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皮衣の魔女④
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サリィシャに引っ張られ、村の外まで脱出成功した。
ただ逃げるにしてもうまくいきすぎる。抜け目のないアキセがこのまま逃すはずがない。
見張っていた狼の獣人(デミ・ビースト)が倒れた後すぐにサリィシャが助けにきた。
あのきつく縛られた鎖も容易く千切れた。サリィシャの力とは思えない。
それにサリィシャには。
「早くこちらへ。イル様」
その一言ではっきりした。
足を止める。
「イル様?」
サリィシャが首をかしげる。
「おまえ、足をどうしたんだ?」
大きく腫れた足が引きずっている。
「すぐに治りました」
痛がる様子もなく、サリィシャは言う。
「これで治ったといえるのか。歩けないはずだぞ。それに名前を名乗った覚えがないが」
名前を一度も名乗っていないはずが、名前を知っている。
サリィシャは黙り込む。
「ち、ばれたか」
代わりに答えたのは男の声。
木の陰からアキセが姿を見せる。右手には、指飾りに小さな陣を浮かんでいる。
「そこまで知能低くないか。獣のくせに」
指飾りで陣を斬った途端にサリィシャは糸が切れたように倒れるが、イルが受け止め、地面にそっと置く。
ただ気を失ったようだ。
「女好きでも獣は除外だ」
「これはどういうことだ!」
アキセに牙を向き出す。
「まさか最初から・・・」
「じゃねえと騙せないだろうか」
その回答でさらに牙を向く。
「あのままだと獣たち、約束守ってくれそうなんだけどさ。それだけじゃあ、ダメなんだよ。誰かが命ごいとか恋人を助けたいとかで約束を破ってくれる空気を読めないやつが出でくれないとさ」
「おまえが魔術で操っただけだろうが!」
怒鳴る。
「そこまでたどり着けるほどあの獣に知恵はない。それにそいつ。おまえをかばっていたから、十分動機にもなる。まあ、おまえがお人好しならほっとけないと思ってさ。わざわざ会わせたんだ」
既成事実を作らせるために。逃がさない状況を作らせるためにサリィシャとこの村まで巻き込ませた。
結局この男は。
「そんな回りくどいことをしてまで俺を殺したいか!」
ラ・イルは怒声を上げる。
「ああ、殺したいね。醜い獣が言葉を使うことにな」
アキセは、いつの間にか出した銃を向ける。
引き金を引く前に飛び込もうとしたが、背後から押され、地面につく。背中に重みがある。顔を上げれば、猿の毛皮をかぶった黒い体の獣だった。
昼間襲われた使い魔と同族だろう。
猿の毛皮に顔を押し付けられる。
今度は別の匂いがした。
サリィシャとアキセのものではない。
「あ~これはこれは。皮(かわ)衣(ころも)の魔女ククノア・リン・ファー様」
獣のような黄色の目。長い黒で毛先が白い柔らかそうな毛先。白い毛皮のコートを着た女だった。
「どんなものかと思えば、もう他にいじっているじゃないの」
ククノアは不機嫌に言う。
「お気に召めさなかったですか」
「あ~けど、その尻尾。希少の狐ね。とても触り心地がよさそうね」
ククノアは不適な笑みを見せる。
「いいわ。尻尾だけ切ってくれるなら、もう好きにしていいわよ」
「喜んで」
アキセは嬉しそうに言う。
「そこの狼は?」
アキセはサリィシャを指さす。
「この子に任せる」
背中から引っ張り上げた毛皮を投げる。
毛皮から人型の黒い体を生み出す。猿の毛皮を纏った人型だった。
「綺麗に剥がしてくれる」
ククノアは向きを変える。
「ククノア様はどちらへ?」
アキセは尋ねる。
「分かり切っていることを言わせないで」
ククノアの手に召喚したいくつものの毛皮を投げる。
毛皮から黒い体を生み出していく。同じように猿の毛皮をかぶった使い魔たちだった。黒い体から棍棒を生み出し、雄叫びを上げ、走っていく。
あの方向は、村にある。魔女は狩りを始めるつもりだ。
またククノアは、別の毛皮を投げる。
今度は、長毛の馬型の使い魔だった。
馬型の使い魔は、小さく屈め、ククノアを乗らせる。
「さあ、始めましょう」
狩人のような目つきをするククノアは馬型の毛皮の獣に乗っていく。
「よし。やりたい放題」
アキセの銃口が向けられる。
毛皮の猿がサリィシャに近づく。
使い魔に抑えられ、動きが取れない。危機的状況だった。どうすれば回避できる。考えようにも時間がない。
「抑えとけよ。尻尾以外は綺麗にしてやる」
アキセが銃を構えた瞬間だった。
「やめんか!」
野太い声で何者かが空から踏みつける。
「は?!」
思わず目を見開いた。
地割れができ、アキセの頭が地面に埋められている。
踏んだ者は、すぐさま白い炎を使い魔に当て、燃え尽きる。
