魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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珊魚の魔女①

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 ジャンヌは港町に着いてしまった。
 海は好きでない。炎を扱っているからか反射的に水が嫌い。これ以上水と関わりたくない。すぐに去ろうとした時だった。
「あなたはもしかして聖女ですか」
 急に声をかけたので無視して歩く。
「え?あ!」
 聖女と知っている。人間から頼まれることは分かり切っている。
「待って下さいって!」
 それでも後ろから足音がする。追いかけてくる。
 ジャンヌは振り向きをせずに全力で逃げる。


 ここまで追いかけるとは思わなかった。3時間も町の中を走り回ってしまった。
「あの・・・待って・・・下さい・・・」
 青年は息を乱しながら言う。
 人間にしてはよく追いかけてきた。
「あんたもしぶといね」と呆れて言う。
「あの・・・魔女退治してくれませんか」
 やっぱり。
「話だけでも・・・」
――それ参加する流れじゃん。けど、ここでまた逃げたら追いかけるだろうな。
「実は、最近漁業の収穫が悪いんです。漁業だけでは生計立てられないので、次の名産にサンゴを目に付けたのです」
 宝石として売りつけるだろう。
一歩引く。
「サンゴを収穫しようにもその場所に魔女が住み着いています」
「ふ~ん。へ~」
 一歩引く。
「お願いします。どうかって!行かないでくださいって!」
 青年は小さくなるほど離れた。
「そう。頑張ってね~」
 ジャンヌはすかさず走る。
 読み通り。魔女退治の依頼。
 聖女は魔女を狩らなければならないが、今回は却下したい。
港に漁師。どう考えても水に関する魔女と相手するに違いない。相性的に悪い。戦いたくない。面倒くさい。
 今すぐにこの町から離れよう。


 走り回ったら、お腹が減ってしまった。離れる前に食堂で腹ごしらえしてから出よう。
 港からかなり離れた食堂で食べることにした。
 食堂に入り、すぐにテーブルに座る。
 テーブルの上に置いたメニュー表を開く。港に近いのかシーフードメニューが多い。メニュー名からして美味しそう。
 値段が時価になっている。これは訊かなければ。
「ねえ。今いくらかしら」
 店長に話しかける。
「今は高くても銀貨5枚ほどだね」
 抽象的に答えるな。少し高いが、食べ応えがありそう。
 早速店長に頼むことにした。


 美味しかった。
 満腹したところで、店に代金を払う時だった。
「お客さん。金貨10枚」と店長が言う。
「ごめん。聞こえなかった。銀貨10枚?」
「金貨10枚。勝手に安くするな」
 高すぎて払えない。手持ち金。金貨9枚しかない。あと1枚足りないってどういうことよ。
「さっき聞いた値段と違っているけど」
「時価だからね。急に変わる場合があるんだ」
――変わりすぎだろう。新手の詐欺か。
「お客さん。まさか払えないって」
 店長が鋭い目つきをする。
 どうしようか。明らかな詐欺行為。絶対に払いたくない。どっちにしても街から出るなら捕まらなければ問題ない。
よし、逃げようと決めた時だった。
「その金、僕が払いますよ」
 振り向けば、あの時追いかけてきた青年が現れた。
 あ、この流れは。
「ちょ、待って!」
「払いますよ」
 青年は、ジャンヌの言葉を無視して、店長に金貨10枚払う。
――払いやがって、これじゃあ
 肩に掴まれる。
「その代わりに分かってますよね」
 青年は笑顔に返す。
 ジャンヌは大きいため息を吐く。
 逃げられなかった。もしかしてこれって狙ってなかったか。
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