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聖女に憧れる少女④
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「改めまして、サーラ様のお世話をしています。セザールと申します」
長い白髪を束ねている。50代くらいの正装した男が言う。
互い向かい合うように長椅子に座っている。向かい側にサーラとセザール。その隣に何気にアキセがいる。
セザールがサーラを救出後、兵士たちが参戦し、黒服や魔術師を全員拘束した。
これで事件は解決した。セザールが事情を話すため、用意した高級な宿で一晩休み、今に至る。
「え~と。昨日も言っていたけどサーラは、王都の姫様でいいの」
「はい」
セザールは答える。
「サーラ様は第一王女。近い内に結婚を控えています」
「え?結婚?」
思わずサーラを見つめるが、サーラが嫌そうに視線をそらす。
「今回の結婚に反発派がいるのは存じていました。結婚するまでは大人しくしてほしいと言い付けましたが、その夜に抜け出しました」
お転婆娘。
「本当に心配しました。反発派に殺されたのではないかと」
セザールは心配そうにサーラを見つめる。
「しかし、保護した方が聖女様でよかった。誠にありがとうございます」
改めて言われる。
保護とは違うが。
「サーラ様。これ以上聖女様にご迷惑をかけてはいけません。帰りましょう。陛下も心配しております」
「嫌だ」
サーラが反抗する。
「懲りないのですか。聖女になりたいからと護身術を教えたにしても一人で戦えるほどお持ちではないでしょう」
だから剣術を覚えていたのか。
「聖女様が助けなければ殺されていたんですよ」
「私が油断しただけよ」
寝ていたよね。マイペースに。
「私は聖女になりたいの!」
サーラは言い張る。
これまでの話を聞くと。
「つまりサーラは結婚したくないから聖女になりたかったと」
「違います!」
サーラは、ジャンヌの元へと駆け寄る。
「確かにそれもありますけど・・・聖女様に憧れているのは本当です。悪意に働く魔女を退治し、冒険する聖女様がうらやましくて・・・」
真剣な眼差しで見つめるサーラ。
「だから、私も聖女になりたいです!」
その言葉で振り返ってしまう。
「あなたのように聖女になりたかった」と以前、聖女になりたかったという魔女のトリスを思い出す。
「ルチア様。私もみんなを守る聖女になりたい」
何も知らない幼かったジャンヌがルチアに言ったことを思い出した。
――そんな気安く言わないで
ジャンヌはサーラを顔に平手打ちする。
「え・・・」
サーラが唖然としている。
「セザールさん。後はお願いします」
何も言わずに部屋を出る。
サーラが何か言っていたようだか、耳に入れる気すらなかった。
「おいおい。どうしたんだ。急に」
廊下を歩いていた時、背後からアキセが肩に掴まれ、引き留められる。
話したくない。特にアキセなんかに。
アキセを払うために殺意を込めて睨みつける。
「おお。こわ」
アキセは手を離す。
昔の嫌な自分を見ているようで。吐き下する。
イヤなことを思い出してしまった。
何も言ってくれなかったルチアのことを。それでも聖女になりたいと言い切っていた自分を。あの時は何も知らなかった。自分しか考えられなかったから、取り返しのつけないことをした。
腹立たしい。忌々しい。
いくら過去を悔やんでも、意味がないのは分かっている。それでもあの時の自分が一番嫌い。
それにサーラの聖女の動機も腹が立つ。結婚がしたくないからなりたいと。聖女もなめられたものだ。イラつく。
聖女はそんないいものでもないのに。
ただ。憧れていたのは分からなくてもないが。
あの時以来、その想いはなくなった。ロザリオに手にしてからも・・・。あれ。ロザリオがない。
いつの間に。
ロザリオを探しに回る。
朝までは持っていた。思い当たるとしたら、アキセが接近したあの時に。
いや、肩に触っただけだったが、アキセなら瞬時に盗めなくはないか。
「聖女様!」
背後から男の声がした方へ振り向く。
「セザールさん?」
セザールが走ってきた。
「サーラ様とご一緒ではないんですか?」
「いないけど・・・まさか」
嫌な予感。
「サーラ様がいなくなったのです!」
長い白髪を束ねている。50代くらいの正装した男が言う。
互い向かい合うように長椅子に座っている。向かい側にサーラとセザール。その隣に何気にアキセがいる。
セザールがサーラを救出後、兵士たちが参戦し、黒服や魔術師を全員拘束した。
これで事件は解決した。セザールが事情を話すため、用意した高級な宿で一晩休み、今に至る。
「え~と。昨日も言っていたけどサーラは、王都の姫様でいいの」
「はい」
セザールは答える。
「サーラ様は第一王女。近い内に結婚を控えています」
「え?結婚?」
思わずサーラを見つめるが、サーラが嫌そうに視線をそらす。
「今回の結婚に反発派がいるのは存じていました。結婚するまでは大人しくしてほしいと言い付けましたが、その夜に抜け出しました」
お転婆娘。
「本当に心配しました。反発派に殺されたのではないかと」
セザールは心配そうにサーラを見つめる。
「しかし、保護した方が聖女様でよかった。誠にありがとうございます」
改めて言われる。
保護とは違うが。
「サーラ様。これ以上聖女様にご迷惑をかけてはいけません。帰りましょう。陛下も心配しております」
「嫌だ」
サーラが反抗する。
「懲りないのですか。聖女になりたいからと護身術を教えたにしても一人で戦えるほどお持ちではないでしょう」
だから剣術を覚えていたのか。
「聖女様が助けなければ殺されていたんですよ」
「私が油断しただけよ」
寝ていたよね。マイペースに。
「私は聖女になりたいの!」
サーラは言い張る。
これまでの話を聞くと。
「つまりサーラは結婚したくないから聖女になりたかったと」
「違います!」
サーラは、ジャンヌの元へと駆け寄る。
「確かにそれもありますけど・・・聖女様に憧れているのは本当です。悪意に働く魔女を退治し、冒険する聖女様がうらやましくて・・・」
真剣な眼差しで見つめるサーラ。
「だから、私も聖女になりたいです!」
その言葉で振り返ってしまう。
「あなたのように聖女になりたかった」と以前、聖女になりたかったという魔女のトリスを思い出す。
「ルチア様。私もみんなを守る聖女になりたい」
何も知らない幼かったジャンヌがルチアに言ったことを思い出した。
――そんな気安く言わないで
ジャンヌはサーラを顔に平手打ちする。
「え・・・」
サーラが唖然としている。
「セザールさん。後はお願いします」
何も言わずに部屋を出る。
サーラが何か言っていたようだか、耳に入れる気すらなかった。
「おいおい。どうしたんだ。急に」
廊下を歩いていた時、背後からアキセが肩に掴まれ、引き留められる。
話したくない。特にアキセなんかに。
アキセを払うために殺意を込めて睨みつける。
「おお。こわ」
アキセは手を離す。
昔の嫌な自分を見ているようで。吐き下する。
イヤなことを思い出してしまった。
何も言ってくれなかったルチアのことを。それでも聖女になりたいと言い切っていた自分を。あの時は何も知らなかった。自分しか考えられなかったから、取り返しのつけないことをした。
腹立たしい。忌々しい。
いくら過去を悔やんでも、意味がないのは分かっている。それでもあの時の自分が一番嫌い。
それにサーラの聖女の動機も腹が立つ。結婚がしたくないからなりたいと。聖女もなめられたものだ。イラつく。
聖女はそんないいものでもないのに。
ただ。憧れていたのは分からなくてもないが。
あの時以来、その想いはなくなった。ロザリオに手にしてからも・・・。あれ。ロザリオがない。
いつの間に。
ロザリオを探しに回る。
朝までは持っていた。思い当たるとしたら、アキセが接近したあの時に。
いや、肩に触っただけだったが、アキセなら瞬時に盗めなくはないか。
「聖女様!」
背後から男の声がした方へ振り向く。
「セザールさん?」
セザールが走ってきた。
「サーラ様とご一緒ではないんですか?」
「いないけど・・・まさか」
嫌な予感。
「サーラ様がいなくなったのです!」
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