魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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行く末を知りたい者⑧

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 さて、アキセを退場させるとはどんな話を訊かされるのだろうか。
「先代の王は私の兄だったんだ」
 ゴランが言った王とは、ジンガの兄だったのか。
「兄は昔から私に嫉妬していたんだ。才能は私が上、父も私にでき愛していた」
 ジンガはゆっくり語る。
「父が死に、後を継いだのが兄だった。もともとこの国は男社会で成り立っている。誰も兄に疑問を持たなかった。それから酷いものだった。政治に関心がなく、戦争も作戦もなしに真っ向勝負とは。多くの犠牲も来たものだ」
 その話はゴランと話が一致している。
「結果は見え透いている。私の忠告など聞きもせず。このままでは、国は敗れてしまう」
「悪癖なあなたが言う言葉ですかね」
「はっきり言うな」とジンガは苦笑する。
「兄に何度も反抗した。そして、兄は遂に私に切れた。何をしたと思う」
 ジンガは尋ねる。
 答えなかった。ロクなことでないのは確かだったからだ。
「私の股に熱い鉄棒を刺したんだ」
 その言葉で何も言えなかった。
「この意味分かるか。あの時からもう女でなくなったんだ。もう産めない体にな。あれからだったな。兄に殺意を感じたのは」
 その時のジンガの目は、死んでいるように見えた。
「殺したんですね」
 それはゴランに訊いた通りだった。
「毒でね。簡単に死んでくれたよ。やっと解放されて気持ちよかった」
 ジンガの目が少し輝いた。
「そして私が王に継いだ。まず敵対国を追い出し、国を守った。国は立て直したが、私に満たすものはなかった。やっと満たせたのは・・・」
「あの悪癖ってことですか」
「あそこまでしなければ私は満たせないんだ」
「魔女同然の行為。反乱されてもおかしくないわね」
「一部はそうだろうな。だか、支持者は他にもいるんだ」
「それは?」
 意外な発言に訊いてしまった。あんな悪行を行っているのに支持者がいるものだろうか。
「一部は私を英雄として見ている者もいるようだ。国を守っているのは事実だからな」
「そういうことか」
 矛盾だ。魔女同然の行いをしても、国を守ってくれた英雄として見ている。変な話だ。
「長話になってしまった」
「聖女様。私をどうするつもりで」
 ジンガは挑発するように言う。
「何がですか」
「私を殺すのかということ。聖女は人を守るでしょ。人を殺されては、聖女側は何かが困るでは」
 鋭いところに目をつける。だか、答えるつもりはない。
「私は魔女を殺すだけよ。人間の事情まで見るつもりはない」
「そう。私の悪癖には目をつぶってくれるのね」
「一応自覚はあるんですね。私には止める理由がない。ただそうね」
と間を置いてから言う。
「魔女と区別できないバカなハンターに殺されないことね」
 魔女という理由だけでいくらでもできるからだ。
「ご忠告どうも」
 ジンガは立ち上がる。
「裏切り者を見破った礼だ。もう少し休まれては。足が動けるまでには面倒見ますよ」
「いや、明日の朝には城を出る」
 そんな長居はしない。
「そう。いいだろ。後でサマンサに外までお連れしよう」
 それっきりジンガ女王と会うことはなかった。


 日が明ける前。城の隠し通路を使い、城の外まで案内してもらった。おかげでまた足がズキズキと痛み出した。
「今回のことは誠にありがとうございます」
 サマンサがお礼を言う。
 魔女から礼を言われるようなことはしていない。踊らされただけだ。
「それに私のことを見逃していただくことも」
別に踊らされたから殺したいところだか、殺す元気もない。
「私の質問に答えたらね」
 まだ聞きたいことがある。
「なんでしょうか」
「結局、あなたの目的って何なのよ」
 サマンサに尋ねる。
「魔女がただで人間に仕えるわけないでしょ」
 魔女の多くは他の種族を見下しているか、生物としてみていない。人間にわざわざ従うのに何が企んでいるはず。
「私は、魔女名通り王を導きたいだけでございます」
「あの悪癖までつかせるまでにして」
「女王の行いは、自身の欲を満たすためでございます。人間の心は脆いものです。年を重ね、経験をした分負担や不安がかかるものです。その発散としてあの行いをしたのでしょ」
「ふ~ん」
「女王は、王としての実力がありますが、未熟でございます」
「人間相手に理想が高すぎるんじゃないの?」
「いえいえ。そういう意味ではございません。欲のままに生きているのです。この国も長く持ちません」
「あんたは何もしないわけ」
「それは女王が気付かなければいけないのです。いくら口から言われても、雑音にしか聞こえません」
 注意されても聞かない子供のようなものだな。
「私は、女王に王としての政治、戦術などすべてを教えました。もう私に教えるものはございません。後は、女王が導いたこの国の行く末を見届けたいだけにございます」
 サマンサの思惑が分かってきた。
「最後の質問。あんたはいつからあの女王に仕えているわけ?」
「ジンガ様が生まれてからでございます」
 その一言で察してしまった。
「ジンガ様は素質がありましたので、先々代にお伝えしたのです。王の素質があると」
「それはあの女王は知っているの」
「ええ。存知しております」
「そうかよ」とジャンヌはサマンサから離れる。


 ジンガは、父にでき愛していたと言っていた。
 もしかしたら、サマンサの一言でジンガの将来を決めてしまった。先が分かっていながらサマンサは発したのだろうか。それに兄の即位だって止めようともしなかった。ジンガが王になるまでの道を見たかったから、わざわざしなかったのだろう。
 国を治めるというのは、どんなに優秀でもまともではいられない。人もそんなに頑丈ではない。器にヒビが少しずつ入り、一部が割れ、いつかは壊れてしまう。その心を満たすために、ジンガはあの行いしか見つけられなかった。
 それにサマンサが言っていた。欲望のままでは国は長く持たないと。
違う。サマンサの目的はその先を見たいだけだろう。だからジンガの行為に目をつぶっている。
 どちらにしてもあの魔女に踊らされているのは、間違いないだろう。
 あの国はいつか滅びる。
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