魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

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切兎の魔女①

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 アキセが目を覚めた先は、薄暗い部屋だった。唯一の照明は、2個あるランタンのみ。
「あれ、前にも似たことがあるような・・・」
 以前に喰愛の魔女グレモリー・アムールに捕まった時と同じような状況だった。
 手が壁に備えている手枷に拘束されている。上半身が裸になっている。
「俺、よく魔女に捕まるなあ・・・」
 リリスの血を引いているのか、魔女に好かれやすい。自身の体質に時々嫌気を差す。
「なんで俺ここにいるんだっけ、確か・・・」と思い出そうとした時だった。
ぎゃあああああああああああああ!
 突然な悲鳴が響き、つい驚いてしまった。
 石作りのために、声が反響する。
 声が止んだと思えば、扉が開く。
「あ~あ。イケメンだったのに・・・」
 飽きた玩具を捨てるような言い方で笑顔を見せる。顔に血をついたのも気にせずに。
 黒髪、桃色の目。胸に大きいピンクのリボンに黒と白のフリルのワンピースを着ている。血しぶきを浴びたのが、体中に血が付いているにもかかわらず、気にしていない。
 耳がウサギのような長く黒い耳を垂れて、手に赤く染まったナイフを持っている。
「あ、やっと起きたのね。よかった~」
 甘い声がする。
 少女は近づき、アキセをじっと見つめる。
「やっぱりイケメン!私好み!」
 どう見ても。
「君・・・魔女でしょ」
「うん、そうだよ!」
 魔女は大きくうなずく。
「俺、けっこう魔女にモテるので」
「そうだよね~イケメンだもんね~」
 嬉しそうに甘く高い声で言う。
「私ね。切兎(きりうさぎ)の魔女バニー・ザ・リッパーなのよ」
「じゃあ、バニーちゃんはどうして、俺をここに…」
 記憶がないので、バニーに訊く。
「あれ?覚えてないの?」
 バニーはあざとく首をかしげる。
「私をナンパして部屋に連れ込もうとしたけど、返り討ちにあったんじゃないの」
 思い出した。
 街中でかわいい女を見つけ、色気と口説かせ、部屋に連れ込もうとして失敗に終わったんだった。
「そんな忘れるほどやっちゃったかしら」
 忘れてるんだからやったんだろうが。
「私。イケメンが好きなの。特にね。痛めつけて~苦しめる顔と~声が好きなの~」
 バニーは手に頬を当て、顔を赤め、不敵な笑みを見せる。
 痛めつける。あ~嫌な予感とアキセは察した。
「だからね。イケメンを見つけたら、連れ出して~。縛りつけて~。ナイフとかで痛めつけてるの~あ~思い出すたけで興奮しちゃう!」
 バニーは、兎のようにぴょんぴょんと跳びながらはしゃぐ。
――魔女って変な趣味持っているよな
「ねえ、何がいい?」
「はい?」
「そうね。ナイフで切り刻むのもいいし。それとも釘を打ち付けるのもいい?それともそれとも!」
 服を選ぶことに悩む感覚で拷問を選ばせる。
「じゃあ、解放で」
「何それ?そんなものはない」
 ですよね。
「なんで選択肢にないのを口に出すのよ」
 それは命にかかわっているからだ。
「もう仕方がないな。これにする!」
 腹に激痛が走った。視線を下に落とせば、バニーが手に持っていたナイフをアキセの腹に刺さっていた。
「ぐぅ」
「ああ、いいわ。たまんな~い」
 バニーは興奮しているのが、顔を真っ赤にして見つめる。
「次はどうしようかな。でもイケメンだから。長く楽しもう」
 長く拷問をやるということだろうか。
 その時だった。
 バニーの肩に黒いウサギが乗る。使い魔だろうか。
 黒いウサギがバニーの耳に話しかけているようだ。
「何見つけたの!」
 バニーが嬉しそうに声を高くする。
 黒いウサギは頷く。
「さっそく捕まえに行くわよ!」
 テンションが高まったバニーは、ナイフを刺したまま、アキセから離れる。
「死なない程度に見張ってね」
 黒いウサギに指示する。
 バニーは部屋から去っていく。
――このままじっとしていると思うなよ。
 バニーがいなくなった今、ジャンヌを呼び出す。運よく指輪がはまっている。
 アキセの秘策を使うしかない。


 赤い空が徐々に黒く染まる頃、ジャンヌは森の中を歩いていた。
 もう街には着かない。野宿を考えようとした時だった。
「何これ?」
 玩具の鳥が現れた。
 今すぐ逃げよう。どう考えても嫌な予感しかしないからだ。
「ジャンヌ~捕まった~助けてくれ~」
 捕まったような思えないほど陽気なアキセの声がした。
無視をしようと思ったら、玩具の鳥がついてくる。しかもアキセの声を何度も流しながら。
「しつこい」とロザリオで壊す。
 思いきや、茂みから玩具の鳥が飛び出した。しかも多数。
「助けて~助けて~」とアキセの声が繰り返す。
「しつこい!」とジャンヌは走る。
 玩具の鳥がしつこく大量に追いかけてくる。
「もう!なんなの~」
 絶対に行かない。けど、おそらくアキセの元に行かなければ、玩具の鳥にしつこく追いかけまわされる。
「絶対にいやああああああああああああああああ」
 叫んだ時、玩具の鳥に赤い刃が的確に刺していく。
 ようやく玩具の鳥が止まった。
 誰がやったのだろうか。
 改めて見ても赤い刃は見たことがある。それに血の気の匂い。もしかすると。
「いや~お元気でしたか」
 予想は外れてほしかった。
 赤目。銀髪の長髪で縛っている。白い騎士のような格好の男。吸血鬼(ヴァンパイア)のイーグス・フォードだった。
 聖女から血ごと『光』を吸い取れるほどの抗体を持っている。
 以前不意に襲われ、血や『光』を奪われた。
 思い出しただけで吐き気がする。
 すぐさまロザリオで刺しに行くが、避けられる。
「なぜ、攻撃するんですか。助けましたよ」
「それで許せる私だと思う」
「僕が何をしましたか?」
 イーグスがとぼけたように言う。
「忘れたとは言わせない。私結構根に持つの」
「やめてくださいよ。頼みがあってきたんですよ」
「い~や!」
 以前も頼みと言って、魔女と戦わせた。
「魔女に追われているんですよ」
「あっそ」
「そうですか。では諦めます」
 あれ以外にあっさりあきらめた。
「では、知りませんか。女と間違えるようなエルフなんですけど、見たことありません」
 イーグスが尋ねる。
「知らん!」
 ぶっきらぼうに返す。
「分かりました。僕はこれで」
 紳士的に腰を下ろし、イザークがあっさり去っていた。
 せいせいした。早くこの森から離れようとするが、ふと思いつく。
 女と間違えるようなエルフ。
「まさか!」
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