魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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聖女になりたかった魔女③

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 夜。
 教会に行ってみれば、トリスが待っていたように教会から現れた。
「場所を移りましょうか」
トリスに案内されたのは、教会から離れた池の辺だった。
「ここならゆっくりお話しできるでしょう」
 トリスは魔女とは思えない笑顔をする。
「王様に会いましたか」
 月明かりに照らされたトリスは振りかえる。
「話しが早いわね」
「子供たちが見たんです。あなたが兵士に連れていくところを」
「そうなの」
「王様。私のことなんておっしゃってました」
 トリスは尋ねる。
「魔女のおかげで不幸を呼んでいるって、殺してほしいってさ」
 隠すことなくありのままを言った。
「でしょうね。あの王様が考えそうなことです」
 トリスは苦笑する。
「本当なら、あなたに会った後、すぐに逃げるつもりでした」
 だと思った。
 時間をほしいと言ったのは、ただ逃げる時間が欲しかったのだろう。そのまま逃げれば、もう立ち去ろうとした。けど。
「なぜ逃げなかったの?」
 まるで待っていたかのように。
「もう少しあなたと話したいと思ったの。話に訊く聖女と違っていましたので」
 別の聖女なら瞬殺だったかもしれない。
「あんたみたいな魔女は初めてよ」
「やっぱり」
 トリスが苦笑する。
「私は子供たちを連れて、この国を出ようと思っています」
 トリスが真剣な瞳で言う。
「よくこの国に長くいたもんね」
「いつかは出ようとは思っていました」
 トリスは改めて見つめる。
「私は、あなたみたく聖女になりたかった」
 一生魔女から言わない言葉だった。
「無茶なこと言わないでくれる」
 特にその言葉が嫌いだ。
「それにあなたが思っているほど聖女なんてロクなことがないから」
 魔女以外にも狙われるし、聖女同士でも面倒くさい。
「それでも守れることができることがうらやましい」
 トリスが羨ましく見つめる。
「あの時、訊こうと思ったけど、あんたは結局どうしたいの」
 ジャックに石を投げられたことで話は遮断された。
「私はできる限り子供たちといたいだけです」
 トリスは答える。
「子供たちも魔族(アビス)になってもそばにいたいと答えてくれた。だから私も子供たちのためにいようと思います。たとえ理性を失っても」
 魔族(アビス)化が進行すれば、最悪の場合理性を失うこともある。それでもトリスは覚悟を決めているようだ。
 魔女のくせに
「そう」
 そっけなく返す。
「子供の面倒を見るわけでもないし、ここで見逃しても魔女をこの国から追い出したことには変わらない」
 王様にそのまま従うのも嫌だし。
「聖女様」
「魔女にそんな言い方やめて。やるならさっさとやって」
「聖女があなたでよかった」
 トリスが嬉しそうに言う。
――魔女のくせに聖女にそんな顔を見せないでよ。
 視線を変えた時だった。
「ねえ、あれって・・・」
 教会が赤く燃えている。
「まさか・・・」
 トリスが青ざめる。



 廃れた教会が燃え、幼い叫び声がした。
「あついよ~」「助けて~」「痛いよ~」と聞こえてくる。
「みんな!」とトリスが燃える教会に走るも、トリスの腹に矢が刺され、その衝撃で倒れる。その時、兵士たちが迫ってくる。
 白い炎を払い、トリスと兵士たちの間に入り、トリスの元へ走る。
「おい!」
「みんな!」
 トリスは、ジャンヌを気にせず、腹に矢を刺されながらも燃える教会の中へと飛び込む。兵士たちに睨みつける。
「話が違うぞ!」
「王が聖女様の手助けをするようにとのことです」
 兵士の1人が言う。
「手助け?」
「はい。聖女様が魔女の手下に邪魔されないように私たちが退治したのです」
――あのジジイ
「その手下は何かしたのか」
「魔女の手下とはいえ、油断はできません。建物に火をつけ、逃げていく手下を矢で射りました」
 魔族化が進行していたとは、まだ魔力を持たない人間と変わらないのに。
「おまえら!」
 怒鳴ったジャンヌがロザリオを兵士に向けた時だった。
 燃える教会から崩れる音がした。
 炎に包まれながら姿を見せる。
 四つん這いの黒い手。水のような巨大な黒い体。腹から小さな顔がいくつも張り付いている。首がなく、体に張り付いている大きい顔は、目がなく、黒い液体が涙のように流し、悲しく泣き叫ぶ。
 彼女は魔女として覚醒した。
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