魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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温泉街⑥

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 精霊(スピリット)がジャンヌの居場所を教えてくれた。
 精霊(スピリット)によれば、白い吸血鬼(ヴァンパイア)に攫われたという。
 どうして吸血鬼(ヴァンパイア)に攫われるんだ。
 温泉街から少し離れていた。森に囲まれ、露天風呂付きのテラスに平屋の別荘地。
 木に登り、様子を探る。広々としたテラスだったため、別荘地の中は見えた。ジャンヌはベッドの上にいた。それにあの吸血鬼(ヴァンパイア)もいた。
 以前、吸血鬼(ヴァンパイア)が魔女から逃げるために利用された。アキセと同様に会いたくない存在。その吸血鬼(ヴァンパイア)がジャンヌに何かしている。
 早速止めてやる。
 テラスに丁度露天風呂がある。
エルフ語で詩い、露天風呂にいる水の精霊(スピリット)を操る。水は、鋭い槍となり吸血鬼(ヴァンパイア)を襲うも、吸血鬼(ヴァンパイア)は避けてしまった。
 ち。外した。
 さらに詩い、風の精霊(スピリット)で風の道をテラスまでつなげる。風の道に滑り込み、別荘地へと突っ込む。
「ジャンヌさん!大丈夫か!」
 レオンがジャンヌの前に立つ。
「とりあえずね」
 ジャンヌは無事のようだか、顔色が悪い。吸血鬼(ヴァンパイア)に血を吸われたのだろうか。吸血鬼(ヴァンパイア)は聖女の『光』に耐えきれずに死ぬはず。今は考えるよりも目の前の敵を叩きのめす。
「ではごゆっくり」
 イーグスはテラスから逃げる。
「ヴェル!」と水が壁となり、逃亡を防ぐ。
「逃げすかよ!」
 レオンは、イーグスに睨みつける。
「僕がいては邪魔かと」
「邪魔の前に悪行を償え!」とレオンは怒鳴る。
「はて、あなたに何かしましたか。お嬢さん」
「女じゃねえ!」とレオンはさらに怒鳴る。
「あの時の恨みを晴らしてやる!」
 レオンはエルフ語で詩い、水の壁から蛇のように伸び、吸血鬼を襲う。
イーグスは手に血の剣を生み出し、迫ってくる水の蛇を切る。切った水が水たまりになっても針のように伸ばす。それでも吸血鬼(ヴァンパイア)が避ける。
「さすがに精霊(スピリット)相手は難しいですね」
 余裕がないはず。それでも顔を緩まない。
吸血鬼は大きく手を振り、赤い霧をまき散らす。真っ赤で何も見えない。
「血生臭い」
 手で鼻と口を塞ぐ。精霊術を防ぐために口か喉を狙ってくるかもしれない。警戒するも、目の前で赤い刃が飛んできた。咄嗟に後ろへ倒れる。
 赤い霧が晴れれば、吸血鬼(ヴァンパイア)はジャンヌを人質に取っていた。
「ジャンヌさん!」
 ジャンヌを無理やり立たせ、腕で首を絞め、さらに血の剣を向けている。
「僕を出してくれるなら、返しますよ」
 イーグスは悪意のある笑顔で向ける。
「卑怯だぞ!」
「何を言っているんですか。人質も立派な戦法ではありませんか」
 ヘラヘラとよく言う。
 だか、ジャンヌを人質になってしまっては何もできない。どうすれば。
 でもよく見れば、ジャンヌは慌てた様子がない。どっちかというと悪企みの顔をしている。
「来ると思った・・・」
「ん?」
 ジャンヌは長い袖からワイン瓶を取り出し、吸血鬼(ヴァンパイア)の顔をめがけて叩き割る。その衝動で吸血鬼(ヴァンパイア)から離れた。
 吸血鬼(ヴァンパイア)はワイン瓶の破片で顔に傷がつき、ワインが目に入る。その隙にレオンは腹に蹴りを入れる。吸血鬼(ヴァンパイア)は壁に激突する。
「ヴェルファ!」とレオンは詩う。
 水の壁から水が飛び、吸血鬼(ヴァンパイア)の体を壁に張り付かせる。
 やっと吸血鬼(ヴァンパイア)を捕まえた。
 すぐに倒れたジャンヌに駆け寄る。
「大丈夫か?」
「平気よ・・・」
 起き上がるジャンヌを支える。
「人質にすると思ったから、こっそりワインを隠していたの」
 レオンはジャンヌの縄を解く。
「いつの間に・・・」
「ただの人質になる気がないからね」
「ジャンヌさんのタフさに驚きます」
 魔女と退治しているだけあって聖女は強い。
 もう少し可愛いところを見たかったような。
「私が元気になるまであいつ見張ってくれない。歯を抜いて一生入れ歯にしてやる」
 ジャンヌから殺意が感じる。
――アキセ並みに恨んでいるな。
「分かってるって。俺も吸血鬼(ヴァンパイア)に恨みがあるんで」
 水で壁に張り付いた吸血鬼(ヴァンパイア)を睨みつけた時だった。
 水の壁が崩れ、風が入る。
「何!?」
 目が開けられないほどの風の強さだった。
 風が止めば、吸血鬼(ヴァンパイア)の姿がなかった。
「ち!逃げやがった」
「でも、あの風は、『呪い』が混じっていたってことは・・・」
 『呪い』を扱えるのは限られている。魔女しかいない。
 ジャンヌは分かったのか重い溜息を吐く。
「魔女の仕業よ」
「え!?あいつ。魔女と組んでいたのか」
「分からない。最初から組んでいたなら、参戦するはず・・・」
 ジャンヌが頭に手をつける。
「もう~ダメ・・・頭が回らない・・・」
「もう休んだ方がいいって。あと聖女がなんで吸血鬼(ヴァンパイア)に血を吸われるんだ?」
「あれは、抗体があるからよ」
「そういうことか」
 吸血鬼(ヴァンパイア)は月の『光』の抗体を持つが、聖女の血を吸えるほど抗体は持っていない。あの吸血鬼(ヴァンパイア)は、聖女の血を耐えるほど抗体を持っているのか。
「後さ。部屋に帰ってきてからって言ったのに・・・」
「それはごめん。早く入りたかったし。あいつを退治しようとしたんでしょ」
 あいつとはアキセのことだろう。
「よく分かったな・・・」
「あの行動見たら、何となくわかるわよ。だから安心して頼ったのよ」
 頼ってくれたのは嬉しい。
「レオン・・・」
「なんだよ」
「助かったよ」
 もう疲れて切っているはずなのに、笑顔で感謝を言う。
 思わずその笑顔に惚れてしまう。
「・・・うん」
 顔を見られるのが嫌だったので、ジャンヌから少し視線をそらす。



「本当に助かりました・・・」
 森の中にいたイーグスは、かざなりの魔女ウィむ・シルフに言う。
「せっかく綺麗な顔に傷がついちゃったわね」
「このくらいの傷ならすぐに治りますよ」
「まさかあれを持っていたんだね」
 ウィムは鋭い目つきをする。
 おそらく『奴隷首輪』のことだろう。
「はい。落ちていたモノで」
「へ~」
 ウィムは何かを探るように見つめる。
「教えてくれたら、もっと面白くしようと思ったのに」
「お忙しいと思ったので」
「君と組むくらいの時間ならあるわよ」
 ウィムは口調強めに言う。
「次も面白いことがあったら、呼んでね」
 笑顔で言っても軽く脅している。
「またね」
 ウィムは鈴の音と風と共に消えていった。
「ありましたら、呼びますよ」


 一方、アキセと紅孩児はユーベルに襲われるのであった。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
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