「大丈夫?イル!」
空から以前から助けてくれたジャンヌが落ちてきた。
――どこから来た。
ただ逃げるにしてもうまくいきすぎる。抜け目のないアキセがこのまま逃すはずがない。
見張っていた狼の獣人(デミ・ビースト)が倒れた後すぐにサリィシャが助けにきた。
あのきつく縛られた鎖も容易く千切れた。サリィシャの力とは思えない。
それにサリィシャには。
「早くこちらへ。イル様」
その一言ではっきりした。
足を止める。
「イル様?」
サリィシャが首をかしげる。
「おまえ、足をどうしたんだ?」
大きく腫れた足が引きずっている。
「すぐに治りました」
痛がる様子もなく、サリィシャは言う。
「これで治ったといえるのか。歩けないはずだぞ。それに名前を名乗った覚えがないが」
名前を一度も名乗っていないはずが、名前を知っている。
サリィシャは黙り込む。
「ち、ばれたか」
代わりに答えたのは男の声。
木の陰からアキセが姿を見せる。右手には、指飾りに小さな陣を浮かんでいる。
「そこまで知能低くないか。獣のくせに」
指飾りで陣を斬った途端にサリィシャは糸が切れたように倒れるが、イルが受け止め、地面にそっと置く。
ただ気を失ったようだ。
「女好きでも獣は除外だ」
「これはどういうことだ!」
アキセに牙を向き出す。
「まさか最初から・・・」
「じゃねえと騙せないだろうか」
その回答でさらに牙を向く。
「あのままだと獣たち、約束守ってくれそうなんだけどさ。それだけじゃあ、ダメなんだよ。誰かが命ごいとか恋人を助けたいとかで約束を破ってくれる空気を読めないやつが出でくれないとさ」
「おまえが魔術で操っただけだろうが!」
怒鳴る。
「そこまでたどり着けるほどあの獣に知恵はない。それにそいつ。おまえをかばっていたから、十分動機にもなる。まあ、おまえがお人好しならほっとけないと思ってさ。わざわざ会わせたんだ」
既成事実を作らせるために。逃がさない状況を作らせるためにサリィシャとこの村まで巻き込ませた。
結局この男は。
「そんな回りくどいことをしてまで俺を殺したいか!」
ラ・イルは怒声を上げる。
「ああ、殺したいね。醜い獣が言葉を使うことにな」
アキセは、いつの間にか出した銃を向ける。
引き金を引く前に飛び込もうとしたが、背後から押され、地面につく。背中に重みがある。顔を上げれば、猿の毛皮をかぶった黒い体の獣だった。
昼間襲われた使い魔と同族だろう。
猿の毛皮に顔を押し付けられる。
今度は別の匂いがした。
サリィシャとアキセのものではない。
「あ~これはこれは。皮(かわ)衣(ころも)の魔女ククノア・リン・ファー様」
獣のような黄色の目。長い黒で毛先が白い柔らかそうな毛先。白い毛皮のコートを着た女だった。
「どんなものかと思えば、もう他にいじっているじゃないの」
ククノアは不機嫌に言う。
「お気に召めさなかったですか」
「あ~けど、その尻尾。希少の狐ね。とても触り心地がよさそうね」
ククノアは不適な笑みを見せる。
「いいわ。尻尾だけ切ってくれるなら、もう好きにしていいわよ」
「喜んで」
アキセは嬉しそうに言う。
「そこの狼は?」
アキセはサリィシャを指さす。
「この子に任せる」
背中から引っ張り上げた毛皮を投げる。
毛皮から人型の黒い体を生み出す。猿の毛皮を纏った人型だった。
「綺麗に剥がしてくれる」
ククノアは向きを変える。
「ククノア様はどちらへ?」
アキセは尋ねる。
「分かり切っていることを言わせないで」
ククノアの手に召喚したいくつものの毛皮を投げる。
毛皮から黒い体を生み出していく。同じように猿の毛皮をかぶった使い魔たちだった。黒い体から棍棒を生み出し、雄叫びを上げ、走っていく。
あの方向は、村にある。魔女は狩りを始めるつもりだ。
またククノアは、別の毛皮を投げる。
今度は、長毛の馬型の使い魔だった。
馬型の使い魔は、小さく屈め、ククノアを乗らせる。
「さあ、始めましょう」
狩人のような目つきをするククノアは馬型の毛皮の獣に乗っていく。
「よし。やりたい放題」
アキセの銃口が向けられる。
毛皮の猿がサリィシャに近づく。
使い魔に抑えられ、動きが取れない。危機的状況だった。どうすれば回避できる。考えようにも時間がない。
「抑えとけよ。尻尾以外は綺麗にしてやる」
アキセが銃を構えた瞬間だった。
「やめんか!」
野太い声で何者かが空から踏みつける。
「は?!」
思わず目を見開いた。
地割れができ、アキセの頭が地面に埋められている。
踏んだ者は、すぐさま白い炎を使い魔に当て、燃え尽きる。
「大丈夫?イル!」
空から以前から助けてくれたジャンヌが落ちてきた。
――どこから来た。
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