117 / 648
行く末を知りたい者⑧
しおりを挟む
さて、アキセを退場させるとはどんな話を訊かされるのだろうか。
「先代の王は私の兄だったんだ」
ゴランが言った王とは、ジンガの兄だったのか。
「兄は昔から私に嫉妬していたんだ。才能は私が上、父も私にでき愛していた」
ジンガはゆっくり語る。
「父が死に、後を継いだのが兄だった。もともとこの国は男社会で成り立っている。誰も兄に疑問を持たなかった。それから酷いものだった。政治に関心がなく、戦争も作戦もなしに真っ向勝負とは。多くの犠牲も来たものだ」
その話はゴランと話が一致している。
「結果は見え透いている。私の忠告など聞きもせず。このままでは、国は敗れてしまう」
「悪癖なあなたが言う言葉ですかね」
「はっきり言うな」とジンガは苦笑する。
「兄に何度も反抗した。そして、兄は遂に私に切れた。何をしたと思う」
ジンガは尋ねる。
答えなかった。ロクなことでないのは確かだったからだ。
「私の股に熱い鉄棒を刺したんだ」
その言葉で何も言えなかった。
「この意味分かるか。あの時からもう女でなくなったんだ。もう産めない体にな。あれからだったな。兄に殺意を感じたのは」
その時のジンガの目は、死んでいるように見えた。
「殺したんですね」
それはゴランに訊いた通りだった。
「毒でね。簡単に死んでくれたよ。やっと解放されて気持ちよかった」
ジンガの目が少し輝いた。
「そして私が王に継いだ。まず敵対国を追い出し、国を守った。国は立て直したが、私に満たすものはなかった。やっと満たせたのは・・・」
「あの悪癖ってことですか」
「あそこまでしなければ私は満たせないんだ」
「魔女同然の行為。反乱されてもおかしくないわね」
「一部はそうだろうな。だか、支持者は他にもいるんだ」
「それは?」
意外な発言に訊いてしまった。あんな悪行を行っているのに支持者がいるものだろうか。
「一部は私を英雄として見ている者もいるようだ。国を守っているのは事実だからな」
「そういうことか」
矛盾だ。魔女同然の行いをしても、国を守ってくれた英雄として見ている。変な話だ。
「長話になってしまった」
「聖女様。私をどうするつもりで」
ジンガは挑発するように言う。
「何がですか」
「私を殺すのかということ。聖女は人を守るでしょ。人を殺されては、聖女側は何かが困るでは」
鋭いところに目をつける。だか、答えるつもりはない。
「私は魔女を殺すだけよ。人間の事情まで見るつもりはない」
「そう。私の悪癖には目をつぶってくれるのね」
「一応自覚はあるんですね。私には止める理由がない。ただそうね」
と間を置いてから言う。
「魔女と区別できないバカなハンターに殺されないことね」
魔女という理由だけでいくらでもできるからだ。
「ご忠告どうも」
ジンガは立ち上がる。
「裏切り者を見破った礼だ。もう少し休まれては。足が動けるまでには面倒見ますよ」
「いや、明日の朝には城を出る」
そんな長居はしない。
「そう。いいだろ。後でサマンサに外までお連れしよう」
それっきりジンガ女王と会うことはなかった。
日が明ける前。城の隠し通路を使い、城の外まで案内してもらった。おかげでまた足がズキズキと痛み出した。
「今回のことは誠にありがとうございます」
サマンサがお礼を言う。
魔女から礼を言われるようなことはしていない。踊らされただけだ。
「それに私のことを見逃していただくことも」
別に踊らされたから殺したいところだか、殺す元気もない。
「私の質問に答えたらね」
まだ聞きたいことがある。
「なんでしょうか」
「結局、あなたの目的って何なのよ」
サマンサに尋ねる。
「魔女がただで人間に仕えるわけないでしょ」
魔女の多くは他の種族を見下しているか、生物としてみていない。人間にわざわざ従うのに何が企んでいるはず。
「私は、魔女名通り王を導きたいだけでございます」
「あの悪癖までつかせるまでにして」
