105 / 654
転換の魔女①
しおりを挟むついに2人は出会ってしまった。
「もういつまでついてくるんですか」
ジャンヌに向けた相手はアキセではない。
「なんだよ。こんな機会ないんだし」
先輩である黄色の聖女アガタに言った。
女でありながら、白い騎士のような格好をする聖女で女好きでもある。ユニコーン兄弟事件から行動を一緒にするようになった。
今は、昼下がりの森の中を歩いているところだった。
「嫌です。消えてください」
「そう言っているから嫌われるんだよ」
「私は正直者なんで」
ぶっきらぼうに返す。
「ほどがあるぞ。仲間と組まなくても、選ぶ相手を考えなさいよ。魔族(アビス)と組むのはダメとは言わないけどさ」
聖女は、『光』を調整できても微量ながら『光』を放出している。そのため、『呪い』や魔力を感知することができない。その補助として魔族(アビス)と組むのは禁止されていない。
「まさかリリムと組むとは思わないけど」
アキセのことだろう。
「あんなストーカーと組んだ覚えがありません!」
はっきり言う。
「じゃあ、他に仲間がいるのか?」
アガタが尋ねる。
少し間を置いてから言う。
「頼りになる者ならいます」
「へ~」
「なんですか。その返しは」
「前までは、他の聖女と距離を取っていたけど。いや、よかったよ。聖女じゃなくても、頼れる仲間がいるってことにさ。ちょっと成長して嬉しいだよ。先輩としてさ」
アガタが安心したように言う。
――アガタさんは面倒見がいいんだよな。
「紹介してくれる?」
「嫌です。それに今ここにい・・・」
ドカ゚っと目の前で何かが落下した。この光景に見覚えがある。
――なんでこんなタイミングよくくるのか
呆れてしまう。
アガタは、腰にある『シチリア・リング』に手を当て、警戒する。
「アガタさん。大丈夫ですよ」
土埃が晴れれば、女装したレオンだった。
リリスのお気に入りのエルフのリリムである。
「イッテ~あれ。ジャンヌさん」
気がついてくれた。
「もうちょっと抜け道を考えなさいよ。巻き込み事故なんて嫌よ」
「なんか失敗するんだよな~」
「言い訳にしか聞こえないわよ」
レオンがアガタと目が合った瞬間だった。
アガタは瞬時にレオンの手を握る。
「何、この子かわいい!」
アガタが今までにないくらいに目を輝いている。
「かわいい・・・」
レオンは、どうやら『かわいい』という言葉が嫌なのか、言われただけで石のように固まった。
「ねえ。君名前は?恋人いる?」
あの紳士なアガタが、ナンパが下手な男のように吐く。
「え?」
アガタの意外な行動に思わず引いた。
「おっと。僕のしたことか」
正気に戻ったようだ。
「失礼」
アガタは一歩下がる。
「僕は黄色の聖女のアガタだよ」
紳士的に腰を下ろし、レオンに手を差し伸べるが、レオンはすぐにジャンヌの陰に隠れる。
「あれ、ジャンヌ。知り合い?」
妙に圧を感じる。
「えーと・・・アガタさん。この子こう見えて男です」
「分かってる。それにリリムだろう」
「さすがアガタさん。鋭~い」
ジャンヌは静かに突っ込む。
アガタのこの勘の良さはなんだろうか。
「アガタさん。リリムとか淫魔が嫌いじゃなかったですか」
「嫌いだよ。女性の心を騙す淫魔が、だよ。この子からそんな欠片ないよ」
何気にひどいことを言ったような。
女好きのアガタが異性にここまで好意を抱くのは、初めてかもしれない。
「いや~まさか男の中でこんな可愛らしい子いるなんて。まだこの世界は捨てたもんじゃないな」
アガタが獲物を狙う目つきになっている。
レオンは、ジャンヌの陰で子猫のように威嚇する。
「あのすみません。アガタさん落ち着いてくれませんか」
「じゃあ、先輩命令でその子を差し出しなさい」
そうきたか。
「職務命令ですか」
「そう」
「誘拐は職務内容に入っていません」
「その子はリリムだから、リリスの居場所を知っているかもしれない。こっちに差し出しなさい」
「リリスの居場所知ってどうするんですか。勝てない戦は嫌です」
「その子を下さいって申し込む」
「アガタさん。一旦落ち着きましょうか」
突拍子もないセリフに慌てて抑える。
「正気に戻ってください。取り乱すにもほどがあるんですけど」
呆れて言う。
「いつも正気だよ」
「現在進行形です!マジでもらうつもりですか!」
「申し込むって言っているんだよ。僕は有言実行する聖女だよ」
笑顔で堂々と言う。
本気にやるつもりだろうか。
「さすがにイヴ様やマリア様にさすがに指摘されるんじゃ・・・」
それだけではない。最強の魔女であるリリスのお気に入りのレオンと求婚すると考えれば、戦争でも起きかねない。
「ジャンヌさん。こいつ本当に聖女か。淫魔じゃないのか」
そのセリフはアキセにも言われた。
「正真正銘の同性愛者の聖女だよ」
「なんだよ。女なんだから男を好きになるって当たり前だろ」
「アガタさんからそんな言葉を言うなんて・・・」
大げさに驚く。
「ちょっと僕のことなめてる?」
その時だった。
顔に冷たいものが当たった。顔を触れば、濡れた感覚がした。
「あれ、雨?」
空を見上げれば、曇ってきた。小雨が降ってきた。
「これは雨降るね」
アガタは空を見上げて言う。
「町まで遠いし・・・一緒に野宿しようか。レオンちゃん」
「来るな!」
まだこのくだり続くのかと思った時だった。
向こうから物音がした。それは馬車が近づいてくる音だった。端に避け、馬車は素通りしたが、急に止まった。馬車から扉が開き、男が姿を見せる。
「旅人ですか?」
金髪。青い目。整った顔で20代後半の男だった。
「はい、旅人ですよ」
アガタが代わりに答えた。
「これから雨が降ります。野宿にするにもつらいでしょう。私の屋敷に休まれてはいかがですか」
――なんか怪しいな。
雨宿りしてもらえるのは嬉しいが、何か怪しすぎる。
「じゃあお言葉に甘えて」
アガタが勝手に返事する。
「では、こちらへ」
御者が扉を開く。
「じゃあ、俺はここで・・・」
レオンが去ろうとするが。
「一緒に行こうよ。レオンちゃん」
アガタに捕まり、逃げられなかった。
同然ジャンヌも。心の中で舌打ちをする。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる