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転換の魔女①
しおりを挟むついに2人は出会ってしまった。
「もういつまでついてくるんですか」
ジャンヌに向けた相手はアキセではない。
「なんだよ。こんな機会ないんだし」
先輩である黄色の聖女アガタに言った。
女でありながら、白い騎士のような格好をする聖女で女好きでもある。ユニコーン兄弟事件から行動を一緒にするようになった。
今は、昼下がりの森の中を歩いているところだった。
「嫌です。消えてください」
「そう言っているから嫌われるんだよ」
「私は正直者なんで」
ぶっきらぼうに返す。
「ほどがあるぞ。仲間と組まなくても、選ぶ相手を考えなさいよ。魔族(アビス)と組むのはダメとは言わないけどさ」
聖女は、『光』を調整できても微量ながら『光』を放出している。そのため、『呪い』や魔力を感知することができない。その補助として魔族(アビス)と組むのは禁止されていない。
「まさかリリムと組むとは思わないけど」
アキセのことだろう。
「あんなストーカーと組んだ覚えがありません!」
はっきり言う。
「じゃあ、他に仲間がいるのか?」
アガタが尋ねる。
少し間を置いてから言う。
「頼りになる者ならいます」
「へ~」
「なんですか。その返しは」
「前までは、他の聖女と距離を取っていたけど。いや、よかったよ。聖女じゃなくても、頼れる仲間がいるってことにさ。ちょっと成長して嬉しいだよ。先輩としてさ」
アガタが安心したように言う。
――アガタさんは面倒見がいいんだよな。
「紹介してくれる?」
「嫌です。それに今ここにい・・・」
ドカ゚っと目の前で何かが落下した。この光景に見覚えがある。
――なんでこんなタイミングよくくるのか
呆れてしまう。
アガタは、腰にある『シチリア・リング』に手を当て、警戒する。
「アガタさん。大丈夫ですよ」
土埃が晴れれば、女装したレオンだった。
リリスのお気に入りのエルフのリリムである。
「イッテ~あれ。ジャンヌさん」
気がついてくれた。
「もうちょっと抜け道を考えなさいよ。巻き込み事故なんて嫌よ」
「なんか失敗するんだよな~」
「言い訳にしか聞こえないわよ」
レオンがアガタと目が合った瞬間だった。
アガタは瞬時にレオンの手を握る。
「何、この子かわいい!」
アガタが今までにないくらいに目を輝いている。
「かわいい・・・」
レオンは、どうやら『かわいい』という言葉が嫌なのか、言われただけで石のように固まった。
「ねえ。君名前は?恋人いる?」
あの紳士なアガタが、ナンパが下手な男のように吐く。
「え?」
アガタの意外な行動に思わず引いた。
「おっと。僕のしたことか」
正気に戻ったようだ。
「失礼」
アガタは一歩下がる。
「僕は黄色の聖女のアガタだよ」
紳士的に腰を下ろし、レオンに手を差し伸べるが、レオンはすぐにジャンヌの陰に隠れる。
「あれ、ジャンヌ。知り合い?」
妙に圧を感じる。
「えーと・・・アガタさん。この子こう見えて男です」
「分かってる。それにリリムだろう」
「さすがアガタさん。鋭~い」
ジャンヌは静かに突っ込む。
アガタのこの勘の良さはなんだろうか。
「アガタさん。リリムとか淫魔が嫌いじゃなかったですか」
「嫌いだよ。女性の心を騙す淫魔が、だよ。この子からそんな欠片ないよ」
何気にひどいことを言ったような。
女好きのアガタが異性にここまで好意を抱くのは、初めてかもしれない。
「いや~まさか男の中でこんな可愛らしい子いるなんて。まだこの世界は捨てたもんじゃないな」
アガタが獲物を狙う目つきになっている。
レオンは、ジャンヌの陰で子猫のように威嚇する。
「あのすみません。アガタさん落ち着いてくれませんか」
「じゃあ、先輩命令でその子を差し出しなさい」
そうきたか。
「職務命令ですか」
「そう」
「誘拐は職務内容に入っていません」
「その子はリリムだから、リリスの居場所を知っているかもしれない。こっちに差し出しなさい」
「リリスの居場所知ってどうするんですか。勝てない戦は嫌です」
「その子を下さいって申し込む」
「アガタさん。一旦落ち着きましょうか」
突拍子もないセリフに慌てて抑える。
「正気に戻ってください。取り乱すにもほどがあるんですけど」
呆れて言う。
「いつも正気だよ」
「現在進行形です!マジでもらうつもりですか!」
「申し込むって言っているんだよ。僕は有言実行する聖女だよ」
笑顔で堂々と言う。
本気にやるつもりだろうか。
「さすがにイヴ様やマリア様にさすがに指摘されるんじゃ・・・」
それだけではない。最強の魔女であるリリスのお気に入りのレオンと求婚すると考えれば、戦争でも起きかねない。
「ジャンヌさん。こいつ本当に聖女か。淫魔じゃないのか」
そのセリフはアキセにも言われた。
「正真正銘の同性愛者の聖女だよ」
「なんだよ。女なんだから男を好きになるって当たり前だろ」
「アガタさんからそんな言葉を言うなんて・・・」
大げさに驚く。
「ちょっと僕のことなめてる?」
その時だった。
顔に冷たいものが当たった。顔を触れば、濡れた感覚がした。
「あれ、雨?」
空を見上げれば、曇ってきた。小雨が降ってきた。
「これは雨降るね」
アガタは空を見上げて言う。
「町まで遠いし・・・一緒に野宿しようか。レオンちゃん」
「来るな!」
まだこのくだり続くのかと思った時だった。
向こうから物音がした。それは馬車が近づいてくる音だった。端に避け、馬車は素通りしたが、急に止まった。馬車から扉が開き、男が姿を見せる。
「旅人ですか?」
金髪。青い目。整った顔で20代後半の男だった。
「はい、旅人ですよ」
アガタが代わりに答えた。
「これから雨が降ります。野宿にするにもつらいでしょう。私の屋敷に休まれてはいかがですか」
――なんか怪しいな。
雨宿りしてもらえるのは嬉しいが、何か怪しすぎる。
「じゃあお言葉に甘えて」
アガタが勝手に返事する。
「では、こちらへ」
御者が扉を開く。
「じゃあ、俺はここで・・・」
レオンが去ろうとするが。
「一緒に行こうよ。レオンちゃん」
アガタに捕まり、逃げられなかった。
同然ジャンヌも。心の中で舌打ちをする。
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