず。無駄な意地を張るな。
 走っても、魔術で援助するにも間に合えない。
 その時、上から青く輝く水が壁のように迫る水柱を押しつぶす。
上から人が着地した。
「ジャンヌ!押し付けたな!」
 ヒュパティアだった。
「押し付けてない。任せただけ」
「たく!」
 ヒュパティアが悪態をつく。
「まだ『光』切れてないでしょ。ここに本体がいる。あなたともうこれ以上いたくないから、さっさと探して殺してきな」
 ヒュパティアが鞘を構える。
「じゃあ、遠慮なく」
 ジャンヌが走ったので、追いかける。
「ちょっと来ないでよ」
「今いうセリフかそれ」
 目の前に再構築したガイコツが襲ってくる。
 ジャンヌの『光』をこれ以上消耗するわけにはいかない。
 アキセはグローブ型の杖を召喚する。5本の指飾りと繋げてある甲の部分に刻んだ宝石をはめているグローブ。
手の中に込めた風の球をガイコツに飛ばす。ガイコツは細かく粉砕される。
 その先に中央に何か窪んでいた。
「あれか!」
 走る。窪みの前に骨の山からバーニラが現れる。
「来ないで!」
 その時、背後から水の鞭がバーニラを真っ二つにする。ヒュパティアだろう。
 ジャンヌとアキセはバーニラを通りぬける。
「見るな・・・見るなあああああああああああああああああああ」
 真っ二つになってもバーニラは、悲鳴に近い声を上げる。
 窪みを見れば、さらに底が深かった。
 大きい白い花の中に泥みがあった。その中から死臭がする。泥をかぶり、腐りかけた人が睨みついていた。
あれが屍花の魔女バーニラ・スイレーンの正体。
 ジャンヌはロザリオに白い炎を込める。
「やめてえええええええええええええええええええええええええ」
 バーニラは叫ぶ。
 背後から再構築したガイコツが襲ってくるが、手に風の球を込め、ガイコツへと投げ、粉砕する。
「さっさとくたばれ」
 ジャンヌはとても蔑んだ瞳で見つめる。
 白い炎に纏ったロザリオを大きく振る。白い炎の波は白い花へと向かう。白い花は白い炎に包まれる。
「私はただ・・・愛してほしかっただけなのに・・・」
 バーニラは涙を流し、白く燃えていく。


「もう下ろせ」
 湖の底から地上へと戻った。しかもアキセに抱かれながら。
 地上に戻るほど『光』が大部消耗してしまった。そこでアキセが『ウェズボード』を召喚し、アキセに抱かれる形で地上に戻った。
 ヒュパティアは青く輝く水を噴射し、自力で地上に戻っていた。
「え~もう少し」
 殴るが顔を傾き、避けられる。アキセが勝ち誇ったように笑うので、今度は足を上げ、アキセの頭を当てる。
 アキセは後ろへ倒れるが、その反動でジャンヌは尻餅を思いっきり当たる。
「イター」
 尻をさする。
 アキセは痛そうに頭を抱えている。
「ほんとに仲間なの?」
 ヒュパティアは呆れるように言う。
「だから悪質ストーカーだって」
「ふ~ん。こんな女に好かれる男もどーせろくでないでしょうね」
 妙に合っている。周りには面倒くさい奴が多いような。
「違うさ」
 アキセが起き上がる。
「ジャンヌは、誘うような色気のある体つきしているから、狙われているだけ。けど、一番ノリするのはこの俺」
 下ネタ発言したアキセに湖の向こうまで思いっきり蹴り飛ばす。
「え、何。あなた、そんなにしたかったの?」
 引いているヒュパティアは、首をかしげる。
「だから違うって。それにしても今回の魔女も面倒くさかった」
 無理やり話題を変える。
「そうか。イヴ様から話しを聞いていないから知らないか」
「え?」
「あの魔女が生まれた理由を」


 この村では、子供を産めない女たちは、忌まわしいと言われ、湖に捨てられたそうだ。それが何年も続き、魔女が生まれた。
 ただ思ったのは、なぜ、そんな根拠のない行為を思いつくのだろうか。思いついた人間が時に怖い。
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