魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇

白崎詩葉

文字の大きさ
上 下
55 / 654

色無の魔女④

しおりを挟む
「コルン~あいつから取り返したけど」と叫んだ瞬間。
「本当!」と木陰から目をキラキラに輝くこうさくの魔女コルン・ゴボルドが現れる。
5歳児の子供の姿。大きい帽子。大きい手袋と靴。作業着のような服を着ている。
「どこから出できた」
「そんなことより早く早く!」
 ジャンヌの質問を無視し、コルンは子供のようにせがんでくる。
「これ…あんたが作った鏡でしょ」
コルンとはアキセの所有物(コルンから盗んだ発明品)を機会があれば、返す約束を交わしている。別に契約を交わしていない。
 割れた鏡をコルンに渡す。
「なんだ。指輪じゃないのか。しかも割れているし」
 残念そうに言う。
「じゃあ、いらないね」
「いるいる!」
 コルンに渡す。
「なんで分かったの?ワイのって」
「出所があいつだったから」
 あいつとはアキセのことである。以前、名前を言えば現れるから。
「いつの間に・・・」
 コルンは恨みに言う。
盗まれたことに気付いていない。だからアキセに盗まれるのか。
「で、この鏡なんなの?」
 コルンが作ったものなら、ただの鏡ではない。
「これ、ただの鏡だよ」
「え?そうなの?」
 思わず驚いてしまった。
「なんで驚くの?」
「意外に普通のモノを作るんだなって」
 ホント以外に。
「誰だって自分のモノ盗まれたらいやでしょ」
「そうね・・・」
 魔女から一般論を言われるとは思わなかった。
「鏡っていろいろと使えるんだよね。全てを解く意味もあれば、異界に繋がる意味合いもある。結構便利アイテムなんだよね~それに鏡にはおっかない魔女もいるからね~」
「魔女のあんたから言うセリフか」
 鏡に関する魔女と言えば、最古の魔女の1人であるまよいかがみの魔女ニトクリス・ミラ・クリエリアが鏡の中にいると訊いたことがある。本体である鏡が割られ、消える前に鏡の中に逃げたという。
「そうだ!この鏡でいいこと思いついたっと」
 コルンは何か思いついたらしく、ルンルン気分で扉を開け、工房に去った。


 たまに最古の魔女に近い強さを持つ魔女も生まれる。
 その場合、早目に対処する。これ以上最古の魔女を生まれさせないため。
 今回の魔女、強調性、承認欲求が高かったから、色をつきたかった。色を付けるために広範囲に色を奪い、『光』まで吸収した。逃していたら、今以上に厄介だったかもしれない。
 それにレスは自身が醜いことを忘れていた。鏡で自身を見せても認めなかった。
 魔女の弱点は、鏡ではなく、自身が醜いと思い出すこと。
 わざわざ鏡を作らなくても、崩れた姿を認めればいい。わざと砕けた『光』の結晶の壁を作った。読み通り。自分の姿すら分からず、自身の顔が醜いことにショックし、自滅した。
もしかしたら、自分の顔を見たくないから自身の色や記憶を失くしたのだろうか。魔女ならありえる。
 だから、かざなりの魔女は彼女が「愚かだ」と言ったのだろう。 
 ん?待てよ。
 ジャンヌはふと気付く。
 アキセが鏡を落としたこととウィムが教えてくれたこと。いくらなんでも都合がよすぎる。
「もしかして。あいつら組んでいたな・・・」
 ジャンヌは頭を抱える。


アキセは遠くでジャンヌを木の上から片足をぶら下げながら木に寄りそっていた。
「うわ!」
 突然耳元で響き、驚く。
態勢を崩し木から落ちそうになるも、必死に枝にしがみつき、落下の阻止をする。
 聞いたことがある笑い声がした。
 正体を確かめると、風鳴の魔女ウィム・シルフが笑っている。
「急に出るな!」
「あら、落としとけばよかった」
 ウィムはイタズラな笑みを見せる。
「ねえ。なんであんな回りくどいことしたの?せっかく教えてあげたのに」
「そのセリフをそのまま返す」
 アキセが目を細めてウィムに言う。
「あたいは、聖女にいじめられたから、ヒントしか教えなかったのよ」
「他にもあるだろ」
「え~あんな魔女が暴れたら迷惑だし。巻き込まれたくないし。それに君に話したらどうなるのかなって」
 ウィムはイタズラな目で見つめる。
――さすが魔女ですわ。
 魔女は、自分の手を汚さずに相手にやらせる。よくあること。
「あいつがまともに聞くと思うか」
「彼氏なら話を聞いてくれるんじゃないかなってね」
「彼氏ね・・・」
「彼女いなくなったら嫌だもんね」
 ウィムは笑いながら鈴の音とともに去っていった。
「そんなんじゃねえよ。あいつとは・・・」
 アキセは小さくつぶやく。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

処理中です...