145 / 648
聖女になりたかった魔女③
しおりを挟む
夜。
教会に行ってみれば、トリスが待っていたように教会から現れた。
「場所を移りましょうか」
トリスに案内されたのは、教会から離れた池の辺だった。
「ここならゆっくりお話しできるでしょう」
トリスは魔女とは思えない笑顔をする。
「王様に会いましたか」
月明かりに照らされたトリスは振りかえる。
「話しが早いわね」
「子供たちが見たんです。あなたが兵士に連れていくところを」
「そうなの」
「王様。私のことなんておっしゃってました」
トリスは尋ねる。
「魔女のおかげで不幸を呼んでいるって、殺してほしいってさ」
隠すことなくありのままを言った。
「でしょうね。あの王様が考えそうなことです」
トリスは苦笑する。
「本当なら、あなたに会った後、すぐに逃げるつもりでした」
だと思った。
時間をほしいと言ったのは、ただ逃げる時間が欲しかったのだろう。そのまま逃げれば、もう立ち去ろうとした。けど。
「なぜ逃げなかったの?」
まるで待っていたかのように。
「もう少しあなたと話したいと思ったの。話に訊く聖女と違っていましたので」
別の聖女なら瞬殺だったかもしれない。
「あんたみたいな魔女は初めてよ」
「やっぱり」
トリスが苦笑する。
「私は子供たちを連れて、この国を出ようと思っています」
トリスが真剣な瞳で言う。
「よくこの国に長くいたもんね」
「いつかは出ようとは思っていました」
トリスは改めて見つめる。
「私は、あなたみたく聖女になりたかった」
一生魔女から言わない言葉だった。
「無茶なこと言わないでくれる」
特にその言葉が嫌いだ。
「それにあなたが思っているほど聖女なんてロクなことがないから」
魔女以外にも狙われるし、聖女同士でも面倒くさい。
「それでも守れることができることがうらやましい」
トリスが羨ましく見つめる。
「あの時、訊こうと思ったけど、あんたは結局どうしたいの」
ジャックに石を投げられたことで話は遮断された。
「私はできる限り子供たちといたいだけです」
トリスは答える。
「子供たちも魔族(アビス)になってもそばにいたいと答えてくれた。だから私も子供たちのためにいようと思います。たとえ理性を失っても」
魔族(アビス)化が進行すれば、最悪の場合理性を失うこともある。それでもトリスは覚悟を決めているようだ。
魔女のくせに
「そう」
そっけなく返す。
「子供の面倒を見るわけでもないし、ここで見逃しても魔女をこの国から追い出したことには変わらない」
王様にそのまま従うのも嫌だし。
「聖女様」
「魔女にそんな言い方やめて。やるならさっさとやって」
「聖女があなたでよかった」
トリスが嬉しそうに言う。
――魔女のくせに聖女にそんな顔を見せないでよ。
視線を変えた時だった。
「ねえ、あれって・・・」
教会が赤く燃えている。
「まさか・・・」
トリスが青ざめる。
廃れた教会が燃え、幼い叫び声がした。
「あついよ~」「助けて~」「痛いよ~」と聞こえてくる。
「みんな!」とトリスが燃える教会に走るも、トリスの腹に矢が刺され、その衝撃で倒れる。その時、兵士たちが迫ってくる。
白い炎を払い、トリスと兵士たちの間に入り、トリスの元へ走る。
「おい!」
「みんな!」
トリスは、ジャンヌを気にせず、腹に矢を刺されながらも燃える教会の中へと飛び込む。兵士たちに睨みつける。
「話が違うぞ!」
「王が聖女様の手助けをするようにとのことです」
兵士の1人が言う。
「手助け?」
「はい。聖女様が魔女の手下に邪魔されないように私たちが退治したのです」
――あのジジイ
「その手下は何かしたのか」
「魔女の手下とはいえ、油断はできません。建物に火をつけ、逃げていく手下を矢で射りました」
魔族化が進行していたとは、まだ魔力を持たない人間と変わらないのに。
「おまえら!」
怒鳴ったジャンヌがロザリオを兵士に向けた時だった。
燃える教会から崩れる音がした。
炎に包まれながら姿を見せる。
四つん這いの黒い手。水のような巨大な黒い体。腹から小さな顔がいくつも張り付いている。首がなく、体に張り付いている大きい顔は、目がなく、黒い液体が涙のように流し、悲しく泣き叫ぶ。
彼女は魔女として覚醒した。