「女王の行いは、自身の欲を満たすためでございます。人間の心は脆いものです。年を重ね、経験をした分負担や不安がかかるものです。その発散としてあの行いをしたのでしょ」
「ふ~ん」
「女王は、王としての実力がありますが、未熟でございます」
「人間相手に理想が高すぎるんじゃないの?」
「いえいえ。そういう意味ではございません。欲のままに生きているのです。この国も長く持ちません」
「あんたは何もしないわけ」
「それは女王が気付かなければいけないのです。いくら口から言われても、雑音にしか聞こえません」
注意されても聞かない子供のようなものだな。
「私は、女王に王としての政治、戦術などすべてを教えました。もう私に教えるものはございません。後は、女王が導いたこの国の行く末を見届けたいだけにございます」
サマンサの思惑が分かってきた。
「最後の質問。あんたはいつからあの女王に仕えているわけ?」
「ジンガ様が生まれてからでございます」
その一言で察してしまった。
「ジンガ様は素質がありましたので、先々代にお伝えしたのです。王の素質があると」
「それはあの女王は知っているの」
「ええ。存知しております」
「そうかよ」とジャンヌはサマンサから離れる。
ジンガは、父にでき愛していたと言っていた。
もしかしたら、サマンサの一言でジンガの将来を決めてしまった。先が分かっていながらサマンサは発したのだろうか。それに兄の即位だって止めようともしなかった。ジンガが王になるまでの道を見たかったから、わざわざしなかったのだろう。
国を治めるというのは、どんなに優秀でもまともではいられない。人もそんなに頑丈ではない。器にヒビが少しずつ入り、一部が割れ、いつかは壊れてしまう。その心を満たすために、ジンガはあの行いしか見つけられなかった。
それにサマンサが言っていた。欲望のままでは国は長く持たないと。
違う。サマンサの目的はその先を見たいだけだろう。だからジンガの行為に目をつぶっている。
どちらにしてもあの魔女に踊らされているのは、間違いないだろう。
あの国はいつか滅びる。
「先代の王は私の兄だったんだ」
ゴランが言った王とは、ジンガの兄だったのか。
「兄は昔から私に嫉妬していたんだ。才能は私が上、父も私にでき愛していた」
ジンガはゆっくり語る。
「父が死に、後を継いだのが兄だった。もともとこの国は男社会で成り立っている。誰も兄に疑問を持たなかった。それから酷いものだった。政治に関心がなく、戦争も作戦もなしに真っ向勝負とは。多くの犠牲も来たものだ」
その話はゴランと話が一致している。
「結果は見え透いている。私の忠告など聞きもせず。このままでは、国は敗れてしまう」
「悪癖なあなたが言う言葉ですかね」
「はっきり言うな」とジンガは苦笑する。
「兄に何度も反抗した。そして、兄は遂に私に切れた。何をしたと思う」
ジンガは尋ねる。
答えなかった。ロクなことでないのは確かだったからだ。
「私の股に熱い鉄棒を刺したんだ」
その言葉で何も言えなかった。
「この意味分かるか。あの時からもう女でなくなったんだ。もう産めない体にな。あれからだったな。兄に殺意を感じたのは」
その時のジンガの目は、死んでいるように見えた。
「殺したんですね」
それはゴランに訊いた通りだった。
「毒でね。簡単に死んでくれたよ。やっと解放されて気持ちよかった」
ジンガの目が少し輝いた。
「そして私が王に継いだ。まず敵対国を追い出し、国を守った。国は立て直したが、私に満たすものはなかった。やっと満たせたのは・・・」
「あの悪癖ってことですか」
「あそこまでしなければ私は満たせないんだ」
「魔女同然の行為。反乱されてもおかしくないわね」
「一部はそうだろうな。だか、支持者は他にもいるんだ」
「それは?」
意外な発言に訊いてしまった。あんな悪行を行っているのに支持者がいるものだろうか。
「一部は私を英雄として見ている者もいるようだ。国を守っているのは事実だからな」
「そういうことか」
矛盾だ。魔女同然の行いをしても、国を守ってくれた英雄として見ている。変な話だ。
「長話になってしまった」
「聖女様。私をどうするつもりで」
ジンガは挑発するように言う。
「何がですか」
「私を殺すのかということ。聖女は人を守るでしょ。人を殺されては、聖女側は何かが困るでは」
鋭いところに目をつける。だか、答えるつもりはない。
「私は魔女を殺すだけよ。人間の事情まで見るつもりはない」
「そう。私の悪癖には目をつぶってくれるのね」
「一応自覚はあるんですね。私には止める理由がない。ただそうね」
と間を置いてから言う。
「魔女と区別できないバカなハンターに殺されないことね」
魔女という理由だけでいくらでもできるからだ。
「ご忠告どうも」
ジンガは立ち上がる。
「裏切り者を見破った礼だ。もう少し休まれては。足が動けるまでには面倒見ますよ」
「いや、明日の朝には城を出る」
そんな長居はしない。
「そう。いいだろ。後でサマンサに外までお連れしよう」
それっきりジンガ女王と会うことはなかった。
日が明ける前。城の隠し通路を使い、城の外まで案内してもらった。おかげでまた足がズキズキと痛み出した。
「今回のことは誠にありがとうございます」
サマンサがお礼を言う。
魔女から礼を言われるようなことはしていない。踊らされただけだ。
「それに私のことを見逃していただくことも」
別に踊らされたから殺したいところだか、殺す元気もない。
「私の質問に答えたらね」
まだ聞きたいことがある。
「なんでしょうか」
「結局、あなたの目的って何なのよ」
サマンサに尋ねる。
「魔女がただで人間に仕えるわけないでしょ」
魔女の多くは他の種族を見下しているか、生物としてみていない。人間にわざわざ従うのに何が企んでいるはず。
「私は、魔女名通り王を導きたいだけでございます」
「あの悪癖までつかせるまでにして」
「女王の行いは、自身の欲を満たすためでございます。人間の心は脆いものです。年を重ね、経験をした分負担や不安がかかるものです。その発散としてあの行いをしたのでしょ」
「ふ~ん」
「女王は、王としての実力がありますが、未熟でございます」
「人間相手に理想が高すぎるんじゃないの?」
「いえいえ。そういう意味ではございません。欲のままに生きているのです。この国も長く持ちません」
「あんたは何もしないわけ」
「それは女王が気付かなければいけないのです。いくら口から言われても、雑音にしか聞こえません」
注意されても聞かない子供のようなものだな。
「私は、女王に王としての政治、戦術などすべてを教えました。もう私に教えるものはございません。後は、女王が導いたこの国の行く末を見届けたいだけにございます」
サマンサの思惑が分かってきた。
「最後の質問。あんたはいつからあの女王に仕えているわけ?」
「ジンガ様が生まれてからでございます」
その一言で察してしまった。
「ジンガ様は素質がありましたので、先々代にお伝えしたのです。王の素質があると」
「それはあの女王は知っているの」
「ええ。存知しております」
「そうかよ」とジャンヌはサマンサから離れる。
ジンガは、父にでき愛していたと言っていた。
もしかしたら、サマンサの一言でジンガの将来を決めてしまった。先が分かっていながらサマンサは発したのだろうか。それに兄の即位だって止めようともしなかった。ジンガが王になるまでの道を見たかったから、わざわざしなかったのだろう。
国を治めるというのは、どんなに優秀でもまともではいられない。人もそんなに頑丈ではない。器にヒビが少しずつ入り、一部が割れ、いつかは壊れてしまう。その心を満たすために、ジンガはあの行いしか見つけられなかった。
それにサマンサが言っていた。欲望のままでは国は長く持たないと。
違う。サマンサの目的はその先を見たいだけだろう。だからジンガの行為に目をつぶっている。
どちらにしてもあの魔女に踊らされているのは、間違いないだろう。
あの国はいつか滅びる。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる