魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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珊魚の魔女⑤

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 月明かりで満ちた夜。
海賊船では騒いでいた。
 作戦が成功した海賊は酒を飲んだり、踊ったりと勝利に浸っていた。
 デッキを見下ろす船長が酒を飲んでいるところで話しかけた。
「上手くいきましたね」
 アキセも酒を飲む。
「まさか魔女まで捕まようとは思わなかったけど」
 作戦では、ジャンヌが魔女と戦わせ、弱らせたところでサンゴを収穫する。だか、魔女を捕獲するとは含まれていない。
「魔女は価値がある。あそこまで弱くなれば、捕獲するのも容易い」
 そこが人間の悪いところだ。
人間は調子に乗り、あとで後悔する生き物。魔女をなめない方がいいが。
まあいっか。
ジャンヌを貶めることには成功しているから、その後はどうでもいいか。
「約束の報酬。6割もらうぞ」
「一人にしては多いな」
「作戦と情報を提供。それにクラーケンまで退治したんだ。それが妥当だろう」
 作戦立案したのもアキセだった。
 ジャンヌと魔女が戦っている隙にクラーケンが襲ってきたが、魔術で瀕死状態にまで叩きのめした。
「だったら、他にも情報があるなら教えろ」
「宝の情報か。教えてもいいけどさ。人間だけでできるとは思えないものばかりだけど。それでもいいなら、さらに上乗せで払ってもらうぞ」
「だか、報酬払おうにも換金してからだな」
船長は酒を飲む。
――老いぼれが。
 あまりゆっくりしてやれないんだよな。ジャンヌが仕返しに来そうで。
 鎖には翌日に解かれる仕掛けにしてある。ただジャンヌのことだ。目的のためなら手段を選ばない女。何をしてかすか。
 その時、船が大きく揺れる。
「なんだ?!」
騒いでいた海賊たちも静かになった。
 船の脇から白い触手が伸びている。
「クラーケンだあああああ!」
 海賊の1人が叫ぶ。
「クラーケン!?」
 退治したはずのクラーケンが復活した。それに結界で姿を消したはずが、なぜ見つかってしまったのか。
「おい。おまえがクラーケン退治したんだろ。これはどういうことだ」
 船長は口調を強める。
「俺だって知るか!」
冷静に考えろ。
 結界はクラーケンで破れるほどではないから、直接襲って来ない。
 よく見ればクラーケンの足には傷から青い血が流れている。ジャンヌからつけた傷が残っている。完全な復活ではない。
 魔術でクラーケンを退治した。魔術?『呪い』を利用した術。
 あ、もしかしたら。
――やべ、今すぐ逃げよう


「やってるやってる」
 クラーケンは何もないところに足で叩いている。
そこに目的の海賊船がいる。 
 ジャンヌは背びれを掴み、巨大なウツボに乗り、海を走っていた。
 これで胸糞は晴れるが、魔女を助けることには癪だけど。



 それは数時間前に遡る。夜になったばかりのころ。

 陸上に上がった腕ほどの大きさのエビたちが、ジャンヌの鎖をハサミで砕いてくれた。
「これはどういうこと?」
 おそらく魔女の使い魔か従者だろう。なぜ助ける。
「私がご説明いたします」
 話かけたのはウツボだった。
 人が乗せられそうな大きさ。大きい背びれと胸ひれ。魔女の『呪い』の影響で少し異獣化が進んでいるのだろう。
「よかった。言葉が話せる子がいて」
「ファビナ様を救ってほしいのです」
 何を言うかと思えば、魔女を助けてほしいと頼み込んできた。
「ファビナ様のおかげで安心して暮らせるのです。この周辺は、海賊やクラーケンがおり、海が荒れていました。そこをファビナ様が領地にし、クラーケンを従い、海賊を追い出し、我々を守ってくださったのです」
「それで。魔女の宿敵の聖女に頼み込み」
 冗談じゃない。魔女を助けるなんて。
「あなた様は海賊に利用されたようで」
 嫌なところを突っかかるな。
「このまま海賊を放置するとは思わない。性格的に」
「ちょっと最後のは一言余計なんだけど」
 以外に目をつけている。
「さっき、クラーケンを従えているとか言っていたけど、そのクラーケンに頼みなさいよ。人間相手ならイケるでしょ」
 クラーケンなら船一つ落とせそうだか。
「それがクラーケンもファビナ様を取り戻そうとしたのですが・・・魔術と言ってましたか、魔術に対抗できず、・・・今はどうにか一命は取り留めております」
 ウツボの視線を向ければ、暗くて見えないが、何かが浮いている。おそらく負傷したクラーケンだろう。
 クラーケンを圧倒できるほどの魔術を使えるとしたら、アキセしか思いつかない。海賊が魔術を使えるとしてもそれほどの技術を持ち合わせていないはず。
「それにクラーケンはケガを負っておりますゆえ」
 ウツボの視線が向けられる。そこに犯人がいますよと訴えているように。
「それは襲ってきたからでしょ」
 船に襲われた時に反攻しなければ、泳げないジャンヌは死ぬ羽目になる。
「で、船は追いかけなかったの?」
「それが姿を消してしまったのです」
 それもアキセの仕業だろう。徹底的にやるな。
「あなたの海賊の復讐を手伝いますゆえ、どうか、お願いいたします。ファビナ様を助けてください」
 ウツボが懇願する。
 魔女を助けるのは癪だか、このまま海賊を放置するのも後味が悪い。特にアキセが勝ち誇っていくのが腹立たしい。仕返しするにも一人ではできない。泳げないのにどうやって追いかけようか。
 スッキリして復讐を果たすには。
「いいだろ。魔女をついでに助けてやるから、仕返しに協力してよね」
 考えた結果だった。
「では!」
 ウツボは嬉し堂に声を上げる。
「けど、魔女を取り戻したら裏切るのは無しだから。陸まで上がるまでが取引だからね。途中で破ったら、容赦なく魔女を殺す。いいわね」
「承知しました」
「魔女にもしっかり言っとけよ」
 取引を成立した。
まずクラーケンを治療した。
 クラーケンは魔術で負傷していた。『呪い』に侵されている。
 『呪い』に抗体がなければ、体に有害を与え、死に至る。しかし、『光』で浄化すれば、快方される。
 治療を終えたクラーケンは、すぐさま行動に移った。
 もちろん、海賊を追いに。
 姿を消しているが、クラーケンの聴覚で追いかけることにした。聴覚が高く、船が生み出す波の音を聞き分けられる。
 だから、クラーケンを治療した。
 さすがにジャンヌが攻撃した怪我は治せないが、クラーケンにとっては軽傷のようだ。
 すぐにウツボに乗り、クラーケンを追いかける。


 現在に至る。
「ここでいいわ」
「ファビナ様をよろしくお願いします」
「私を殺しに来なかったらね。上げて」
 ウツボの頭から跳び、尾ひれを足場にして思いっきり飛び出す。
 クラーケンの上空まで届いた。
 懐からロザリオに光の刃を作り、白い炎の刃を飛ばす。
 白い炎の刃は、空中にぶつかり、何もないところにヒビが入り、海賊船が姿を見せる。
 結界が破かれた。
 ジャンヌは、すぐ船に乗り込む。
「このクソアマ!」
 命知らずの海賊が襲ってくる。
「邪魔!」
 迫ってくる海賊をジャンヌはロザリオで一振りに払う。
「アキセ・リーがああああああああああああああああああああん」
 喉が枯れるほどのドスの入った声で怒鳴る。
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