教会に行ってみれば、トリスが待っていたように教会から現れた。
「場所を移りましょうか」
トリスに案内されたのは、教会から離れた池の辺だった。
「ここならゆっくりお話しできるでしょう」
トリスは魔女とは思えない笑顔をする。
「王様に会いましたか」
月明かりに照らされたトリスは振りかえる。
「話しが早いわね」
「子供たちが見たんです。あなたが兵士に連れていくところを」
「そうなの」
「王様。私のことなんておっしゃってました」
トリスは尋ねる。
「魔女のおかげで不幸を呼んでいるって、殺してほしいってさ」
隠すことなくありのままを言った。
「でしょうね。あの王様が考えそうなことです」
トリスは苦笑する。
「本当なら、あなたに会った後、すぐに逃げるつもりでした」
だと思った。
時間をほしいと言ったのは、ただ逃げる時間が欲しかったのだろう。そのまま逃げれば、もう立ち去ろうとした。けど。
「なぜ逃げなかったの?」
まるで待っていたかのように。
「もう少しあなたと話したいと思ったの。話に訊く聖女と違っていましたので」
別の聖女なら瞬殺だったかもしれない。
「あんたみたいな魔女は初めてよ」
「やっぱり」
トリスが苦笑する。
「私は子供たちを連れて、この国を出ようと思っています」
トリスが真剣な瞳で言う。
「よくこの国に長くいたもんね」
「いつかは出ようとは思っていました」
トリスは改めて見つめる。
「私は、あなたみたく聖女になりたかった」
一生魔女から言わない言葉だった。
「無茶なこと言わないでくれる」
特にその言葉が嫌いだ。
「それにあなたが思っているほど聖女なんてロクなことがないから」
魔女以外にも狙われるし、聖女同士でも面倒くさい。
「それでも守れることができることがうらやましい」
トリスが羨ましく見つめる。
「あの時、訊こうと思ったけど、あんたは結局どうしたいの」
ジャックに石を投げられたことで話は遮断された。
「私はできる限り子供たちといたいだけです」
トリスは答える。
「子供たちも魔族(アビス)になってもそばにいたいと答えてくれた。だから私も子供たちのためにいようと思います。たとえ理性を失っても」
魔族(アビス)化が進行すれば、最悪の場合理性を失うこともある。それでもトリスは覚悟を決めているようだ。
魔女のくせに
「そう」
そっけなく返す。
「子供の面倒を見るわけでもないし、ここで見逃しても魔女をこの国から追い出したことには変わらない」
王様にそのまま従うのも嫌だし。
「聖女様」
「魔女にそんな言い方やめて。やるならさっさとやって」
「聖女があなたでよかった」
トリスが嬉しそうに言う。
――魔女のくせに聖女にそんな顔を見せないでよ。
視線を変えた時だった。
「ねえ、あれって・・・」
教会が赤く燃えている。
「まさか・・・」
トリスが青ざめる。
廃れた教会が燃え、幼い叫び声がした。
「あついよ~」「助けて~」「痛いよ~」と聞こえてくる。
「みんな!」とトリスが燃える教会に走るも、トリスの腹に矢が刺され、その衝撃で倒れる。その時、兵士たちが迫ってくる。
白い炎を払い、トリスと兵士たちの間に入り、トリスの元へ走る。
「おい!」
「みんな!」
トリスは、ジャンヌを気にせず、腹に矢を刺されながらも燃える教会の中へと飛び込む。兵士たちに睨みつける。
「話が違うぞ!」
「王が聖女様の手助けをするようにとのことです」
兵士の1人が言う。
「手助け?」
「はい。聖女様が魔女の手下に邪魔されないように私たちが退治したのです」
――あのジジイ
「その手下は何かしたのか」
「魔女の手下とはいえ、油断はできません。建物に火をつけ、逃げていく手下を矢で射りました」
魔族化が進行していたとは、まだ魔力を持たない人間と変わらないのに。
「おまえら!」
怒鳴ったジャンヌがロザリオを兵士に向けた時だった。
燃える教会から崩れる音がした。
炎に包まれながら姿を見せる。
四つん這いの黒い手。水のような巨大な黒い体。腹から小さな顔がいくつも張り付いている。首がなく、体に張り付いている大きい顔は、目がなく、黒い液体が涙のように流し、悲しく泣き叫ぶ。
彼女は魔女として覚醒した。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる