魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

文字の大きさ
上 下
109 / 648

転換の魔女⑤

しおりを挟む
 今までに様々な魔女に会ったが、これはまた変わった魔女に出会ってしまった。
 男が魔女とは聞いたことがない。
「うそつくな!男の魔女なんていてたまるもんか!」
 アキセは一番に声を上げる。
「ちょっとアガタさん!黙っていたでしょ!」
「まだ修行不足だぞ」
「そらすな!」
 修行不足だと言い訳に肝心なこと言わないのが、腹が立つ。その前に。
「つーか。あんたも気付きなさいよ!」
 契約にかかっているアキセが魔女を知らないとはどういうことだ。
「俺だって知らねーよ。契約にかかっているから!」
 魔女と契約を交わしているなら、相手の正体を隠すことも可能か。
「そんなのバレたらいやでしょうが!」
 声を上げたのは、デオンだった。
「だって!女の体が嫌いなんだもの!」
 本性を出しやがった。紳士的な態度から女のような口調に変わった。
「は!?」
 思わず唖然してしまった。
「何よ!いけないの!だってこの体の方が落ち着くもの!」
つまり、女の体ではコンプレックスを抱えているということだろうか。
「それでも・・・それでも・・・恋をしたかったの」
 デオンは恋する乙女のように顔を赤くして言う。
「体は男でも心は女。そう恋する乙女なの」
 なんか急に言い出してきた。
「でも、僕は恋をしたい。女として恋をしたい。男の姿になっても男と恋をしたかったの」
「え?」
「それでも男は逃げてしまう」
 だろうな。
「だからね。男を女に変えれば、やっと見てくれたの」
 どうしてそうなる。
「あのときめきは忘れられない~」
この魔女は見た目よりも中身が男ならいいようだ。変なところで器用だな。
 つまり。
「まさか・・・あのメイドたちって・・・」
「私の彼氏たち」
 デオンは顔を赤らめて言う。
「やっぱり・・・」
「だって。いろんな恋をしたかったんだもん!」と男の声であざとくいう。
「それにハーレムで王様ってやってみたかったんだもん」
 ただの尻軽女じゃないか。いや男なら浮気性か。もうどっちでもいい。
「愛の形は人それぞれだから言うつもりがないけど、愛は無下に扱ってはいけないよ」
 アガタが前に出る。
「何よ・・・」
 どうやらデオンは頭に切れたようだ。
「私の愛を侮辱したわね。本当にムカつく男装聖女ね。大っ嫌い!」
その時、池から魚の形のした水が襲ってくる。
 地下から出できた時に襲った水の魚と同じ。魔女の呪力だった。
「レオンちゃんを渡しなさい!この後結婚控えているんだから!」
「それは全力で嫌だ!」レオンが必死に言う。
一斉に後ろへ水の魚から避ける。
「くそー水を使うなんて・・・」
 相性的に悪い。それにアキセが情報を売ったおかげで、『光』の浪費もしている。
「ジャンヌ。今回は僕がやるよ」
「え?」
 アガタは腰についている二つの『シチリア・リング』に光の刃を作り、前に出る。
 いつもなら修行と言ってやらせるが、今回は珍しくアガタから行く。
「こんな魔女にレオンちゃんを渡したくないんでね」
あ。そこなんだ。代わりに魔女と相手してくれるならいいか。
「じゃあ、お願いします」とアガタに任せる。
「殺してやる!愛を邪魔する者は皆、この転換(てんかん)の魔女シュバリエ・デオンが殺してやる!」と池から水の魚を無数に飛ばす。
 アガタの背後から黄色の刃を無数に飛ばす。飛ばした黄色の刃が水の魚を刺した瞬間に雷のように枝分かれする。
 デオンが手を上げた瞬間、池の水が盾のように盛り上がり、迫ってくる黄色の刃を防ぐ。
 今度は雷が落ち、デオンは咄嗟に避ける。
「雷?」
 雷が当たった途端に弾け、枝分かれしてデオンに襲う。
 デオンは避け切れず、肩をかする。
 その雷は、ただの雷ではなく、アガタが放たれた『光』だった。
 よく見れば、天井に刺してある黄色の刃から網目に光を張っている。放つ時に張ったのだろうか。
 これで上にデオンが逃げることはない。
 アガタは腰にある半円形のリング『シチリア・リング』を光の刃を作り、池の上を走り出す。
 『光』を瞬時に結晶化させ、足場を作る。
 デオンは上から来る雷を水の魚に防ぐ中、アガタが『シチリア・リング』で迫ってくる。デオンが手に剣を生み出した剣でアガタを受け止める。
「よく受け止めたね」
「不利な環境で堂々と『光』を使うわね」
「僕はそれなりに強いよ」
 アガタは近接で追い詰め、上から黄色の雷が落としていく。
 器用に『光』を操る。ジャンヌでもそこまでできない。
 アガタは最強の聖女のだけある。
『光』の容量はジャンヌより倍にあり、雨で『光』が吸収できなくてもすぐに底を切れることはない。
「ジャンヌさん。今の内に逃げたい」とレオンが言う。
「そうね」
 これ以上アガタと一緒にいたくない。
「アガタさんが相手している内にね!」
逃げようとしたアキセを捕まえる。
「先に逃げるな。アガタさんに差し出すぞ」
「あんな男装聖女にバレる前に逃げ出したんだけど・・・」
「だったら、道案内しろ。屋敷が広すぎるんだ」
 その時だった。
池が大きく水柱を立てる。デオンの仕業だろう。
水の柱からデオンが出できた。
「レオンちゃ~ん!」と紳士的で渋さがあった顔が面影なく、変態を増し、目が血走った顔で迫ってくる。
「こっちにくるな!」とレオンは叫ぶ。
 デオンが突っ込んでくる。アガタに勝てないと分かってレオンを連れて去るつもりだろう。
 それにしても。
――こいつ。本性出してから人格崩壊しているぞ。
「たく」とロザリオを出そうとしたが、デオンの頭に黄色の刃が貫通していた。
「渡さないって言っただろ」
 その声はアガタだった。
 アガタは笑顔でデオンを真っ二つに切る。
 デオンの背後を見れば、水柱に『光』が結晶化し、道を開いていた。
 なんという力技だ。
 デオンは、黄色の光に包まれ、消えていった。
「二人とも怪我はないか」と池の轟音と共に笑顔のアガタが尋ねる。
「はい・・・」と素直に答える。
「あれ。君のストーカー君。どこにいったのかな?」
 アキセのことだろうか。そういえばいつの間にかアキセが消えている。
「残念。少しお話しようと思ったのに」
「気付いていたんですか」
「ジャンヌ。僕のこと分かっているでしょ」
 やはり気付いていた。アガタの勘の鋭さが怖い。
「そうですね」
 ふと気づく。
 魔女が消えた。つまりメイドたちのタタリが解けるということ。
「すぐに逃げるよ!」
「え?なんで?」
 メイド服を着た男たちを見たくなかったから。



 結局、一夜も休めていない。それに。
「あの・・・アガタさん。いい加減にしてくれませんか」
 いまだにレオンが子猫のように背後に隠れ、アガタがレオンを狙っている。
「ダメ?」
「ダメです」
 早く解放したい。
 そういえばとふと思い出した。
「思い出しましたけど、ナリカケの時にレオンを見てませんか?」
 以前ナリカケの事件で、アガタが助けに来た。その現場でリリス、レオンもいた。
「あの時か・・・リリスが誰かを連れ去ったのは分かったけど、顔まで見えなかったし」
「そうですか」
 呆れたように言う。
 でもこの光景は見ても複雑になる。
 アガタとレオン。男装と女装。女と男で成り立っているが、いろいろと複雑。
「アガタさん。一応立場を考えてください。イヴ様とマリア様がさすがに怒りますよ。それにファンが泣きますよ」
 アガタには聖女の中で小さなファンがいるほど密かに人気がある。
「大丈夫。分をわきまえているから」
「本当かな~」
 レオンの魅力であのアガタが取り乱している。淫魔のように。どうすれば終わらせるのかと考えようとした時だった。
「やっと見つけた」
 腰までに長い金髪。胸が黒いコルセットのようなもので留められている。腰に生えた黒い翼は黒く輝いている。腰に長いドレスのような黄色の布を巻き、左足に黒い紐が結んでいる。
 この世で最強の魔女であるよきの魔女リリス・ライラ・ウィッチャーが優雅に浮いている。
「あら、新しいお友達?」
「違う!」
 レオンが必死で怒鳴る。
「レオンちゃんのお母様でよろしいでしょうか」
 アガタがすぐさま尋ねる。
「あなた。黄色の聖女のアガタね。淫魔の男は半殺し、女は落としていく聖女ね」
 あ。もうリリスにまで訊いているんだ。
「覚えていただき光栄です。突然で申し訳ないですが、レオンちゃんを僕にください!」
 言いやがった。さてどうなることやら。
「いいわよ」
 以外にあっさり。
「でもあそこまでしないでしょ」
「ええ。さすがに。でもそれ以外なら落とせる自信ありますので」
 そのテクニックはどこで得たのだろうか。
「オーケイ!楽しんで。あとで見に行くから」
「はい喜んで!」
 リリスとアガタは友達感覚で返す。 
 よく考えれば、リリスはレオンの嫌がる顔を見たいだけだった。
「と、言うことなので、借りるね」
 アガタは、レオンを抱きかかえている。
「ジャンヌさん・・・」
 救いを求める目をしたレオンがジャンヌに助けを求める。
 本気のアガタと最強のリリス。どう考えても簡単にこの状況を抜け出せない。残る打開策は。
「ごめん。もう無理」
 ジャンヌは、両手に合わせる。
 もう見捨てるしかない。
 レオンはショックした顔で嘆く。
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


 翌日
「あの人なんなんですか・・・本当に聖女なんですか・・・」
 ボロボロになったレオンが泣きながら帰ってきた。
「よく抜け出したな・・・」
 それしか言えなかった。
 レオンの苦手な相手が増えたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...