魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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複霊の魔女②

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 ジャンヌとレオンは町に着いた時には、もうすっかり夜になってしまった。
 レオンが泊まった宿から早速調査することにした。
 そこで少しイラつくことがあった。
 それは、宿の店長の雑なサービスに対してのことだった。雑な言い方に、雑な対応でカギを渡される。少しイラつくが、そのくらいで怒るのもバカバカしいので、我慢した。
 個室でそれぞれの部屋で休むことにした。
 レオンはまた襲われるのが嫌なのか一緒の部屋にしたかったが、単独の方がもう一人のレオン魔女も襲ってくると思ったから別にした。もし来たら、すぐにかけつけると言い、レオンはあまり乗り気ではなかったが、別の部屋にしてくれた。
 部屋はシンプルで窓際にベッド。壁に鏡が張り付いていた。これといって変わったところはない。
 部屋にあった鏡を見つめる。
「鏡ね・・・」
 鏡を見ても何も変わらない。
 もしあったとしても『光』があるおかげで魔女の『タタリ』にはかからない。ジャンヌの前では何も起こらないのも仕方がない。
 これ以上この部屋から得るものはない。続きは明日にして寝ることにした。


 寝てからのことだった。
 窓から何か物音がしたので目を覚ますと、発情期の動物のように息を上がっているアキセがジャンヌの上にいた。
「何をしにきた・・・」と怒りを込めていう。
「やらせろーやらせろー」
 我慢していて仕方がない様子だったアキセが手を出そうとしたところで。
「やめんか!」
 ジャンヌはアキセの顔を怒りの拳で殴り、部屋の隅まで飛ぶ。
 逆さまになったアキセは、気を失った。


「で。さっきの何、あれ」
 ベッドの上で足を組むジャンヌは、縄で縛り上げたアキセにゴミを見るような眼差しを向ける。
「あの・・・これって俺が釈明する権利ありますよね・・・」
「弁解じゃなくて」
 ドスの入った声で、さらにアキセをにらみつける。
「これはですね・・・ちゃんと訳があるん――早くやらせろー」
 急にアキセが叫ぶ。
「おい、やめんか!」
 自分で自分を叱っている。奇妙な光景だ。さらにジャンヌは冷たい目線を送る。
「ちょ!そんな目で見ないで!これはな!俺とは別の人格なんだ」
「へ~。それはあなたの本性だと思っていたけど」
「まあ、確かにいつかやりたいと思ってる」
「ああ」とドスのきいた声を上げ、さらに殺意を向ける。
 アキセは身を縮める。
「あのな。こんな下品な獣と一緒にするな。俺は女と相手するのは紳士的に抱いてやるさ――うそつけ!ほんとは激しくやるくせに!」
 もう一人のアキセが割り込む。
「黙れ!」
「もう話が進まなくなるから、話して」
 いつまでもアキセの1人芝居に付き合いたくない。
「え~とこれは、中性子と会ってからだ」
 中性子は、アキセがレオンに対する呼び名である。
「レオンに会ってから?」
 首をかしげる。
「もしかして耳が短いレオンの顔した女だった?」
「そうだけど、なんで分かった?」
「本物のレオンから話を聞いてきたんだ」
「はあ?本物って?」
 アキセも不思議がる。
「本物のレオンに・・・」
 ジャンヌがふと思い出す。
「そういえば、こんなに騒いでいるのに起きてこないなんて・・・」
 以外に緊張がないのかなと思った時だった。
 ゴトっと、隣で物音がした。
 隣の異変にジャンヌは、アキセを置いて隣の部屋に向かう。部屋を開ければ、横になっているレオンの上に誰かが押し倒しているところだった。
窓からの月明かりで姿を明かす。
 本物のレオンと同じ顔をしていたが、明らかに違っていた。
 耳が短く、胸が少し膨らんでいる。スカートを一体化した黒い服だった。そして『呪い』が少量散らばっていた。
 つまり、彼女は魔女だった。
 レオンが話したもう一人の魔女のレオンだろう。
 魔女レオンと目が合う。
「げ!聖女!」
魔女レオンは、すぐさま窓から逃げて行った。
「逃がすか!」
 ジャンヌも窓から追いかける。


「たく、見失った」
 町の中を走っていたジャンヌは、魔女レオンを見失ってしまった。
 せっかく見つけた手かかりを逃してしまった。
「仕方がない。帰るか」と宿に戻ろうとした時だった。
キャー。
 女の叫び声がした。声をした方へ走り出す。
 そこに映っていたのは、半透明な人型が女を襲っていたところだった。
 あれが噂に聞く幽霊だろうか。
「かえせ・・・かえせ・・・」と幽霊が女を包み込む。
 ジャンヌが駆け込んだ時には幽霊は消えていった。
「ねえ、大丈夫?」
 ジャンヌは倒れた女性に声をかけるが、その女性は無傷だった。どこも怪我したところなんてなかった。
 起きた女は顔を上げ、目と合う。
「何かありました?」
 女は何もなかったように言うのであった。
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